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異世界恋愛+α(短編)

今の言葉は取り消せない

作者: いのりん

このタイトルってそんなに面白いイメージあるー?

それどこ情報?どこ情報よー? 

(  ´з`  )←各パーツが中央に寄った王子の顔

 やあ諸君、昨日何時間寝た?


 えーそんなに寝たのー?


 俺は昨日、二時間しか寝てないわー

 かー、つれーわ

 二時間しか寝てないからつれーわー


 そんな俺の名はヘル・ノミサワー。

 ノミサワー王国の第一王子(19歳)だ。


 そして、男爵令嬢ながらその美貌で王妃となった母上譲りの、美しい金髪と、陶器のような肌と、形のいい眉と、高い鼻を持つ男だ。


 だから、宰相の娘という婚約者がいるのに、美しい男爵令嬢からも熱烈なアプローチを受けている。


 かー、つれーわー

 イケメンでモテる男はつれーわー


 そんな俺は、今日、建国200周年記念パーティに参加している。

 そしてもうすぐ、次世代の王として、参列した貴族たちや他国からの国賓の前で婚約者と挨拶をするべくパーティ会場の扉の前でスタンバイ中だ。


 そこであるナイスな計画を立てているのだが……

 あっと……今この話はやめとくか。



「ヘル様、お待たせして申し訳ありません」

「おいおいおい、20秒も待たせるとはこいつめ~」


 寝坊したから「ふと立ち止まって空を見上げちゃったんで遅れます」って連絡させて大遅刻した俺よりも、20秒も遅れてくるって何様~。

 ……今、あえて怒らなかったんだけど、気づいた奴いる?


 ほらほら、お前の遅刻に大扉を開ける係の人も凄い顔してるよ?


「エスコートは無しだ」

「えっ?」


 大広間の扉が開いてすぐ、胸を張って堂々と赤いカーペットの上を速足で歩く俺に、だいぶ遅れて婚約者がついてくる。先にスピーチをする壇上に上がった俺は、婚約者にその場で止まるように言った。そして一段高いところから一人で宣言する。


「俺、ヘル・ノミサワー王子は、宰相令嬢フォーゼ・メタモルとの婚約を破棄する」


 会場がざわつく。

 フォーゼの奴も信じられないという顔をしている。


 そもそもお前は顔面偏差値が相当低いのだ。

 宰相夫婦は国きっての美男美女だから期待していたのに、13歳の時の初顔合わせで失望した俺の気持ちがわかるか。

 そして貴様には、俺の様に美しく着飾るセンスもない。

 今日の装いも地味地味だ。


 だから、かねてから父上に「婚約破棄したい」と言っていたのに「絶対だめ」と言われていた。

 そこで賢い俺は考えたわけだ、公の場で宣言すれば、父上でも今の言葉は取り消せないだろうと。

 さす俺、賢い。


 どうだ!とフォーゼの奴を見ると茫然としている。

 ふん、マヌケ顔め、王子の婚約者という地位に胡坐をかいて油断したツケだ。

 そしてここから更にサプライズだ。


「そして俺は男爵令嬢のシーフ・キャットと結婚する。実はもう彼女とは『夫婦の契り』を済ませているのだ。シーフ、壇上においで!」


 俺の言葉にシーフが壇上にやってくる。身分は低めだが、美しい娘だ。のみならず今日の装いもとてもキラキラしていて素晴らしい。事前にシーフに聞いた話だと最近国内で流行している、隣国のブランド品で固めているらしい。


