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第61話「カリスの計画」

すいすーい進むこの旅路。

ラクスは馬車の中から馬の約50m先に座標を固定。アスファルトを生成しつつ突き進んでいた。舗装された道なので揺れも少ないし、スピードを出しても何も問題ない。


御者は「ヒャッハー!」とまではいかないが、「すげぇすげぇ」と楽しそうに馬を操っていた。馬も疲れにくいため、この調子だと3日もあればつくかもしれない。馬、馬と言っているが、この世界の馬は地球で見るような普通の馬ではない。移動手段のためにおそらく1,000年以上前から複数の種を掛け合わせられ、魔改造された特殊な馬だ。


地球の馬は並足(ゆっくり歩く)で時速5~6㎞だが、こちらの馬は時速10㎞程度。全速力だと時速100㎞にもなる。とはいえ、全速力で走ることができるのは約10分~15分と言ったところ。



ハロルドタウンまで300㎞強の道のりを並足で進んでいく。道が悪く途中で止まりながら進むのと、舗装された道では雲泥の差である。



「ラクス様は何でもできますのね……ちょっぴり嫉妬してしまいますわ」

「何でもはできないよ。出来ることをやるだけさ」

「まぁ、素晴らしい回答ですこと。ウフフ」



ラミアーナと出会って、彼女も魔法に興味があると言っていたため、いろいろ教えていた。彼女は水属性と土属性が得意だ。バルクロイド家の血のせいなのか、魔力も元々多かった。毎日魔力を使い切って寝てねと伝えていたが、1日も休まずに行っているようだ。魔力の増え方が著しい。


出来ないことはないが身体強化は苦手なようで、水・土魔法に特化した練習を行っている。ラクスの不得意な水魔法を使えると言うのはありがたい話しだ。水魔法を教えるのは苦手だが、回復魔法を中心に覚えてもらっている。土魔法は攻撃用として、ラクスの弾丸を見せて同じようにイメージしてもらっている。いざという時のための護身魔法だ。


彼女が特殊なのかもしれないが、回復魔法が使えるようになった後、毒やその他状態異常からの回復が使えるようになった。二日酔いの父親に回復魔法を使っていたら出来るようになっていたみたいだ。回復と言うより「体内の悪い部分を取り除く」ようなイメージで魔法を使っていたらしい。その魔法はディスペルと名付けた。やはりイメージしながら魔法を使うのって大事だ。


でもラクスには同様の魔法はできなかった。毒虫に噛まれた時にイメージしてやってみたが、ジンジンするのが収まらない。急いでラミアーナのもとへ走ってディスペってもらった。不得意な属性はどんなにイメージしても出来るものと出来ないもの、魔法自体の大小が変わってくるようだ。




初日の夕方、野営の準備を行っていると「ラクスさまー」と聞こえてくる。嫌な予感がする。出発時に感じた嫌な予感だ。


「ラクス様!もう!聞こえているでしょ!カリスですよっ!野球で優勝した、同郷の!」

(分かっとるわ、うるさいなー。声がデカいんだよ野球部は)



「あのーラクス君、ごめんね、急に」

「あぁ……確かドナーさん?」

「えぇっ、覚えててくれたの?」

「覚えるもなにも、100年に1人の天才魔法使い、獄炎のドナーって言ったら有名ですよ」

「ラクス君にはハロルドでお世話になって、領都学校に行けるようになったのもあなたのおかげなの。今更なんだけど、ありがとう」

「いえいえ、それより何でここに?あぁハロルドに帰られるんですか?」



「いや、それがですね……ちょっとラクス様と話しがしたくて……夕食後でも良いので少し時間取れますか?ドナーも一緒に」

「はぁ、まぁ少しなら良いですよ」

「分かりました!とりあえず今晩のおかずを仕留めてきますよ!」



そう言うとあっという間にカリスは消えて行った。

20分ほどで帰ってきたカリスは、馬車一行全員を賄えるほどの魔物を取ってきた。

(褒めてつかわすぞ、カリスよ)



