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第57話「魔法手術」

「……そんなことは無……」


部屋から出て行った国王は「無理だ」と言いたかったのだろう。しかしこのまま放置してもおそらく数日中に王妃は死んでしまう。可能性に賭けてもらわないと最悪の結末はヒタヒタと近づいている。



出て行って5分ほどだろうか。国王が帰ってきた。10代後半の男の人と一緒だ。


「ラクス、息子だ」

「アーサー・フォン・フランクドだ。ラクス、父から話しは聞いた。もう時間がない。すぐに母の治療を始めてくれ!手は尽くした。もう他に母が助かる方法はない」

「陛下、よろしいのですか?」


「アーサーの言うとおりだ。すまん、私だけでは判断しかねた。息子と相談したが、結論は今言った通りだ」

(陛下は断腸の思いなんだろう……国のことなら即決して進めれるが、妻のことだと……人間味のある王様だな、嫌いじゃない)



「分かりました。すぐに治療を始めます。では……そうですね、治療と言ってもこれはある意味魔物との戦いです。集中して行いたい。部屋には誰も入らないようにしてください。陛下も、王太子様も」

「ワシもか!?」

「はい、王妃様に何かあればすぐにお呼びします」

(服を脱がさないといけない。陛下はいない方がいい)



しゅんとなり、王太子様に「私たちにできることはもう何もありません。もう時間もないのです。陛下、この者に託しましょう」と促されて部屋から出て行った。



(気丈な王太子だな。俺が何者かも良く知らないと思うが……もう助からないなら可能性にかけてみようと思ってくれたかな……よし、やってみる)




いきなり王妃の体内に魔法を作り出すのは危険だと思い、ラクスは窓を開けた。目に魔力を集中すると、城下町を見渡す。

(違う…違う……これも違う……いた!)


数キロ先に目的の動物を発見。ボッと言う音と共にラクスが窓から消える。



バッとラクスが現れ、手を口に当てるとネコが一瞬で気絶する。

(ごめんな、ちょっと気絶しててくれ)



前世でネコを飼っていたが、病気で死んでしまった。血栓が原因だった。なぜかは忘れたが、ネコは血栓ができやすい動物だと聞いた。このネコは後ろ脚が悪いようだった。心臓が若干肥大しており、筋肉量から高齢のネコと思われる。怪我でなければ血栓の可能性が高い。




その場で横たわるネコを見つめ、心臓付近で人差し指をかざす。見つめていると徐々に体内構造が透けて見えてくる。

(うーん………あ!あった!お、ここにも血栓がある)





(この血栓に座標を設定……頼むぞ、成功してくれ)

「魔円斬(超極小)」


血栓に超極小の魔円斬を当て、削っていく。少しずつ削れる血栓。30秒ほどで全ての血栓を細切れにできた。別の血栓も細切れにする。血管内に魔法を作り出すことに成功した。通常、魔法は生物の体内に直接作り出せない。魔力の壁みたいなもので阻害される。抵抗されるのだ。だが今の実験で無抵抗の場合だと作れることが分かった。


(ネコちゃん、ごめんな。でもこれで君の病気は治ったよ)


ラクスがネコの口元を覆うとネコが意識を取り戻した。ビックリしたようにピョンと飛び跳ね、こちらを警戒しつつゆっくり横に歩いていく。ある程度距離が出来ると元気に逃げて行った。


(うん、血栓がなくなって血流が元に戻ったな。普通に歩けるようになった……よし、体内座標の実験は成功だ)



ラクスはボッ…とその場から消えると、一瞬で城の王妃の窓にたどり着く。




「よし、では魔法手術開始だ」

王妃の前に立つラクス。

(やはり毛布と服は邪魔だ、正確に診るため……ごめんなさい)


王妃に掛けられたシルクの毛布を腰の位置までずらし、服を脱がせて胸をはだけさせる。先日まで食事を摂っていたと言っていたが、ほぼ食べれていなかったようだ。水も飲んでいないのかもしれない。かなり危険な状態だ。

(急がないと……)


人差し指を心臓にかざし、集中する。丸い虫のような魔物が見える。更に集中し、体内の構造まで可視化する。

(やはり魔力が王妃様の根源から魔物へ流れている。この細長い管のようなものに座標を設定して……)



「魔円斬(超極小)」とつぶやく。



魔物に近い位置で切っていく。無音の中、管を10等分ほどに切った。根源から魔物への魔力の流れがなくなる。

(よし、成功だろう!)



