第11話「計画」
僕は、計画を立てていた。六歳になり、村の中なら自由に遊んでよいと許されていた今こそ、あの実験を行うときだ。
村の端にある小高い丘は、家々の死角になっていてうってつけだった。誰かに空を飛ぶ姿を見られれば、村中が騒ぎ立てるだろう。ここなら大丈夫――そう信じて、僕は朝もやの残る丘へと足を運んだ。
(背中から風魔法を出せば、ピューッと飛べるんじゃないか)
魔力管の中でも比較的コントロールしやすい背中から、微量の風魔法を放出してみる。
──変化なし。飛べない。
次第に出力を上げていく。ほんの少しでも僕の足が地面を離せば、雲の間を駆けられると思った。
「……お、……おお……」
身体が徐々に軽くなる。ほんの数センチ、宙に浮いたような感覚が手に届きそうだ。
(もう少し出力を上げれば……)
「おっ!」
勢いよく前のめりに飛び出した瞬間、重力に引き戻される。
クルッ ゴチン!!
頭を盛大に強打し、僕は丘の斜面にうずくまった。
「ぐおおお……痛いぃぃぃぃ……!」
大粒の涙が頬を伝い、しばらくもだえ苦しんだ。
(こんなに前のめりにこけるなんて……)
物理法則を魔法の力でねじ伏せられると思ったのに、完全に読み違えていた。その後も、魔力出力を少しずつ調整しながら繰り返し挑戦するが、ある一定の強さを超えると制御が効かず、転倒と頭の痛みに輪をかけるだけだった。
気づけば額や頬に大きなたんこぶをいくつもこしらえ、靴もずたずたになっている。夕暮れが丘を赤く染め始めたころ、僕は足を引きずって家へ帰った。
母が台所から飛び出してきて、顔を見るなり叫んだ。
「ラクス、どこで何をしたの!」
僕は俯いて、大きなたんこぶを見せながら答えた。
「お父さんみたいに強くなりたくて、特訓してたら転んだ」
母はしばらく言葉を失い、僕を抱きしめながら涙ぐんだ。
「もうそんな特訓はダメ。しばらく外出禁止!」
その声の隣で、リリーが僕のたんこぶをさすりながら言った。
「にいに、いたいの よくなれ~」
何度も繰り返すその手のぬくもりに、不思議と痛みが和らいだ気がした。
「ありがとう、リリーはいい子だね」
そう言うと、リリーは満面の笑みで「うん!」と元気に返事をしてくれた。
――たんこぶより外出禁止令が、何よりも痛かった。
(くっそー、しばらく実験できない……)
庭先の風景も、丘の向こうの空も、当分は見られない。
でも、いつか必ず成功させると心に決めていた。
(次は足と手からも風を出してみよう)
夜、布団にくるまりながら、僕は新たな飛行計画を練り続けた。