「さあ、みんな褒め称えて祝福してくれていいぞ」


 会場は静まり返っている。まあ、サプライズだったしな。

 きっと、5秒後にはドワーッとなるだろう。


「待たれよノミサワー王子!今のはあまりにメタモル嬢に失礼だ」


 なんだ、いいところで水をさすような無礼を言うこの男は。


「何だ貴様、言っとくが、今の言葉は取り消せないぞ」





 大変な事態になってしまいました。

 記念式典の場で第一王子に婚約破棄を言い渡されてしまったのです。


 のみならず、王子は別の令嬢と結婚すると宣言し、国賓であるオーナメント帝国の第三皇子であるデコ・オーナメント様と口論まで始めてしまいました。


 父からは、「国が傾かないよう殿下をうまくコントロールするように」と指示されていたのに、最悪の形で期待を裏切ることになってしまい、申し訳ない気持ちでいっぱいです。


 失礼、申し遅れました。

 わたくしの名前はフォーゼ・メタモル。

 ノミサワー王国の宰相の娘です。


 わたくしは心から国と民の安寧を願う素晴らしいお父様に育てられ、そんな父の志に共感し本日まで努力してきました。


 しかし今回の件で間違いなく国は荒れることになってしまうでしょう。

 きっと国王様も、今回のヘル様の立ち回りは想定外だったのでしょうね。頭を抱えています。貴賓の集まった場でわたくしに婚約破棄宣言をしたという事実と、結婚成立前にシーフ様と『夫婦の契り』を済ませたという言葉は、それだけの破壊力を持っているのです。


 公の場で貴賓たちの前で宣言した言葉は、どうあっても取り消せません。

 こうなった以上、ヘル様の今後は暗いものになるでしょう。


 まあ、それは正直どうでもいいのですが、国と民がうけるダメージは最小限に抑えなくてはいけません。

 そのためにわたくしは、この後どう立ち回るべきでしょうか。


 その判断材料を得るために、ヘル様とデコ様の口論に耳を傾けます。


 内容としては、ヘル様が私の容姿や日々の立ち振る舞いを徹底的にくさすようなことを言って、それに対してデコ様が私の所作や、声の美しさや、立ち振る舞いはヘル様の失態をさりげなくフォローするものだったことを伝えて、論破していくものでした。


 え、デコ様、そんなところまで見て下さっていたんですか!?

 今までお会いしたのって、各式典を合わせて3回だけですよ。


 なのに、今まで表に出せなかったあんな苦労やこんな配慮までしっかり見ていて下さっています。

 う、嬉しい!ねぎらって頂けて、わたくし、すごく嬉しいです。


 現在のわたくしは容姿がとても悪く、しかもヘル様の普段の態度が他の殿方にも伝播しているため、国内の社交界では同世代から女性として尊重されてきませんでした。


 そんなわたくしが、各国の令嬢から大人気の見目麗しいデコ皇子からこんなに褒められるなんて……うっかり好きになってしまいそうです。というか、もうなっています。

 だって、わたくしが日々相手にしているのって、顔のパーツが極端に中央に寄っていて、言動が正直うざいと感じてしまうヘル王子なんですもの。それと比較すると、デコ王子は100倍カッコイイうえに、性格は1000倍いいんですもの。

 いや、いけませんよフォーゼ、あなたは宰相の娘、自分の気持ちより国益を優先した立ち振る舞いをしなくては。


「す、好きな相手と結婚することの何が悪い。そんなにフォーゼを庇うなら、お前が貰ってやったらどうだ。俺は一向にかまわんぞ」


 論破されたヘル様がそんなことを言います。

 すると、少し考えるそぶりをした後、デコ様は一瞬お父様のほうに視線をやり、それからわたくしの前まで進んできました。さらに片膝をつき、手を取られました。


 え、もしかしてこれは……


「フォーゼ・メタモル様、私、デコ・オーナメントはこの場で貴女に求婚させていただきます!2年前、別の式典でお会いした時からあなたに惹かれていました。今はもっと好きです。もちろん私からお願いする立場なので、メタモル家へ婿入りする形で構いません!」





 その後、3ヵ月は怒涛の展開でした。


 まず、その場で求婚を快諾。

 半月後、両国間の話し合いが早急にまとまり、正式に結婚が成立。


 1ヵ月後、超大国であるオーナメント帝国の後ろ盾を得た父が、各諸侯を味方につけて蜂起し圧倒的な戦力差をもって無血開城に成功。ノミサワー王族からメタモル一族への王権交代が成立。


