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第一話 転生してもブラックだったから逃亡!盗んだ宝石で脱・独裁国

 メイドって、なんて酷いお仕事なのかしら」と泣きながら、お城のトイレ掃除をしています。

 私、ミーナ。かわいそうな異世界転生者です。生前は朝から晩までブラックな車工場で走り回り、へとへとになる日々で過労死しました。


 ファンタジー小説が大好きで、「ファンタジーな世界に転生できた!」と喜んだのも束の間。両親はすぐ病気で他界し、十五歳の今は独裁的な国のお城で、へとへとになるまでお掃除する毎日。


 神様、ひどい!

 涙が止まりません。


 そのときでした。唯一心を許せる親友のアレサが叫びました。


「――あーーーくそっ、あのメイド長のババア、ふざけんなよっ! あたしらが新人だからっていびりやがって。ムカつくわー。給料もろくにもらえず、まずい食事と狭い寝床。やってられん! ミーナ、逃げるぞ!」


 それは一気呵成でした。

 メイド長が悪口を聞きつけてドタドタと歩いてくる足音が聞こえて焦っていると、アレサに手を引かれ、二階のトイレから芝生に飛び降りたのです。


「これ、あのクソケバい出戻りクソ王女の宝石。盗んどいた。これ売って国出るぞ」


 アレサはそう言って、エプロンのポケットからエメラルドを取り出しました。


 なんということでしょう。


 私はアレサの行動力にびっくりしました。


 クソ王女ことキャリー王女は、隣国アステールに嫁いだものの、国税を浪費したことで離婚され、城に戻ってきてからは、侍女やメイドをこき使い当たり散らしている酷い方。血の繋がりのある王子と姦通しているという、倫理のとち狂ったお方でございます。


 ――まぁ、でっかいエメラルドぐらい盗まれても、あの方の罪に比べれば、アレサの盗みなんて可愛いもんですよね。


 私たちは宝石を売り払い、メイド服から修道服に着替え、荷馬車を雇って隣国アステールへ向かいました。こうして私たちは、アレサの言うところの「クソ」なスメラという小さな独裁国家を出たのです。


「アステールはさ、うちらの国と違うんだよ。アイラ女王様ってのが十八歳で即位されてさー、めっちゃ平和な国なんだって。アイラ女王が国民の味方で、やべー幸せーって話、聞いた」


「え、すごすぎる……十八歳で即位! この世界でも女性の方が政治家として成功してるのね……」


「ミーナ。あんた、それ時代遅れな。覚悟しな。あたしらにとって多分、アステールは価値観変わるぜ。頭空っぽにして、すべて受け入れんのさ」


 アレサが欠けた前歯を見せて、ニカッと笑いました。

 アレサは目つきが鋭く、そばかすのある悪ガキみたいな愛嬌のある顔をしています。歯が欠けたのは、兄と本気の殴り合いをして折れたそうで、本人はそれを「これ、かっこいいっしょ? クソ兄貴と戦った勲章」と言ってます。ほんとアレサは前向き。


 それに比べ、私はいじいじしていて。馬車に乗っていると、心臓がぴょんぴょん跳ねて苦しいぐらい。新世界、ついていけるかしら。


「…………アステールね、いい国だよ。ほんとに。交易で栄えているし、毎日がお祭りみたい。酒もうまい。だが、気をつけなされお嬢さん方。あの国は美男が多いそうだ。悪い男に騙されないように。なんたって女王様の夫が、すごい美男だ。…………まさか、女好きのわしが男に惚れるとは…………」


 御者のおじさんが言いました。


 び、美男……!? 私はドキドキしました。私は男性が苦手です。お城では憲兵さんにお尻を触られたりして、とても嫌でした。

 生前もパッとしない外見の陰キャだった私は、男性には縁がなく、ナンパなんてされたこともない。

 美男なんて、思ったこともない――そんな人を、見たことがありません。美男って、どんな方なの。


「はっ、美男なんか腹の足しになんねぇよ。興味ねぇ。あれだろ? その美男って、宮廷道化師から女王の夫になった逆玉男だろ? 女好きが惚れるってことは、女みたいな顔してんだろ」


 アレサが言い放ちます。


「いや…………ほんと麗しい男だった……。お嬢さん方、アステールは国会を国民に開放している。それどころか城の門もいつも開けていて、国民がいつでも入ることを許されている。最近では観光客も多いそうだ。なんたって、女王と宮廷道化師のご夫婦は、龍を倒したからね」


「龍!? マジかよ、そんな情報うちの国に入ってきてないぜ! なんかちょっと前にアステールで災害があったとは聞いたがさ」


「りゅ、龍って本当に存在したのですか!? おとぎ話かと思ってました」


「そうだな。アステールは今や、おとぎの国みたいなもんさ。龍が同時に二体現れ、山の龍は女王が、川の龍は宮廷道化師が討伐した。龍殺しの夫婦、とも呼ばれている。――まぁ、スメラという小さな独裁国家から出たあんたら、気をつけなよ。驚くことだらけさ。いくら良い国でも、悪い奴はいる。そうだ、前の客が、移民も城で相談を受け付けてるって言ってた。あんたら城のメイドだったんなら、雇ってくれるかもしれん」


「ご親切にありがとうございます。……まぁ、どうしましょう。私、龍殺しの勇者のお話、とても好きなの。夫婦で龍を討伐したって、すごいわ。なんて勇敢な女王様なのかしら」


 私はうっとりしました。

 きっと、勇ましいお姿をしてらっしゃるのですわ。

 ドラゴンスレイヤー! めっちゃファンタジー展開きたー。


「あんま期待すんなよー。おっさん、情報ありがとな。マジでスメラ出てよかったな。あっはは、まずはうまい酒だ。あのエメラルド、高い金で売れたからな。おっさん、アステールのビールはうまいか?」


「最高だ! わしもあんたら送った後は、ビール飲み歩いて宿に泊まる予定だ」


 おじさんが、わっははは、と笑い声を上げました。


「そりゃいいねぇ!」


 アレサも大きな声で笑い、私はなんだかほっとして、一緒に笑いました。

 アステール――楽しみです。

 

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