第62話「建物探訪」
ズームアイでハロルドタウンを見てみる。
『歓迎!英雄ラクス準男爵様、ラミアーナ姫、ご婚約おめでとう!』と丁度横断幕がはられている最中だった。
ラクスはプルプルしながら眉間に皺を寄せ、への字口で顎が梅干しの種になっていた。
(誰の仕業だ。俺は婚約したことは手紙で伝えたが、準男爵のことは言ってないぞ……)
「あら……もう町が見えますか?……ん?ラクス様?どうかされました?」
「いや、何でもないよ。何でもない……」
「何か怒ってらっしゃいますか?」
「……参ったな、ラミアには隠し事はできないね。町の壁にね、『歓迎!英雄ラクス準男爵様、ラミアーナ姫、ご婚約おめでとう!』って横断幕がはられてるのが見えちゃって、家族にしか手紙出してないのに、どうして町ぐるみで……ってね」
「よろしいではありませんか。我々貴族の婚姻というものは民……いえ、皆様が祝福してくれるものです。お祝いしたいという気持ちがあるからこそです。バルクロイド領内では決してそれを強制しておりません。まぁ通例にはなっているかもしれませんが」
「はぁ。初めてのことで分からなくってね」
「そのうち慣れてこられますよ」
「そんなもんかねぇ」
「そんなもの、です」
ハロルドタウンでは婚約式典の準備で町中がバタバタしていた。
「ん…んん?あ!!おいおい、もう来ちゃったぞ!!!予定より随分早いじゃないか!急げ!鐘を鳴らせ!!!」
カーン、カーン、カーン…………カーン、カーン、カーン…………カーン、カーン、カーン
「え!?ちょっと、ちょっと!早いわ!まだ準備できていないわ!あなたっ!リオン!!!」
「ぉぉおーーーーい!ルーーーネーーー!!!ラクスがきたぞぉおお!!」
「どうなってるの!?出発したのは3日くらい前じゃなかったかしら?」
「そのはずだ。辺境伯様からのお手紙にはそう書いてあったぞ。まだ1日2日は余裕があったはずなのに!」
一瞬の間ができる。
「いやいや、固まってる時間はない!急いで準備を進めるぞ!幸い前準備はほとんど終わってる。後は料理……………えぇーい!もう魔法科を招集するぞ!」
「そうね!それが一番早い!リリー!!!リリー!!!!」
「なーにー?お母さーん」
「もうお兄ちゃんが近くまで来てるみたいなの。まだ料理ができてなくて、魔法科生徒に集まって欲しいの!リリーお願い!!」
「お兄ちゃん来てるの!?……でもお嫁さんも一緒なんだよね……」
「もう!だから急ぐのよ!お嫁さんにお兄ちゃんが育った場所は、お祝いするのにご飯もないの?って思われたくないでしょう?」
「……うん、そうだね。お兄ちゃんが育ったこの町は最高の場所じゃなきゃね!分かった」
リリーは外に飛び出すと、空に向かって手を上げた。
ピューーーーー!ボンッボボンッ!!!
