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神様のサウナ ~神様修行がてらサウナ満喫生活始めました~  作者: イタズ


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上級神続々

俺はボイルの街の様子を見に来ていた。

ファメラの元を訪れて、家の前でテーブルを拡げて野菜と肉の寄付を行っていた。


すると、

ボアボアボア!

メラメラメラ!

急に何かが焼ける音が鳴り響いた。


あり得ない出来事が起こっていた。

俺の目の前に炎が現れて炎の中から人が現れたのだ。

そいつは男性で体を炎で纏っており、上半身裸で入れ墨が上半身の至る所に刻まれている。

蛮族といってもいいような姿をしていた。

締まった身体に均整のとれた身体をしている。

挑発的な眼つきでこちらを見ていた。

そしてその眼は真っ赤だった。


フレイズなる上級神が俺の目の前に現れた。

火の神フレイズ、こいつでまず間違いない。

俺は直感的に感じた。

こいつは強いと。


「島野、我と立ち会え!」

俺に向かって中指を立てたフレイズ。

フレイズの瞳が怪しく光輝いた。

すると急に俺の中の何かが弾けた。

あれ?おかしいぞ。どうした?

闘争心がメラメラと燃え上がって来るのを感じる。

何かの能力か?

興の乗った俺は止まらない。

口角が上がっているのが自分でも分かる。

俺らしくない、どうして・・・

目の前のこいつをぶん殴ってやりたい衝動に駆られる。


「おい!お前がフレイズか?俺のことを勝手に言いふらしやがって。お前何様だ?ことと次第によっては成敗するぞ!」

フレイズはニヤニヤしながら俺を見ていた。

楽しげな表情が逆に不気味な怖さを感じる。


「ほおー、我を成敗するとな?それは嬉しいではないか!」

俺は違和感を感じていた。

こんなに俺が急に好戦的になるのはおかしい、何か精神操作をされているのか?

こいつと殺りあいたいとの強い衝動を感じている。

それも純粋に想いが込み上げてくるのだ。


おそらくこの強烈な闘争心を抑えることは可能だろう。

でも半分神となった今、上級神相手にどれだけ立ち会えるのか試してもみたい。


「ファメラ、子供達を連れて下がってくれ!」


「う、うん」

ファメラは子供達を連れて離れて行った。

肌がヒリヒリするのを感じる。

圧倒的な威喝感だ。

力試しがしたい。

ここは敢えて乗っかってみるか。

俺は『身体強化』で急激にフォーマンスを上げる。


俺は自分から仕掛けていた。

俺は勢いに任せてフレイズの腹に一撃を喰らわせていた。

これは決まったか!

否、浅い。

フレイズは腰を引いて致命傷を避けている。

ならばと転移を繰り返してフレイズをタコ殴りにする。

フレイズも俺の攻撃を避けようと転移を繰り返していた。


でもここは俺の方が一枚上手だ。

俺は転移だけでは無く、行動予測を駆使していたからだ。

結果、俺がフレイズを袋叩きにしていた。

一旦距離を取る。


「ほおー、我を一方的に攻めるとはな・・・」

まだまだ余裕の表情のフレイズ。

だが身体は傷だらけだ。

何を余裕ぶってやがるんだか・・・隙だらけだぞ。

貰った!

俺は拳を握りしめて顎に一撃を放った。

ここで躱されるとは思って無かったが、俺は止まらない。

身体を捻って回し蹴りで鳩尾に一撃を加える。

真面に急所に一撃が入りフレイズの動きが止まる。

フレイズが前向きに倒れ込んでいた。


「うっ!」

これで決まりか?


「ちょっと待ったあ!!!」

ファメラの慟哭が響き渡った。

ファメラの一言が俺を瞬く間に現実に引き戻した。


「フレイズ様・・・島野・・・なんでこんなことになってんの?よく周りを見てよ!加減を考えてよ!」

ファメラは真剣そのものだ。

何かが俺の中から急激に抜けていった。


なっ!

