保安官という男
夜が明けた。死闘の舞台となった宿場町は、住民たちが総出で片づけに追われている。問題は言うまでもなく、死体の処理である。
それらがもう動かない事は、聖女によって確約されている。襲ってくることはない。となれば今度は処分に困る。放置は論外だ。獣だけでなく、他の呪われた者共を呼び込みかねない。何かしらの病の元にもなりうる。
土を掘って埋めるのは、現実的ではない。あまりにも数が多く、労力が足りない。となれば焼くしかないわけだが、これも困る。宿場町の薪をすべて集めれば何とかなるかもしれないが、生活に支障が出る。
そんなわけで、偉大なる女魔導士の出番となった。
「経費は、公爵家にツケとくからね」
「はいはい。しっかり請求書に追記しておいて」
ぶつくさつぶやく友人に、セシリアは笑顔で応じる。クラーセン公爵家は王国有数の資産家である。術の触媒程度、幾ら請求されても小動もしない。金庫番も、眉一つ動かさず支払いにサインする事だろう。
焼却は、町の外でおこなうことになった。ある程度広く大きく穴を掘り、術を仕込む。そして死体を放り込んで発動させる、という手順である。穴掘りと死体の移動には午後までかかる。公女達は一端、宿に引き返すことにした。
道を進むと、町の人々から感謝の声をかけられる。
「ありがとうございました、公女様!」
「皆さまに祝福あれ!」
「轟砲の勇士殿にもお礼を!」
平民たちから、心からの感謝を向けられる。セシリアは心苦しいものを覚えるが、顔に出さず笑顔で手を振った。
「……私たちがたまたま通りかかって良かったわ」
「本当に偶然かしらね。神託はなくても、シュルティーサ神はしっかり見ていらっしゃるでしょ?」
「リーフェは何も言ってなかったけど……そういえば、ヒデオンは?」
「宿の納屋で作業するって。ほら、例のアレ」
「ああ……」
魔導士はあからさまに嫌そうに告げ、勇者公女の笑顔が曇る。そんな二人が向かったのは、この宿場町でもっとも立派な建物。貴族や豪商用の宿である。もちろん、王都のそれには比べようがない。しかし野宿や平民用のそれよりははるかにマシだった。
戻った事を宿の従業員に告げ、馬屋に回る。そこでは彼女達が思い描いた通りの状況があった。が、同時に予想外の状態でもあった。
「あ、おかえり」
「……なんでっ! 裸ですのっ!」
乙女二人は、慌てて後ろを向いた。鍛え上げられた男の上半身は、彼女たちにとって刺激が強すぎたのだ。
「背中が痛いんだよ。日焼けみたいにじりじりする」
「……聖印が? リーフェ呼ぶ?」
「聖女様は今、町の教会に呼ばれてるからなあ……」
魔導士の言葉に、ヒデオンは肩を落とす。彼の背には、意匠化された天秤があった。聖女リーフェの崇める、法律神シュルティーサの印である。それが古い火傷の痕として刻まれていた。
その聖印が、淡い光を放っていた。それが魔術的なものでない事は、ベルティナの目には明らかだった。
「まあ、初めてじゃないし耐えるけど。服着ているとこすれて辛いんだ、日焼けみたいに。勘弁してくれ」
「そういう事でしたら、まあ。……それで、何かお手伝いいたします?」
「いや、お供の皆さんが良くしてくれたから大丈夫。ほら」
ヒデオンの指さす先には、木桶があった。その中には、黄金色に輝く指先ほどの円筒がたくさん入っている。これが薬莢とよばれるものであると、二人はすでに学んでいた。
「衛兵や町のヒトから受け取ってくれて届けてくれたよ。おかげで資源の節約になってる」
「それはよろしいですが……」
『ばうっ』
セシリアの言葉をさえぎって、犬の吠える声がする。正確には、それを模倣したアラームだが。
