確かにそれは悪役だが、婚約破棄されたからってそうはならんやろご令嬢。
えー……4000字ほど、深夜テンションで書いたギャグ短編です。
私は大好きな乙女ゲームのヒロイン・フォルシアに転生し、第二の人生を謳歌している。
いわゆる悪役令嬢もまた転生者らしく、いろいろと対立はあったけど……なんとかここまでこぎつけられた。
「アンサ公爵令嬢プリムラ・ゴールデンベル! 聖女フォルシアへの非道の数々、許しがたい! お前との婚約は破棄だ!」
ここ、聖剣の広場と呼ばれる、学園正門近くの場所で。
ローゼス王太子が、悪役令嬢プリムラを断罪している。
(ごめんね)
私は心の中で、そっと謝った。
このイベントが起きた以上、ゲームの流れ通りにプリムラは身の破滅だろう。
国を追い出され、よその国に嫁がされるはず。
(彼女は私と、仲良くもしてくれた、けど。私の野望のため、王子は譲れない!)
ローゼス様と結婚すれば――――私は王太子妃。ゆくゆくは、王妃だ。
そうすれば。
(私の! 推しを! 毎日存分に推すことができる!!)
騎士団長、宰相閣下、宮廷魔術師……ふふふ。王宮にはイケオジがいっぱいなんじゃぁ。
みなラブラブ既婚だから、恋愛はちょっとできないけど。
でもいい。大変そうだけど、推しのためなら王妃だってこなしてみせる!
「婚約は……やむを得ません、解消を飲みましょう。ですが、私が? フォルシアに非道を?」
「そうだ。調べはついているぞ、この魔女め」
ん? そういえば変なこと言ったなローゼス様。
私別に、プリムラにいじめられたりしてないよ?
普通に友達……
「フォルシアの私物窃盗、姿絵の盗撮、挙句は寮の私室への侵入も確認されている。
申し開きがあるなら言ってみろ! この変質者めッ!」
うわあああああああああああああああああっ!?
まって、なにその衝撃の事実!!
どういうことだ悪役令嬢!
「――――――――なぜバレた」
認めるなぁぁぁぁぁぁ!! 絶交だ!!
ちょっと友情感じて、破滅させてごめんとか思ってた私の善なる心を返せ!!
「フォルシア……」
おいご令嬢その潤んだ瞳で私を見るのやめてくれません?
怖気しか走らんのやけど??
「……気持ち悪っ」
「ぐはっ!?」
思わず口走ったら、プリムラは何か緑の液体を吐いて倒れた。
え、なに? その色やばくない?? せめて吐くのは血反吐にして??
「衛兵! その変態を捕らえろ!!」
嫌そうに正門のとこの兵士の方が近づいてくる。
うん、仕事でも嫌だよね。緑の液体吐いて倒れる上級貴族の令嬢捕まえるとか。
なんかプリムラ肩震わせてるけど、追加の何かを吐き出したりしないよね?
「ククク……フフフフ……アーハッハッハッハッハ!」
吐いたわ。三段笑い出てきた。
そして彼女はすくっと立ち上がって、奇妙な構えをとって指をぱちんと鳴らした。
いや、一回やって鳴らなくて、リトライした。
「な、これは!?」
おっと、なんか地面が揺れ始めた。
正門外にある結構大きな噴水が、真ん中で真っ二つに割れて――――
「ならば力で、お前を奪って見せようフォルシア!」
嘘でもいいからそこは王子の名前出して? 私を巻き込まないで?
「とぅ!」
プリムラが高く跳んで宙を返り、割れた噴水の下からせりあがってきた何かの上に、立った。
え、なにあれ。まさかゴーレムとか、魔物……
「ゆくぞ、マジィィィィィンアルファァァァァァ!!」
出てきたのどう見てもロボだこれぇぇぇぇぇ!?
メカメカしい! 素材がゴーレムとかじゃない! せめてファンタジーしろ悪役令嬢!!
あ、プリムラがシュインって消えた! 中に乗り込んだのか!?
「なんだ、あの巨大な魔物は!?」
『フハハハハハ! しねぃ王子! アフロビィィィィィム!」
殺意込めんならもっとマシなビーム名にしろや!?
「ぐあぁ!」「うわぁ」「ぎゃー!?」
王子も超ゆっくり進んできたビームわざわざ受けないで? 今避けられたよね??
