火山の街ボイル
後日、このサウナハット現象に目を付けたジョシュアからある提案をされることになった。
それはブランド化である。
ジョシュアから、
「〇島標はこの世界では注目すべきブランドです!まずは服飾からブランド化をさせていただけないでしょうか?」
という提案を受けた。
言わんとすることは分かる。
だがここでのブランド化は服飾に留まるとは思えない。
そこで俺は一先ずこのブランド化に打ってつけの人物に相談することにした。
それはマリアさんである。
彼女の芸術力は今さら語る必要はないだろう。
抜きに出ているだけではない、その感性すら素晴らしいのだ。
そこに商業的な視点で彼女が考えれる人物なのかどうかを俺は知りたかったのだ。
場所は社長室である。
ジョシュアとマリアさんが俺の前に腰かけている。
そしてマリアさんは既に興奮気味である。
眼がぎらついている、今にも飛び掛からんばかりの勢いだ。
ちょっと怖いのだが・・・
「守ちゃん聞いたわよ!ムフ!」
マリアさんの鼻息は荒い。
ジョシュアには概ねの話をマリアさんにしておくように指示していたのだ。
「マリアさん、まあ落ち着いてください」
顔が近いって・・・
唾が掛かりそうなんだけど・・・
「これが興奮せずにいられますかっての!」
今にも叫びだしそうだ。
俺は唾が掛からない様に後ろに仰け反って話し出す。
「いいですか?島野ブランドの立ち上げを行うと共に、マリアさんには主に服飾の商品のアドバイザーをして貰おうかと思います」
「いいわよ!もちの論よ!」
「そこで商売のイロハをマリアさんは学んでください。そうすれば歌劇場についても計画ができるようになるのでは?と思うのですが、どうですか?」
「ムフ!・・・守ちゃん・・・あなたって人は・・・」
マリアさんは感心しているようだった。
「分かったわよ、やってやろうじゃないのよ!」
マリアさんは顔を近づけてきた。
だから近いって・・・
「じゃあ詳細は後日という事で、よろしくお願いします」
「ムフ・・・エクセレントよ!!」
結局叫ぶんだ・・・
煩い!
ブランド化について打ち合わせを重ねている。
「先ずは今あるルートとして、カベルさんに服飾は作成して貰うとして、その前にデザインをマリアさんは作ってください。それも出来るだけ今までにないデザインをお願いします。それを俺とジョシュアがまずはチェックして、問題無ければカベルさんに発注する、という流れにしましょう」
「了解よ!」
「島野さん、決定事項として、全ての商品に〇島標を付けること、そして今後島野さんが開発する商品は全てこの〇島標を付けてここで販売するということでよろしかったでしょうか?」
「そうなる・・・なあジョシュア、メルラドの服屋と随分と被るがどうなんだ?」
「そこは任せてください。リチャードさんとは俺が話を付けます。それにあくまでこちらはブランド化です。商品が被るのは当然かと、商品に魅力があるかどうかは客が判断します。それに俺が売りたいのは〇島標です」
随分と強気だな。
まあ、未だに〇島標の入ったタオルを首や腰からかけている人がいるぐらいだから、分からなくはないが・・・
「特に絶対販売しなくてはならないのはサウナ関連商品です」
「でもサウナビレッジや、スーパー銭湯でも販売していると思うが?」
「そうです、ここでも販売します。料金は一緒でいいです。大事なのはブランドショップで買ったということなんです」
「そうなのか?」
「はい、客が求めるのは島野ブランドのお店で商品を買う事なんです。そこに価値を感じるのです」
と言うことらしい・・・
俺にはよく分からんがそんなもんなんだろうか?
「それに服飾とは言っても作業着をメインに考えています」
「ほう?」
作業着ならそんなに被らないかな?
