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ドラゴンの庭

薄桃色のドラゴン

作者: 笹月美鶴
掲載日:2024/11/14

 この世界はドラゴンの庭ほどしかない。

 はるかな山々、広大な草原、巨大な街。

 そのどれもがドラゴンの庭に散らばったおもちゃたち。

 世界は、ドラゴンの庭なのだ。


 これはここではない、どこかの世界に伝わる、ドラゴンのお伽噺。

 森で迷った男の目の前に開けたのは、この世のものと思えぬほどの美しい花畑。

 月明かりも届かぬ暗い森の中だというのに、そこだけ昼のように輝いている。

 それほど広くはなかったが、色とりどりの花が咲き、淡く光る羽虫が飛び交っていた。


 かぐわしい香りに誘われて、男が花に顔を近づける。

 花には、小さな虫がとまっていた。


 いやそれは、虫ではない。


 薄桃色の被膜のような羽を持つ、子供の小指の先ほどの、小さな小さなドラゴンだった。


 とてもかわいい小さなドラゴン。

 男はそれを、我が子の土産にしようと考えた。

 

 持っていた小瓶をそおっとかぶせ、薄桃色のドラゴンを捕まえる。

 人を恐れないのか、薄桃色のドラゴンは逃げることなく、瓶の中。


 淡く光る瓶に満足しながら咲いていた花も一株抜いて、花畑を後にする。

 だが、花畑から離れたとたん、花は枯れ、薄桃色のドラゴンは死んでしまいました。


 もう一度ためしてみるが、やはり花畑から、いや、あの輝く空間から出るとドラゴンも花も死んでしまう。


 まあ、いいか。

 死んでいても、ドラゴンには違いない。


 枯れた花は捨て、薄桃色のドラゴンの死骸の入った小瓶を大事にしまい、男は家路へと急ぐ。

 迷いながらもなんとか彼が住む村に着いたころには日が昇り、朝になっていた。




 深い深い森の中、めったなことではたどり着けないその場所に、不思議なお花畑がありました。

 お花畑に飛び交うたくさんの小さな虫。それはよく見ると、小さなドラゴンではありませんか。

 幸運をもたらす薄桃色のドラゴン。

 そのかわいらしいドラゴンは、きっとあなたに、幸せをもたらすでしょう。




 これが、そのドラゴンだよ。

 男が小瓶を差し出すと、子供は目を輝かせ、わあっと歓声をもらします。


 ただドラゴンの死骸をわたしたのでは面白くない。

 そう考えた男は物語を作りました。

 幸運のドラゴンの物語を。



 かわいい薄桃色のドラゴンの死骸が入った小瓶を首からさげて、子供は友達みんなに自慢して、物語をきかせます。

 たまたま村を訪れていた商人が、子供たちにまじって熱心に、物語に耳を傾けていました。


 森の奥にあるという、小さなドラゴンの住む花畑の噂はあっという間に広がって、村から街へ、そしてとうとう王様の耳にも入りました。



 幸運をもたらす薄桃色の小さなドラゴン。

 愛しい姫への贈り物にふさわしい。



 王様は、民におふれを出しました。



 生きた薄桃色のドラゴンを献上したものには望む褒美を与えよう。



 それを知った者たちは我先にと森に入り、探索をはじめます。

 そして幸運にも花畑を見つけるのですが、やはり生きたまま薄桃色のドラゴンを持ち帰ることはできません。

 花畑がある空間を出るとすぐに花は枯れ、ドラゴンは死んでしまうからです。


 なんとか生きた薄桃色のドラゴンを持ち帰ろうと、大勢の人間たちがドラゴンを捕まえ、花を摘み、地面を踏み荒らす。

 とうとう花畑は枯れ果てて、薄桃色のドラゴンもいなくなってしまいました。


 持ち帰ることができたのは、枯れた花とドラゴンの死骸。

 でも死骸でも、幸運のお守りとして街で高く売れたので、小さなドラゴン狩りは大流行り。


 凶暴な大きなドラゴンと違って小さな薄桃色のドラゴンは、簡単に捕まえることができるのですから。


 この森がだめならほかの森。

 そこもだめならさらにほかの森。


 いくつもの花畑がみつかり、そして荒らされ、薄桃色のドラゴンの住処はどんどんなくなっていきました。



 もうじき、薄桃色のドラゴンは死に絶えてしまうでしょう。



 あの男は今日も子供たちにせがまれて、幸運を呼ぶドラゴンの物語を話して聞かせます。

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