第76話「報告3」
「これは調査で分かったことなんですが、迷宮から湧き出ている水のことです。この水は一見とてもきれいで透き通ってて飲料水として適しているように思えますが、水に扮した魔物なんです」
「水の魔物?そんなものがいるのか!?だがそんなの見たことないぞ?」
弟のグエンが反応する。
「迷宮の深層に行くと湧き出ているようですね。南では9階層にありました。これを飲むと魔物の力なのか分かりませんが怪我が治ります」
「めっちゃ良い水じゃねぇか。そんなの飲むに決まってるぜ」
兄のギードは良い情報を得たと言う顔をしている。ラクスは首を振った。
「絶対飲んではダメです。この水はおそらく脳を侵食し、飲んだ生物を操ります」
「「なに!?」」
「まだ水の研究が進んでいないため、確定ではないんですがほぼ間違いないと思われます」
ギードとグエンは神妙な面持ちになった。
「お2人に話しをしたのは、この水の危険性について冒険者に広めて貰えないかと思ったからです。もちろんカリスもドナーもだけど」
ギードが顔を上げる。
「なるほど……具体的に操られるってのはどうなるんだ?」
「私が対峙した魔物は高い知能があり大人しかったんですが、水を飲んだ途端自我がなくなりました。あの時はとにかく好戦的でしたね」
ラクスの言葉を聞いてギードは唸る。
「魔物ってのは好戦的なもんだぞ?大人しい魔物って何だよ?」
「私が戦ったのは火竜でした。人間の言葉も喋りました」
「火竜だと!?人間が勝てる相手じゃないぞ!?」
ドナーが「フフッ」と笑っている。
「え?……まさか倒したのか?」
「はい、これが証拠です」
マジックバックから、火竜の爪を取り出す。
「ラクスは人外よ、人ならざる者なの。火竜は1人で倒したのよ」
「な、なんだと!?そんなことが可能なのか?いや、確かにこれは竜の爪だと思うが……」
「人だよ、普通の」失礼な、と思いながらラクスが返事をする。
ギードとグエンががまじまじと火竜の爪を見つめていた。
「……待て待て、竜が喋った!?人間の言葉を!?」
「ちょっと今更?反応が遅いわよ」
「頭の中がパニック状態だ。魔物って喋るのか?ちょっと待て。てことはダメージを負った火竜が水を飲んだと。で、傷が回復したが自我を無くして攻撃してきたのをラクスが倒したってことか?」
頭が追い付いてきたのか、矢継ぎ早に質問が飛んでくる。
「えぇ、私もビックリしましたよ。急に話しかけてくるから。ホントかどうか分かりませんが、2100歳くらいじゃなかったかな。最初会った時は「戦わないといけない気がする」と言って攻撃してきましたが、水飲んでからはもう狂戦士のようでしたね」
「竜種ってのは怒ると数倍の力を発揮すると聞いたことがあるぞ。しかしそれに勝ってしまうのか……ラクスはドナーのいう通り人外なのかもしれんな……」
(失礼な。ちゃんと人間の子どもです)
「そうか、水か……分かった。俺は冒険者ギルドに登録しているんだ。これでもBランクなんだぜ。最近このハロルドにも冒険者ギルドが出来てな。と言うかこの店の隣なんだが。報告して全国のギルド連絡網で回してもらおう」
「なるほど!その手がありますね!それはお願いしても良いですか?」
「かまわねぇぞ。だがラクス、お前も一緒に来い。そもそもお前が発見者だろう?ギルド長に会えるように調整するから、お前の口から報告してくれないと不明な点があるとまた面倒だ」
「ま、そうですね。じゃあ調整終わったら連絡ください。今私が住んでいる場所は……」
「住んでるところは知ってる。聞いた名前だと思ったんだ。ラクス準男爵様だろう?王妃様を救った」
「ありゃ、バレてた」
