第13話「反撃」
(あれが、ボアか?)
夕暮れの森先に見えたその姿は、以前村を襲った魔物の話で聞いたボアそのものだった。
(で、でかい……あんなのに突っ込まれたら死ぬんじゃ……柵を一撃で吹き飛ばす威力、当たったらヤバイ)
そんなことを考えていると、ダッ!!!
ボアが、こちらに向かって突進してくる。
(クソッ! マジか、ヤバイ、どうする!?)
とっさに「飛ぶしかない」と判断し、僕は出力を抑えずに手足から風魔法を放った。
──ブワッ!!
焦るあまり制御を誤り、左後方へクルクルと吹き飛ばされるように墜落。丘の斜面へ背中から激突し、ヒュー…ゲホッ、ゲホッと息を吐いた。
(何とか避けられた……けど痛い……)
ボアは(あれ?)という顔でキョロキョロと僕を探している。柵はすでに粉々、次の突撃までのわずかな間合いがあった。
(避けるだけじゃダメだ……こちらから攻撃しないと)
攻撃魔法なんてやったことがない。
考えがまとまらないまま、僕とボアの目が合った瞬間──
──ダッ!!
再びボアが突っ込んでくる。
(くッ!! これでどうだ、空気砲!!)
右手をぐっと突き出し、思い切り風の塊を発射した。
──ボンッ!!
その反動で、一瞬右腕がなくなったかと思うほど後ろへよろめく。しかし、空気砲は確かにボアへ直撃し、ゴロゴロと後方へ転がっていった。
(体も鍛えないと、反動に耐え切れないな……)
後ずさりしながらボアの様子を伺うと、鼻と口から血を垂らし、苦しそうに爪先を引きずっている。こちらをチラリと睨みつけるように見てきたが、身をひるがえしふらつきながら、やがて破壊した柵を越え、ガサガサと森の奥へ逃げていった。
「はぁはぁ……何とか追い返した。良かった。疲れた……」
飛行魔法の研究も進めたいが、攻撃魔法の練習もやらないと。いざというとき、自分で自分を守る力が必要だと痛感した。
(攻撃魔法はできそうだけど、回復魔法ってどうなんだ?体中痛いぞ)
そんなことを考えつつ僕は急いで丘を下り、家路へと足を運んだ。
「父さん!丘の先にある柵が壊されて魔物が村に入ってきた!」
僕の声に、父の背中が大きく振るえた。母は僕の体に怪我がないか心配そうに触ってきた。しばらくして森へ帰っていったことを伝えると、どんな魔物だったかを聞かれ説明した。やはりボアという名前の魔物だと分かった。
明日柵を直しに行くことを告げ、父は村長へ報告へ走っていった。妹のリリーがまた「にいにー、だいじょうぶ?」と言って背中をヨシヨシしてくれた。何となく痛みがとれた気がした。兄想いのかわいい妹だ。