3話【10年ってあっという間だね。】
彼女が目を閉じて祈ると、周囲にはまばゆい光が満ち溢れました。その光は、彼女の心の奥深くから湧き出ているように感じられました。祈りの中で、彼女の内なる力が目覚めつつありました。
しかし、その光が消えると、彼女は目を開けると驚くことになりました。
「なっ、なんじゃ!?なんじゃ!?」
目の前にいたお爺さんの顔が、なんと若々しく輝いていたのです。彼の皺が消え、肌は滑らかで、眼差しは活き活きと輝いていました。彼女はその姿に目を疑いましたが、やがてその驚きが喜びに変わりました。
「お爺さん、これって…私の祈りのおかげですか!?」
「そうじゃろう。お前さんの聖なる力が、儂の体を若返らせたのじゃ。」
驚きのあまり、彼女は目を見開いたまま、お爺さんの顔を見つめていた。その光景はまるで、彼が別人になったかのようだった。彼の顔は以前よりも輝きを増し、年齢の痕跡は一切感じられないほどであった。
「これが聖属性の力…!」彼女は驚きと喜びに満ちた声を漏らした。
しかし、彼女はその喜びを抑えきれず、さらに調子に乗ってお爺さんを若返らせようと、ありとあらゆる場所に向けて祈りを捧げた。部屋の中に光が満ち、お爺さんの姿が次第に若返っていく。
結果、なんという事でしょう!!!聖女の手によって、よぼよぼだったお爺さんは若々しい少年へと大変身しました。
フッサフサでふわっふわの少し青みがかった髪の毛。愛らしい紫色の瞳。白くてツヤツヤな肌。まさに天から使わされた天使のような容姿を持つお爺さん。その美しさはまるで幻想の中から現れたようで、きっとの人々を魅了し、心を奪ってしまいそうなほどだった。
彼女は目を見張るばかりで、言葉を失っていた。この美しさ、この輝きは、まさに聖女の力が発揮された結果だということに、彼女は確信した。
聖女の力がここまで凄いなんて、彼女は聞いても想像してもいなかった。これまで読んだ転生系の物語の中でも、怪我を治したり病気を癒したりする程度の力しか知られていなかった。しかし、今目の前に現れたのはその想像をはるかに超えるものだった。
「娘さん。」若々しい声で声をかけられた彼女に、お爺さんは驚きの表情を浮かべながら喉をさわる。自分の声に戸惑いを覚えながらも、彼は彼女に微笑みかけた。
「あ、あの。違うの!お爺さん!!こ、これは人間の中にはテロメアっていう細胞がございまして!!ちょっとそこを意識しながら治りますようにって祈っただけなんです!美容に詳しいっていうか何というか!!」と、彼女は必死に説明を試みた。
しかし、一歳児がこんな言葉を口にする光景はどう考えても奇異に映った。
お爺さんは彼女の説明に驚きの表情を浮かべ、彼女の言葉をじっと聞いていた。彼の眼差しは深い理解と興味を含んでおり、彼女はその姿を見て一層緊張した。
「ほっ、ほっ、ほっ、腰痛がなくなったのう。」と言ってニコリと笑うお爺さん。
その反応にコテンと転げてしまった。
「大丈夫かのう?」お爺さんが心配そうに彼女に尋ねた。
「大丈夫です。驚かないんですか?そんなに若返ったのに。」彼女が問うと、お爺さんは遠い目をして窓の外を見つめた。
「若返りのぅ。娘さんが思っているよりかは長生きしとるもんでのぅ。また1から1000年の長い時を生きる事になってしまうのかのぅ。」彼の声には哀しみが漂っていた。
「わー!!!ごめんなさい!!なんかごめんなさい!!聖女の力なめてました!!」彼女は慌てて立ち上がり、全力で謝罪した。
彼女の謝罪の言葉に、お爺さんは穏やかな笑顔を浮かべ、肩を軽く叩いた。
「良いんじゃ、良いんじゃ。寂しくなったら神の国へ帰るだけじゃからのぅ。」お爺さんは優しい笑顔で彼女をなぐさめた。
「そういえば、神の国って何ですか?」彼女が興味津々で尋ねると、お爺さんは深いため息をつきながら答えた。
「この星の最初の国じゃ。人より長い時を生き、人よりもっと自由に魔法を使い、外の人間を管理する者達の国じゃ。儂はそこの出身でのぅ。まぁ、娘さんには関係ない話じゃ。」彼は少し物憂げな表情を浮かべた。
そういえば、この物語の作者は自身の過去の作品を、時には無駄に繋げたり、世界を共有したりすることがある。神の国がその一例なのだろうか。デンデンにはその国は登場しないが、もしかしたらそれは過去の作品で描かれた世界の一角なのかもしれない。作者の奇妙な趣味と縁を感じた。
彼女がふと、お爺さんの名前を尋ねる。その問いかけに、お爺さんはゆったりとした口調で答えた。
「ふむ、わしの名はキルエル・クラリアスじゃ。メロウト王国の辺境伯をしておる。」
その言葉に、彼女の瞳に一瞬だけ驚きが浮かんだ。彼の存在は、ただのお爺さんとしてではなく、王国の一部としての重要な役割を果たしているようだった。
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それから数日間、彼女は自らの新たな生活を模索し続けた。しかし、現実は思い描いていたような冒険や戦いとは程遠く、ただただ退屈で面倒な日々が続いた。かつて夢見ていたサバイバルや逆ハーの冒険は、実際に転生してみると現実とはかけ離れていることに気づいた。
