第36話「興味」
バルクロイド領都までの移動中、食事休憩や野営で何度か休憩があったが、初日の野営時に辺境伯様からの呼び出しがあった。
「馬車は初めてか?」
「いえ、通過儀礼の時に隣町まで馬車でした」
「そうか。距離があると馬車は腰を痛めるからな、休憩時には外に出て体を動かしておけ」
「はい」
辺境伯様は優しい。たぶん貴族の中ではかなり珍しい方なんじゃないかと思う。勝手な自分の中の貴族イメージでは傲慢で高圧的で私利私欲の塊のような人間ばかりが蠢き合う世界なはずだ。だから辺境伯様の俺への態度がちょっと気になっていたが、こう言うお方なのだろうと、これまた勝手に解釈していた。
「それでだ。あの時私もお前と同じ能力が使えると言ったな」
「努力次第です」
「言ったんだ。おそらく私はお前ほど魔力は多くないし、コントロールも出来ないだろう。ではどうやってあの能力を使えるようになる?」
「魔力は確かにある一定以上ないと、すぐに枯渇してしまいます。ただ閣下はそこそこの魔力量です」
「そこそこか。他人と比べたら結構ある方だと言われていたがな」
「そこそこです。魔力コントロール次第でこの技は使えるようになります。ただ非常に難しいことをご承知下さい」
「何をすれば良い?」
「体の中で魔力を転がす練習をして下さい」
「転がす?」
「イメージの話です。魔力を一つの塊にして体内で動かして下さい。それから今更かもしれませんが、魔力成長法を試します。お休みになられる前に、全ての魔力を使い切って寝て下さい」
「何かあった場合に対応できん」
「何かあったら私が対応します」
「生意気言いやがる」
魔王拳は単純に魔力を全身から出している訳ではない。全身から魔力を出しつつ、自分が動きたい方向や力を入れたい箇所へ、魔力を瞬時に移動しているのだ。コントロールが難しいが、辺境伯様ならできるような気がした。魔力の流れが何故かそう思わせた。
「この年になっても身体強化の勉強か。世の中知らないことばかりだな」とか何だかんだ言いながらもずっと練習をやってくれていた。魔王拳以外にも、魔力感知や地獄耳など、いくつか教えた。
辺境伯は万能型とは言え、どちらかと言うと頭型だ。鍛えて教えた技を物にすれば戦場の把握能力が他を圧倒するだろう。指揮官としてお似合いの良い能力だと思う。
側近の1人、ガロも辺境伯同様、教えを乞うてきた。彼も魔法型ではなく身体強化型で、足と目の魔力管が太かった。
「ガロさんは身体強化魔法は使われてるんですか?」と聞くと、「あぁ…」と言うので使ってもらったが、これは身体強化ではあるが、全身へ無駄な魔力が流れており、自分に合った部位強化が出来ていない。足の魔力管が他より太いため、多めに魔力が出て速く動けてはいるが、無駄遣いを無くせば足に魔力を留めてもっと速く動けるはずだ。
(この目の身体強化はすごいな、何でも見抜ける。ただこれも副作用がキツい。長時間使用すると回復するのに使用時間と同じくらいの時間がかかる)
目の身体強化は数段階あるが、上位のものは多用しすぎないように気をつけている。反動がどうなるか分からない。最悪失明したら元も子もない。
5日間移動したその日の昼前、遠くに大きな町が見えてきた。兵士から「領都まであと2日ほどだ」と言われた。「結構近くに見えるけど何で?」と言う顔をしていると、兵士は目の前の森の方を見ていた。
「この森を突き抜けれれば今日にでも着くんだが……ここには強い魔物が住み着いていてな。迂回が必要だ」
「どんな魔物なんですか?」
「竜種だ、地竜、亜種だが」
「竜…いるんだ……」
「10年ほど前から住み着いてるようで、森から外には出ないが、森に入る人間を襲うようになった。戦争が続いたため領軍は出兵できず、冒険者ギルドへ依頼をしているが、何人も死亡して、今じゃ誰も寄り付かなくなった」
「なるほど」
ラクスは森を見つめた。
(いるな、森の中央右側に大きな魔力の反応)
「地竜か、地竜は飛べないよな……」
つぶやいたのが聞こえたのか、兵士が反応する。
「当たり前だ、地竜は飛べない」
「討伐は無理かもしれませんが、昼休憩の時に見てきて良いですか?」
「何を聞いてたんだ?竜種だぞ。ダメに決まっているだろう」
「ちょっと辺境伯様に聞いてきます」
中央のテントに行くと、ガロがいたのでお目通りをお願いする。「少し待て」と言われて5分ほどすると帰ってきて「入れ」と言われた。
テントに入ると辺境伯様が
「何を考えている」
竜を見に行きたい事は既に知っていて「何を考えている」の後には「お前はアホなのか」と続きそうなほどの呆れ顔だった。
「ちょっと地竜に興味がありまして」
そう言うと、更に呆れ顔になった。