その瞬間だった。魔物が王妃の体内から消えたように見えた。

「な!?……いや、いる。体内から外に出やがった。いったいなんだこいつは!?」



ピュン……ピュン………ピュン!

(高速で移動してるな……仕方ない)



「魔王拳5倍!」

ドンッ!と城内が揺れた。



「「「地震か!?」」」

城内にいた人々は驚いていた。だが揺れは一瞬で、大丈夫そうだった。だが何か分からないが上の方から強く継続した圧力を感じる。

「何だ何だ!?立ってられないぞ!?」



「陛下!大丈夫ですか!?」

「アーサー!これは……もしやラクスの竜王化!?」

「竜王化!?ラクスが!?どういうことですか!」

「……後で説明する、今はマーガレットだ!」

「くっ……何という圧力だ。部屋に入れません……」


「アーサー、竜王化だっ」

「はっ、はい!」


「「竜王化っ!」」



ガチャッ!!!



竜王化し、何とか部屋に突入した国王と王太子は、王妃の部屋で何かとてつもなく速く動く物体を見た。何かが動いているが速すぎて認識できない。



ズザッ!

「ラクスッ!!!」

「何が起こった!!!」



「あ!陛下!王太子様!手術は成功です!体内から魔物が出てきましたので、それを今捕まえました!ホラ、これです」


手を広げると、ベチャリと潰れた小さな何かがいた。

「あ……力加減間違えて潰しちゃった」



魔王化を解く。圧を感じなくなり、国王も王太子様も竜王化を解いた。

「ラクス、お前なぜ竜王化ができる?なぜだ……これはフランクド王族にしか……」

「アーサー、その話は後だ。マーガレットは……王妃の治療は終わったのか!?」

「はい、無事終わってます。ご覧になられますか?」

「本当か!?よし!よし!よくやったぞ、ラクスっ!マーガレットおぉぉ………ぉぉおおん!?」



ダッシュで王妃の様子を見に行く陛下。感動の術後再開だ。いや良かった。本当に成功して良かった。

「おい!ゴラァ!!!ラクス!!!てめぇ死にたいのかコラァ!!!!マーガレットに何しやがった!!!アーサー!お前もマーガレットに近づくなぁ!!!一歩もそこを動くな!!」


「ヒェッ!?どうかし……」

王妃は上半身ほぼ裸だった。王太子様は王妃様を見れず、陛下の態度に困惑して固まっている。


(し、し、死……しまったぁああああ!!!服着せるの忘れてたぁぁぁぁあああ!!ヤ、ヤバイ。本当に殺されるかもしれない……)




後ろ姿からでも血管が浮き出ているのが分かるほどの陛下はプルプルと震えながら、王妃のはだけた服を着せ、毛布を掛けた。そしてこちらをゆっくり振り返る。その顔は正に鬼の表情だった。

「竜王か…」

「あ、あな……へ…いか……」

「あぁ!マーガレットぉ!意識が戻ったのか!?ああああああ、良かった!本当に良かった!!!」

「お母様!良かった!意識が戻られたのですね!一時はどうなることかと……良かった……」



(おいおい、ここで竜王化しようとしてなかったか?王妃様の意識戻らなかったらどうなってたか……)



魔力枯渇に近い状態だったが、魔法手術時に管を切りながらラクスの魔力を少しずつ、点滴のように王妃の根源へ流していたのが良かったのかもしれない。わずかな時間だったが回復が早くなり、意識が戻ったようだった。ただどちらにしても食事も水も摂っていないようだったため、危険な状態に変わりない。


(早く良くなってくださいね)


そう思ういながらラクスはそーっと、気づかれないよう身体強化(足)レベル3を使い、極々そーっと部屋を出た。



お読み頂き、ありがとうございます。


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