俺は反省しか無かった・・・ほんとにごめん・・・すまなかった・・・許してくれ・・・

どうやらやり過ぎてしまったようだ・・・

孤児達がワナワナ震えており腰が引けていた、泣き出す子達もいた。

なんで俺はこんなことを・・・おかしい・・・何か精神操作された様な・・・でもそれに敢えて乗ってしまった・・・考えが足りなかった。


フレイズはケロッと立ち上がると、

「すまんすまん!ファメラよ!ナハハハ!これは愉快!」

フレイズは悪びれることすらなかった。

当然の如く笑っている。


「フレイズ様!すまんじゃないですよ!何してくれるんですか!無茶苦茶じゃないですか!子供達もいるんですよ!」

ファメラはフレイズに詰め寄っている。


「ナハハハ!これは悪かった!にしても強いな!島野!恐れ入った!我が一方的にやられるとは、創造神の爺い以外では始めてだぞ!」

まったく態度は変わらない。


「おい!・・・お前、俺に何か精神操作しなかったか?」


「ああ、我の挑発の能力だ。でもお前乗っかった振りをしていたよな?余裕が見受けられらたぞ!ナハハハ!」

宣わっている。

どうやら俺もまだまだのようだ、加減を間違ってしまうとはな。

にしても・・・

フレイズの発言に俺は普通に腹が立った。

こいつ・・・どうしてくれようか?


「まあそう怖い顔をするな!島野、我が悪かった!」

フレイズは普通に頭を下げていた。

ん?・・・随分素直だな・・・まあいいのか?・・・

よく分からんのだが・・・


「で、何の用だ?ことと次第によっては締めるぞ!」


「おお怖っ!だから悪かったって、この通りだごめん!」

フレイズは両手を目の前で重ねていた。

はあ・・・もうどうでもよくなってきたな。

何なんだこいつ・・・


「お前に会いに来たんだ、島野。ボイルの街とファメラを救ってくれてありがとうな!」

また頭を下げられた。

ならばお礼だけでよかったのでは?

なんで戦う必要があったんだ?

普通に感謝の意を伝えてくれればよかったのに・・・

こいつ戦闘狂なのか?


「なあフレイズ、戦う必要はあったのか?」

こいつに敬語を使う気にはなれない。

対等に相手をしてやる。

なんか腹立つし・・・

上級神だが何だか知らんが、敬う相手とは思えない。

だっていきなり挑発してくる相手なんだよ?

いいでしょ?それで・・・


「だってよぅ、創造神の爺いがお主でも島野には勝てんかもなって言うんだぜ、そう言われちゃあ挑みたくなるだろうが!ナハハハ!」

フレイズは高笑いをしていた。

そんな理由なのか?

あり得ない。

マジでもう一回締めてやろうか?

怒りが再燃し始めてきたぞ。


「お前、マジでもう一回締めてやろうか?」


「だからすまんて、この通りだ」

はあ・・・凝らしめてやらんと気が済まんが・・・これ以上暴れる訳にはいかんよな。


「それで俺はもう帰ってもいいよな?」


「ちょっと待ってくれ!我もサウナ島に行ってもいいか?」

フレイズはサウナ島に来たいみたいだ。


「いいけど、どうしてだ?」


「我も飲み食いしたいし風呂にも入りたい。それにサウナに入ってみたいのだ。なあ!いいだろ!」

娯楽に飢えてるのかこいつ?

全く、何なんだよこいつは・・・


「別にサウナ島に来る分には構わんが、飲み食いするって、お前そもそもお金を持ってるのか?」


「・・・要るのか?」

フレイズはキョトンとしている。


「当たり前だろ!何でお前にタダ飯を食わせなきゃならんのだ?」


「だって我・・・上級神だもん・・・」


「煩え!上級だろうが下級だろうが、家は全員そういうのは関係無いルールでやってんだ。それに上級神だからって偉いのか?サウナ島ではそんなことは通用しないんだよ!文句あるなら来るな!」

俯きげにフレイズが言った。


「・・・我は見ていたぞ・・・島野はしょっちゅう奢っているだろう?・・・」


「だから?」


「だから我にも・・・奢ってくれ・・・」

こいつどういう神経してんだ?

呆れるぞ。

馬鹿なのか?


「あのな、いきなり喧嘩を吹っ掛けてくる。それも能力を使ってくるような奴になんで奢らないといけないんだ?お前舐めてんのか?」

いい加減マジで締めるぞ・・・


「いや・・・それは・・・うう・・・」

フレイズは完全に落ち込んでいた。

俺は息を整えた。

ふう、意趣返しとしてはこれぐらいでいいだろう。

ちょっと気が済んだからな。

にしてもこいつ・・・常識が無いのか?


