駅のホーム
胸から下げていた鍵を持ち、鎌を出して伸びをする。
「死神、60」
《7割にしておけ。また痛い目を見るぞ》
「じゃあ70」
電車が目視出来る大きさになってきた。
キキッーとブレーキの掛かる音が鳴り響く。
どうやら胡蝶が運転手の夢を探し当てたらしい。
ブレーキが掛かって減速してきているが、かなりの速さ。
「斬らないのが1番いいんだけどなー」
渋々鎌を構えたがギリギリのところで電車は停止した。
窓から鬼気迫った形相の車掌が見えたが、私と目が合うとヘロヘロと崩れて見えなくなってしまった。
運転席に入ると座り込んでいる車掌と山口が倒れている。
「大丈夫ですか?」
「はい、寿命が10年くらい縮んだ気がします」
電車を斬らずに済んだのは車掌のおかげ。
今回の功労者は車掌だろう。
胡蝶は除いて...
念の為、山口を拘束していると首にある痣に目が止まった。
“SS”と読める不思議な痣。
気になったので携帯で写真を撮った。
眠っている山口と腰が抜けた車掌を抱えて運転席から離脱した。
箒のように鎌に跨り大陽のいる駅まで空を飛んだ。
山口は眠っているからいいが、車掌は高所恐怖症のようでヒーヒー言っている。
しばらく車掌の声と私の耳が戦っていると駅が見えてきた。
空から見ると乗客が降車しておりホームが人で溢れかえっていた。
私達もホームに降り立つ。
すると、私の乗っていた電車の車掌と警官が寄ってきた。
「警官殿、この人は任せた」
「あ、おい!」
警官に山口を押し付けて、大陽を探す。
「香織ー!」
「大陽!よかった、怪我してない?」
駆け寄ってきた大陽を抱きしめた。
「いや、それ俺のセリフ。香織は怪我してないの?」
「ありがとう、大丈夫」
「じゃあ早く帰ろ、人多くて疲れた」
大陽が私の手を取って改札へ向かう。
「待て!」
という声と共に誰かに強い力で手を引かれた。
引かれた手の先には警官。
「事情聴取がまだ終わっていない」
山口を押し付けたから逃れたと思ったのに。
両方から手を引っ張られるとさすがに腕が痛い。
「おじさん、香織の手離して」
「おじ...」
おじさんと呼ばれたのがショックだったのか警官は手を離し、大陽は構わず改札を抜けた。
そのおかげで捕まらずに済んだ。