第50話「貧乏くじ」
私は最近疲れているのかもしれない。目の前の少年が500もの魔物を倒し、空を飛んでここまで来たと言う。そんなことがある訳がない。人間のなせる業ではない。
「すまん。もう一度聞くが、空を飛んでここまできたのだな?」
「はい」
「……そうか。我々が出立した日に君もここへ向かったのか?」
「そうです。領都の学校長に呼び出されて話しを聞き、すぐに向かいました」
「ここまでどれくらいかかったんだ?」
「1時間くらいじゃないでしょうか……すいません、はっきりした時間は分かりません」
「調査ではその日のうちに到着したようになっていたが、間違いではなかったんだな」
(いや、ありえない。かなり急いでここまで3日間もかかったんだぞ。空を飛ぶと言ってもそんな流れ星のような速さで……え?あれ?あれって……まさかあれが?)
「飛んでいた時に我が部隊を見つけたか?」
「はい、騎馬隊が200、歩兵が800ほどの隊でした。これでは間に合わないと思い、先に進みました。申し訳ございません」
「いや。良い。出立してしばらくした時に空に一筋の光を見た。もしかしてあれは………」
「あぁ……はい、おそらく私だと思います」
「…………」
コールには容易に受け入れ難い話しだった。今まで学んできたことを全てひっくり返されるような気分だった。しかし話をすればするほど、この信じられない事柄の辻褄が合ってしまう。
「ひ、人は空を飛べるのか?」
「複合的に無詠唱魔法を使える者、更に身体強化を同時に使える者でないと難しいと思います」
「そんなことができる人間などおらん!!」
「ここにおります」
「まさか……そんなことが……いや、すまん。声を荒げてしまった」
「いえ」
(もう考えててもだめだ。事実として飲み込もう)
「それでここへ到着したと。で、ハロルドタウンに着いて魔物を倒したのか?」
「いえ、ほぼ倒されていました。魔法改革が行われ、町の討伐隊が頑張ってくれた結果だと思います」
(そう、そうだ。ハロルドタウンの町民の実力が高すぎる。討伐隊と言っても100名にも満たない。それで500もの魔物を倒している。だがこれも町長の話しや討伐隊、門兵の話しから事実と考えて良い)
事前に町長や討伐隊、門兵はリリーの件について口裏合わせをしていた。リリーがあまりにも強大な魔法を使えることが分かってしまうと、ラクスに続きリリーまでも領都に召喚されるかもしれない。まだ小さな女の子で、親の愛情が必要な時期だ。全員一致で討伐隊が魔物を倒したことにしていた。また、それが出来る実力もあった。被害は出るだろうが、数年前に比べて皆実力が大幅に上がっている。ぐるりと囲まれた壁を利用して上手く立ち回れれば可能と思われた。
「それで南の村から立ち上った煙を見て、そちらへ向かったと?」
「そうです。飛んで行きたかったんですが、ここまでの移動で魔力消費が激しく、村に着いて魔力枯渇なんてことにはなりたくなかったので」
(冷静だ。話し方に関してもそうだが、この年齢でここまで冷静に考えられるものなのか?)
「村で魔物と戦い始めたところから思い出せ」
「……はい」
「村に魔物はどれくらいいた?」
「500程度かと」
「500もの魔物とどうやって戦った?お前1人だったのだろう?」
ラクスは目の前に手のひらを上に向け小声で「魔円斬」とつぶやく。ヴゥン……と回転する直径20cmほどの円盤が出来上がる。キョロキョロ周りを見渡して、木製の食器を持ち出し、チュインと切った。
(後で作り直しておかないと……)
「こ、これは魔法か?詠唱していないが……これが無詠唱魔法というものか……」
「これを10個ほど作って、魔物にぶつけていきました。350~400倒せたんじゃないかと思います」
「じゅ、10個!?400!?」
「本来なら50個でも100個でも出せるんですが、魔力が尽きかけていましたので10個しか」
「……な……」
(驚きすぎて語彙力がなくなってきた)
コール少佐が話さなくなったので、ラクスが続ける。
「それでそれ以降は更に魔力が厳しくなってきましたので、魔物の爪を折って剣にして、それを魔力で強化して戦いました。最後3匹までは覚えているんですが、それ以降は魔力が尽きたのと出血で、不甲斐ないですが気絶してしまいました。それで…」
「ちょちょ、ちょっと待て待て。魔物の爪を折って剣にした?」
「はい、武器が何もなかったので。倒した魔物の爪がとても長く、剣にしたらどうかと……」
「それを魔力で強化した?」
「ええ、爪がいくら強くても使っていたら折れたり切れなくなってしまいますので、その場の思い付きですが、魔力を爪に込めたら強度が強く切れ味が鋭くなったので」
「思いつき?え?思いつき?魔法って思い付きで出来るものなのか?」
「イメージがあれば出来ます」
(分からん。さっぱり分からん。何を言っているんだ?こいつは)
「魔力が尽きて気絶し、気が付いたら討伐隊が助けに来てくれました。当日の話しは以上です」
「以上と言われても……」
(これでは報告書が書けない。いや書いてもバカにするなと突き返されるだけだ。どうしろってんだ。やぱっぱり貧乏くじじゃないか)
コール少佐は、町や村の状況を最初に確認できた時、守れなかった悔しさが当然あったが、編成された兵に全く被害なく事が終息したことに安堵していた。(誰だ?貧乏くじなんて言ったのは)なんてことも考えていた。だが実際は上に報告が出来ない状況が地獄だと思った。
「この件につきまして、どちらにしても私自身で領主様、教育長様、学校長への報告を行わないといけません。正直なところまだ体が完全に回復できていないため、あと数日はここにいますが、後で必ず追いつきます。先に領都へお帰り下さい」
「え?そうなのか?……あ!やはり教育長の相談役というのはラクスだったのか?」
「そうです。バルクロイド領の教育改革を行うべく、教育長相談役に着任しております」
(貧乏くじではない!)




