第58話「打診」
魔法での手術を行ってから2日、ラクスは軟禁状態にあった。出ようと思えば簡単に出れるが、まぁ事を荒立てても仕方ないと思い、部屋にあった本を読んでいれば2日などあっと言う間である。
3日目の朝、王太子様が部屋にきた。数名の兵も一緒に来た。
(いや、何もせんよ。そもそも王太子様の方が君たちより強いでしょう)
「ラクス……王妃の件についてだ。王妃の容態は完全に回復した。心より感謝する。君のおかげで……王妃は…母上は一命を取りとめた」
「良かった。本当に良かったです。かなり危険な状態になっていましたので……」
「そうだ。だから私もこれが最後の治療だと覚悟した。これでダメなら…と」
(やはりある程度諦めも入っていたみたいだな。そうでもないと急に良く分からない治療はさせてくれないだろう)
「で、だ。これについては本当に感謝しているんだが、陛下がな……本来なら陛下からラクスに謝意を述べるのが通常なんだが……今はちょっとラクスを見るとダメなようだ」
「は…はははh……申し訳ございません」
「いやいや、私は別にラクスが悪いことをしたと思っていない。治療をするなら服を脱がせることは当たり前だろう。体内に直接魔法を作る?と言っていたので、脱がせることなく治療すると思われていたのだろう。だが流石に事前に了解もなく…な。まぁ陛下のお気持ちも分からなくはない」
「目を強化して体内を透過させ治療を行いましたが、服があると見えづらい部分もあり、仕方なく……」
「よい、それについては私が既に陛下を説得している。それよりも、だ……おい!全員さがれ!」
「しかしながら……」
「さがれと言っている。大丈夫だ。ラクスは信用に値すると私が判断した」
「…は!」
(おぉ?なんだ?どうしたんだ?)
ぞろぞろと兵が下がっていく。ガチャッとドアが閉まった。
「……ラクス、お前は竜王化をしたな。陛下に確認する時間が取れないため直接確認したくてな」
「はい、王太子様、それは……」
「ラクス、転生者であることだけは陛下から聞いた。そのことは陛下と私しか知らん。腹を割って話したい。もう今後、王太子と呼ぶな。私のことはアーサーで良い」
「は、あ、いえ。ではアーサー殿下と……」
「それで良い」
(さてどこから話すか……魔法とは何か。身体強化とは何か。そのあたりから説明した方が良いな)
「アーサー殿下、説明に少し時間がかかりますが?」
「そのために時間を作った」
「では……」
ラクスはアーサーへ魔法について語った。アーサーは難しい顔をしながらも頷き、時には頭を傾け、深く考えながら聞いているようだった。
「……つまりラクスが使った身体強化も、竜王化と同じものであるということか。技の名前が違うだけ…と。しかし「魔王拳」はないだろう?魔王だぞ?忌み嫌われる存在だ。魔王のように強いということか?」
「はは…いえ…ただ何となく思いついた言葉でして」
「まぁ王家の祖先が名付けた「竜王化」も似たようなものか」
(カイオー様が名付けた技を文字って、って言っても分からんだろう)
「私はな、幼い頃から血のにじむような努力を続けてきた。王になるため、ありとあらゆる教育を施された。その中で最も厳しく、血反吐を吐くような日々を過ごして会得したのが竜王化だ。時期王として王位継承順位を確立したものと思っていた時に、先日のお前の技だ。しかも私よりもはるかに大きく練度が高い。正直なところ、母上の件以上に動揺したよ。王家の技をなんでお前が!ってね」
(ほほぉ……本当に腹を割って話しているように見える。心拍数も一定だ)
「ラクス、竜王化にはまだ先があるということだろう?お前がやろうとしていることを考えると、将来的に王族でなくても竜王化できる人間が現れそうな気がする」
(鋭いね、きっとそうだろう。既にバルクロイド領主様はある程度使える)
アーサーの言葉に軽く頷く。
「それでだ、ラクス。私に仕えないか?側近として」
「ヒィエッ?」
「なんだその返事は?私に側近として仕え、竜王化のその先にあるものを教えてほしい」
「そ、それは……私はバルクロイド領の教育長相談役という役職をいただいておりまして……現在はバルクロイド領学校の研究員として活動しております」
「そうだな、それは知っている。知っているがその上での相談だ」
(う゛ぅ~ん、こればっかりは俺の一存では決められない)
「殿下、大変名誉なご提案ではございますが、バルクロイド領主様に確認を取らないと何とも……」
アーサーはラクスの返答に少し間をおいた。
「そうか。ではバルクロイド卿と話をしてみよう。丁度今回の式典に代理の弟君が来ていたな。式典でラクスの婚姻の話しを断るのに四苦八苦していたようだぞ。「お主の娘との婚約は破棄すれば良いであろう、私の孫を紹介させる」なんて言われてな。バイゼル宰相がいなければ押し負けていただろうな」
(やっぱりあの人が宰相だったか。規律に厳しそうな人だった。俺とラミアとの絆は誰にも引き裂けないっ)
「クリストフ様には感謝しております」
「ラクスが良ければ、妹を紹介しても良いのだがな。ただ妹が第一夫人でなければならない。そうなるとやはりバルクロイド家との婚約は一旦破棄してもらわなければならなくなるな」
「お、オタワムレを……」
「そうか?ラクス・フォン・フランクドと名乗れるぞ。お前も王族だ」
「ぶ、分不相応でございます」
「そうか、私はお前を高く評価しているんだがな。まぁ良い。側近の件はバルクロイド卿と話をする。なに、悪いようにはせんよ。お前には国のために働いてもらいたい。民のために、領のために、王家のために」
「それに協力は惜しみません」
「うむ。ではしばし待て」
「はい」
今回の件で王家はどう動くのか。あの魔物はいったい何だったのか?王妃は1年前くらいから体調不良だと言っていた。スタンピードが発生した時期と重なる。混乱に乗じて何かあった可能性も高い。二度と同じことを起こさないよう、先ほどのようなラクスへの働きかけがあったのかもしれない。
(まぁ俺が考えてもしょうがないかー。ラミアに早く会いたいなぁ)
窓を開けて外の空気を吸う。こちら側は晴れているが、西の方には黒い曇がかかっているようだった。
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