第68話「6階層」
(魔物は……こりゃラットか何かか?弱いし少ない。倒さなくても勝手に逃げていく。1階層は何てことないただの道だな。下層に行くって言ったって……)
「階段でもあるのかな……と。あったな。階段だ。狭い狭いって聞いてたけど、広かったな。横に10人並んでも進める広さだし」
「1階層はそうですね。2階層以下が狭いみたいだ…です」
(普通に喋ればいいのに)
カリスはハロルドタウンの冒険者に、この迷宮の情報をいくつか入手してくれていたらしい。2階層から5階層までは狭いらしい。普通の迷宮は道幅は10mくらいの広さで奥行きは数キロ~数十キロあるそうだ。それがずーっと下層まで続く。
この迷宮は1階層は他と一緒だが、2階層以下は道幅が極端に狭くなり、広いところで5mもない。狭いと2m程度か。ロングソード等、長い武器だとかなり不利になる。
(さてさて、じゃあここからがこの迷宮の本番だ……おっ!1階層より魔物多いし魔力もそこそこだ)
「約1分後に魔物と遭遇。そんな強くはないみたい。カリスさんだけで対応できるかな?」
「……なんで魔物と遭遇するの分かるんだ……ですか……あーもう!迷宮に潜ったら敬語何て止めだ止め!そうだな。それとあと呼び捨てで良いぞ。さん付けなんてむずがゆい。俺も今後ラクスって呼ぶ」
「私も呼び捨てで。敬語不要よ」
「……そうか、分かった。そっちが冒険者っぽいしな!」
「「そうそう」」
「それにしてもラクスって便利グッズだよな。魔物の場所に強さまで分かるなんて。弱いってどれくらいだ?」
「何だよ、便利グッズって。急に変わりすぎだろう……俺は道具ではない。数は2、強さから言うとどうだろう……ブラッドウルフとかブラッドベアあたり」
「そのレベルで強くないんだな……俺大丈夫かな」
「大丈夫。きっと勝てる」
「きっとってなんだよー」
と言ってる間に魔物が来た。
「おー!正解!ブラッドウルフ!!!やった!」
「あんまり嬉しくないぜ!」
カリスが先手必勝!と、強化した足で近いブラッドウルフに攻撃を仕掛ける。ブラッドウルフがカリスの足に噛みつくが、カリスはそのまま蹴り上げる。足は無傷のようだ。
(ほう……よく強化出来てる)
落ちてきたブラッドウルフの首目掛けて足技一閃。その瞬間もう一匹がカリスに襲い掛かるが、回し蹴りで難なく倒した。
「余裕じゃないですか」
「まぁ、これくらいならな」
「おおぅ!迷宮に魔物が吸い込まれていくぞ!何じゃこりゃ」
見たまんまだ。溶け込むように吸い込まれていく。「チャリン♪」とコインが転がる音。それと毛皮みたいなのがポップした。
(ゲームみたいだ)
「お!銀貨30枚!ゲットぉ!」
「すげぇ、30万円じゃなかった……あんなんで30万ルクも出るの?」
「あれくらいの魔物なら1匹15万くらいよ。冒険者は命がけだけど儲かる職業なの!」
(まぁ何だかんだで必要経費もかかるし、命がけだからこれくらいないとやってられないか。パーティが多いと分割だし)
ドナーも危なげなくブラッドベアを炎の矢で串刺しにして倒した。何だかんだ言いながら2人とも余裕そうだ。
「じゃあ次はラクスとリリー、やってみてよ」
「リリー、まずお前からいこうか」
「うん、いいよ」
「この先50mくらい行って少し右側に3匹。たぶん同じブラッドウルフだ」
「りょーかいっ!」
道なりに進んでいく。右に曲がる道があり、ブラッドウルフがいた。こちらに気づいている。3匹同時に襲ってきた。
「ほい」
ブラッドウルフ3匹、頭が吹き飛んだ。すごい勢いで走りながら頭が吹き飛んだもんだから、走りながら迷宮に溶け込んでいく。不思議な光景だ。チャリンチャリンと、今回はお金だけだった。毛皮などのアイテムはランダムらしい。
「はは……これはあまり参考にならないわ……次ラクスいってね」
「よし、じゃあ………ここから階段までの魔物を一掃するよ」
「「は?」」
「魔円斬」
キュィーーーン
「行け」
ビュン!!
