第78話「木の魔人」
(おぉ……「木遁」とか使いそうだ……完全に木の魔物だな。あの源流にあった木が送り込んできた魔物だよな?……何かつぶやいてる?聞こえないけど)
「……けた………み……け………づげだ」
(マジヤバイやつだ。前世だったら心霊現象だ)
「見づげだぁあああああ」
ぎゅるるるるーと指が伸びて、ラクスを捕まえようとしてきた。咄嗟に魔王拳を使い、魔力を硬化させ攻撃を止める。ミスリルダガーに魔力を込め、「フン!」と振ると、剣先から魔力の刃が飛び、魔物の伸びてきた指を切断する。バッと後ろへジャンプし、様子を見るため距離を取る。
(見つけた?見つけたと言ったか?俺を?何かを探しているのか?)
伸びた指が元に戻り、何事もなかったかのように普通の指になった。
(……ダメージは無しね。はいはい、分かってますよ。あの水に関係するのは全部回復付きだよね……それより会話は出来ないものか……)
両手を口に添え、話しかけてみる。
「あのー、いきなり攻撃はないでしょう?言葉は分かりますかー?喋れるんですよねー?私はラクスって言うんですが、あなたの名前は何ですかー?」
「………………」
(ダメっぽい)
「……り…い……だ……ない……」
「喋ってはいるんだけどなぁ。言葉は理解してそうなんだけど、会話にならないな。形を成しちゃったからあの水の中に帰ることもできないだろうし……」
木の魔人は戦う姿勢を見せている。(仕方ない、戦うか)と思った途端、魔力の波動が飛んできた。
すんでで避ける。
「うおっ!あっぶな!こりゃだめだな。やってやるよ!!」
魔王拳を3倍にあげる。
(様子見だっ)シュババッ!
フレイムカッターを連続で放つ。
キンッキンッ!腕に魔力を込めているようで、弾いかれていく。
(木の癖に火を弾くんじゃないよっ!)
「炎魔動拳!!!」
炎効果を追加した魔動拳を放つ。(1つに見えて実は五魔動っ!)同じように腕で弾こうとするが魔動が五層になっており、1つ目を弾き2つ目を逆の腕で弾いたが、3層~5層が直撃する。
ガガガッと木の魔人が炎に包まれていく。胸にダメージを負ったようでジュ―っと煙を上げながら横たわっている。
(やっぱ木には火だよね。弱点を攻めるに限る………ん?)
魔人の指が細―く伸びていき、水に到達する。するとみるみるうちに胸の傷が消えていった。
「おいおい、そりゃズルいだろ!」
完全回復して立ち上がった魔人が自分自身の腕を剣に変化させた。
「お、今度はそっちで勝負かぁ?」
ラクスはミスリルダガーに魔力を込めていく。ダガーが赤く光り始め、ボッと炎が出てきた。
お互い構える。一時の静寂………
ダッ!と魔人が仕掛けてきた。
(袈裟切りかっ!)魔人の剣先がラクスの左肩へ上段から打ち込まれてくる。
ラクスはダガーで剣を受け止め、風の魔力も込めて武器破壊を行う。スパンッ!と切れた刀身が後方へくるくる飛んで行き、魔人は勢いそのままに前のめりになる。
ラクスがダガーに更に魔力を込めて叫ぶ。
「魔・炎・斬!!!」ズババッババババッ!…ボッ!
みじん切りになった魔人の切口から炎が立ち上がり炭化していく。体の一部でも水に伸びないようしっかり監視したが、今回は難しいらしい。完全に炭になった。
「流石にここから回復はないだろ……何だったんだ?こいつは……後で領主様に報告しとくかな。意外と強かったな。竜と同じくらいかな」
ラクスは完全に灰になった魔人を確認すると、研究の続きを行うため帰って行った。
数時間後、灰があった場所には木の芽が生えていた。
帰ってきたラクスはまた研究を始めた。前世の知識もフル活用して来る日も来る日も実験を繰り返したがうまく判別ができない。目の下には完全に真っ黒いクマができあがり、日に日に集中力も落ちてきた。だがそれでも判別できるようにしなければ、という決意の下寝る時間を惜しんで没頭した。そんな日のお昼。
「ラクス様ー!ラクス様ー………昼食の準備ができましたわ。ラクスさ……あ……」
ラクスは疲れ果てて、机でそのまま寝てしまったようだ。ラミアーナが呼びに来たが、全く反応がなかった。
「もう…こんなになるまで研究してらっしゃるだなんて……本当にラクス様は世界を何とかしようとされているんですわね……でも頑張りすぎはダメですわ」
ラミアーナはベッドからタオルケットを持ってくると、そっとラクスの肩から掛けた。フッと机を見ると、ビンに少しだけ水が入っている。本や資料ばかりでこの部屋には華やかさが何一つない。
(このビンの水くらいなら使っても大丈夫ですよね……)
ラミアーナは廊下にあった花瓶から一凛の花を抜き、ビンに入れ、そっとまたラクスの机に置いた。
(少しは華やかさも必要ですわ。ふふっ)
「おやすみなさい、ラクス様……」小声でラクスの肩をそっとポンポンして、ラミアーナは部屋を出た。
「えぇ!?なにこれ!?どうなってんの!?」
別荘中にラクスの声が響き渡る。ラミアーナは隣の部屋でラクスの声を聞いた。急いで駆け付ける。執事や侍女も続々集まって来る。
「ラクス様!?どうされました!?」
ラクスの机のビンには花が挿してあり、根っこがウネウネと動いて少しずつ伸びているようだった。
「研究してた水に異常があった!ラミアーナは近づくな!皆もだ!」
「えっ!?それって……」
(しかしこれ、どうしてこうなった?寝て起きたらこうなってたぞ……植物の魔物?いや、ただ成長しているだけに見える)
「ラミアーナ様っ!ラクス様が近づいてはダメだと……」
後ろからラクスの肩ごしにラミアーナの顔で出てくる。
「ラ、ラクス様、申し訳ございません。ビンに水が少し入っていたので、ちょっと飾り気のない部屋に花でも……と」
ラミアーナは涙目で謝ってきた。
(花を活けた?あの水に?そしたら成長したと?……回復、回復する水……花はハサミで切られていたはずなのに根が出来ている……)
「そういうことか!!!ラミア!でかした!!!判別方法が分かったぞ!ラミアのおかげだ!!!」
「え?そ、そうですか?」
2人は手を取ってくるくる回り踊った。ラミアーナは良く分からないようだったら、ラクスはニコニコだった。それからラクスはいくつかの植物で試したが、枯れた植物は判別不可能だった。生きていることが重要らしい。生きている植物は、どこでカットしていてもある程度茎が再生して根が生えてきた。
(細胞の中に入り込んでるのか?……あー、植物以外でもいろいろ試さないと……)
「めんどくさいっ!」
頭をガシガシかきながらため息をつく。ハラリとラクスの髪の毛がビンの中に落ちてしまった。
(あ、髪の毛入っちゃった。取らないと……ん?)
水に浸かった髪の毛の毛根が何やら蠢いているように見える。心なしか髪の毛が伸びたように見える。
「んん?気のせいか?……いや伸びてる!!そうか!抜けた直後は毛根が生きているから!ラミア!ラミア!やったぞ!ラミアのおかげだ!簡単にできる判別方法も分かった!」
ラミアーナが走って部屋に来ると、ラクスと喜びを分かち合い抱き合った。その後侍女に「ご結婚前の若い男女が抱き合うなんてとんでもございません!!」と怒られたのは言うまでもない。




