第56話「王妃」
「ヘラクレスが『転生者』ということでしょうか」
「ぬ……やはり知っておったか……」
(なんだ?やはりってところが気になるぞ)
「ラクスよ、これはワシを含めた王家に関わる話しだ。この話しをしている時点でお前には守秘義務が発生する。拒否権はない」
(えぇ……そっちから話しといて、拒否権ないとか……)
「ワシを含めた王家の血筋の人間は『竜王化』という特別な技を使う。これらは遥か昔、王族であったワシの祖先が竜王と呼ばれる者と縁があったということになっておる。が、それはただの作り話だ。これはヘラクレスから当時の王が教えられた魔力制御の身体強化技だ。お前も同じ技を使っているだろう?」
(でしょうね。あれはただの魔力の使い方の一つでしかない)
「王族のみに伝わる本があってな……ヘラクレスから当時の国王へ魔法の使い方について教えられた内容が記されておる。当時の王が記した本で『身体強化(極)』という本だ」
(なにそれ、読みたい!)
「その中の一部にヘラクレスについて記された箇所がある。二ホンという国から来た転生者であること、とな。もし今後同じ二ホンから来た転生者がいたら、大事にしてほしいとも書いてある。で、だ。ラクス、お前はその転生者ではないか?転生者は様々な知識を持ち、改革者であるとも記されている。ワシの見る限り、お前は正にそう見える」
(さてどうしたもんか……ここまで話されて違うとも言いにくいよな。何かこう……信頼?されて喋られているような気もする。焦ってる感もあるな。なんでだ?)
「……そうです。私は日本から来た転生者です」
「そうか。そう……か。よく話してくれた。感謝する」
そう言うと国王はラクスの手を握り、急に涙を流し始めた。
「えっ!?ちょちょ、ちょっとどうされたんですか!?」
「ラクスよ、ワシは、お前を待っていたのだ……」
話しが急展開過ぎて意味が分からなかったが、よくよく話を聞くと、王妃である第一夫人が1年前から病に倒れ、全く動けなくなってしまったそうだ。倒れた当時は喋ることもできたが、緩やかにしかし確実に衰弱し始め、ついに数日前からは食事も摂れず、昨日から意識も戻らなくなってしまった。倒れたその日から国中より名医と呼ばれる者を呼び寄せても解決の糸口すら見つからない。
「妻と婚姻する際に約束したのだ。どんなことからも守ってみせる、と。ワシの力が足りないばかりに……このような……お前の存在を聞いたときにもしやと思ったのだ。戦ってみて確信に変わった」
(あぁそれでいきなり戦いにってことか。異世界の知識で助けられないか、と。そういう事か)
「陛下、私は転生者ですが医者ではありません。王妃様を診ても救える手だてがあるか分かりませんが……」
「それは分かっておる。分かっておるのだ。しかし諦めきれん。息子も妻の無事を願って、わずかな余暇を全て犠牲にし救う方法を探しているが、一向に見つからん」
「分かりました陛下。一度診てみましょう」
「そうか、見てくれるか。頼む」
国王はすぐに部屋へ案内してくれた。この日は別の用もあったみたいだが、全てキャンセルしたみたいだ。
王妃様が眠る部屋へ入る。部屋は人払いされていた。
「ラクス、妻だ。診てほしい」
「はい」
ただただ眠っているだけのように見える。脈を計るが普通だ。熱もない。王妃様の体に何が起こっているのだろうか……ラクスはそっと目を閉じ、魔力を集中する。
カッ!と目を見開くと、王妃の魔力管が見えた。
「ん?なんだ?胸の魔力根源に何か……」
「どうした!?何か分かったのか!?」
「いえ、見たこともない……これは何だ?魔力根源から魔力を吸い取り続けている……のか?」
「何か見えるのか?」
どういうものか分からない。体内に何か魔力を吸っている元凶がある。しかし見たことも聞いたこともない物だ。分からない。
(ん?陛下も竜王化すれば魔力管を見れないのか?説明が手間だぞ)
「陛下は竜王化の際、目に魔力は込めたことがありませんか?」
「なんだ?今必要な話か?目に魔力は込めんな。体内でグルグルと魔力を回しておる」
「あ、なるほど。私が今見ているのが陛下と同じ状態で目に魔力を込めることで見えるようになる世界でして、陛下が見ることが出来れば、説明する必要がないと思いましたので……すいません」
「……なるほど……う…む……いや、良い。で、どうだ?」
「王妃様の魔力根源……人には胸に魔力を放出する箇所がございますが、そこに見たこともない物が入り込んいるように見えます。丸い…物体から細長い管のようなものが王妃様の魔力根源に刺さっている?虫のような……」
「何だと!?……ハッ!もしかして!!!」
というと国王は走って部屋を出て行った。
ラクスは更に目に魔力を込めて観察する。丸い物体は生物のようだ。奇妙な生物だ。内臓がない。寄生虫のようなものだろうか。王妃様の魔力根源を下に一体化して生きているかのようだ。
ドタバタと国王が本を片手に帰ってきた。
「ラクス!その丸い物体というのはこれのことじゃないか!?」
国王が見せる本を見ると、まさにそのものだった。手や足などに取りつき吸血するタイプの昆虫生物で、細長い口器で皮膚を突き刺す。でも……
「陛下、基本の姿形はこれそのものです。ただ色も大きさも形状も若干違います。虫というより魔物のような……」
「魔物だと?」
「吸血するなら虫だと思いますが、魔力を吸っていると思われるので魔物なのではないかと」
「どうすれば良いのだ……原因が分かったところで処置の施しようがなければ意味がない」
「いえ、これは多分大丈夫だと思います。100%安全だとは言えませんが……」
「なにっ!?それは本当なのか!?なんだ?どうやって治療するッ!?」
国王のあまりの圧にラクスはのけぞって「ちょ、ちょっと……」と押し返す。
「あぁ、すまん。つい」
「いいえ大丈夫です、それで治療についてです。この魔力を吸う魔物の体の構造を見ましたが、自力では生き続けられないのでは、と思います。現状王妃様と完全に一体になって生きている状態です。であれば、栄養源である王妃様とのつながりを切ってしまえば良いと考えます」
(魔物自体を破壊することもありだが、魔物の内容物が人体にどう影響するか分からん。供給を絶って本体を枯らした方が安全だ)
「しかし、そのようなことは不可能だ」
「いいえ、可能です。体内に超極小の刃物を魔法で作りだし、魔物の管を破壊します」
「刃物だとッ!?ならん!そのようなことは許さんぞ!!」
ラクスは人差し指を上にあげ、国王へ向けた。
「何だ?何をしている?」
「陛下、私の指の先をよくご覧ください」
「なんだ?……何もない…ぞ?…何も………何だこれは!?これが刃物なのか!?」
「そうです。この1mmにも満たない刃物を体内に作り出し、王妃様を傷つけず魔物を倒します。王妃様を助けるにはこれしかないと思います。もし傷ついても回復魔法で傷は塞がります」
ラクスは自分の髪の毛を1本抜くと、説明をしながら魔円斬(超極小)でその髪の毛を切り刻んだ。
「……そんなことは無……」
国王は「少し時間をくれ」と言い、部屋から出て行った。
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