 1ヵ月半後、またまたやらかしたヘル元王子から爵位をはく奪、連座として妻のシーフや元国王夫妻ともども国外追放処分。


 2ヵ月後、政権が(いち)段落したタイミングで父からデコ様に国王を交代。

 その後1ヵ月は引継ぎやらなんやらで目の回るような忙しさ。


 それが昨日、やっと一段落して現在です。

 あまりの慌ただしさに、わたくし達は結婚したというのに、今まで夫婦水入らずでゆっくりと過ごす時間が全然取れませんでした。


 それで本日ようやく『夫婦の契り』を行う運びとなったわけです。

 いわゆる『初夜』というものですね。

 今日そういう行為をすることは、お互い承知し覚悟しています。しかしまあ……少々恥ずかしく緊張もします。


 もちろん、隙間の時間で少しずつ交流してはいました。

 その中で、彼が私の外見ではなく内面をよく見て下さっていること、そして誠実に愛して下さっていることが伝わっています。だからこそ、このタイミングで私はリビングでくつろぐデコ様に話しかけます。


「デコ様は、私の内面を見て好意を持ってくださいましたよね」

「ああ、そうだよ」

「もし、私の外見が変わっても態度を変えずにいてくれますか」

「もちろん、人は中身が大切だからね」


 その言葉に勇気をもらった私は、彼にある重大な秘密を告白します。

 それは、私は12歳の時に魔術師に「美醜逆転の呪い」をかけてもらって以来、人前で真の顔を見せてはいないということです。


 というのも、聖教会に対する敬虔な信徒の多いこの国では、未婚の状態での性交渉を行うことは禁忌とされています。

 それで「このまま美しく成長すると、きっとヘル王子がお前の成人まで我慢できないから」という理由で、お父様が容姿を変えるように依頼していたのです。


 デコ様を騙していたようで申し訳ないのですが、外見に流されないと言ってくれましたし。

 利権関係が大きいでしょうが、醜い姿の私に求婚までして下さったので、きっと容姿への関心は薄い方なのでしょう。

 加えて言えば、美しくなる方向の変化なので損はさせないはずですし……




「では、解呪します」


 ああ、でもデコ様は、解呪前の容姿でもやたら褒めてくださってました。

 ……まさか「実は美人よりも個性的な顔の女性のほうが好みなんだ」とか、そういうことはないですよね?




「どうです、なかなか可愛くなれたでしょう?旦那様」


 そう言って、6年ぶりに人前で呪いの指輪を外し、手を合わせて、小首をかしげて感想を伺います。


 正直、ちょっぴり期待しています。

 いままで陰で「顔面偏差値が低い」とさんざん言われてきたということは、裏を返せば元の顔はけっこう美人なはずです。

 自分のことをナルシストではないと思っていますが、時々一人の時に指輪を外して鏡を見る際には「なかなかいい感じ」と自賛できるくらいの顔立ちではありました。

 また、今のポーズも本を読んでこっそり練習していました。


「あ…感想だったね。うん、こう、普通にかわいいよ」


 なんということでしょう。

 デコ様は声色ひとつ変えませんでした。


「あ、ありがとうございます。いやすみません、おもった以上に恥ずかしいですねコレ……すみません、先に寝室にいってお待ちしています……」


 

 わたくしは頬も耳も真っ赤になりました。

 自分のうぬぼれが恥ずかしかったのです。


 外見ではなく中身を見て下さるデコ様だからわたくしは惚れたのですが、一方で、正直少しぐらいドキッとしてくれるのではないかという下心もありました。

 しかしわたくしの「割ときれいな顔立ちをしている方だろうし、いい意味で予想外だったと喜んでくれるのでは」という傲慢な考えは、たった今打ち砕かれたのです。




――パタン


 そうして寝室のドアを閉めると、わたくしはベッドの「Yes」枕に顔を突っ込み


「いやああぁぁぁぁぁぁ!」


 声を漏らさないように絶叫しました。

 は、恥ずっっ!恥ずかしすぎます!


 なにが「なかなか可愛くなれたでしょう、旦那様」ですか!?

 うぬぼれもいいところ!顔から火が出そうです!

 

 今の言葉は取り消せないんですよ、さっきのわたくしー!?