「しょうがないフレイズ、お前にチャンスをやろう・・・働くなら考えてやってもいいぞ?」

そう働くならだ。

お前は俺の手の平の上で転がしてやる・・・


「働く?我が?何をだ?」

フフフ・・・しめしめだ。

これであの問題が解決するぞ・・・


「確認するがお前は結界は張れるのか?」


「ああ、出来る」


「ならよし!」

俺達のやり取りをファメラが、未だ冷や冷やしながら見つめている。


「ファメラ、もう大丈夫だ。安心してくれ。こいつの面倒を俺が見てやるからさ」


「島野・・・何だかごめんよ・・・」

ファメラはすまなさそうにしている。


「任せとけ、ただこいつを特別扱いはしないけどな」


「うん、それでいいと思うよ」

ファメラは笑顔だ。


「なっ!ファメラ、お前まで何を言っているのだ!」


「だって、フレイズ様が悪いんじゃないか!」


「うう・・・我が悪いのか・・・そうだな・・・確かに・・・」


「まあ、飲み食いしたければ働け、それは神だろうが人だろうが一緒ということだ」


「そうなのか・・・」

フレイズはしょぼくれている。


「まあいいから一先ずサウナ島に行くぞ、話はそれからだ、行くぞフレイズ!」


「分かった、我!サウナ島に行くぞ!」

急に持ち直しているフレイズ。

こいつやっぱり何処か壊れて無いか?




俺達は連れ立ってサウナ島に向かった。

転移扉を潜ってサウナ島に着いた。

入島受付でエクスにフレイズを紹介するとエクスは腰を抜かしていた。

ランドは言葉も無かった。

俺は気にせずサウナ島に入りフレイズに注意した。


「なあフレイズ、その炎危険だから引っ込めろよな」


「ああ、そうか、すまんすまん」

フレイズは身体に纏った炎を引っ込めた。

もっと早く注意しとくべきだった。

こいつはただの馬鹿だ、他者への気遣いなんて出来る訳が無い。

多分これがあったから、エクスとランドはビビッてたんだろう。


俺達は備蓄倉庫に向かった。

備蓄倉庫から二酸化炭素吸収ボンベを数本回収した。

その後向かったのは海岸だった。

ここならば安全だろう。

俺はフレイズに二酸化炭素吸収ボンベを手渡した。


「いいかフレイズ、これは二酸化炭素吸収ボンベだ」


「二酸化炭素?はて?」

フレイズは何も分かってはいないみたいだ。

でも俺はそもそもこいつに理解は求めていない。


「二酸化炭素とは、簡単にいうと空気を炎で燃やすと、二酸化炭素という物資を発生させるんだ、このボンベはその二酸化炭素を吸収する装置だ」


「ほお、そうなのか・・・で、我は何をやればよいのだ?」


「お前はまず結界を張って、周りに被害が出ない様に注意してくれ、その後結界内を炎で充満させるんだ。その中にこのボンベを入れて、二酸化炭素を吸収させるということさ」

フレイズはボンベを繁々と眺めていた。


「なるほど、我は我の権能にてその二酸化炭素とやらを、このボンベに蓄えさせればよいのだな?」

まあここまでは分かっているみたいだ。


「そうだ、ただ気をつけろよ、あまりに高温過ぎるとボンベ自体が破損するからな」


「そうか・・・加減が大事か・・・」

こいつなりに分かっているようだ、どうやら馬鹿ではないみたいだ。

どう見ても馬鹿なんだがな・・・


「そうだ、出来るか?因みにこのボンベ一本を満タンにさせたら金貨一枚やるぞ」

要はバイトだな。

働けフリーター!


「おお!金貨一枚か?・・・って、それでどれぐらい飲み食いできるんだ?」

俺はずっこけそうになった。

こいつ金銭感覚すらないのか・・・上級神って・・・下界の常識が無いのか?


