第84話「空をつかむ」
リリーが落とし穴より迷宮側に進むと、ツルツルと滑っていた魔物が、足をプルプルさせながらなんとか立ちあがろうとしていた。迷宮側を見ると、巨大な竜が丸まっている。
(でっかい竜だなぁ……さっきの光は竜の攻撃だったのかな?当たらなかったけど)
竜に向かって一直線の道のように魔物が全くいない。
(お兄ちゃんの攻撃だろうな。あの切れる円の風魔法かな?それにしてもスゴい……ずっと先までこの幅だけ魔物がいない。どんだけ魔力を込めたんだろう……)
魔物がいないずっと先に強い魔力の塊が飛んでいるのを感じる。巨大竜に向かっているようだ。そして徐々に不毛地帯の直線状も魔物がワラワラと道を埋めていった。
「お兄ちゃん……「残り少なくなったら合図するから」って言ってなかったかなぁ……めっちゃいるし」
リリーの目の前はあの時のスタンピードと比べものにならないくらい魔物がいた。
「でもリリーだったら出来るってことだよね。リリー頑張る!!!」
すでに落とし穴があることは認知されているようで、リリーがいる中央へ魔物がどんどん集まって来る。ツルツル滑る箇所にいる魔物は後ろから押し出されてきた。
(集まってきた……んーーー!!!)
リリーが魔力を高めた。
「ん~なんか違うなぁ……こうかな?こうかな?…違うなぁ。こう……こうか!」
ドンッ!!!
リリーの周りに淡い光が巡る。
「お?おぉ!できたー!!」
リリーは魔王拳が使えるようになった。兄が魔王拳を使っているところをズームアイ&魔力可視化で見たときに体内の魔力が激しく動いていた。(なるほど。こうやって使ってるのか……リリーも試してみよう)と試したら出来た。案外簡単だった。リリーの魔力が跳ね上がる。
もともと生まれつき魔力を貯める器がラクスより大きく、毎日遊び半分で魔法を使っていたため、魔力の成長が著しく、リリーはラクスの数倍の魔力量にまでなっていた。
「でっかいのでいっちゃうよー!!!タイダルッウェーブ!!!」
落とし穴の先に突然巨大な水の壁が立ち上がった。その壁は高さ50m、長さが1㎞にも達している。ギョッとしている魔物、逃げ始める魔物、ポカーンとしている魔物、水壁に攻撃している魔物と様々だったが、水に攻撃しても何もならない。
やがて水は上部からザバーンと崩れていく。崩れていくが、リリーが魔力を込め続けるため留めなく津波が押し寄せる。左右の津波はリリーを要にして徐々に扇を閉じるように中央へ寄っていく。
流された魔物同士が中央でぶつかり合い。その水の圧力で約1万いた魔物は最後部にいた数百匹を残し全滅した。
ラクスは巨大竜を間近で見ていた。後方ではリリーのタイダルウェーブが魔物を蹴散らしている。巨大竜は完全に回復したのか、低い唸り声を出しながらゆっくり立ち上がろうとしていた。
(迷宮に人がいるな……管理してた兵士かな?非難する場所があったのか、良かった。あちら側に被害がないようにしないと)
ラクスは兵士が生きていたことに安心したが、同時にや少し落胆していた。巨大竜と共に迷宮も潰してしまおうと思っていたが、人が近くにいて出来なかった。
(いずれ王様に掛け合って迷宮は潰してしまおう。ダメなときは……力で脅すか?……なーんてな。ハロルドタウンまでの間に大量罠設置だな)
「空間魔法……か、コツは掴んだ。拡張・収縮はかなり使えるな。試してみるか……魔王拳!」
ズドンッ!!!
ラクスは魔王拳を最大倍数まで上げる。目の前の巨大竜はラクスを呆然と見ているように感じた。ラクスは右手を上に突き出し、グッと空をつかんだ。
すると巨大竜の側面、迷宮逆側の空間がニュインと捻じ曲げられたように歪んでいく。周囲の光が中心に向かって収束し、黒点が生まれた。
(え?これってもしかして……そうだよな?)
