17話【妙な考えをおこすな】
アズレイは深い不安と焦りを抱えながら、エルキースに向かって囁きました。
「聖下、アメリアを勝手に結婚させたら、世界を滅ぼしかねない化け物がおります。勘弁して下さい。」
その声には心配と警告が込められており、彼の心情の深刻さが滲み出ていました。
『ちょっとちょっと!確かにアビスは化け物並みに強いけど、化け物呼ばわりする事ないでしょう!?』
アズレイの警告に対し、エルキースは興味深げに尋ねました。「フィアンセがいるって事かい?」彼の声には好奇心が滲み、アズレイの憂慮をよそに、彼は新たな興味を抱いているようでした。
『フィ、フィアンセっていうか…、どうなんだろ。物語の中みたいに婚約式とかしてないし、微妙なとこよね。』
アズレイはエルキースの問いに対して、深い溜息をつきながら「まぁ、そんなところです。」と答えました。
エルキースは残念がるような表情を浮かべながら、深くため息をつきました。そして、アズレイに向かって静かに語りかけました。
「残念だが、教会側からしたら、純粋な聖属性を宿した血を一族に取り入れたいというのが本音だ。」
彼の声は深い憂いを帯びており、その言葉からはエルキースの内心の葛藤が垣間見えました。
『ひぃぃぃ!?聖属性見抜かれてるぅ!?アビスに隠すように言われてたのに!!それに、アビスが背後にいなかったら政治利用されるって事!?』
アズレイはエルキースの気持ちを理解しつつも、静かな声で彼に向き合いました。
「アメリアは聖属性持ちだったのですか。聖下の気持ちはよくわかります。しかし、アメリアの背後にはアビスという脅威があります。彼はただの強者ではない。彼の存在は、世界にとっての脅威です。」
『そうよ、そうよ。私が必死になって寝ずに4つの村を崩壊させたっていうのにアビスは数秒でドカーンって崩壊させたのよ。』
エルキースがアズレイの言葉に反応し、アビスの名を聞いて身を震わせました。彼の表情には驚きと警戒が交錯し、その瞬間、彼の眼差しには深い思索が宿っていました。
エルキースは驚きを隠せず、アビスの名を口にします。
「アビス?世界の崩壊?まさか、グローリア・アビス・ケイロスじゃないだろうね?」
『やばいじゃん!!この人アビスの本名知ってる人じゃん!!』
アズレイはエルキースの問いに微笑みながら、軽く笑いました。彼は少し驚いているようでしたが、アズレイはその心配を和らげるように言葉を続けました。
「流石に違うでしょう。ケイロス帝王は、俺と同じくらいの歳で、目元に深い皺のある、黒い髪をした長髪の男性で、アビスは黒髪ですが、11歳くらいの少年です。」彼は静かに説明しました。
エルキースはアズレイを見つめ、軽蔑の念を込めて言いました。
『え!?アビスってイケオジ並みのおっさんだったって事!?長髪!?初耳なんだけど!?』
「馬鹿者め。ケイロス帝王は父上の生命力を吸い取り、不老不死となった男だ。姿が少年になっていてもおかしくない。私の姿もそうだろう?義妹君と同じ歳くらいだろう?」彼の声には厳しさと警告が籠っていました。
『確かに確かに。あちゃー、イケオジ凄い顔しちゃってるじゃん。』
アズレイはエルキースの言葉に驚き、冷や汗が彼の額から滲み出るのを感じました。彼は深く息を吐き出し、その重い真実を受け入れることに苦悩していました。
「近頃、父上に会ったんだ。前に会った時は、かなり老化が進んでいた。でも、今は僕と同じ見た目になっていたんだ。」エルキースの言葉に、部屋の空気が一層重くなりました。
「どういう事だ?」
アズレイは驚きを隠せず、エルキースの話に耳を傾けました。彼の言葉が続く間、アズレイの心臓は激しく鼓動しました。彼は困惑した表情を浮かべ、口を開きました。