「まあ、腹いっぱい食ってそれなりに飲めると思うぞ」


「そうなのか?じゃあ一先ず二本は満タンにしたいな」

ガッツリ食う気満々かよ。


「じゃあまずはやって見せてくれ」


「おおよ!任せろ!」

フレイズはそう言うと結界を張り出した。

そして結界内を炎で埋め尽くした。

おお!これは期待できるかも・・・

結界を拡げて更に結界内を炎で埋め尽くしている。

あとはボンベが耐えられるのかだ。

俺は結界の脇にボンベを設置した。


「フレイズ、調整は自分でやってくれ!」


「おうよ!元よりそのつもりだ!」

フレイズは結界の広さを調整している。

するとボンベが二酸化炭素を急激に吸収しだした。

ヒューヒューと音を発している。

おお!これはどうなんだ?


数分間それを繰り返し、どうやら二酸化酸素が満タンに溜まったようだ。

腐っても上級神、仕事は出来る様だ。

しめしめ。


「よし、フレイズもう一本だ!」

俺はボンベをもう一本設置した。


これにより二日に一度の炭酸泉が毎日行われる様になった。

お客からの感謝の声が後を絶たなかった。

ブラッシュアップ成功!

フフフ・・・計算通りだな。


その後フレイズはしょっちゅうサウナ島にやってくるようになっていた。

フレイズは前に俺が想像神様に持ってかれた日本酒が飲みたかったようで日本酒に嵌っていた。

それと辛い食べ物が大好きなフレイズは、何度か予約もせずにサウナビレッジの食堂に侵入し、通報を受けた俺から手痛いしっぺ返しを受けていた。

やっぱりこいつはアホだと俺は確信した。

残念で仕方がない。

そして俺はフレイズと話をしていた。


「なあ、フレイズ、これまでどうしてサウナ島に来なかったんだ?神界から見てたんだろ?」


「ああ、そのことか・・・実はな、爺いから行くなと止められてたんだ」


「どうしてだ?」


「理由は分からんが、爺いは南半球が全て転移扉で繋がるまでは行くなって、我達上級神を咎めたんだ」


「そうなのか・・・」

何でだろう?

何かしら意味があるんだろうか?


「あの爺いは未来予測が出来るから、何かしらの意味があるんだと思うが我にはよく分からん」


「そうか・・・」

未来予測か・・・俺は封印していたな・・・使う気にはなれないが・・・


「だからこの先上級神が我以外にもやってくると思うぞ」


「そうなのか?」

あまり嬉しくはないのだが・・・

神様は充分足りてるっての。


「ああ、神界ではこのサウナ島を眺めるのが皆な好きだったからな。分かるだろ?」


「分からねえよ・・・なんだ?お前達上級神ってのは、覗きが趣味なのか?」


「そうじゃねえよ島野、我達は娯楽に飢えてるのだ」

娯楽に飢えてるって・・・詰まる所暇なんでしょう?

神といっても娯楽は必要ってことね。

まあ分からなくはない。


「それで、今日もバイトしていくのか?」


「おお、助かる。そろそろお金が無くなってきたからな。一気に十本ぐらい溜めていっていいか?」

やる気満々だな。


「いいぞ、任せた」


「よっしゃ!これで日本酒が飲めるぞ!」

フレイズははしゃいでいた。

上級神って・・・ちょろいな。




俺は朝食を食べ終え畑に向かった。

朝のルーティーンの一つの畑の神気やりの時間だ。

畑班のスタッフ達から挨拶を受けて、俺とギルは分担して畑に神気を流していた。


すると突然地面が揺れた。

ん?地震か?

微振動だった。

震度一もない程度の揺れだった。

そして俺達はあり得ない光景を目にしていた。


畑から花魁が生えて来た・・・

何だこれは?・・・


「えええええええっ!!!」

数秒固まった後、皆が叫んでいた。

なんてシュールな絵なんだろう。

花魁が畑から生えてくるなんて・・・


するとアイリスさんが叫んだ、

「お、お母様!!!」


・・・


「えええええええっ!!!」

全員叫んだ後、フリーズしていた。

お母様?

どゆこと?


