少年と電車
「おかえり、遅かったね」
「この車両のトイレ混んでて前まで行ってた」
「へー」
「なんか前の方うるさかった、わ⁉︎」
急ブレーキがかけられ、キキーッという音と共に重力を感じる。
立っている少年が怪我しないように抱き寄せて小さくしゃがむ。
そのまま電車は止まってしまった。
「何かおかしい」
前の駅を出たばかりでの急ブレーキ。
車内放送も流れてこない。
「なにが?」
「いろいろ。ちょっと確認してくる」
少年を席に座らせて立ち上がった。
「俺も行きたい」
服の裾を引かれて若干の上目遣いをしてくる少年。
「いや、ここで待ってて」
連れて行くのはナシとして、1人にさせておくのも不安だ。
〈頼んだ。この場が危険だと判断したら外に誘導して〉
《分かりました》
不安そうな少年と額を合わせて、紫の石の付いたピアスを手渡す。
「行った?」
「うん。胡蝶と2人なら待ってる」
少年は魘魔の声が聞こえる不思議な力を持っている。
契約してないにも関わらずだ。
「何かあったら胡蝶の言うことを聞くこと」
「はーい。気をつけてね」
少年の頭をくしゃくしゃと撫でて歩き出す。
1両目に向かっていると前を歩くスーツ姿の男がいた。
どこかで消えるだろうと思っていたが、そのまま目的地まで一緒に着いてしまった。
男の後ろについて運転席に入る。
車掌と運転手が無線の前で騒いでいたが、ドアの開く音でこっちに注目が集まる。
「すいま「こういう者です!」」
「え、あ...」
男が何かを前に出した。
それを見た車掌達が少し安堵した表情をしている。
男の死角から出した物を確認すると、手にしていたのは警察手帳。
正直あまり関わりたくない職種。
「何が起こってるんですか?」
警官が事情を聞き出したのでそのまま一緒に聞く。
「前の電車が逆走し、こちらへ向かっていると無線が入りました」
車掌達は警官に任せるとして...
「そちらの状況をもう一度お願いします」
無線機で逆走中の電車の情報を聞き出す。
「おい、なにして「聞こえないから静かにしてください」」
『いつも通り停車したら急にドアが閉まって、逆方向に向かって走り出して!』
無線の先にいる人は混乱しているが、状況はなんとなく伝わった。
「誰か運転してる人はいますか?」
『同僚がしてます。ですが、いつもと様子が違ってて...』
「どんな様子ですか?」
『声をかけても聞こえてないのか、笑いながら運転してます』
相当不気味な光景だろう。
声だけでも怯えているのがわかる。
「緊急ブレーキは?」
『車掌室や客席のブレーキは壊されていて使えません』
ブレーキが壊されているとなると、ただの暴走という訳ではなさそうだ。