プロローグ 伝聞、各地にあり
『死霊災厄、止まらず!
昨年、我らがバルタニア王国で猛威を振るった呪詛風邪。この恐るべき病によってもたらされた被害は、未だ世界に深い傷を残している。これによって倒れた民草は数知れず、埋葬されずに放置された遺体が各所に散見されるのが日常であった。
あまりに多くが冥府の門をくぐったせいか。病の苦しみが残ったか。はたまた死霊術師の仕業か。遺体は邪悪な力によって立ち上がり、生ある者へ襲い掛かり始めた。
総数、数えきれず。抵抗むなしく飲み込まれ、アンデッドの群れの一員となった村々は十や二十ではないと伝え聞く。高い城壁をもつ都市すらも、囲まれ困窮する始末。
神殿や貴き方々も、その力をもって祓おうとしているが未だ解決に至っていない。王都エーデルンですら、夜になれば死者が路地裏をさまようと伝え聞く。
おお、聖ベルンハルトよ。我らをお救いください! いまだ死霊災厄、止まらず』
港湾都市ポートルフェン 舟歌新聞社の記事より
『勇者公女、立つ!
聖ベルンハルトの再来現る! バルタニア王国の名高き公爵家クラーセン。その貴き血をたどれば、悪魔フォルカマルカ討伐伝説の英雄、勇者ベルンハルトにたどり着くことは子供でも知っている事実である。
長らくの間クラーセン公爵家は国家の重鎮としての職務を全うし、輝かしい数々の功績を築き続けてきた。そして今日、新たな伝説を打ち立てんと民衆の前に姿を現された。
死霊災厄に苛まれる哀れな民草の為、セシリア公女が聖剣を掲げてこう宣言したのである。
「これより、災厄を祓うために剣を振るう。災いよ、聖剣を恐れよ」
日々、さまよう死体に怯える人々は、熱狂の歓声をもってこれを称えた。王都が活気によって揺れるほどであった。
勇者公女が率いる騎士団は、王都を旅立った。災厄が祓われる日も近い』
王都エーデルン 伝統新聞「紫」の記事より
『リスナーの皆、DJネイトのジャンクランドレディオの時間だ! さて、今日最初の話題は……というか、今日も最初の話題は俺たちの保安官について。
ブラザーフッド・オブ・グローリーの野望を打ち砕き、ジャンクランドの自由を守った我らが保安官。ブラッドスキン共の悪夢。誉れ高き英雄殿が行方不明になって一週間だ。
残念ながら、相変わらず彼の行方に関する情報はない。ただ、喜ばしい事に大騒ぎの情報もない。何故喜ばしいか、言うまでもないだろう? 保安官が今までかかわった事件を思い出してくれよ!
銃撃、爆発、大崩壊! いつだって騒ぎの中心に彼はいた! そんな騒ぎが起きていないということは、彼がそこにいないってこと。どうやらずいぶん遠くにお出かけらしい。
彼の事務所はもちろん、懇意の商店、トレーダーキャラバンも情報を得ていないらしい。リスナーの皆! 知っていたら是非このジャンクランドレディオまで連絡をくれよな! さて、ここで音楽の時間だ。今日も大騒乱前のご機嫌なナンバーで気分を盛り上げよう。それでは聞いてください……』
ケージタウン DJネイトのジャンクランドレディオより