「息災であったかえ?」

花魁がアイリスさんに話しかけている。

アイリスさんが花魁に駆け寄って行った。


「お母さま、ご無沙汰でございます!」

アイリスさんは眼に涙を浮かべていた。


「お母様、何でこれまで来てくれなかったのですか?」

アイリスさんは駄々っ子の様な表情で詰め寄っていた。

それを涼しい顔で受け流す花魁。


「そう言うではないわえ、余もいろいろあったのじゃ」


「でも・・・」

アイリスさんは言葉になっていない。

ここで俺は意識を取り戻した。

どうなってんだ?いったい。

俺は二人に近づいた。


「アイリスさん・・・こちらの方はいったい・・・」


「守さん、こちらは大地の神アースラ様でございます」

そうなのか・・・アイリスさんの母親ってことは、それ以外は考えられないな。

それにしても花魁って・・・インパクトが過ぎるでしょう。


「余は大地の神アースラじゃ、そちが島野よな?」


「はい、俺が島野です。よろしくお願いします」


「神界から見ておったぞ、娘が世話になっておるようじゃ、礼を言うぞ」

アースラ様は口元を扇子で隠して軽く会釈した。


「いえいえ、アイリスさんにはこちらがお世話になってますよ」

ほんとにそう。

もはやアイリスさんのいないサウナ島は考えられない。


「さようか?アイリスと言う名をもらったんじゃな。良き名じゃ」


「はい!私も気に入っております!」

アイリスさんは笑顔だ。

アースラ様は周りを見回して。


「見事な畑よのう、惚れ惚れするぐらいじゃ」


「私が管理しているのですお母様」

そうです、この畑はアイリスさんの愛情で出来ているんです。

アースラ様はアイリスさんの頭を撫でていた。

嬉しそうにしているアイリスさん。


「して、島野や。ここにアンジェリはおるかえ?」


「ええ、居ますが、お知り合いですか?」

なんでアンジェリっちなんだ?


「そうじゃ、余はあ奴の上客じゃ」

上客?何のこと?店の客ってことか?

聞いたことないけど・・・

あれ?でも前に『転移』は上級神の能力だって、アンジェリっちは言ってたような・・・

前からの知り合いということかな?


「そうなんですね・・・でもこの時間だとまだお店は開いてませんよ」


「さようか?では待たせて貰うぞえ」


「分かりました、ではこちらにどうぞ」

俺はアイリスさんと共に事務所にアースラ様を誘導した。

それにしてもまた上級神の登場かよ。

フレイズが上級神がやってくると言ってたけど、まさか身内の母親とは恐れ入ったぞ。

でもアイリスさんが嬉しそうだから文句はないが、アースラ様は花魁とは・・・

まあお綺麗な女神に代わりはないのだが・・・

何もないと良いのだが・・・ひと騒動ありそうだな・・・


それにしてもちょっと煙管は羨ましいな。

でも室内は禁煙ですよ。

俺も一口頂戴したいな。

久しぶりにタバコを吸ってみたい。

まあどうせ蒸せるだろうけどね。

やっぱり止めとこう。




事務所に入るとアースラ様が意味深に尋ねてきた。


「島野や、ここにはオリビアもおるのかえ?」


「ええ、いますよ、こちらもお知り合いですか?」


「・・・」

あれ?返事が無いぞ・・・

表情が読み取れないな・・・

どういうことだ?


「オリビアは息災かえ?」


「ええ、元気ですが・・・」

アースラ様の言いたいことが読み取れない・・・

表情も読めない・・・

ポーカーフェイスが凄い!

俺が表情を読み取れないとは・・・流石は上級神だな。

ゴンが飲み物を尋ねてきた。


「俺はアイスコーヒーで」


「私は麦茶で」


「余はなんでもよいぞえ」


「では、アイリスさんと同じにしておきます」

ゴンは飲み物を準備しに向かった。


「アースラ様も神界から眺めていたんですね?」


「そうじゃ、可笑しかったぞえ。本当はもっと早く来たかったぞえ」


「想像神様から止められていたんですよね?」

と聞いているが。


「それもあるが、下界は神気が薄くなっておるからじゃ。余達上級神とて、神気が薄いとどうともならんぞえ」

そういうことね。


「でもフレイズは時々ファメラの所にやって来ていたと聞きましたよ」


「あれは別じゃ、火山が噴火したら目も当てられんからな」

確かにそうか・・・フレイズはファメラを手伝っていたのかな?