声がした方を振り向けば、そこにあったのは奇妙な存在。一見すれば大型犬である。しかし、生身のそれではない。機械で出来ている。毛など一本もなく、セシリア達にはわからぬ金属で覆われている。
犬のように見えるのは、体を覆う布地のおかげだ。粉塵避けを兼ねたこれが、辛うじてこの鋼の獣を動物に偽装させている。しかし、やはり生物ではない。その証拠が、獣のケツからあふれ出た。
じゃらじゃらと音を立てて桶の中にたまっていくのは、金属製品。弾薬である。それを見て、乙女二人は眉根に皺を寄せた。
「……便利な道具だとはわかるのですが、本当にひどい」
「あんた、よくこんなの使ってるわね」
二人の同情兼非難に対して、ヒデオンは肩をすくめる。
「代々の保安官は皆、大いに不満を覚えたとも。俺の親父と同僚もそうだったらしい。ある時、このボナンザの制作者に文句を言いに行ったそうだ」
大型犬型多目的ロボット、ボナンザ。どこか愛嬌のある外見とは裏腹に、極めて高いテクノロジーによって生み出された機体。運搬器具を追加することで、多くの物資を運ぶことができる。不整地や、未知の土地を探索する上で非常に役立つ。
しかしそれ以上に重要なのが、たった今行っている作成作業だ。必要な素材があれば、小型かつ登録したものであればこのように制作できる。
ヒデオンの故郷は過酷な場所が多く、移動にも苦労があった。ボナンザの能力は、そういった場所で生存していく上でこれ以上もない活躍をした。現状でも、こうやって補充が困難な弾薬を生産している。
不満はただ一点。ビジュアルが最悪であること。
「このケツ……失礼。生産方法を何とかできないかと。押しかけられた技術者は、笑顔で請け負った。そして、倉庫からとんでもないものを出してきた、らしい」
「らしい? とんでもないもの?」
首をかしげる公女。保安官は、苦笑いを浮かべる。
「残念ながら、親父たちはそれがどんなものかを伝えてはくれなかった。ただこう教えてくれたよ。『ボナンザははるかにマシだった。奇跡の一品だった。いくら効率がいいだの、より多目的だのといわれてもアレを連れ歩くよりよっぽどマシだ』って青い顔でね。親父はタフな男だったけど、あんな顔をしたのは後にも先にもあの時だけだった」
「ドンだけやばかったのよ」
「さあ、なあ? 正しくご想像にお任せしますってやつだな」
魔導士にそう伝え、ヒデオンは桶を持ち上げた。生産されたばかりの弾薬が輝いている。それをテーブルの上に乗せ、並べられたベルトリンクに一つ一つ通し始めた。
「……えっと、お手伝いしますか?」
椅子に座って作業する彼が未だに上半身裸なのを気にしつつ、セシリアがたずねる。
「いや。単純に見えて専門的な作業だから。気持ちだけもらっておくよ」
「それ、連射できる銃のやつでしょ? 昨日はバカスカ使ってたようだけど、補充のほどはどうなの?」
魔導士ベルティナは、テーブルの上を眺めながら危機感を抱いていた。ヒデオンの銃は驚異的だ。高度な魔術に匹敵するような効果を、道具だけで成し遂げる。便利であり、手軽だ。
魔導を学ぶためには才能と努力が必要。そしてその二つを支えるには金と時間がいる。それらを用意するのに若いながら大変な苦労をしたベルティナ。彼女の視点から見れば、銃は脅威である。
引き金を引けば弾が出る、と知らされている。ただそれだけで、歩く死体どもを損壊させる威力を持つ。才能も金もいらない。使いこなすには努力が必要だろうが。
これが、容易く手に入ったら一体どうなってしまうのか。魔導士が不要になる、ということはないだろう。戦いだけが仕事ではない。だが、兵士は? 騎士は?
