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8話【尊い・・・ね。】

朝、目を覚ますと、頭の中にはまだ夢の余韻が残っていた。寝ぼけたまま、思わずため息が漏れる。なんという奇妙な夢だったろう。

「どんな夢だ。」

『うわぁ!そうだった。心の声駄々洩れなんでした。』


私達は朝食をとった後、すぐに出発した。馬を走らせていると、アビスが急に寄り道をしたいと口にした。私はそれに従い、馬の進路を変更した。

その先の草むらの中にモノクルを装着した白髪の若い男性の遺体を発見した。

朝露が静かに輝く中、アビスは馬を降り、遺体の側に静かに近づいた。そして、「メーベル」と呟くと、突如として、宝石がジャラジャラと散りばめられた王冠とステッキが現れた。

「すまんな。レクト。お前は優秀だった。もう少し私の為に働いてくれないか…。」

私は不思議に思いながら、アビスが死体に何を囁いているのかを見ていた。その時、遺体が突然息を吹き返した。驚き過ぎて心臓が止まるかと思った。

「全くですね」と、彼はため息をつきながらそう言った。目を覚ましたとき、彼は身を起こした。手に触れるのは、自身の乾きかけた血だった。彼はその血を袖で拭った。そして、彼は問いかけた。「私はどれくらい生きられますか?」

「私が死ぬまでだ」と、彼は静かに告げた。その言葉に、彼の目には深い決意が宿っていた。彼の口角には微笑みが浮かび上がり、その微笑みは苦悩と希望が入り交じったものだった。「貴方に魂を預けておいて良かった」と、彼は言った。その言葉には、感謝と信頼が込められていた。二人の間には、この先の運命への共感と固い絆が育まれていたのだ。


『もしかして、もしかしなくてもこれって、尊みの極みなのでは!?尊い二人の絆・・・何これ!?最高かよー!!!くぅーーーっ!!!』


「レクト、すまないが私はもう王には戻らないかもしれない」と、彼は静かに告げた。その言葉には、決意と悔いが入り交じっていた。彼は自らの過ちを認め、その責任を背負おうとしていた。「王たる意味を忘れ、民を蔑ろにしてしまった。しばらく捕虜としてこの小娘について行こうと思う」と、彼は続けた。彼の決断には、王としての誇りや権力よりも、正義と共に生きる決意が込められていた。彼は新たな旅路を選び、自らの過ちから学びながら、未来への道を歩み始めたのだ。


「では、私は何をすれば良いでしょうか?」と、レクトが尋ねると、アビスは考え込んだ表情を浮かべた。「すまないがまだ城に売れそうなものが残っている。売って資金を作ってくれないか」と、彼は提案した。その言葉には、彼の深い悲哀と現実的な覚悟がにじみ出ていた。「畏まりました」と、レクトは謙虚な態度で頷いた。彼は主の命令に従い、城に残された財宝を売り払いに歩き始めた。


そして二人きりになった。



「お前は、本当にうるさいやつだな」と、アビスはそっと呟いた。その言葉には、愛情と冗談めいた口調が混ざり合っていた。彼の微笑みは、穏やかな夜空に輝く星のように、私の心を温かく包み込んだ。やはり尊い。


アビスは再び馬の背に身を乗り出し、堂々とした態度で主導権を握った。「私が運転する。お前は荒っぽいからな。馬が可哀想だ」と、彼は軽い皮肉を交えながら述べた。その言葉には、彼の優しさと責任感がにじみ出ていた。私は黙って彼に従い、馬の鞍に身を預けた。


