第83話「巨大竜」
「5~6万はいったか?あとどれくらいだ?」
ラクスは(まだ出るのか?)と思いつつ、迷宮方面を見てぎょっとする。
「えっ?」
数キロ先のはずなのに、すぐ近くにいるのではないかと思うほど巨大な竜がこちらにゆっくりと進んできている。他の魔物が豆粒大で3~5m前後だとして、比較すると50m以上のサイズはありそうだ。だが巨大竜の周りには魔物がいない。後続はなさそうだ。
「あれが最後ってことか?にしてもデカすぎだろ。どうやって倒せば……」
ラクスが悩んでいると、巨大竜の口が開いた。
「まさか……おいおい、まさかだよな!まさか……」
口の周りに魔力が集まっている。
「うそだろ!?そこから撃つってことか?届くってことだよな!?」
ラクスが振り返る。後ろにはリリー、更に後ろにはハロルドタウンがある。
(どれくらいの威力があるか分からんけど、おそろしい魔力量だ。ハロルドタウンまで届くかもしれない)
「今から行って竜の攻撃前に止めれるか分からない……対処法が1つしか思い浮かばないけど、この規模で出来るものか……いや、やるしかないな。ヘラクレス……」
ヘラクレス「転生記Ⅶ」より
ついにやった!
異世界転生と言えば、空間魔法だろう。空間魔法は最強魔法の1つだと思う。空間を曲げたり圧縮したり、世界の因果律を捻じ曲げることが可能だ。これを極めて、いつか俺だけの容量無限アイテムボックスを生み出したい。
空間魔法とは文字通りになるが、空間に干渉する魔法だ。時間や重力、次元の知識や想像力があれば行使することができると考えられる。その使い方も無限大だ。
ここに例としていくつかの使用方法を書き出す。まず1つ目、空間拡張だ。これは気圧が関係するらしい。空間を拡張させると同じ量の空気がより広い範囲に分散し、気圧が下がる。気圧が下がるとどうなるか?例えば火が消える。音が伝わりにくくなる。呼吸困難になる。使用方法の詳細については後述するが、基本は前述した概念を知っていれば魔力とイメージで出来るはずだ。
そして2つ目、空間圧縮……………………
(空間拡張、空間圧縮、結界、瞬間移動、アイテムボックス……研究時間なさすぎて空間圧縮までしかできなかったし、小規模でしか使ったことないけど、これしか回避する方法がすぐに思いつかない。数回は試して出来たことだ。今回は規模がデカすぎってこと以外何も変わらない)
巨大竜の口には信じられないほどの魔力が集まっていた。あのサイズのブレスを食らったら一たまりもない。(集中しなければ……)ラクスは魔力を感じつつ、目を閉じ空間魔法の発動座標を計算する。
「数段階で設置しないと危険だな……」
(1つ目……)
ラクスが拳を突き出し、座標を見つめて手のひらを広げる。
特に何も変わったようには見えないが、ニョイーンと空間が広がり始めた。その空間拡張魔法は半径25mほどになり、地表にも達する。その位置を通った魔物がバタバタと倒れていく。酸素が薄くなり、呼吸困難を起こしていた。音も隔絶されているのか、前を進む魔物は後ろの魔物が倒れているのに気づいていない。
2つ目を作ろうとした時、巨大竜のブレスが発射される。
それはまるで巨大な隕石が真横に降って来るようだった。
「まだ準備できてないってのにっ!」
文句を言ってもブレスは勢いよくこちらへ向かってくる。あまりの威力のためか、直接当たっていないにもかかわらず地上にいる魔物がべちゃっと潰れ一瞬で灰になり死んでいく。そしてすぐに空間拡張された場所にぶつかった。
ニュン
「まずい!威力が高すぎで方向があまり変わらない!2つ目!3つ目だ!!」
ニュン……ニュン……
やや上へ起動が変わったが、それでもこのままだとハロルドタウンは壊滅的損害を受ける。
「くそ、これじゃダメなのか!?そうか!圧縮も同時にっ!」
ラクスは左手を拳に、右手を広げてブレスに突き出す。そして左手を広げ空間拡張し、右手を閉じて空間を圧縮した。
