第12話「風を探して」
一週間ほどの外出禁止だっただろうか。
外出禁止とはいえ、家の前の畑の手伝いだけは許されていた。
僕は毎朝、土魔法を駆使して土を柔らかくし、畝をつくる作業に取り組んだ。
父も土を柔らかくする魔法は使えたが、畝の成形までは魔法でできず、いつも鍬を手にかまえていた。
ある日、僕が初めて無詠唱で魔力を集中させ、くっきりとした畝溝を描いた瞬間──
父は顎が外れそうなくらい口を開けて驚いていた。
「魔法は想像だよ」
と言っても、父には理解できないらしく、
「教えられるものなら教えてくれ」
と困った顔をされるだけだった。以来、畝をつくるのは僕の仕事となり、父は鍬での仕上げだけを担った。
その間、父の仕事は森へ向かう機会が増えた。
薪を切り出し、魔物を討ち、家の食卓は日に日に豊かになっていく。
ある朝、僕は素直な気持ちを口にしてみた。
「僕も森へ行って、父さんと一緒に狩りをしてみたい」
だが母の反対は強烈だった。
「まだ小さいのよ、ラクス! 危ないから絶対にダメ!」
僕は深いため息をつくしかなかった。
外出禁止令がようやく解け、自由を取り戻した僕は、早速計画の続きを実行に移した。夕暮れの空気を胸いっぱいに吸い込み、小高い丘へ向かう。村人の目につかないこの場所は、僕の秘密基地だ。
(イメージはあれだ。映画の全身鉄のヒーローみたいに、手足からも風を出せば飛べるはず!)
背中の風に加え、今回は手と足からも魔力を放出してみる。
何度も練習を繰り返し、手首の角度、足のつま先、身体の重みを意識しながら微量の風を放つ。ある日、ついに変化が訪れた。背中だけでなく、手と足の指先にもわずかな浮揚感が宿った。
手足が小刻みにプルプル震えながら、僕は思わず声を飲み込み、瞳を潤ませた。
(浮いた……30センチだけど、本当に浮いた!)
それは地面と指先のわずかな隙間を感じ取る、小さな奇跡だった。しかしこれ以上出力を上げれば、バランスを崩してまた怪我をする。外出禁止令の再発は絶対に避けたい。
「浮けるけど、飛べない……いやいや、きっと別の方法があるはずだ」
そう自分に言い聞かせ、日々の実験は続いた。だが一月が過ぎても、成果は一向に進展しなかった。
ある日の夕暮れ、丘へ足を運んで魔力を調整していると、柵の向こうの森から気配を感じた。
(誰かいるのかな?)
目を凝らすと、そこにいたのはイノシシのような生き物だった。しかし普通のイノシシよりはるかに大きい。体高は二メートル以上、頭部には短い角のような突起、体はごつごつとした鎧のような皮膚に覆われている。
夕陽に照らされ、その影はますます巨大にのしかかって見えた。
(まずい……!!)
「待て待て……落ち着け、落ち着け……! 柵があるんだ、だいじょ……」
──ズドン!!
イノシシみたいな魔物の一撃が柵を吹き飛ばした。丘の上一面に柵の破片が飛び散り、小鳥の群れが一斉に飛び立つ。魔物の重い息遣いが低い唸り声となって、僕の胸に響いた。