第45話「襲来」
空を高速移動中、部隊を見つけた。騎馬兵が200ほど。あとは歩兵だ。
(スピード重視で騎馬兵だけでも先に進めよ!遅すぎだ!俺だけでも先行するっ!)
どうしようもない怒りで勝手なことを考えながら、スピードを増していった。
飛びながらラクスは考えていた。転生記に記された迷宮から魔物が大量に出てきたと書いてあった。もしかしたら似たことが起こったのかもしれない。
(迷宮……迷宮の場所はどこだ?しまった、先に確認して出てくれば良かった)
迷宮自体はとても珍しいものではなく、大小あるがバルクロイド領内には4箇所あるらしい。確か北と西が大規模な迷宮で、多くの冒険者が一攫千金を目指し探索すると聞いた。迷宮内が広く、探索のし易さが人気の原因だ。
南には小さな迷宮があるらしい。こちらは「小さい」と言われているが、最下層まで到達した冒険者がいないので、本当に小さいのか分からない。全体的に狭く、魔物も強いためあまり人気ではない。あと一箇所はどこにあるか知らない。
ハロルドタウンから領都へ移動中に聞いたことだが、実は辺境伯様が南の町や村を回っていたのは、以前より魔物の活性を確認していたためでもある。特に北と西側での活性を確認しており、その際は精鋭メンバーでの迷宮調査が実施され、危険と見られていた階層までを攻略し、軽視はできないがおおむね問題なしと判断されていた。
南側でも同様だったようだ。
「全然問題ありじゃないか……そうか!あの場所の近くに迷宮があるのか!やばい!ハロルドの近くじゃないか」
初めて空を飛んだ日、辺境伯様一行が滞在していた場所があった。あれが迷宮の調査であればハロルドタウンが近い。
「くそっ!」
一刻の猶予もない。このままだと町まで数時間はかかりそうだ。ラクスは今までやったことのなかった、超高速移動をすることに決めた。
「魔王拳3倍!!!ぐおっ!くぅぅううおおおおお!!!!」
恐ろしいほどのスピードに自分自身も吹き飛んでしまいそうになりながら前へ進んでいく。あまりの速さに目が追い付かない。目も更に集中する。すると自然と視界が広がってきた。
(なんだこれは……さっきまで数百メートルまでの視界だったのに、10数キロ先まで良く見える。ズームアイの進化?これだったら大丈夫だ、いける!)
南の地へ赴く兵士たちは、その日上空から「ドンっ!!!」という音と、流れ星のような一筋の光をほぼ全員が確認し、何かの前触れではないかと部隊全体を不安が包み込んだ。
数十分飛び続けた頃、ハロルドタウンが見えてきた。その様子に特に変化はないように見える。
(ん?大丈夫なのか?……いや、南東側に魔物と戦っている人達がいるな!……おぉ?強い魔力が見える。人側が優位そうだ。魔王拳を解除……あの先の森へ一旦降りて挟み撃ちだ)
ラクスは森へ着地した。魔力の消費が激しい。息を切らしながら大急ぎで走って町へ戻る。森を抜けると魔物の死体が大量にあった。
(おぉ……だれがこんなに……)
町に近づくと、戦いの音が生々しく聞こえてるかと思いきや、拍子抜けするような声が聞こえてきた。
「ほい!ほりゃ!これでもくらえー!」
(え?リリーの声?)
目を凝らすと、討伐隊が複数魔物と対峙している。その中に父さんの背中におんぶされながら、次々と魔法を繰り出すリリーの姿があった。
「父さん!リリー!!」
「ラクス!お前なんでそっち側から?」
「お兄ちゃーーーーん!!!おーーーい!お兄ちゃーーーん!……邪魔!どいて!!!」
ズバババババン!!!!!
魔物の体内に水を送り込んでいるようで、魔物が一瞬膨らんで次々と内側から爆発していく。その場にいる全員がドン引きだ。もちろんラクスもドン引きしていた。
(おいおい、躊躇なくほぼ一斉に倒したぞ。えげつない魔法使うね、リリーは(●´ω`●))
まだ数匹いるようだが、身体強化組と魔法組がきっちり連携をとり倒していたので大丈夫そうだ。
「おにーーーーーちゃーーーーーん!!!!」
猛烈な勢いでリリーが突っ込んできた。あまりの勢いに「ウグッ!」と声が出てしまう。
「ラクス!お前奥の方から来なかったか?……お前、まさか魔物になったんじゃ……」
「そんな訳ないでしょ!」
(この人はホントになんという天然だろうか。真面目にそんなこと聞いてくんな)
アホな質問をしてきたが、ラクスが魔物ではないことを確認すると、すぐに別の討伐隊のところへかけていく。
「お兄ちゃん、いつ帰ってきたの?もう学校行かなくていいの?うん、もう学校行かなくて良いよ、一緒に家に帰ろう?」
「リリー、領内で魔物の襲撃が起こっているって聞いて、急いで帰ってきたんだ。ハロルドタウンが襲われていないか心配になってね。そしたらみんなやっつけちゃっててビックリしたよ」
「へへーん、リリーは強いんだ!いろいろ考えて魔法使えるようになったんだよ!」
「そうみたいだな、リリーが強くて助かったよ。本当に良かった」
「お兄ちゃんみたいに強くなるんだ!そしてリリーもガッコに行くんだ!」
そんな話しをしていると、周りの魔物も全て殲滅できたようだった。
父さんが来た。
「ラクス、なんだお前何しに来たんだ?」
「領内で魔物が大量に出現したって聞いて、急いで帰ってきたんだよ」
「それにしてもお前、早すぎないか?魔物が出たの昨日の夜だぞ?」
「……あぁ、領の北側では数日前に出現したらしくて、もしかしたら南側もって思ってね。それにしてもリリーも魔物倒しに来てるって、よく母さんが許したね」
「……許されてないんだ。勝手についてきたんだ……どうしようラクス。俺殺されるかもしれない」
父さんが泣きそうになってる。
「だ、大丈夫だよ父さん。俺も一緒に行くよ」
「そうか……そうか!ラクス。ありがとう、ありがとう」
魔物と対峙していた父さんが、魔物以上に母さんを怖がっている。精神的に大丈夫だろうか……泣いて喜んでいる。大量の魔物の死体を焼いて土に埋め、足取り重く町へ歩き出した。
「えっ?あれ!あれなんだ!?」
「ん?」ラクスは討伐隊の1人が指さす方向を見た。更に南に村があるのを知っていたが、そちらから煙が上がっている。
(何っ!?あっちも襲われていたのか!?)
「クソっ」
ラクスは踵を返し、村の方向へ走っていく。猛烈な速さだった。誰も追いつけない。リリーも追おうとしたがすぐに見えなくなった。
「あぁ……おにーーーーーちゃーーーーーん!!!」
リリーはぐすぐす泣き始めた。
「あぁ……ラクス。一緒に帰ってくれるんじゃなかったのか……」
リオンもまた泣きそうになっていた。