~時は少しさかのぼり~


 あいかわらず、とんでもない馬鹿王子だな。

 流石は「宰相一族の優秀さで保たれている国」だ。


 ノミサワー王国の式典がスケジュールどおりに進んでいないのを、フォーゼ嬢をはじめとした宰相の一族が機転を利かせてフォローしているのを眺めながら、私はそんな感想を抱く。


 私の名前はデコ・オーナメント、大国であるオーナメント帝国の第三皇子だ。


 見目麗しく、社交性のある皇子と評判だがそれに嬉しいと思うことはない。

 むしろ「なんとか役目を果たせてほっとしている」というのが正直な感想だ。


 そもそも王族というのは政略結婚が多く自由恋愛で相手が決まることは少ない。

 我が国のような歴史の長い大国では特に顕著で、国や一族のために各個人がいると幼少のころから教えられるほどだ。

 そして、立場によって求められる役割が明確に異なっている。


 本家筋、すなわち国政に関わる王や王妃候補は、能力や血筋で配偶者が決まりその子供は帝王学を叩き込まれる。そして暗殺されてはかなわないのでめったに人前には出ない。

 逆に、今回の式典のような社交の場に出るのは、私の様に、最悪死んでも構わない妾の子である。

 そして社交の場で好印象を持たれる容姿となるように、妾は外見重視で選ばれ、その子供は社交術を幼少のころから叩き込まれている。だからまあ、容姿が良くて社交界で人気があることなどは、求められた役割を何とか果たせているだけに過ぎないのだ。


 と、そんなこと悲しくなるようなことを考えていると、フォーゼ嬢が引っ込んだ。

 これはおそらく、遅刻した王子の準備が整ったんだろうな。


 フォーゼ嬢のことだから、今まで必死にフォローしていたのに文句ひとつ言わず、逆に「ヘル様、お待たせして申し訳ありません」とか言って馬鹿王子を立てるんだぞ。


 あの、顔のパーツが極端に中央に寄った、クソうざい王子に毎回根気強く付き合うフォーゼ嬢がいい娘過ぎて泣けてくる。社交術を必死に学んだ私から見ても、とんでもない神対応だ。うっかり好きになりそうだ。


 そもそも、この国の宰相一族は各国で尊敬されている。

 かの一族は国税は銅貨一枚無駄にしないと平民のような質素な暮らしをしながら、国民に寄り添っている。

 そして、そこで浮いた予算で孤児院を経営し、愛国心の強い優秀な人材を育て上げ、特に優秀な人物は養子として迎え入れたりもしているのだ。


 なかでも今代の宰相は外見、体力、知性、精神性と4拍子揃った極めて優秀な人物だ。

 それも、先代の宰相が、孤児院で100年に一人と言われた優秀な人材を妾の子供と結婚させて次世代宰相として教育した成果だ。

 本来ならお家騒動が起こってもおかしくないのだが、当初後を継ぐはずだった正妻の優秀な子供達も「そちらの方が国のためになるなら」とあっさり引き下がり宰相の補佐に回っている。本当に滅私奉公のすごい一族だと思う。


 逆に王家は代々ダメだ。特に今代の王が顔の好みを理由に男爵令嬢を正妃にしてから、もっとダメダメになった。王妃をはじめ王族が贅の限りを尽くし、そのツケを国民に払わせている。

 また、国を大切にする古き良き貴族たちと、王妃たちにしっぽを振りつつ不正する佞臣との対立も激しいと聞く。



 と、そんなことを思っていると大広間の扉が開いた。と思ったら、馬鹿王子が一人でさっさと壇上にのぼり、フォーゼ嬢への婚約破棄と、どこの馬の骨かもわからない男爵令嬢と「夫婦の契り」を結んだことを宣言しやがった!


「待たれよノミサワー王子!今のはあまりにメタモル嬢に失礼だ」

「何だ貴様、言っとくが、今の言葉は取り消せないぞ」

「その言葉、そっくりそのまま返す!」


 気が付いたら大声を出していた。


 フォーゼ嬢の困った顔をみて、とっさにそういう言動をしてしまったのだが……逆にこれは好機だぞと思考を切り替える。

 というのも、そもそも今回私が式典に参加した目的は、ノミサワー王族ではなく宰相一族との友誼を深めるためだったからだ。


 おそらく、宰相家は現在の政権を転覆させようとすればすぐにでもできる。ただ、まだ王家の力も強いので、その争いで国民が被害を受けないように王家に従ってうまく舵とりをしているのだろう。