「そりゃすぐ分かるさ。最近は準男爵様の話しで持ち切りだ。あの時は気が動転してたんだよ。敬語で話した方が良いならそうするが、もういいだろ?このままで」
「全然かまいませんよ。むしろそっちの方が喋りやすいです」
「さすが準男爵様だ、話しが分かるぜ!」
弟のグエンも敬語は苦手らしい。
ギード達と別れて、実家へ向かう。
実家へ着くと母さんとラミアーナが楽しそうに料理をしていた。
(ラミアは本当に頑張り屋なんだな。母さんは何か嬉しそうだ。リリーは料理とか苦手だからなぁ……)
ラミアーナに事情を説明し、別荘へと戻る。
「よし……さてどうやるか……」
(水の魔物について知ることが一番大事だけど、目の前の目的はどうにかして判別させることだ。視覚的に判別できるのが一番良い。音…はどうだろうか、何かに反応して音を出すかもしれない。匂いは完全にない。味は……口に入れない方が良いだろう。魔法属性的にはどうか?相反する属性魔法をあてたら反応するかもしれない)
ラクスは研究に没頭していく。次々とアイデアは浮かぶが、なかなか成功しない。1日、2日と時間だけが過ぎていき、遂に取り置きしていた水が全部なくなってしまった。また採取しに迷宮へ行かなければならなくなった日、ギードが別荘を訪ねてきた。
「ラクス準男爵様はいるか?俺はギードというものだ」
執事が対応する。
「はい。ギード様、ラクス準男爵様より伺っております。こちらへどうぞ」
客室で「お茶をお持ちいたします。少々お待ちください」と言われ、座って待つことにした。
出されたお茶を一口飲み、茶菓子を食べる。
「上品な茶だ。口馴染みはないが、うまいな。菓子も……ボリボリ……優しい甘さだ。うまい」
そうやって待っているとすぐにラクスが部屋に入ってきた。
「ギードさん、いらっしゃい!ギルド長さんと調整ついたんですか?」
部屋に入るなりラクスが質問した。
「お!おお……お前なんだかんだでやっぱり子どもなんだなぁ。準男爵様なんだろう?もっと優雅に振る舞えよ。このお茶みたいに」
「え?だって元々この町のただの子どもですよ。そんな簡単に人間変わりませんよ」
「ダハハハハ!違えねぇ!ところでどうだ?研究の方は?水は判別つくようになったか?」
質問をするとラクスの表情が暗い。
「いえ、思いつく限りの実験を行いましたが今のところは……水がなくなってしまったので、今からもう一度取りに行こうかと思ってます」
「そうか。まぁすぐにどうのこうのじゃねぇんだ、無理すんな。クマができてるぞ」
「まぁ……はい」
「で、最初の質問の答えだが、ギルド長と調整ついたぞ。迷宮へ行くと言ってたが今から大丈夫か?」
「はい、ちょっと行き詰ってるし。迷宮は後でも良いので」
「じゃ、早速行くか」
2人は部屋を出ると、執事へ冒険者ギルド長と会ってくると告げ、別荘を出た。
「ここか……ほんとだ、昨日の店の隣だった。おぉ……ここもレンガ造り」
ギルド内に入る。新しくて清潔感のある室内だった。汗の匂いがする脂ぎった筋肉粒々の男どもが、くさーい室内からドアを眺め、下卑た笑いを向けてくるイメージだったが全然違う。
「冒険者ギルドへようこそ。ご用件をお伺いいたします」
受付の女の子が笑顔で応対する。
「あぁ、ギルド長との約束だ。アポイントはとっている」
「承知いたしました。少々お待ちください」
受付の子が会釈して2階の奥へ走っていった。すぐに帰ってくると「はい、今から大丈夫だそうです。こちらへどうぞ」と案内してくれた。
コンコン「どうぞ」
(お?ギルド長は女性か……これも勝手なイメージだな)
「入るぞ」「失礼します」
室内に入ると、資料が本棚にずらりと並んだ部屋だった。デカい机で書類作業をしていたようだ。
「君がラクスか、会いたかった」
「へ?」
いきなりなんだ?と思うラクスだった。