魔力感知で魔物の状況を見る。一番奥までの魔物の反応が消えた。
「はい、終わりました」
「さすがお兄ちゃん!」
「……………全く参考にならないわ……」
歩いていくと、ポップしたお金とたまにアイテムが転がっている。回収してマジックバックへ。当然、階段まで1匹も魔物がおらず、落ちている物を拾うだけだ。
「ほ、ほんとだった」
カリスとドナーは、ラクスの実力を知っているつもりだったが、ここまで圧倒的だとは思わなかった。ラクスから少しでも何かを得ようと考えていたが、無理かもしれないと感じた。
3階層~5階層までただの散歩のように進んでいく。ラクスが面倒だからと、階層始めで全ての魔物を倒してしまう。
「しゅ、修行にならん……」
「あ、大丈夫。次の階からは冒険者らしくやっていこうと思う」
「……そうですか」
何事もなく6階層へ到着。
「あ、弟の方が引っ掛かったトラップがこれか……」
石を壁に当てると、ビュン!と毒矢が飛んで行った。危ない危ない。
「トラップがある場所はマーキングするから、踏んだり触ったりしないように」
「「「了解」」」
土魔法で色のついたペイント泥を、ペチャッ、ペチャッと付けていく。トラップの種類も確認するか相談したが、でっかい岩が転がってきたり、範囲トラップだった場合危険だということで、色だけつけていく。
「30m先に魔物、そんな強くないが5階層よりはマシか」
「よし、俺がいく。ラクス、前衛と代わってくれ」
「OK、トラップあったらペイントする」
カリスが親指立てて、了解サイン。
6階層からもさほど変わらない広さだ。まぁ他の迷宮と比べるとこれでも狭いのだろう。でも天井は高い。10mはあるか。この迷宮は階段までの距離が近いらしい。数百メートル~数キロと言ったところか。潜り始めて1時間もせず6階層にたどり着いた。まぁ散歩みたいなもんだったからそんなもんだろうが。
(そのかわり深いのかな?)
と思いつつ進む。少し広くなった場所に魔物がいた。
「お、おい!トロルだぞ!そんな強くないって言ってなかったか!?」
「そんな強くないぞ。トラップなし!」
「……や、やったらぁ!」
先ほどと同じように強化した足で攻める。トロルが3mほどあるため、下半身を攻める作戦のようだ。ローキックを何度も繰り出すが、イマイチ効いてない。
たまに直径20センチ、長さ2mほどの棍棒で攻撃してくるため、必死で避ける。
「カリスがんばー」
「頑張れー」
「あ!あぶなっ……ね、ねぇ大丈夫なの?」
「大丈夫でしょ、カリスはまだ全力出してないみたいだし」
「本当?ギリギリじゃないかしら?」
トロルの攻撃を躱しながら、隙を狙っているようである。
攻撃が当たらずイライラしたトロルが大振りをして体勢が崩れる。
「ここだ!パワーシュート!!!」
右足を強化し、岩も砕くサッカーボールキックが炸裂する。
(お前は野球部ちゃうんかい!)
とラクスが心の中でツッコむ。トロルの頭はあさっての方向を向いて前のめりに倒れていった。
「よーし!よーーし!トロル1人で倒せたぞぉ!何気に前より強くなってる気がする!」
トロルは迷宮に消えていく。
「カリス、今の攻撃だけど、強化した足は良くできてた。逆の足はどう意識した?」
「え?いや……右足に全力で魔力を通してたから、左足は何も……」
「逆の足も全力じゃないにしても強化した方がよりスピードが出てキレのあるキックが出来るはずだ。次もやってみて」
「お、おう。ありがとう。意識してみる」
(カリスはもっと強くなれる。手の魔力管も足ほどではないが前より開いてきてる…面白い現象だ。野球してたからか?)
カリスの才能が開花しようとしていた。