「特例ということですか?」


「そうじゃ、それにフレイズは炎から神力を得られるのじゃ、ボイルの街であれば問題なかろう」

ファメラの能力と一緒ということか。

ならば問題無いか。


「そうじゃった。愚弟も世話になっておるようじゃな」


「愚弟?」


「フレイズじゃ、あ奴は余の弟じゃえ」


「兄弟なんですか?」

ちょっと意外、全く似てませんがな。


「そうじゃ、大地、火、水、風は兄弟じゃえ」

あらまあ。

雷と氷は違うんだ。

もしかして従妹?


「なるほど。ということは水と風の神様もサウナ島にじきに来られるのですか?」


「それは分からぬ、あ奴等しだいじゃな。余はここに来る理由がいくつもあるのでな」


「理由ですか?」

何の事だ?


「そうじゃ、娘に会いに来てもよかろう?世界樹はある意味余の権能から生まれた存在じゃ。本当は枯れた時に来たかったのじゃが、そうともいかなくてのう、またタイミングも悪かったのじゃえ」

何か来れなかった理由がありそうだな。


「・・・」


「それにここにはアンジェリがおるからのう、着付けと髪を結って貰わねばな」


「それで上客ということなんですね」


「あ奴の腕は別格じゃ、外ではこうはいかぬぞえ」

流石はアンジェリっちだ、上級神も認める腕前とは。

ここでゴンが飲み物を持ってきた。

飲み物を全員に配る。

アースラ様が麦茶に口を付ける。


「ほお!これが麦茶か。良い味じゃ、美味じゃな!」


「ありがとうございます!」

アイリスさんの大好物だしね。

味覚は近しいのかな?


「どうやらこの島には、いろいろな飲み物と食べ物がある様じゃえ?」


「そうなんです、何を飲んでも食べても美味しいんですよ、お母様」

アイリスさんはにこやかだ、こんな表情をするんだな。

母親に対する信頼がそうさせるのだろう。

これまでにアイリスさんのこんな表情は見たことがない。


「ただこの島では食事には金銭を伴いますが、アースラ様は金銭はお持ちですか?」


「守さん、私が出しますわ」

アースラ様はアイリスさんを手で制した。


「アイリスや、そうともゆかぬ。娘に払わせたとあっては余の矜持に関わる。では金銭に変わる物を提供するのはどうじゃえ?」


「金銭に変わる物ですか?」


「そうじゃ、後で先ほどの畑に行かせてもらうとするとしよう」

もしかして畑作業をするつもりなのか?

この着物でか?

作業着を造ったほうがいいのかな?

まあいいか。

アースラ様に任せておこう。


「そろそろアンジェリさんの美容室の営業が始まりますが、あそこは予約制ですが予約は取ってますか?」


「予約制じゃと!余は聞いておらぬぞえ!」

あれま、まあ此処はアンジェリっちに任せよう。


「では先ずは畑に行く、その後美容室じゃな」


「分かりました」

飲み物を飲み切り、俺達はもう一度畑にやってきた。

スタッフ達が畑作業に勤しんでいる。


畑の縁にやってくると不意にアースラ様が叫んだ、

「『豊穣の祈り』!」

すると畑が金色に輝きだした。

農作物が一気に成長を開始する。

凄い!俺やギルの神気やりを遥かに凌駕する成長速度だ。


いけない!見とれていてはもったいない。

俺は全身を神気で纏ってみた。

畑の輝きに集中する。

どうだ?

畑は色を取り戻していった。

・・・

アナウンスはなかった。

パクれなかったか・・・でも何となく分かったぞ・・・次はパクれると思う。


それにしても素晴らしい能力だ、これは恐らくただ神気を与えるだけでは無く、土の中にある栄養素なども同時に作物に吸収させているのだと思う。

大地の神は伊達ではないな。

半端ない能力だ。


それにしても・・・これはどれぐらいの価値になるんだろうか?

畑の全ての作物が収穫できる状態になってしまった。

畑班のスタッフは大変だな。

急に畑全面の収穫作業を行わなければならなくなったからだ。

時間的にみても、一週間は短縮できたと思われる。

これは困った、全く金銭的な価値が分からない。

もう適当でいいか?いいよね?