兵士の方もどうして今くらったの?? そっちに飛んでってなかったのになんでわざわざ割って入った???
「こ、これは!」「俺のさらさらヘアーがアフロに!」「ギャー!」
嘘つけ真ん中、お前髪生えとらんやろ。右端はそもそもくらってねぇし、アフロになってんの王子だけやんけ。
「素晴らしい髪型だ!」
しかも王子受け入れちゃったよ。どうすんのこの戦果。意味あんの?
『ククク……』
プリムラの笑い声とともに、ロボから妙な音楽が……盆踊りでも始まんのこれ?
あれ、王子が踊り出した。
「体が勝手に! これはいったい!?」
『アフロ化の呪いによって、どんな音楽にも反応し、踊り続ける! フフフ。怖かろう、恐ろしかろう』
怖いけどアフロ盆踊りの絵面がやべぇんであって、そのトンチキな呪いは怖がりどころがわかんねんだわ。
『さぁフォルシア! わがものにならぬなら、王国中をアフロにしてやるぞ!!』
すげぇ脅しかもしんないけどもうちょっと緊張感注ぎこんでくんない? 国中アフロの想像して気が抜けるんやけど?
『アフロビーム! ビーム! アフロォォォォォ!!』
うっわ滅茶苦茶撃ち始めた!
『ビィィィィム!!』
あ、しまった! こっち飛んでくる!? しかも私に向かってくる奴だけめっちゃ早い!!
「くっ」
思わず腕で顔をかばい、目を背ける。ビームが迫り――――何かに当たって、激しい音を立てた。
なぜか爆発が起き、もうもうと煙が立ち込める。
(いま何か、割り込んできた……いったい)
土埃が、徐々に晴れてきた。
「大丈夫かい?」
「あなた、は」
目を開け、腕をのけ、前を見る。
そこには。
「ボクはボーパルマウス! アハッ!」
やべー奴がいた。名前と笑い方慎めや。
ねずみというよりはうさぎ?のぬいぐるみが……浮いてる。
ついでに髭がちりちりになってる。そこがアフロになんのかよ。
「フンッ」
ぬいぐるみが気合いを入れると、髭がぴーんと真っ直ぐになった。
「ボクは女神の使徒だからね! この程度の呪いじゃ、びくともしないのさ!」
あ、じゃあこいつ盾にしたらよさそうだな? よしその作戦で行こう。
『おのれ、邪魔をするな! アフロビーム!!』
「ちょいやー!!」
「え?」
私はぬいぐるみの耳を掴んで、ビームに向かって思いっきり振りかぶった。
また爆発が起き……ビームは消滅した。
『チッ、やるなフォルシア! さすがの聖女力だ! ならば遠慮はせん!』
なんだよ聖女力って! あとビームいっぱい飛ばすのやめろやッ!
「今だ、聖女フォルシア! ボクを掴んで振り回すのはやめて、そこの台座から剣を抜くんだ!」
「は?」
私はぬいぐるみの耳をもって振り回し、アフロビームを迎撃するのに忙しい。
そういう勇者ごっこはそこのアフロ王子にでも頼め。
「キミしかいないんだ! 聖女勇者になれるのは!」
「混ぜれば強くなるんじゃねんだぞいい加減にしろ」
あと遠心力全開で振り回されてんのに普通に喋るな、気持ち悪いわ。
「仕方がない! ダイザーン! カムヒアー!!」
うっわぬいぐるみが呼んだら台座自体がこっち飛んできたこわっ!?
私は反射的に掴んでいたぬいぐるみを振り抜いて、台座を迎撃した。
けど当たり所が悪く、ぬいぐるみは台座じゃなくて剣に激突。
剣が……粉々に、なってしまった。
「聖剣が――――砕けた!?」
「ボクが真っ二つになったのは無視かい?」
ぬいぐるみの胸から下がなくなってるが、知ったことではない。お前が台座を呼んだのが悪い。
「けどこれで……契約成立だ」
「なっ!?」
ぬいぐるみが、光の粒子になって、残された台座に流れ込んでいく。
くっ、早まったか! こいつがいなければ、ビームに対抗できない!
『フハハハ! 観念するがいいフォルシア!』
悪役令嬢のロボ、マジンアルファの胸部が光る。
だが私とロボの間に……台座が、立ちふさがった。
ん? 立った??