「どうしてこんなに面倒くさいんだろう…」彼女はため息をつきながら、地球での日常生活がどれほど幸せだったかを思い出した。何不自由ない生活、友人たちとの楽しい時間、それらが今は遠い思い出に感じられた。
そんな中、山羊のミルクを飲みながら悶々と考えていると、キルエルさんが部屋に入ってきた。
「娘さん、そろそろ名前を決めんかのう。」キルエルさんが穏やかな声で彼女に尋ねた。
キルエルさんが静かな部屋の中で、彼女に向かって微笑みながら言った。
「娘さん、新しい名前を選ぶのは重要なことじゃ。いくつか提案をさせてもらおうかのう。」
彼女はキルエルさんの提案を待ちながら、興味津々の表情を浮かべた。
「まずは、セリーヌ。柔らかい響きじゃ。次に、リリアン。優雅さが漂うのぅ。それと、アメリア。穏やかで美しい名前じゃ。」
リアはキルエルさんの提案を考える間もなく、心の中で「アメリア」という名前が浮かび上がるのを感じた。その名前は彼女の心を深く打ち、特別なものとして響いた。
「アメリア…」彼女は静かに呟き、その言葉が自然と口から零れた。
キルエルさんは微笑みながら、彼女の選択を尊重した。
「アメリア…リア…それでいいわ。ありがとう、キルエルさん。」彼女は微笑んで答えた。
キルエルさんは満足げに笑みを浮かべ、テーブルに置いてあった紙を宙に浮かせて、リアの名前を丁寧に書き記した。その字は美しく、優雅な雰囲気を醸し出していた。
「ふむ、では、アメリア・クラリアスの名で登録しておくぞい。」
その言葉は重みを帯び、部屋の中に静かな喜びが漂った。リアは自らの新たな名前に安堵の笑みを浮かべ、キルエルさんに深く感謝した。
「ありがとう、キルエルさん。これから、アメリア・クラリアスとして生きていきます。」
「うむうむ、時にリアよ。暇そうじゃのう。」
「当たり前じゃない。赤ちゃんなんだから暇に決まってるでしょ。」
「ふむ。体を鍛えてみんか。」
「体を鍛える?」リアは首をかしげた。
「そうじゃ。若いうちに鍛えないとのう。体力がついた方がいいし、何より戦いに備えるのも大切じゃ。」キルエルは真剣な表情で語った。
「でも、赤ちゃんなのに…」
「いかにもじゃ。お前さんが将来戦いに挑む時に備えておくんじゃ。儂がお前さんに格闘の全てを叩き込んでやる。」
リアは驚きを隠せなかった。赤ん坊ながら、格闘の修行を受けることになるとは思ってもみなかった。
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その後、リアはキルエルさんの厳しい指導のもと、一日も欠かさずに戦闘技術と聖属性の力の応用方法を学び続けた。
最初の数年間は、リアがまだ子供だったため、基本的な動きや体力トレーニングが中心だった。リアは毎日、キルエルさんと共に朝から晩まで厳しい訓練に臨み、汗と涙を流しながら成長していった。彼女は少しずつ身体能力を高め、格闘技や武器の扱い方を習得していった。
10年間の長い歳月が過ぎ去り、リアは成長し、その戦闘技術はますます洗練されていった。アメリアは祈りや呪文を唱え、聖なる光を操る方法を習得し、それを戦闘や日常生活に応用していった。さらに、彼女は聖属性の力を使いこなし、光の力を武器に変える方法を習得した。
キルエルさんもまた、彼女の成長を喜び、彼女に全力で指導を続けた。彼は時には厳しく、時には優しく、リアにとって理想的な師となった。
現在、アメリアは熊を素手で倒せるほどに成長していた。その力と技術は驚異的であり、彼女の姿はまさに英雄のようだった。
しかし、彼女は日々心の中でひとつの疑問を抱えていた。それは、聖女が本来するべきではない行為ではないかということだった。
「聖女がこんなことをするはずはない…」彼女はたびたび自問し、その行動に疑問を感じることがあった。聖女としての役割は、人々を救い、平和を守ることだとされていた。しかし、彼女の日々の訓練は、戦いと暴力に焦点を当てていた。その行為が本来の聖女の在り方と合致しているのかどうか、彼女は常に考え続けていた。
ある日、リアとキルエルさんの間で興味深い会話が交わされた。
「時にリアよ。お前さん昔、王城に入りたいと言っておらんかったかのう?」と、キルエルさんが問いかけた。
リアは思い出すように頭をかすめ、「言ったっけ?入りたいというか、本来の流れでは王城に入って生活してたと言いますか。」と答えた。
キルエルさんは深く考え込むような表情を浮かべ、「そこでじゃ。騎士団か軍に入ってみないかのう。もちろん儂のだす最後の試練に打ち勝った後の事じゃが。」と提案した。
リアの心はざわめき始めた。王城での生活、そして騎士団や軍への入団……。
リアの声に混じる驚きと戸惑いが、部屋に静寂を切り裂いた。
「え?え?ちょっと待ってキルエルさん。情報がいっぱい過ぎる。騎士団と軍の違いって何!?最後の試練?」リアの声が少し震えていた。