2話【温かいところへ行けて良かったね。】
「大丈夫?」彼女が声をかけると、お爺さんは「うう…動けん。」と呻いた。
「じゃあ、そのままでいいから教えて。ここはどこで、何教徒の教会で崇拝してる神の名前は何?」彼女が問うと、お爺さんは尻餅をついた痛みが辛そうに答えた。
「イテテ…ここは、メロウト王国じゃ。信仰しておる神は女神エルメリーチェ様じゃ。」
彼女は彼の答えを聞きながら、メロウト王国という場所で女神エルメリーチェが信仰されていることを知った。この情報が何かの手がかりになるかもしれない。
彼女はお爺さんの痛みを慮りつつも、探求心を抱いていた。
エルメリーチェ、メロウト王国……メロウト王国……思い出せない。読んだことがない小説の中なのかな。それとも、物語が進まないと思い出せない系の世界?でも、どこかで聞いたことがある名前だから、何かしらの物語かゲームの中に転生しちゃったのは確かみたい。
彼女は自分がどこから来たのか、どういう状況にあるのかを探りながら、記憶のかけらをつなぎ合わせようとした。しかし、記憶の欠片はまだぼやけており、一体何が起こっているのかを完全に理解することはできなかった。
彼女は質問を続けた。
「私の髪の色と目の色は何色ですか?」彼女が尋ねると、お爺さんは戸惑った表情を浮かべた。
「えぇ?えぇーっとのぅ、ふむ。金色の髪に、綺麗な澄んだ青い目をしとるな。」
金髪碧眼ってこと!?ということは、聖女かヒロインに転生してる可能性ありってことね。
「魔法は私にも使える?聖なる力とか、そういうものないの?怪我を治したりとか。」彼女が尋ねると、お爺さんは考え込むようにしてから答えた。
「もちろん可能じゃが…いったいどこで覚えてくるんじゃ。むっ、もしや神の、エルメリーチェ様の使いの者かの!?」
「さぁね。そんなことより、お爺さん。魔法の使い方、私に教えてよ。」彼女は興味津々で尋ねた。
「むぅ…。まずはお前さんの属性を見極める必要がある。」お爺さんは重要そうに言った。
お爺さんは、なんとか立ち上がって部屋を出ていった。しばらくして戻ってくると、手袋をはめていて、そこそこ大きな水晶玉を持っていた。
その水晶玉に触れると、自分が保有する魔力の属性なるものがわかるようだと、お爺さんが説明した。彼女は興味津々で、恐る恐る水晶玉に触れてみた。すると、水晶玉は眩く光輝き、彼女の手の中で輝くように輝いた。
彼女の心は高鳴り、自分の魔力の属性を知ることに期待を抱いた。
「おぉぉぉぉ!!!神の使いじゃ!!やはり、やはりそうじゃったか!!!」歓喜の声をあげるお爺さん。彼の喜びに応えるように、彼女も心から喜びを感じた。
彼女はその煌めく水晶玉を手にしみじみと感慨にふけった。自分が神の使いであることを示す証拠――それは、彼女にとって、自分が聖女かヒロインであることを確信する瞬間だった。
『憧れていた異世界転生に、まさに聖なる力が与えられた。これはもう、この世界を謳歌するしかないじゃない!!』
彼女の心は興奮と期待で躍動し、人生を謳歌してやると決めた瞬間。
彼女は心の中で叫んだ。『思い出したーーーー!!えぇ、えぇ、ですとも!!思い出しましたよ!えぇ!』失われた記憶が、彼女の心の奥底から甦った。
【麗しき殿方との甘い宮殿】略してデンデン!!そう、ここは…小説の世界でもあり、乙女ゲーム化もされて発売されたデンデンの世界!!
早めに思い出せて良かった~。じゃなかった。あの話は変わり者過ぎる作者のとんでもない世界!!