 逆に言えば、王家を討った方が国民の利益になると思えば……断言するが宰相一族は間違いなくそうする。

 そしておそらくそのXデーは数年以内に来るだろうというのが我が国の宰相の見立てだった。


 過去にも、「宰相一族が国を治めた方がよき友好国となってWin-Winの関係になるよな」という話になり、後ろ盾となるように我が国の王家が宰相一族と縁談を組もうとしたことがあった。

 もっともノミサワー国王が、「それはまずい」と危険を察知し、馬鹿王子のヘルとフォーゼ嬢の縁談を早々に決めてしまったので、お蔵入りとなったのだが。


 もしそうなっていたら、おそらく私とフォーゼ嬢が結婚することになっていただろう。彼女は4つ年下だが、非常にしっかりしており尊敬できる女性だ。きっと、よき夫婦となれていたと思う。


「見てみろ、オシャレな俺と地味なフォーゼの装いの差を!全然釣り合いがとれていないだろうが」

「国民の反感を買わないように、フォーマルさを損なわない中であえて簡素に見える装いにしているのにお気づきでないのか。そしてその中で、古くからノミサワー国に尽くしてきた6大諸侯の治める地域の、名産品や家紋や家色を意匠にした品をバランスよく身に着ける素晴らしいセンスと配慮を感じるぞ。近年の国難を、力を合わせて乗り越えようという趣旨も感じる」


 最近、隣国から輸入されてくる派手なドレスや装飾品が猛威を振るっていて、貿易赤字でノミサワー国は大変らしいからな。

 そのきっかけも王族が湯水のように贅沢するからだ。


「な、なんだ、よくわからんことを言いやがって!みろ、シーフのドレスを、キラキラして素敵だろうが!」

「それ貿易赤字の原因になっている奴ー!!!」


 思わず敬語も忘れて突っ込んでしまった。

 せっかくフォーゼ嬢がすべて国内の品で身を固め「自国の製品に愛着を持ち貿易赤字を減らしましょう」とメッセージを送っているのに、真逆の事をしているのだもの。


「そもそも容姿から好きじゃないんだ。なにか褒めるところあるか」

「声の美しさに所作の美しさ、細やかな配慮にマナーの素晴らしさ、少し話せばすぐわかる教養の深さと、色々あるでしょうが」


 これも本音だ。声は鈴の様に美しいし、配慮には性格と育ちの良さ、所作やマナーには厳しい鍛錬の後を感じてとても好感が持てる。


「さっきだってフォーゼの奴は俺より20秒も遅刻したんだぞ、ドアマンも顔をしかめていたんだ、まったくけしからん」

「彼女はその3時間前には会場入りして俺たち国賓をもてなしてくれていたよ。遅刻したと言うのはあなたに恥をかかせないための方便だ。きっとそれを真に受けてフォーゼに何か言ったのだろう?ドアマンが顔をしかめたのはその厚顔無恥さにだ」


 その後も馬鹿王子がいろいろ頓珍漢なことを言ってきたが、全て論破してやった。

 少しはフォーゼ嬢の素晴らしさが分かったか、馬鹿めが!


「す、好きな相手と結婚することの何が悪い。そんなにフォーゼを庇うなら、お前が貰ってやったらどうだ。俺は一向にかまわんぞ」


 え?いいのか!?

 こちらとしては、それは願ったりかなったりなのだが……


 たぶんそうなれば、大国の強力な後ろ盾を得た宰相一族は、貴族たちをすぐ味方につけて王権を交代させるよな。今回の王子の馬鹿さ加減は、王族派の貴族の大半も早々に見切りをつけて宰相派に乗り換えるレベルだし。


 ちらりと宰相殿のほうを窺うと「デコ殿、もう、やっちまおう」という顔をしていた。

 すごい迫力だった。

 それはそうか、今回の件において、国を大切に思う気持ちと娘を大切に思う気持ちは矛盾なく両立するものな。


 それで私はフォーゼ嬢の前まで進み、片膝をつき、手を取った。


「フォーゼ・メタモル様、私、デコ・オーナメントはこの場で貴女に求婚させていただきます!2年前、別の式典でお会いした時からあなたに惹かれていました。今はもっと好きです。もちろん私からお願いする立場なので、メタモル家へ婿入りする形で構いません!」