「アイリスさん、後でゴンに言ってアースラ様に金貨二十枚渡してください」


「分かりましたわ」

アイリスさんはどや顔をしていた。

母親の活躍が嬉しいのだろう。


「島野や、これでよいかえ?」


「・・・ええ、充分です」

ほんとに。

てかやり過ぎです・・・


「さようか?では余は美容室に向かうとしよう」


「お供させて貰います」

俺はアースラ様と美容室アンジェリを目指した。

アイリスさんは収穫作業が急務となった為、畑に残ることになってしまった。

俺も後で手伝います。

これは大変だ。




美容室アンジェリにやってきた。

営業を開始してからまだ僅かだというのに、全てのカット台が埋まっていた。

相変わらず凄い人気だ。


「いらしゃいませ!」

元気な挨拶が木霊する。


「えっ!アースラ様!」


「ほんとだ、アースラ様だ!」

メグさんとカナさんもアースラ様を知っているようだ。

アンジェリっちが前に出て来た。


「アースラ様、お久しぶりです!」


「アンジェリよ、息災かえ?」


「ええお陰様で、守っちどうしたの?」

何故俺がいるのか?という疑問のようだ。


「どうしたのじゃないよ、アースラ様を送り届けにきたんだよ」


「そういうこと、それでアースラ様、どうしましたか?」


「そろそろ髪を結って欲しくてのう、あと着付けも頼もうと思ったんじゃ」

アンジェリっちは苦い顔をしている。


「アースラ様、申し訳ないのですがこの店は完全予約制なんです。エルフの村の店とは違うんです」


「そのようじゃな」


「なのでいくらアースラ様でも、予約が無くては受け付けられないですよ・・・」


「・・・駄目かえ?」

アースラ様は上目遣いでアンジェリっちを見つめている。


「駄目です、上級神様でもこればっかりは・・・」

サウナ島のルールがちゃんと徹底されているな。

よしよし。


「さようか・・・」


「予約していかれますか?」


「そうじゃな・・・」

アースラ様は少しショックを受けているようだった。

でもここはフレイズとは違うところだ。

大人の対応だ。

アンジェリっちも流石だ。

上級神様であっても一客との扱いだ。

商売を分かっている。

それにここはサウナ島だ。

皆な平等ということだ。

上級神であっても特別扱いはできない。


予約を済ませたアースラ様は結局畑に戻ってきた。

俺はアイリスさんにアースラ様を任せて畑の収穫作業を行った。

アースラ様はアイリスさんとメルラドの服屋とスーパー銭湯に向かったようだ。

どうやら風呂に浸かりたいらしい。

着替えが無い為、服も要るということのようだ。


それにしても、まだまだ上級神様の御来島がありそうだ。

その内想像神の爺さんもやってくるかもしれないな。

まあ前にも一度来てるしね。

でも来たら来たで大変だろうな。

特にメタンが・・・


アースラ様は炭酸泉が大のお気に入りとなったらしい。

また食事も大いに気に入ったようで、蕎麦が大好物らしい。

裏メニューのザル蕎麦をしょっちゅう注文しているようだ。

酒も口に合ったようで何度もスーパー銭湯で見かけるようになった。

アースラ様はスーパー銭湯の中では浴衣を着ていることが多く。

男性陣の目の保養になっていた。


アースラ様は威厳があり近寄りがたい雰囲気だが、いざ親しくなると話の分かる女神様だった。

特に他の女神達からの信頼が厚くオリビアさんとも親しいようだった。

どういう関係なのかは俺はよく分からないが、再会した時のオリビアさんは大泣きしていたらしい。

過去に何があったのかは知らないが、俺から聞く気にもなれない。

その内に話してくれるだろう。


それにしても上級神が二人もアルバイトとして働くこのサウナ島って・・・

何なんだろうね?

俺もそうだがこの島も出鱈目だな。

摩訶不思議な島だよ。


因みにだが『豊穣の祈り』は、後日ちゃんとパクっておきましたよ。

サクッとね。

でもこの能力は今のところ使い道がないのだけどね。

アースラ様のバイトを奪う訳にはいかんでしょう?