ビームが防がれ、台形のそれに雑に脚と、そして腕が生える。
『さぁ、乗るんだ聖女フォルシア!』
乗れねぇだろどこにコックピットあんだよ手足ちょんぎったってその台座に私はおさまんねぇぞ?
『そいやぁ!』
そう思ってたら、間の抜けた声とともに台形が縦ににょーんと伸びた。
でかい。手足も長くなってる。悪役令嬢ロボと同じくらいの大きさになった。5mくらい?
そして超絶ださい。乗りたくない。
『さぁ、ボクに乗るんだフォルシア! 乗 れ !!』
圧かけんな気持ち悪いんじゃ! って、体浮いた!?
そうか、さっき台座を引き寄せたのと同じ!? おのれ!
台座に当たると……不思議な空間に入りこんだ。
『あぁ……フォルシアがボクの中に……』
陶然とした声吐くな怖気でビーム撃てそうなんだが。
「降ろせ、でなくば内側からぶち壊す」
『素敵すぎる是非してほしい!』
『おのれ下劣な神の使徒めッ! 私と変われッ!!』
参戦してくんなせめて悪役令嬢しろ変態。
「変わったら貴様を内側からブチ貫くがいいんだな??」
『『きゅん……』』
だれかたすけて。
『邪神の使徒よ。キミはフォルシアに相応しくない……フォルシアを抱くのは、このボクさ!』
『許さんッ、貴様はこの私を怒らせたッ!!』
怒ってんのは私やで?
『うおおおおおおお!!』『でやあああああ!!』
勝手に戦闘おっぱじめやがった。
『フォルシアは私が!』『いいやボクが!』
勝手に人を巡って戦うないい加減にしろ。
『無防備な脇が』『何を言うその薄い背中だろうッ』『膝裏こそ至高!』『分かり合えんな、服から浮き出た肩甲骨が良いのだッ!』
おい変態どもキャラ変わってんぞなぜ性癖暴露会を始めた?
あとこれは私ぷっつん来て良いな?処す?処すからな?
私は静かに、息を吐く。気合いを入れていく。
『!? 聖女力が高まっていく!』『勇者力まで! そして凹んでいく淑女力!!』
うるせぇ淑やかになんてしてられるかぁ!!
私は、謎の空間の中で。
真っ直ぐに右の拳を――――繰り出した。
謎のビームが。
台形を内側から貫いて。
ロボに当たって、えぐい爆発を起こした。
「くっ、素晴らしき聖女勇者パワー! それでこそフォルシア!
だが私は諦めぬぞッ! また会おう! フハハハハハハハハハ!!」
「…………そう。辞世の句はそれでいいんだ、プリムラ」
今にも逃げるような威勢のいいセリフだったけど、悪役令嬢は普通に石畳に倒れ伏して動けなくなっていた。
「ごめんなさいでした」
「やーい、怒られてやんの」
下座るプリムラ。煽る浮いたぬいぐるみ。
「フンッ」
「ねぇフォルシア、ボク今ので体の左側ないなったんだけど、その拳えぐくない?」
「そう。ではもう一度」
「すみませんでしたゆるしてください」
私は、にっこりと笑って一人と一ぬいぐるみを見た。
「――――変態に慈悲はない。私の乙女ゲームを返せぇぇぇぇぇ!!」
◇ ◇ ◇
…………ほんと、あのときは酷い目に遭った。
アフロ化は解かせ、ロボは没収。ぬいぐるみは台座に埋めた。
互いにはっちゃけてやりとりしたせいなのか……私とプリムラは以降、普通に友達してる。
まぁもともと、同じゲーム好きだし。同じ転生者だし。
変態でさえなければ、プリムラはいい子だしね。
互いの推し(プリムラもイケオジ推しだった)を語るのも楽しい。
断罪イベントは一年生の最後のことだったから、まだしばらくは学生生活が続く。
――――ん?
「どうしたのです? フォルシア」
私のルームメイトになったプリムラが、首をかしげてる。
この変態、放り出すと溜まってはっちゃけるので、そばに置いた方が安全なんだよ。
「なにか、忘れてるような……」
私も彼女と同じように、首を傾げていく。
思い出せない…………。
どうでもいいことのような、大事なことのような……。
その後、盆踊りしながら去って行ったローゼス王子を見た者は、いない。