 ああ、そうか、王族の使命はもちろんあるが、それとは別に私は彼女のことが好きだったんだな……言葉にして初めて、自分の気持ちをしっかり自覚することができた。



 フォーゼ嬢は頷いてくれた。

 月並みな表現だが、天に昇るほど嬉しかった。





 その後、3ヵ月は怒涛の展開だった。

 それもなんとか一段落し、『夫婦の契り』を行う日が来た。


 そこで、フォーゼが問いかけてきた


「もし、私の外見が変わっても態度を変えずにいてくれますか」

「もちろん、人は中身が大切だからね」


 化粧を落としたら見栄えが悪くなるとか心配しているのかな?

 そんな心配は無用だと断言する。


 いいか、今の言葉は取り消せないぞ、さっきの私。

 どんな顔が出てきても動じずに受け入れよう。

 そして愛おしさを込めて「普通にかわいいよ」とほめまくってあげるのだ。



 もちろん、私とて年頃の男。

 見目麗しい女性に憧れないと言えば噓になる。


 それでも、そんな本能を吹き飛ばすほど、私はフォーゼを愛しているのだ。


 帝国の学者の研究には「顔立ちの良さは評判や収入の良さに直結する」というものもある。


 しかし客観的に見るとフォーゼは決して「美しい」と言われる側ではない。だからこそ、外見に恵まれて生まれた私などをはるかに上回る社交難易度の中で、散々苦労しながらも他国からの尊敬を勝ち取っている彼女には好意しかない。

 

 それに「あばたもえくぼ」という言葉もある。

 惚れた男の主観では、彼女はきちんと可愛いのだ。


 こう言うと失礼かもしれないが、むしろ、もう少し醜くなってもいいくらいだ。

 というのも、この数ヵ月の間に気づいて驚いたのだが、どうやら私は好きな女性はめちゃめちゃに愛したくなる性質のようなのだ。

 夫婦の契りの際は紳士的な振る舞いを心掛けるつもりだが、この3ヵ月の間にフォーゼのことがますます好きになりすぎて、このままだと、ちょっと我慢ができなくなるかもしれない。


 そんなことを思っていると、フォーゼは鈴のような美しい声で言った。


「実は私は12歳の時に魔術師に『美醜逆転の呪い』をかけてもらって以来、真の顔ではないのです」

「えっと…どういうことかな?」


 初めて聞く呪いだ、宰相家の秘伝だろうか。

 名前からすると美人ほど醜い容姿になる様に聞こえるんだけど……


「お父様が、「このまま美しく成長するときっとヘル王子がお前の成人まで我慢できないから」という理由で容姿を変えるように依頼していたのです」


 納得した。確かにフォーゼは美形の両親のどちらとも似ていなかったな。

 そして、婚約者が美人なら、あの馬鹿野郎が我慢できなくなるだろうというのもわかる。聖教会に対する敬虔な信徒の多いこの国では、未婚の状態での性交渉を行うことは禁忌とされているのに婚前に男爵令嬢と『夫婦の契り』を結んだほどの馬鹿王子だったし。


「では、解呪します……」


 そう言ってフォーゼは気負わない様子で人差し指の指輪を外す。なるほど、おそらくあれが呪いのアイテムなのだろう。


 わかる、フォーゼが内心で(外見に流されないと言ってくれましたし、容姿への関心は薄い方なのでしょう。加えて言えば、美しくなる方向の変化なので損はさせないはずですし……)とか思っているのが手に取るようにわかる。


 だがちょっと待っていただきたい!

 今でも十分好きなのに、これで容姿まで自分好みの美人になりでもしたら……


 ぱーっと光に包まれて呪いが解けると……


 そこには絶世の美女がいた。


 蜂蜜色の髪に、ミルクの様に甘そうで柔らかそうな肌、夜明け空の様に吸い込まれそうな美しい瞳、すっと通った鼻筋に、潤いのある薔薇のような形のよい唇、首から下には芸術をつかさどる神が分度器を手に作ったのではないかという完璧なプロポーション。


「どうです、なかなか可愛くなれたでしょう?旦那様」



 あっけにとられる私に、かわいらしく手を合わせて、小首をかしげてフォーゼが感想をきいてくる。しかも上目遣いだ!