彼女は驚きと興奮を抑えきれなかった。しかし、その興奮も束の間、彼女は作者の変わり者ぶりを思い出した。
しかも私、ヒロインを邪魔する聖女かもしれない。いわゆる悪役聖女。この物語自体、自身が悪役令嬢と呼ばれる存在に憑依したっていうところから話がスタートするからヒロインと聖女が本当の悪役でヒロインは悪役令嬢って事になるわね。
もうこの時点でややこしいわ!!!これが漫画なら読者も混乱しちゃうわよ!!
彼女の心は戸惑いと混乱で満ちていた。自分が悪役聖女の憑依者であり、ヒロインを邪魔する聖女である可能性に直面し、その状況がますます複雑になっていくことを悟った。このまま物語が進んでいくと、もし私に読者がついていたら、読者たちも混乱してしまうだろう。
これは小説を読んでいる人にしかわからない話だけど、聖女の生い立ちは維持の悪いおばさんに拾われて、毎日酷い仕打ちを受けて育つのよね。
よし、私の数か月の人生を振り返ってみよう。
あれは真冬の吹雪の中でした。孤独と寒さに震えながら、助けを求めるかのように泣いていると、ドアが開く音がして、ガラガラ声のおばさんに拾ってもらえると思いました。しかし、おばさんは笑っている私を気味悪がり、私を捨ててしまったのです。
だめだ。終わったかもしれない。終わってますわこれ。ひどい仕打ちを受けて育つ聖女様だからこそ、変装して視察にきた王子の目に留まって王城で暮らすようになるはずなのに。
ちょっと良いところに拾われちゃってるじゃん!!あの時笑ったからか!?あの時おばさんに笑いかけてしまったせいで流れ変わっちゃった!?変わっちゃいましたの!?
かといって今自分から酷い仕打ちを受けに戻りたくねぇーーー!!
彼女の心は混乱し、絶望に満ちていた。思い描いていた物語の展開とは全く異なる現実に、彼女は自らの運命に絶望する。
お爺さんは優しいし、なんか全属性扱えそうな超人爺さんだし。それに比べて私、聖属性しか使えないポンコツ。一人で火を起こすこともできなければ水を飲むこともできない。ただ光るだけのお荷物じゃない?
「爺さん、私ってお荷物だわ。」
「何を言うとるんじゃ!この国で聖属性に恵まれる人はおらん。神の国と呼ばれる国ですら聖属性は王族にしか生まれんと言われてるくらいじゃ。やはり神の使いとしか考えられん。」
彼女の心は重たい荷物のように感じられたが、お爺さんの言葉は彼女の心を励ましてくれた。
「聖属性の魔法って今すぐにでも使える?」
「うーむ。一歳弱といったところかの。一歳弱で魔法を使う、又は意識する子等おらんからのう、前例がないんじゃ。じゃが、理論的には使えるはずじゃ。儂はちと特殊な生まれでのう。聖属性以外の全属性を自在に操る事ができるんじゃが、この国の者は媒体となるものがないと魔法を使う事はできん。」
「媒体?」
「皆は確か、メーベルと呼んでおったかいのう。それぞれの体質にあったメーベルが必要なのじゃ。」
彼女の心には、魔法に対する興味と不安が入り混じった。新たなる能力を持ちながら、その使い方や制約について理解しきれていない彼女は、ますます自分の置かれた状況を考え込んでしまった。
メーベル…そうだ!確かにそうだった。デンデンではマジックアイテム的な存在、メーベルが存在してた!剣術が得意な人には剣のメーベル。魔法が得意な人には杖や魔導書のメーベル。
聖女は何を持ってたかなぁ。十字架?いや、祈ってる絵が多かったような?
試しに祈ってみるか…。
彼女は心を静め、手を合わせる。心の中で祈りを捧げる。
『神よ~~!!何か力くださーーーい!!呪いを解いたりとか、癒しの力をくださーい!!』
彼女の心は期待で満ちていた。果たして、神の導きは彼女に何をもたらすのだろうか。