ニュゥンとブレス下部が拡張したのと同時に、ギュッとブレス上部の空間が圧縮する。空気が圧縮し、ブレスの軌道は被害が出ない程度まで上方向に変わった。
「ふぅ……あぶな。なんとかなった。だが何度も撃たれると厄介だ……特大の魔円斬を試してみるか」
ラクスは地面に降り立った。周りの魔物は天からいきなり現れた人間に驚くが「この人間を生け捕りをせよ」という強いメッセージが頭の中をめぐり、一斉にラクスに群がって来る。
「魔王拳!」
ラクスは魔王拳を5倍まで上げると、魔物が吹き飛んで行き、一定の距離から近づけなくなった。ラクスは手のひらを空に向ける。カッと目を見開き、魔力を込めた。
「魔円斬(極大)」
その大きさは直径200mものサイズだった。激しく回転し、空気がビリビリと震えている。魔力をもっと込めないと、巨大竜まで届かないかもしれない。さらに魔力を込めていくと魔円斬の色が赤く変わっていく。
(へぇ……魔力って濃くなると色が変わるんだ……巨大竜の魔力も赤だったな。これも今後の研究対象だ)
魔物が魔円斬を見上げ、ラクス自身と魔円斬の魔力の大きさに腰を抜かすものも出てきた。
「よし、これくらい込めれば……」
遠方の巨大竜を見る。すぐに2回目のブレスは撃てないらしい。ゆっくりと足を進めている。ラクスは手を振りかざし、巨大竜の方向へ魔円斬を飛ばした。
「いぃぃぃいいいけぇえええええええ!!!!」
魔円斬は地表スレスレをあらゆる魔物を切り刻みながら巨大竜へ迫る。あと1㎞ほどとなった時、巨大竜が動きを止めた。ゆっくり屈みこんでいるようだ。すると巨大竜の前方に見たことが無い魔方陣が現れる。次々と魔方陣が形成されていく。
「何だ!?」
魔円斬が魔方陣に触れる。触れた瞬間明らかに威力が弱まったが、魔方陣を切り刻み次の魔方陣へと進む。
「弱まった!?だが!!」
魔方陣は切れて消えていく。次々と魔方陣が消え、最後の魔方陣すら切り刻むがサイズが20m程度となり、色も通常の色に変ってしまった。しかしそれでもなお回転は落ちず、巨大竜の右足あたりに入ると角度を縦に変え背中に抜けていった。威力が弱まったせいで骨にあたり角度が変わったのかもしれない。
「ンンオオオオオオオオオオオ………」
重低音のような地震が起こったかのような巨大竜の悲鳴が響いた。
(浅いか!?)
角度が変わり、ダメージは通ったものの即死には至らなかった。
(竜種はここから……)
そう思ってズームアイで見ていると、動かなくなり傷が回復しているように見える。
(やはり一撃で倒さないと回復してしまうか。接近して倒すしかない。魔円斬で粗方倒せた。あとはリリーに任せても大丈夫だろう)
ざっと見て残り1万程度と巨大竜のみ。リリーに向けて合図の花火を上げ、ラクスは巨大竜へ突っ込んでいった。
ボンボボンッ!
兄がいる方向から花火が上がった。
「あ!お兄ちゃん……大体終わったってことだね。じゃあリリーもっ!」
リリーは高台から降り、魔物と相対する。襲い掛かる魔物を大量の水で押し返し、落とし穴へ流しこんでいく。通路になっている先には、昔、兄が見せてくれたヌルヌルの水を張り巡らせる。魔物はツルツルと足を滑らせ一向に前に進めない。
左右の落とし穴では数万の魔物がうじゃうじゃと蠢いて、よじ登ろうと必死にもがいていた。
「うわぁ……なんだか可哀そうだけど、襲ってくるからだよっ!」
リリーは嫌悪感でサブイボがたちながらも手のひらを左右に向け、水を放つ。
ドドドドドドドドド…………
座標を細かく設定し、各所から滝のように水が流れ込んでいく。這い上がろうとした魔物も水の勢いにまた落ちていく。ほんの数分で落とし穴の8割くらいまで水が溜まった。
「ごめんね……」
そう言うとリリーは両手のひらを下へグッと下げる。水の中では水圧が一気にかかる。ほとんどの魔物が潰れて死んでいった。数百匹生き残った者もいたが、リリーの手のひらは無情にも更に下がる。落とし穴に落ちた数万の魔物たちは1匹残らず全滅した。