町中に大きな音が響き渡る。見上げた町民の内、80人弱が「集合合図だ、北だな。リリー?ラクスさん帰宅の鐘と関係してそうだ」と、リリー宅へ向かい歩き始める。
数分後、近くにいた者たちから徐々に魔法科生徒が集まり始めた。リリーに「どした~」と話しかけている。
「ごめんね急に。もうすぐお兄ちゃんが帰ってくるんだけど、料理が準備出来てなくて……」
「あぁ、そういう事ね。全然OK!じゃあリリーのお父さんとお母さ……あぁ向こうで呼んでるわ。リリーはみんなが来たらこっちに案内してね」
「うん、ありがとう!」
「すまんな、みんな!」
「いえいえ。リリーのお父さん」
「ありがとう!では印がある場所に土魔法でよろしく。丸焼き20個だ。肉は討伐隊に取りに行かせてる。肉が届いたら中に入れて周りから火を入れてくれ。交代でじっくり頼む。大鍋はこっちに20個準備している。これで今から持ってくる野菜やら何やらを煮込むぞ。先に水を入れて沸騰させてくれ。あとは……パンだ!ルーネが生地をもってきたら窯に火を入れて焼いてくれ!」
「はーい。後で魔法科いっぱい来ますので、お父さんは指示を出しててくださいねー」
「おう!助かる!魔法科いてくれて良かったよ!」
「頑張りまーす!」
どんどん集まるハロルドタウンの魔法科。町の魔法組総勢は157名いる。その内49名は身体強化組と一緒に魔物討伐へ。更にその一部は迷宮探索へ。20人は町の警備隊として。10名は魔法育成者。残る78名が魔法科生徒だった。
バルクロイド領内で魔法により最も進化した町となった。町の人口は増加の一途をたどり、町を取り囲んだ壁は一度取り壊され、1年前と比べると2.5倍ほどの敷地面積となっていた。もはや町と言うより都のようになっている。町の中には「魔法都市ハロルド」と呼ぶものまで現れていた。
ラクス一行がハロルドタウンに到着。馬車からラミアーナをエスコートして降車する。ラミアーナをみた町民は「はぁぁあーん、可愛いぃ」「お人形さんみたい」「美しすぎるぅ」と声が漏れる。聞こえたラミアーナはそちらを見てニコッと笑った。キャーキャー聞こえてくる。
町長一行が近づいてきて、片膝をつき跪拝をした。
「これはこれはラクス準男爵、ラミアーナ姫、ようこそハロルドタウンへ。お待ちしておりましたぞ」
「やめてください町長、普通に立ってください。それよりなんですかあれは……私の爵位拝命はどなた様からの?」
町長一行がゆっくり立ち上がる。
「よくできておるでしょう?横断幕は!辺境伯様がラクス準男爵様よりも早く通達をくれてのぅ。町の職人が腕によりをかけて作ってくれたんじゃ!」
(お、おのれ辺境伯様め。静かに家族だけで祝ってもらいたかったのに……いや、まぁラミアの言うことももっともかな。お祝いしたいって気持ちをありがたく受け止めとくか)
「初めまして、ハロルド町長。ラミアーナ・フォン・バルクロイドと申します。この度はこのような催し事、大変感謝いたしますわ」
「ふぁわわわ……とと、とんでもございません。お2人のご婚約、町民を代表いたしましてお慶び申し上げます」
「ふふ……ありがとうございます」
挨拶も済んだことだし、実家に帰ろうとしたが町長より「まだ準備が整っておらん」と小声で言ってきた。
「実はですな、お2人のこの町への滞在時にと、別荘を建設いたしました」
「別荘!?」
「はい。そちらに案内しましょう。おーい、案内よろしく頼む」
「はい!私はラクス準男爵様とラミアーナ姫様のご滞在中、お世話をさせていただきます。マリーと申します。よろしくお願いいたします。ではご案内いたしますね」
町中を歩いて別荘とやらに向かう。町民がこちらに手を振るので、ラミアーナはにこやかに手を振り返す。あちこちで黄色い歓声が上がる。ラミアーナが人気でラクスも嬉しくなる。
「着きました!こちらです!!」
「!!!!!!!」
(こ……これは……俺の銅像!?少年が大志を抱くような恰好をしているぞ……なんてもんを作っちゃうんだよ。しかも勝手に身長大きくしてないか?こんな大きくないぞ……)
「まぁ!素晴らしい!ラクス様の銅像ですわ!!!何か少し大人びて見えますわね♪」
「う、うん。そうだね。ラミアが喜んでくれてるようで良かったよ」
「こちらが別荘でしょうか……初めて拝見する色や形の作りですが……」
「おおっ!遂に誰かがレンガを作れるようになったか!すごい!………いや、家、デカ過ぎない?」
「今後こちらの別荘にラクス準男爵様やラミアーナ姫様のお客様が来られても問題ございません」
「あぁ、そう……」
「中へどうぞ!」
素晴らしい内装だ。なんということでしょう。高い天井には美しいシャンデリアが。広々とした空間は、日の光を計算されており、明るく開放感があり、上質な暮らしを支える工夫が随所に施されています。更に奥に進むと……なんということでしょう。中庭やテラスも設置されており、町中の喧噪を感じさせないゆったりとした時間を楽しめる作りとなっております。
リビング、食事スペース、厨房、風呂、トイレ、個室、客間、会議室、執務室を兼ね備えた、建物だ。申し分ない。ラミアーナも満足そうだった。
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