まあこんな能力は、使い処は無いに越したことは無いのだけどね。

さて、次は誰が来るのだか・・・

まあ俺は通常運転を心がけるだけですよ。




水の神と風の神がサウナ島に現れた。

案の定である。

彼女達は俺の前に直接転移してきて。


開口一番、

「バイトさせて!」


「バイトさせろ!」

遠慮も無く好き勝手に目的を告げていた。

こんなことになるだろうと、俺は前もってアルバイトを用意していたのだ。

彼女達には洗濯機と乾燥機になってもらう予定だ。


これは正直に言ってありがたい申し入れだった。

実はスーパー銭湯とサウナビレッジの裏方作業の一番大変な作業が洗濯なのである。

今はスタッフ達がサウナマットや水取マット等を、手を休めることなく常に洗濯を行っている。

何度か洗濯機と乾燥機を造ってみたのだが、いざ使ってみると燃費が恐ろしく悪かったのだ。

なかなか上手くはいかない。

魔石に風魔法を付与した乾燥機は風魔法を使えない者達用に造ったのだが、燥くまでに時間が掛かった。

その為、常時魔力を流していないといけない為、直ぐに魔力が底を付いてしまう。

これでは使い物ならない。

改良を重ねようにも何処をどう弄ったらいいのか分からず、今は塩付けとなっているのだ。


洗濯機はもっと雑だった。

水を発生させる方向を調整して、水流があるだけの物になっている。

始めは浄化魔法を多用する洗濯スタイルだったのだが。

やはりお日様の匂いのする方が良いと、水から洗濯するスタイルを今は取っている。

勿論洗剤は使っている。

手間がかかるのは分かっているのだが、ここは譲れないところだ。


聞いたところでは五郎さんの所でもそうしているらしい。

想いは一緒ということだ。


水の神アクアマリン様は洗濯、風の神ウィンドミル様は乾燥という役割だ。

アクアマリン様は結界を張ってその中に洗濯物を入れていく。

アクアマリン様は特徴的な水色の髪を靡かせながら、楽しそうに作業を行っている。

ブルーのワンピースがよく似合っている。

とても穏やかな女神様だ。


結界内に水を大量に発生させ大量の洗剤を入れて、グルグルと洗濯物を回していく。

もの凄い水流だ。

そして泡立ちも良い。

その後すすぎを数回行って。

洗濯は完成する。


ウィンドミル様も結界を張って、その中に洗濯の済んだ洗濯物を入れていく。

結界内を強風で満たし、ものの数分で洗濯物は乾燥する。

強烈な乾燥機そのものだ。


ウィンドミル様は黒髪のお淑やかや女神様だ。

すらっとした体躯にこちらは緑のドレスを纏っている。

二人の女神は特徴こそ違えど美人の女神様だ。

聞いた所ではこの二人は双子の様だった。

髪色等が違ってなければ区別がつかない程にそっくりだ。

ていうか、この世界の女神は全員美人さんだ。

黙っていれば見惚れてしまうと思う。

あくまで黙っていればである。


現に洗濯機と乾燥機に成り変わった女神様達は、

「ウォリャー!」


「トリャー!」

等と言いながら作業をしている。

・・・

洗濯物と戦うなよな。


そして、こちらも作業の対価の金銭価値がよく分からない。

どうしたものかと思案したが、三日間分の洗濯物をしてくれたので、一人金貨十五枚渡しておいた。

これで合っているのかは全く不明だ。

まあその分スタッフ達は外の仕事に掛れるので良しとしよう。




アクアマリン様は甘味が好きなようだ。

よくソフトクリームを食べているのを見かける。

そしてかなりの酒豪のようで、前にレケを潰しているのを見かけたことがある。

甘味好きで飲める人って酒豪が多いよね?

アクアマリン様はいつもケロッとしている。

随分とさっぱりした性格のようだ。


ウィンドミル様はピザが好きなようで、たまにメルルにマルゲリータ以外のピザを作ってくれと注文しているみたいだ。

実は裏メニューでピザは何種類もある為、通な注文をしているとも言える。

神様にしては珍しくあまりお酒を飲まないみたいだ。

だが決して飲めない訳ではないらしい。

あまり好まないといった程度のようだ。


ウィンドミル様は見た目通りおっとりとしている性格だ。

話をしている時も時折何を考えているのか分からないところがある。

会話のリズムもゆっくりだ。

フレイズとアースラ様のインパクトが凄かったから、どんな神様が来るのかと身構えていたが、そんな必要は無かったみたいだ。


この二人もその後サウナ島でよく見かけることになった。

サウナ島は今では普通に上級神様が闊歩する街になっていた。

なんだかね・・・

まあ、上級神だからって気は使わないのだけれどね。

ていうか神様多すぎなんだよ!

いい加減にしてくれ!


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