「あ…感想だったね。うん、こう、普通にかわいいよ」


 気の利いたことの一つも言えなかった。

 心臓がドドドドドドドドドと凄まじい音を立てている。

 とっさに、社交術として死ぬ気で身に付けた、表情や声で感情を悟らせない技術を使ったが、返答で声が裏返らなかったのは奇跡だと思う。ちょっと噛んだし。


「あ、ありがとうございます。いやすみません、おもった以上に恥ずかしいですねコレ……すみません、先に寝室にいってお待ちしています……」


 そう言って頬も耳も頬を赤く染めたフォーゼがはにかむ。

 破壊力が凄い!


 待ってくれどういうことだ目の前に好みのどちゃクソど真ん中というかそれ以上の美少女というか精霊がいるんだがなんだこの可愛い生き物は実は俺は死にかけてその際に見る幻かそれでもいいくらいのものが見れたが待ってまだ死になくはないっていうかこrgんじUoおkれ





――パタン


 フォーゼが寝室にいきドアを閉めた音で我に返った。


 動揺の余り、一瞬私は意識を飛ばしていたようだ。

 あと多分今、心臓も止まってた……




「もし、私の外見が変わっても態度を変えずにいてくれますか」

「もちろん、人は中身が大切だからね」


 走馬灯のように先ほどのやり取りを思い出した私は、ソファーの上に置いてあるクッションに顔を埋めると



「うわああぁぁぁぁぁぁ!」


 声を漏らさないように絶叫した。



 絶叫しながら思う。

 男たるもの、一度口に出した言葉を簡単に違えるわけにはいかない。


 というか、容姿で必要以上の苦労をしてきた彼女が飛びぬけた美貌に変わったとたん、興奮して鼻の下を伸ばしたり態度をコロッと変えたりしたら、あの顔のパーツが極端に中央に寄った、クソうざい元馬鹿王子と同類じゃないか!?


 そんなの、高潔な彼女には絶対に軽蔑されてしまう。

 それだけは絶対に嫌だ!



 いいか、ポーカーフェースを死ぬ気で保て、私!

 でもまて、この後『夫婦の契り』の時間なんだぞ!?


 できるのか!?いや、やるしかないんだ。




☆☆☆



 こうして、ドアを一枚隔てたあちら側とこちら側で



「うわああぁぁぁぁぁぁ!」

「いやああぁぁぁぁぁぁ!」


 絶世の美男美女がぴったり同じタイミングで絶叫している光景が繰り広げられていた。

 つまるところ、外見も内面もお互いのタイプのど真ん中なのだった。




 なお、この後「何とか可愛いと思ってもらいたい」と様々な努力をするフォーゼに対して、デコがポーカーフェイスで対応しながらも、内心で悶え死にそうになっている愉快な日々が始まるのだが……


 それはまた別の話である。

その後しばらく愉快なすれ違いを続けるフォーゼ嬢とデコ皇子。

お前らもう結婚しろよ!

ああ、もうしてたわ。今後に幸あれ!


そんな気持ちで、評価をぽちっとして下さると嬉しいです(*´ω`*)


4/18追記


読んで下さった方に、ポイントを入れて下さった方、いいねを押して下さった方、ブクマして下さった方、素敵な感想を下さった方、大変ありがとうございます。凄く嬉しいです。


そして再び誤字報告を下さった方、かたじけない!

貴方のお陰で、次の読者様が助かっています。


お陰様で、本作も日間ランク入りしました。

心からの感謝を!




新作書きました。こちらも楽しんで頂けますように…


彼は申し訳なさそうに微笑んで

https://ncode.syosetu.com/n0233kl/

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― 新着の感想 ―
名前つけるの苦手な私から見て破壊力抜群なセンスが羨ましい。
「え待ってあんな素敵な人が旦那様とかもう無理」 「うちの妻が宇宙一可愛すぎてヤバい心臓止まる」 などとお互い思いながら、表面上はシレッと暮らしていると思うとご飯が進みます! 楽しいお話をありがとうござ…
名前が酷いwwwwwwww(褒め言葉)
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