「父上は僕の義妹君にやられたと笑っていた。」エルキースの言葉は冷たく響き、不気味な静寂が広がりました。
『キルエルさんと会ったの!?最近!?しかも近況報告しちゃってるー!!!』
エルキースはアズレイに向かって、深い眼差しを送りながら問いかけました。彼の声には厳かな重みが漂い、その場に緊張が広がりました。
「アビスと名のる少年の、メーベルは何段階まで解放できていたか、君は把握しているのか?」エルキースの問いには、疑問と不安が込められていました。
アズレイはエルキースの問いに対し、口ごもるようにして答えました。その声は静かで、苦悶に満ちていました。
「私が確認したのは恐らく四段階迄ですが、騎士団からの報告によれば五段階です。」
アズレイの言葉はその場に静寂をもたらし、その重みが空気を凍りつかせました。
通常、メーベルの解放は2段階が限界とされており、それを五段階も解放できるということは、明らかに異常なことであると気づくべきでした。その事実が彼の心に不安と恐怖をもたらし、彼は自らの判断が軽率であったことを痛感しました。
「くしゅんっ!」
凍りついた空気の中、アメリアは空気を読まずに突然くしゃみをしてしまいました。その音は部屋に響き渡り、静寂を破りました。
エルキースはアメリアが風邪をひいてしまうことを心配し、彼女を城の中へ案内することに決めました。彼は心配そうにアメリアの肩を軽く叩き、「義妹君、風邪引くと大変だから、城の中で温まると良いよ。ついて来て。」と声をかけました
城の中へ入ると、二階から一階のホールを見下ろすことができる場所がありました。その場所に立つ銀髪の少年が、静かに一階を見下ろしていました。
彼の銀髪は、光の加減で輝きを放ち、優美な雰囲気を纏っていました。まだ幼い少年だが、まるで城の主としての威厳を示すかのように、風格を放っていました。
銀髪の少年が、突然声を上げました。「おい!エルキース!ここは俺の家だぞ!さも自分の家かのように客人を招きいれるのはやめろとあれほど言っただろ!」彼の声には苛立ちが込められており、厳しい口調で注意を促していました。
セトラの声に驚いたエルキースは、振り返って銀髪の少年を見上げ、急いで反論しました。「セトラ坊ちゃま、違います!この方たちは軍人です。氷龍の討伐に来て下さったのです」と、慌てふためきながら説明しました。彼の声には焦りと不安が混ざり、自分の言葉が信じてもらえるように願っていました。
セトラは不機嫌そうな表情でエルキースを睨みつけましたが、少し頭を傾げてから、軍人たちをじっと見つめました。
『何よ、この偉そうな子供は!顔はまぁ整ってるけど、やっぱりアビスには勝てないわね。』
アズレイはセトラの目を見つめながら、静かな口調で自己紹介しました。「私はメロウト王国の軍人、アズレイと申します。最高位に位置する者として、この度、氷龍の討伐に臨むこととなりました。」彼の声には自信と礼儀正しさが滲み、セトラの興味を引くような落ち着きがありました。
セトラはアズレイの言葉に耳を傾け、彼の顔を真剣に見つめました。そして、彼の地位と任務の重要性を理解した様子で、丁寧な笑顔を浮かべながら自己紹介しました。「ハイドシュバルツ公爵家セトラです。貴方の参加を心から歓迎します。」彼の言葉からは、敬意と礼儀正しさが感じられ、アズレイの役割に対する認識と、彼に対する信頼が伺えました。
アズレイは謙虚な微笑みを浮かべながら、セトラに向けて深く一礼しました。「ハイドシュバルツ公爵家セトラ様、光栄に思います。私たちは王国の平和を守るために全力を尽くします。」彼の言葉からは、王国への忠誠心と責任感が感じられ、セトラも彼の決意に安心した様子でうなずきました。