「おい、尊いとは何だ。」アビスが尋ねた。

『最上級の賛辞や大好きという気持ちです!!』と私は弾んだ声で答えた。

「ほぅ。どれだけ私の事が好きなんだ。」アビスは興味深そうに問い返した。その眼差しには、探求心と少しの戯れがにじんでいた。



そして私たちは、ケイロス帝国を抜け、最短の道を通ってクラリアス領に入った。草原が広がり、風が優しく吹き抜ける。

「結界が無くなっているな」と、アビスが呟いた。

『キルエルさんの呪いが解けたからかもしれませんね』、私はその理由を推測した。


『アビスの姿を見るとキルエルさん怒っちゃうかな?』と私が尋ねると、アビスは微笑みながら「良い案がある」と言った。


日が暮れる頃に、私たちはキルエルさんの家に到着した。一応、辺境伯だというのに、それは城ではなく、小さな教会がついた家だった。夕焼けが空を彩り、その影が静かな住まいに重なっていた。我々の到着を告げるように、柔らかな風がそよぎ、夜の訪れを予感させた。


家の前で、アビスはみるみると愛らしい黒色の子猫に変身した。その姿は、まるで夜空に輝く星のような輝きを放っていた。しかし、猫のようにとんがった耳ではなく、彼の耳は少し丸みを帯びていた。その姿は、ふわふわとした毛並みと、まっすぐな瞳が彼の愛らしさを一層引き立てていた。私は彼の変身に驚きながらも、その美しい姿に心奪われた。


『凄い!!アビス凄すぎる!!凄く可愛い猫!』と、私は興奮して叫んだ。

「猫に見えて何よりだ。一応言っておくが黒豹だ。だが、猫でいい。」アビスは控えめに微笑みながらそう言った。



家の中に足を踏み入れると、真っ暗闇が私を包み込んだ。部屋の中央には、テーブルの上に二通の置手紙が置かれていた。一通は私宛のものであり、もう一通は誰か分からない人へのものだった。


「アメリアへ。まさか本当に呪いを解いてくれるとは思いませんでした。この手紙を読んでいるという事は、君はやり遂げて帰って来た。解呪方法が分からないままではいけないと思ったので一度祖国へ帰還し解呪方法を探りにいく旅へ出ます。その間、君は念願の城へ行き軍の一員として過ごして下さい。軍の総司令官アズレイ・マッキャノンには話をつけておきました。もう1つの手紙を城門前の兵に渡すとよい。何かわかれば手紙を出します。検討を祈る。追記、領民はほとんどいないが、領地運営も頼んだ。」


その手紙を読み終えると、私は心の中で深く息をついた。


怒りと混乱が私の心を包み込んだ。どうして相談もせずに色々決めてしまうのだろうか?領地運営をしながら軍に行けって、無理がありすぎるじゃないか。軍に行くということは、また戦うということなのだろうか?私は困惑し、心がざわついた。


彼の突然の決断に対して、私は不満を感じた。けれども、それはやり遂げなければならない使命なのだ。踏み出さねばならない一歩が前にある。とりあえず軍へは行くとして、領地はどうすればいいのだろう?アビスは連れていけるのかな。


心に湧き上がる疑問と不安に苛まれながらも、私は次なる行動を検討する必要があると感じた。領地の運営やアビスとの関係についても考慮しながら、私は自らの決断を迫られる中、迷いながらも前に進んでいく覚悟を固めた。



「領地運営なら心配無さそうだな」と、いつの間にか人の姿に戻っているアビスが本棚の資料を見ながら呟いた。


『本当?』と私が尋ねると、「あぁ、資料を見た感じ、領民はごく少数で自給自足の生活をしている。仕事を終え次第レクトにでも任せよう」と彼は答えた。


彼の言葉には、領地運営に対する自信と計画が滲み出ていた。私は彼の判断に安心し、心に余裕を感じた。領地の安定をアビスに任せることで、私は軍に集中できるだろう。


「私も軍に入るとしようか」と、アビスが突然提案した。

『はい!?何言ってるの?』と私が驚きの声を漏らすと、「暇だしな」と、彼は軽い口調で応えた。

『でもアズレイさんが許してくれないかもしれない。』

「心配ない。私はそこらの素人ではない。どうにかなる」と、彼は自信満々に答えた。

彼の意外な提案に戸惑いながらも、私は彼の自信に少し安心した。彼は何かと問題を解決する術を持っているようだ。


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