そんな彼女の心中は当然ヒデオンには分からない。質問に答えるだけだ。
「正直、芳しくないな。昨晩の戦闘でライトマシンガンの弾は空っぽになった。ご覧の通り生産させているけど、時間がかかる。明日の出発までに、ひと箱一杯にするのが関の山だな。それに、材料もだいぶ厳しい」
「この間お約束した銅と鉛の件ですが、まだお時間がかかるかと……」
申し訳なさそうにするセシリアに、保安官は手をひらひらと振って見せた。
「このご時世だ。安全が第一。気にしないでくれ」
「そうは申されますけれど、お世話になりっぱなしですし」
「まさしく、それが俺の目的なんだ。気にしないでいいって。全ては神様の思し召しってね」
背中を親指で指さす保安官。そういわれてしまっては、少女二人は苦笑するしかない。
異郷の保安官と勇者公女達。この奇妙なチームが生まれた経緯を説明するのは、少々長くなる。まずはヒデオン、いやヒデオについて語らねばならない。
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彼はこことは異なる世界で生まれ育った。その世界はかつて、高度なテクノロジーによって栄えていた。自動で動く機械が生産と運搬を担い社会を動かす。
人の労働は少なかった。その分、文化的または芸術的な作業に従事できた。もっと言えば、享楽に耽る者共が圧倒的に多かった。数十億の人々が、人生を娯楽で満たしていた時代だった。
そんな夢のような時代が長く続くわけもなかった。誰もが、理解しながら目をそらしていた。しかし、その終わりは全くもって予想外のものだった。
ブラッドスキン。名前の通り、血のように赤い肌の怪物達。ライオンや虎のような四足の獣もいれば、ボディビルダーのようにマッシブな人型もいた。例外なく残忍で、人に対して害意しか持たぬ異形の輩。
どこからともなく現れた化け物達が、世界各地で同時に発生した。戦争など遠い昔の話である。人は戦えなかったし、防衛用ロボットの生産だけでは追いつかなかった。
街は次々と炎に包まれ、おびただしい数の人々がもの言わぬ躯となった。生き延びた人々の中にも肌が赤く染まるものが現れはじめ、事件発生から三か月で人類滅亡という文字が見え始めていた。
そんな人類が何故助かったのか。身も蓋もなく言えば、数が多かったからである。多くが犠牲になったが、それが意図せぬ時間稼ぎとなった。血肌の怪物どもも、逃げ回る数の多い獲物を刈りつくすには、手数が足りなかったのだ。
こうして総人口が十分の一になったが、何とか防衛の態勢を整えられた。以来二百年、ブラッドスキンに奪われた生活圏を奪還する戦いが続いている。
とはいえ、土地と資源とテクノロジーを失った人類は脆弱だった。大規模な戦いができる余裕は未だにない。各地でシェルターシティという半地下都市を建設し生存権を確保。小規模の調査隊を派遣し情報収集。そこで見つけた資源や過去の遺物を回収。そのような事を細々と続けている。
ヒデオの父、タツミもそんな部隊のメンバーの一人だった。彼は主に街の外で起きるトラブルに対応する役職についていた。正式名は別にあるがその活動の多様性とダイナミックさが、いつの頃か保安官という通称で呼ばれるようになっていた。
そんな彼の活躍を見て育ったヒデオが、同じ道で生きていく事を選んだのは順当な流れだった。生来の素養とまじめな性格もあり、長年の思いは叶った。厳しい訓練と試験を超えて保安官に任命されたのだ。
多種多様な装備とボナンザを与えられたヒデオは、ジャンクランドの名で呼ばれる周辺地域のトラブル解決に奔走した。彼が就任した頃、とあるカルト集団が問題視されていた。
ブラザーフッド・オブ・グローリー。名前は輝かしいが、実態はその逆。強力な武装でキャラバンだけでなく各地の都市すらも略奪する武装集団。その残虐性は大きな脅威として多くの人々を怯えさせていた。
ヒデオは、これに立ち向かった。様々な仲間の協力を受けて、教祖の撃破に成功。組織を壊滅に追い込んだのだ。この時の功績を称えられ、彼の土地では大きな栄誉であるスリースターを贈られている。