ラクスが手早く魔円斬(小)で切り刻み、可食部位を分け、しょぼい水魔法で洗い流した。商隊にも分け与え、皮などはその場で買い取ってもらう。不要な部分は燃やし尽くす。


しばらくすると美味しそうなスープが出来上がっていた。お肉たっぷりだ。堅パンを取り出し、スープにつけて柔らかくして食べる。パンがスープの出汁を吸って、美味しくいただいた。ラミアーナはこう言うのは苦手かと思っていたが、全く問題ないみたいだ。普通に「お肉も美味しいですわっ♪」て食べてる。良かった。




食器を御者が片づけてくれている時に、カリスとドナーが来た。

「ラクス様、お話しよろしいですか?」

「はい、どうぞ」


「わたくしも同席しても良いのですか?」

ラミアーナが聞いていい話しなのか気にしていた。

(たいした話しじゃないと思うが、俺の事を気にしてくれてるんだな…メンコイ)


「構いませんよ、隣にいてください」

「はい」




それでは、と言った感じでカリスが話し始める。

「ラクス様、実は私たちはハロルドタウンの南にある迷宮に潜ろうかと思っています」

「え!?そのために来たの?」


「そうです。迷宮は以前スタンピードが発生した場所。ハロルドタウンから近く、しかも強い魔物が出てきたと聞いています」

「……そうだね」


「私たちはハロルドタウンが故郷です。また同じようなことが起こった場合、私は町を守りたい。ドナーだってそうです。でもそのためには強い魔物とも対峙して戦えるようになっておきたいんです」

「うん、そうだね。その気持ちは分かるよ」


「それでその……ラクス様に相談と言うのは……あの、私たちと一緒に迷宮探索に行ってくれないでしょうか?」

「はぁ?……はぁ、まぁそうか。カリスさんとドリーさんだけでも十分強いだろうけど、念には念を入れた方が良いってこと?」


「そうです。ラクス様が一緒に潜ってくれれば私たちにとっても良い修行になりますし、ラクス様もあの迷宮はそのままにしたくないのではないですか?」

「……うん、正直なところあの迷宮そのものを破壊してやりたいところだ。でも国や領が管理している迷宮だから勝手なことはできない」


「は、破壊って……ラクス様なら出来なくもないと思えるのが凄いとろこですが」

「ラクス君、私からもお願いします。もっと強くなりたいの。みんなのこと守りたいの」



ラクスはラミアーナの顔を見た。

「ラクス様、わたくしはラクス様が決めたことを応援するだけですわ。できればわたくしもラクス様と一緒に迷宮に潜りたいですが、おそらく今の私では足手まといになるだけです……」


「ラミア……そうか、分かった。カリスさん、ドリーさん、ハロルドに着いたら婚約の件など、うちの親と話しをしたり、たぶんパーティーしたりと、数日は外出できない。それでも良い?」

「構いません」「私たちも久しぶりに親とか友達と会う時間が欲しいしね」


「分かった。町に着いたらまた詳細を打ち合わせしよう。領主様から20日も休暇をいただいてるから、潜っても十分に戻れるだろう」

「「はい!」」





「ラクス様に怖いものってあるのでしょうか?」

「ははは……怖いものなんていっぱいあるよ、領主様も怖いし、母さんも怖い」

「まぁ!お母さまと領主様、同列なんですか?わたくし、少し胃が痛くなってきました……」

「あぁ!うそうそ!大丈夫だよ……たぶん」

「たぶん……ですか……」



「わたくしは迷宮に潜れませんが、頑張ってお母さまの心の迷宮を突破してみせますので、ラクス様も頑張ってください。心からご無事を祈っております」

「うん、ありがとうラミア………」


チュッ。








「ほらな、ラクス様ちょろいだろう」

「ちょろいなんて言わないの。あんたラクス君のこと尊敬してるんでしょう?」

「尊敬してるさ、あの球は神の一球だった。あの球を打ち返すのが俺の夢だ」

「はいはい、頑張りなさい」


「あと数日で着く。着いたら町をあげての式典になるだろう」

「でしょうね。ただの町人が貴族と婚約したんだもの」


「式典が終われば迷宮だ。ラクス様の力を盗んでみせる」

「私だって強い魔法を使えるようになりたい」



それぞれの思惑を胸に、夜はふけていった。




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