圧縮境界が微細に振動し、空気がざわめく。空間が圧縮されるにつれ、ゴゴゴゴゴゴゴ……と地鳴りのような音が響いてきた。黒点は少しずつ大きくなっていく。魔力を込め続けると更に大きくなりそうだ。
黒点に向かって周囲の景色が吸い込まれていく。巨大竜はゆっくり顔を黒点に向けていた。(これは何だ?)と言わんばかりだ。そして巨大竜の左足が圧縮の境界に触れた瞬間、足が細長く伸びて黒点の中心に向かって渦を巻きながら吸収されていく。
巨大竜は理解できずにいた。
[なぜ我輩はこんなところで人間を捕らえようとしているのだ?]
突然右足に激痛がはしり、咄嗟に体内に魔力を込めて攻撃対象をはじき出したものの、それまでの記憶や行動が曖昧だ。人間を捕まえないと、と言う気持ちだけが残っていた。
[理解できぬ]
そしてその捕らえるべき人間が目の前にいて、信じられないほどの魔力を放っていた。
[我輩に匹敵する……いや、これはもはや我輩よりも……]
巨大竜は始祖の竜とも呼ばれ、自身は神々より選ばれた特別な存在なのだと自負していた。だがどうだ、目の前の人間は見たこともない魔法を使い、攻撃をしてくる。
[この黒い球に触れてはいかん]
巨大竜は口に魔力を込め、自身の左足をレーザーのようなブレスで焼き切った。低いうめき声と共に、左足は全て細長くなり、黒点に吸い込まれていった。左足がなくなったことでバランスを取りずらい状況だったが、必死に右に重心を置き倒れないようにする。
[この人間は強すぎる。神の使いか?いや、神なのか?話しはできるだろうか?]
巨大竜は体制を整え、左足をかばいつつラクスをしっかり見つめた。
『人間よ……聞こえるか?人間よ』
「うわっ!喋った!また喋った……竜ってお喋りなのか?」
『人間よ、我輩の言葉が分かるか?』
「あー、はい。分かりますよ?あなたも喋れるんですね?」
『ぬ?……いや、その前にこの黒い球を何とかしてくれんか?』
「だってあなたから攻撃してきたじゃないですか。あなたを倒さないとまた攻撃してくるでしょう?」
『あぁ、もう攻撃しない。先ほどまでの記憶が曖昧なのだ。我輩であって我輩でないような感覚だったが、お主の攻撃を受けて意識がハッキリとしてきた』
「えぇ!?もしかしてあなたもあの水を飲んで操られてたってことですか?」
ラクスは固く握っていた拳を少しずつ緩めていく。黒点の拡張が止まり、収縮していく。やがてポスっと消えてなくなった。黒点球体の圧縮境界から地面は抉れ、木々は引きちぎられたようになり、空間圧縮魔法「ブラックホール」の威力の強さがうかがえた。
消えた黒点を確認し、巨大竜は安堵した。
『お主は神か?もしくは神の使いか?』
「え?人間ですよ?普通の人間です」
『あり得ぬ。普通の人間の魔力ではない。神に匹敵するほどの魔力だ』
「えー、そんなことを言われても……たぶん私より妹の方が魔力大きいですよ?私は魔力を引き出す技を生み出したから総合的には魔力は多いと思いますけど」
『……理解できぬな。そうか、世界は広かったのだな。お主に興味が湧いた。我輩と契約を結ばぬか?』
「契約?契約という言葉は転生ものではあるあるですが、元いた世界では危険も孕んでいるので、契約するなら内容をキチンと書面にして押印してもらわないと……」
『転生?お主は転生してきたのか?……そうか、転生か。久しぶりに見たぞ。なるほど、面白いはずだ。なに、特に臆することもない。ただ我輩の暇つぶしのようなものだ。我輩の頭に手をあてろ、それだけでいい。勝手にお互いの頭の中に契約条件が浮かぶ。可否を決めるのはお主だ』
「えー、契約しても連れまわせないですよ?あなたは巨大すぎること自覚してますか?」
『契約する際にお主からの条件も頭の中で示せ。それに我輩が応えるかどうかだ』
「はぁ……まぁいっか。会話できるし、戦わないですむならそれが一番」
ラクスは巨大竜の頭に手を当てる。頭の中に契約条件が浮かび上がる。巨大竜はムッ?という表情をしたように見えたが契約を結ぶようだ。巨大竜の名前が記されていく。
【始祖竜:アルザリオン】
アルザリオンからの条件は完全な支配下に置かれることのみだった。本当に?という顔をラクスがするが、アルザリオンの反応はない。まぁいいかと契約をする。
【転生者:ラクス】
契約を結んだ瞬間、アルザリオンが光った。