その後、彼はもう一つ大きな事件を解決した。それについては今は語るまい。それよりも勇者公女との出会いについて話を進めよう。
ある日の夜。ヒデオは奇妙な夢を見た。彼はここ数日体調不良であり、ベッドから起きられぬ日々が続いていた。そういった時に見る悪夢とは違う。はっきりとした意識があった。
夢の中で彼は、見た事もない荘厳な神殿の中にいた。宗教施設は廃墟でしか見たことがないヒデオである。埃一つない、静謐な空間に歴戦の保安官も息をのんだ。
訳も分からず、どれほど歩いた事だろうか。
『これ、は……』
彼は見上げるほど巨大な、黄金の天秤の前にたどり着いた。それを見て、ヒデオはどうしても己の背にあるものを想起した。
『静聴せよ、人の子よ』
そして、その天秤より声が響いた。ヒデオは咄嗟に近くにあった柱の影に身を隠した。いつも身に着けているハンドガンがない事を今更気づきながら。
『静聴せよ、と伝えたはずです。何をしているのですか』
『姿も見せない相手の指示に、従う義理はないな!』
せめて石でもあれば、と足元を探るが何もない。最悪の事態になったら、使いたくない切り札の出番かもしれないと頬を引きつらせる。
『義理。法律神シュルティーサの使いである私に、貴方が従う理由はあります。その背に刻まれた聖印が何よりの証』
『……なんでこれのことを、知っている』
ヒデオは、普段なるべく背については吹聴しないでいた。そうする理由があったから。なので、その秘密についてはごく限られた人物にしか伝えていない。よく分からない相手が知っているはずがないのだ。
『貴方の父親、タツミに聖印を与えたのは他ならぬこの私です』
『親父の名前まで……。そこまで言うなら知っているはずだ。この背中のマークがどんな力を持っているのかも。証明の為、答えてもらおうか』
『愚問。法律神シュルティーサの御力をもって、貴方がフォールンに堕ちるのを防いでいるのです。……貴方がたの地方では、ブラッドスキンと呼んでいましたか』
『……降参だ』
柱の影から、両手を上げながら出ることにした。声の言葉に間違いはない。ヒデオは子供の頃、血肌病に罹患した。その名前の通り、肌が血のように赤く染まっていく病だ。
風邪のように熱が出て、やがて意識を失う。そして最後には理性のない怪物に変化する。ブラッドスキンに。
治療方法はない。稀に自然治癒することがあるので、その奇跡を願うしかない。……が、彼の父親は別のアプローチをした。どこからか手に入れた奇妙な金属板を熱して、それを病に苦しむ息子の背に押し当てたのだ。
その時の熱さと痛みははっきりと覚えている。泣き叫ぶ彼に、
『周りからありがとうと言われるような男になれ』
と言い含めた父の言葉も。そしてその火傷が治るのとほぼ同じくらいに、彼は血肌病を克服した。それが奇跡ではなく、背中にあるそれの力であることはそれからの人生で何度も学ぶ機会があった。
過酷な荒野での生活。幾多の危険。怪我や病、時には毒。そういったさまざな困難に対して、聖印は抗う力をくれた。傷や病からの回復が、人よりはるかに早かった。時にはあからさまな致命傷ですら、重傷程度に抑えてくれたこともあった。
父の言葉にも意味があった。ジャンクランドでは困窮していない者の方が稀だ。常に何かしらのトラブルがある。それを保安官の立場で助けるごとに、感謝を受けた。ありがとうの一言が、確かに背のマークへ力を与えていた。
だからこそ、それについては秘密にしていた。命を狙われるのに十分な秘密だったから。ヒデオは天秤のオブジェの前に出ると、背を伸ばしてまっすぐ立った。上官の前でするように。
神の使いはそれを見て、若干戸惑いを覚えた。静聴する姿勢になっている事は分かる。だが、神の威光に対するものではない気がする。わずかに悩んだが、受け入れることにした。些細な誤差であると。
『結構。時間もありませんし、結論から伝えましょう。貴方は現在、命の危機に瀕している。忌まわしき力を、その手にしてしまった影響で』
『……はい』
