第60話「カリスとドナー」
ラクスが王都からバルクロイド領への帰宅準備を行っている頃……
【フランクド王国 某領】
「おい!なぜ王妃が死んでいない!回復したと聞いたぞ!!あと少しで約束の1年だったではないか……証拠の残らない遅行性のある毒物で、確実に死に至らしめるのではなかったのか!!」
「……はい、その通りです。が、それを取り除く者が現れました」
「なんだと!?取り除いた?取り除くのは不可能だと言ったのは誰だ!?」
「私です。取り除くことは不可能です」
「貴様……ワシを愚弄する気か?」
「いえ、今まで一度たりとも取り除かれたことがありませんでした。私にも取り除く方法は分かりません」
「誰が取り除いたか調査は?」
「調査も何も……バルクロイド領のラクスという人物です。王妃を助けた褒章として準男爵となっております。現在11歳とのこと」
「あの時の……くッ……孫の婚約の件も断りよって……あんなガキにワシの計画が妨害させられたというのか……しかし王と同等の強さを持っていると聞いた……いや、そんなことはあり得ない。おい!ガキは領へ帰ったか!?」
「いえ、明日出発予定とのこと」
「よし!この「水」を使い魔物をガキに仕向けろ。バルクロイド領へ向かう道に数か所森があったはずだ。先回りして魔物にこの「水」をかけるだけで良い。これは強力だからな……クハハッ!狂ったように暴れだすぞ!」
「は……」
「それから盗賊に金を渡して襲わせろ。男のガキ1人は確実に殺せと」
「承知致しました」
「クハハ…面倒だな。今度は王族にこの水を使ってみるか……」
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「……侯爵様……申し訳ございません、暗殺に失敗いたしました」
「なんだとぉ!?ガキ1人殺せんのか!!!」
「は……そのガキ1人に全て殲滅させられました。遠方から確認しておりましたが、一瞬の出来事で盗賊も魔物も何もできず……国王との同等の強さというのは間違いないかと。むしろそれ以上に思えます」
「く……くそっ。どうにも出来んではないか……どうにかしてあのガキにあの水を飲ませることができないか……」
「申し訳ございませんが、私はこの件からは手を引かせていただく。かなり遠方から見ていたはずなのに……あの子どもはこちらを見ていた……私などいつでも殺せると言わんばかりに……この稼業、引き際が肝心ですので、では」
「お、おい!待てっ……くそっ、どいつもこいつも使い物にならんではないか」
瓶に入った水が月明りにキラキラと光っている。
「……仕方ない。計画の練り直しだ……もっとこの水を手に入れなくては……クッハッハッハ……」
【バルクロイド領都学校 食堂】
領主様へ野球大会優勝の表敬訪問を行ったり、野球部員の家族や親せきを呼んで、盛大に祝勝会を行ったり、ここ1週間は怒涛のイベント尽くしで、カリスは人生で最高の日を過ごしていた。野球の頂点を極めたのだ。来年以降はチームのエースになるため、今後更に努力は必要だ。しかしあまりにも野球漬けだったため、今は少し気分転換をしたかった。1番大きな大会が終了して部の活動もしばらく休みだ。自主練期間となる。
「うーん、でも気分転換と言ってもなぁ……どっかに行くかなぁ……暇だなぁ」
「あーもーうるさい!さっきからブツブツブツブツ!大会に行ってたから静かで良かったのに、帰ってきたら祝勝会だなんだって大騒ぎしてっ!終わったら終わったで暇だってブツブツ言って、なんなのよっ!ていうか、何で私の前に来て食べるのよ!」
「いやー、ドナー……あ、「獄炎の」ドナー。同郷じゃないの、そんなケンケンすんなよ。何かやり切った感じの症候群なんだよ。なぁ、お前明日から何すんの?」
「何よ、やり切った感じの症候群て……私は…私は魔法の勉強よ」
「お前聞いたぞ。最近伸び悩んでるって」
「うるさい、余計なお世話」
「ちょっとお前に話しがあってな」
「何よ」
「明日からラクス様がハロルドタウンに帰るって話しを聞いたんだよ」
「それが何よ」
「俺らも一緒に帰らね?ハロルドに」
「別にハロルドに用ないし」
「俺も別にハロルドに帰るのが目的じゃねーよ。南にさ、迷宮があるだろう?ラクス様に頼んでさ、パーティー組んで探索いかねぇ?あそこは強い魔物が出るって話だが、あの人がいれば探索で死ぬことはないだろうし、修行にもなる。次のステップへの糸口も見つかるかもしれない。もしかしたら宝だって……」
「……」
ドナーはその提案を聞いた時、すごく魅力的な話しだと思った。領都学校へ入学前に冒険者になって迷宮探索をしたが、本当に偶然、たまたま運よく高値で売れる物が見つかったのだ。売却して入学費用や授業料、参考資料、生活費など、ここ数年様々なものを充ててきた。貯蓄もかなり厳しい。正直そろそろ迷宮探索したいと思っていた。
「でもラクス……君は帰っても忙しいんじゃないかしら……」
「ちょっと頭つかえよ、お前。そこはさ……」
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「よし!準備完了!ラミアーナ、行こうか!」
「はい!ラク……あなた(…ポッ…)」
(きゃわわわーイイーーーネッ)
昨日婚約披露式典を行って、2人の仲は更に深まった。もう結婚した気分だ。でもまだ手は付けていない。15歳になったら結婚予定だ。あと数年、我慢できるだろうか。いやできない。いや我慢する!お家取り潰しはダメだ…。
「…ぉーーーい!ラクスさまーーー!!おーーーい!」
遠くから聞いたことのあるような、おそらく俺を邪魔するような予感の声が聞こえてくる。無視してラミアーナをエスコートして先に乗せ、ラクスも乗り込む。
「出発してください」
「え?良いのですか?どなたか走ってこちらに来られてますが……ラクス様ーとお呼びですが」
「構いません。あれは私を邪魔するものですので」
「はぁ、では出発いたします」
御者が「ハッ」と馬に合図を送ると、ヒヒーンと馬車が動き出す。ラクスがハロルドに向かうという噂はすぐに広まっており、それなら道中安全だろうと商人の馬車も成長著しいハロルドタウンに向かうべく準備していた。十数台という馬車一行が一斉に出発する。
「ちょっと!出発しちゃったじゃない!どうすんのよっ!」
「こうする」
「キャっ」
カリスはドナーをお姫様抱っこして身体強化し、馬車へ追いついた。商人の荷台を見ると、若干の余裕があったので、そこへドナーを座らせた。
「ま、途中で何度か休憩を挟むだろう。その時にラクス様に話しをしに行こう」
「大丈夫かしら……ラクス君が一緒に行けない時どうする?」
「あれから随分たったし、ハロルドにも有望な人材がいると思わなか?」
「そっか!最悪その手があるわね!あんた悪知恵だけは働くわね」
「うるせー、柔軟と言え」
一行はハロルドタウンに向かう。
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