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10/21

休憩回(1)三官女のティータイム

・三官女、お茶の時間です


 午後三時、今日は三官女の定例お茶会でございます。


 会場はお城の南の離れ、季節の花を植えた庭に面した小さなティールーム。シャンデリアなんて気取ったものはなくて、日差しの入る大きな窓と、厚めのクッションが心地よいソファだけ。ここは、女王も通さぬ三官女の聖域です。


「ええ、それでね、うちのサイモンったら朝ごはんを作ってくれたの。目玉焼きの黄身、ぷるっぷるでね。見た目は悪いけど味は天才。ああ、惚れ直したわ」


 ノラ様は頬を手で押さえて、夢見る乙女のように微笑みます。いや、ちょっと待って、あなたの旦那様、鍛冶師よね? 目玉焼きの黄身をぷるぷるにする魔術鍋でも作ったんですか?


「ノラ、またのろけ? 何回目だと思ってるの」


 リディア様は呆れ顔です。声には「またか」という疲れが混じっています。


「だって仕方ないじゃない、愛が溢れちゃうんだもの」


「私なら、愛も黄身もこぼさないように管理するけど」


 さらっと毒舌が飛び出すのが、リディア様。


 そんな中、エルサ様は黙々とパウンドケーキを食べ続けておられます。ナイフを一切使わず、フォークのみで綺麗に崩す技術が芸術的。今日のケーキはレモン味です。


「で、リディアは結婚の予定は?」


「ない。そもそも人生設計に含まれていない」


「本当に素敵な人が現れても?」


「しない。絶対に、しない」


 断言です。秒で。誰かがくしゃみをする隙もない速度でした。


 そこに、ふわりと紅茶の香り。


「失礼いたします」


 お茶係のダニエル様がトレイを手に現れました。白いシャツに黒のベスト、エプロンも完璧な折り目。立ち姿がすでに美術品。サーブされる前から紅茶の香りで空気が一段階上質になります。


「本日、新しく特別な茶葉が入りまして。少量ですが、皆様にぜひと思い、お持ちしました」


 ぱぁっと顔を輝かせる三官女のうち、特に喜んだのはリディア様。


「これは……アッサム?しかもセカンドフラッシュ、等級はゴールデンチップ混じり……すごい。これ、どうやって手に入れたの」


「少し、知り合いを通じて」


 クールに言って去るダニエルさん。


「ほんと、ダニエルは素敵よね。優しくて、気が利いて、顔も良くて、背も高くて、モテるのに、恋人いないなんて、どうしてかしら?」


 ノラ様がうっとりしながら紅茶を受け取ります。


「ふーん」


 リディア様はカップを傾けながら、興味なさそうに一言。


 そのとき、エルサ様が、最後の一切れのパウンドケーキを口に運びながら、ぽつり。


「リディアがダニエルと結婚するんだろ?」


 ――ティーカップが音を立てて机に置かれた。


「は? あんた、今までの話聞いてた!?」


「んぐ。聞いてたけど。なんか、そういう未来っぽい」


「どこの予知能力者ですか!? 私が結婚しないって言ったの、今でしょ!? 今なのよ!? ていうか、ダニエルにも失礼でしょ!!」


 珍しくリディア様の声が一オクターブ高くなる。


 しかし、エルサ様はまったく動じず、ケーキの皿をじっと見つめて一言。


「おかわり、ある?」


「あるけど!今はその話の流れじゃないでしょーがっ!!」



・三官女、夏のおしゃれは戦争です


 午後の風が少しだけぬるくなってきた頃、三官女のお茶会が始まります。今日のテーマは「夏服どうする?」です。


「はぁ、そろそろ夏ねぇ……爽やかなワンピースが着たいわ」


 ノラ様が紅茶を啜りながら、うっとりと言います。軽やかなリネン、パフスリーブ、風にふわっと揺れる裾。語るだけで花が咲きそうな夢女子発言。


「私は、今年こそカントリーガール風にいくつもりよ」


 リディア様は、熱弁を始めました。


「白地に小花柄のワンピース! 胸元には大きなリボン、そして何よりも! 麦わら帽子! つばが広いやつ! リボンが風に揺れて、まさに田舎の詩!」


「リディア、それただの農家の娘じゃ……」


「否! 美しき田園の守り人よ!」


 謎の詩的表現に、ノラ様がやや引きつつも拍手。


「ふぅん……」


 エルサ様がケーキを切りながら、ぽつり。


「私はもう、夏は服を着たくないな。いっそ、水着で過ごすか」


「ちょ、待って。それ、どこで?」


 ノラ様がびっくりしてティースプーンを落としました。


「部屋でも、外でも、議会でも?」


「水着はダメに決まってるでしょう! あなた、スタイル良くて何でも似合うのに、もったいない!」


 リディア様が立ち上がらんばかりに力説。珍しく感情が熱い。


「……水着、だめか。やっぱり」


 エルサ様、ちょっとしょんぼり。


「当たり前よ! 騎士が水着って、もう違う意味で騎士道崩壊するわ!」


 ノラ様が頭を抱えます。


 すると突然、リディア様がソファに沈み込み、ため息をつきました。


「まったく、どうしてこうも私の周りはオシャレさんが少ないのよ! ほんと、アイラもそう。すぐにダサい変な服着るし……この間なんて、チェックにボーダー重ね着してきたのよ!? 見た!? もう手がかかるったらないの!」


「あれはあれで味があるんじゃない?」


「味じゃない!事故よ!ファッション事故!」


 いつの間にか、夏服の話から「女王のコーデ問題」に発展。


「じゃあいっそ、アイラ様にも麦わら帽子をかぶせれば?」


「だめよ、あの人の頭に乗せたら即、転げ落ちる。あの前髪の暴れ具合見て」


 今日も三官女のお茶会は、脱線、暴走、そしてファッション講義に満ちております。


 ……なお、エルサ様はまだ水着を諦めていないご様子でした。

 

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