何でも知っているんだな、といういつもの軽口を飲み込んだ。普段ならそれで驚きを誤魔化すのだが。
『普段であれば善行によってフォールン化を抑え込んでいますが、間に合っていません。より強い力が必要です。そして私はシュルティーサ神により、それを貴方に与える許可を得ています。これは、ここまでの貴方の働きを評価しての事です。幾多の邪悪を打ち倒し、弱者に助力したのを神は見ておられたのです』
『……恐縮です』
神は見ている。遠い昔から伝えられている言葉がまさか事実であったとは。ヒデオは必死に頬が引きつりそうになるのを堪えた。
『これにより、一時的に体調は持ち直すでしょう。……ですが完全ではありません。普段通りの善行はもちろんですが、より大きなことを成す必要があります。そして、それについても私は貴方に伝えることができます。これは施しであり、同時に使命でもあります』
『使命……ですか』
いまいちピンとこないヒデオは首をかしげてしまう。使者はより分かりやすい言葉を選ぶ。彼については伝え聞いているのだ。
『やや不遜ではありますが、指令と言い換えましょうか。貴方が都市より命じられる、重大な指令と同じものであると考えなさい』
『了解しました、上官殿!』
はっきりと理解できた保安官は、敬礼をもって答えた。何か齟齬が生まれている気がするが、使者にはそれが言語化できない。しかし重要な意思疎通は出来ているのだから、これも良しとする。
『……よろしい。それでは指令を伝えます。我らが世界、ノヴァモンドへ赴き邪悪を打ち倒すのです』
『はい。質問ですが、移動手段はどのようにすればよろしいでしょうか。自分は別の世界を移動する手段を持っていません。また、装備の持ち込みは可能でしょうか』
再び、腑に落ちない思いが使者の胸中に浮かぶ。御使いからの使命を受ける態度ではない気がする。本来ならばもっと荘厳で、神聖なものであるはずだ。
だが敬意がないわけではないし、事態に対して真摯な態度だ。なにより、こちらに向ける瞳には真剣さがはっきりと感じられる。おおむね、間違いではないとしてこれも仕方なく良しとする。
なお、ヒデオが別世界について疑問を覚えない事については明確な理由がある。ブラッドスキンが現れて以降、世界には不可思議な事件が起きるようになった。
新品同様の過去の異物や、大量の資源が見つかるといった話は序の口。呪いのような体調不良。奇跡のような不調からの復帰。荒野とは思えぬ奇妙な世界での冒険。地獄のごとき場所での死闘などなど、数え出せば切りがない。
ヒデオはジャンクランドで仕事をするうちに、そういった不思議な体験をいくつもしてきた。別世界と呼びたくなるような場所に訪れた経験もあるのだ。
『……移動はこちらで助けます。装備も、貴方の愛用品であればそのまま持ち込めます。あの機械犬……ぼなんざ、でしたか? それも連れて行けます』
『助かります。装備が持ち込めるのであれば問題ありません。いかなる困難な任務であろうとも遂行して見せます』
装備持ち込み可能。その一言でヒデオの不安と迷いは消え去った。これまでも、多くの困難を超えてきた。新しく一つ増えるだけだと。
使者は、腑に落ちない何かについて考えることを止めた。とりあえず順調であるし、時間もないのだ。間違いは後で正せばよいのだ。良し。
『結構。それでは、これより貴方をノヴァモンドへ送ります。すぐ近くで、動く死体の群れに襲われている一団があります。それを助けなさい』
『は? 歩く死体? え?』
残念ながら、ヒデオの疑問は解消されなかった。すぐに視界が光に覆われ、目がくらむ。そしてそれが消え去った時には、彼は夜の森の中にあった。愛用の装備を身に纏い、傍らにボナンザを伴って。夢を見ていたはずだが、いつの間にやら目覚めていた。
これが、彼が異界に降り立った経緯である。その後、使者に言われた通り近場の騒ぎに向かって見て驚いた。見た事もない恰好の戦士たちが、動く死体相手に混戦の最中だったのだ。
悩むのは後回し。状況への対応が優先。ヒデオは銃器を構え戦闘を開始する。そうしてセシリア達と出会ったのだ。