「実は前に期間限定社員で雇って貰った時に頂いた長靴と作業着なんですが、今は畑作業を行わなくなったのでメルラドの友人に譲ったんです」
「・・・」
「その友人は作業着と長靴をいたく喜んでくれており、何処で売っているのかと聞かれたことがあります」
そういうことか。
「なるほど」
「作業着も長靴も機能性が高く高品質です。これは売れるに決まってます」
「かもしれないな」
要は●ークマンだな。
「普段着なんかはメルラドにお任せして、作業着などに特化した服飾をそれも〇島標入りで販売するんです」
「そうか」
「その為、一つ島野さんにはお願いしたいことがあります」
「何だ?」
「〇島標の入った紙袋を大量に作ってください」
ほうほう・・・ジョシュアが言いたいことが分かってきたぞ。
「そうか・・・分かった・・・」
「これが重要な部分です」
ジョシュアはどや顔だ。
「ジョシュアちゃん・・・あなた分かってるわね」
マリアさんも趣旨を理解できたようだ。
「要はステータスを求めるということだな?」
「そういうことです、それに〇島標は高品質であるということが、これまでの経験から皆なが知っています。そこにマリアさんの芸術性が加われば鬼に金棒かと・・・」
「分かった、実はな一つ開発したい商品があるんだ。服飾ではないが大いに流行る商品じゃないかと思う。それのお披露目がてらショップを作ってみるか?」
「おお!それはどういった商品ですか?」
「まあ、それはお楽しみだな」
俺としてはブランド化に関係なく、この商品の販売をする店というだけで、充分に儲かる気がしてならない。
まあブランドショップに花を添えてあげると考えればいいだろう、それにジョシュアにはただのブランド化というだけでは無い、何かを考えている気がする。
俺はジョシュアに全幅の信頼を寄せているから、好きにやらせようと考えている。
こけたらこけたでいいだろう。
やりたいことがあるのなら全力でやればいい。
俺はサポートするだけだ。
さっそく俺はマークとランドとブランドショップを造ることにした。
ものの一週間でお店は出来上がり、当然内外装はマリアさんの手で行われた。
ブランドショップの看板には大きく〇島標が入っていた。
うん目立つな。
誰が見てもこれは島野標のブランドショップと分かるだろう。
俺はブランドショップの計画の遂行実施をジョシュアに任せて、新商品の開発を行っている。
先ずは俺が試そうと作成に取り掛かった。
今回造る商品はホバーボードだ。
バックトゥー・ザ・ヒューチャーで、マーフィーが未来で乗っていたあれである。
まずは先が上に曲がった板を作製し、その下に神石を二つ『合成』で張り付ける。
その神石に『浮遊』の能力を付与し、地面から浮かぶのを確認する。
グリップが滑らないようにと、ゴムを靴が触れる箇所に張り付けあっさり完成した。
本当はスケートボードを造ろうかと思っていたが、舗装が出来ていないこの世界では上手くいなかいだろうとホバーボードにしたのだ。
早速試乗してみる。
良い感じでホバーボードが浮かんでいる。
それに俺は乗っかり浮遊感を感じてみる。
おお!予想以上にフワフワするな。
今度は体重移動してみる。
んん・・・思いの外進まないな・・・
では地面を片足で蹴って進んでみよう。
良い感じで推力が得られている。
これは・・・良いんじゃないか?
すいすいと進んでいく。
まるで氷の上を滑っているようだ。
ホバーボードは蹴り上げる推力は必要だが、一定の推力を得るとすいすいと進んで行く。
これは面白い!
もしかして新たな移動手段にもなるかもしれない。
それぐらいの可能性を感じてしまった。
俺は『念話』でギルを呼び出し、まずはホバーボードを試させた。
「うわわわ!パパ!これ凄い面白いよ!」
ギルは直ぐに乗りこなしていた。
流石はドラゴン・・・運動神経抜群だな。
ギルは楽しそうにしている。
「ギル、これの魔石バージョンを造るぞ!」
「喜んで!」
おい!どこの居酒屋だ!
その後、試行錯誤を繰り返しながらも、ホバーボードが完成した。
それを試した身内からは、
「これ欲しい!」
「いくらですか?」
「絶対買います!」
大好評だった。
安全を考えて、ヘルメット、肘当て、膝当ても作成した。
ほとんどゴム製となってしまったが、安全には変えられない。
皆にはヘルメット着用を義務化した。
これが新商品だとジョシュアに渡すと。
ジョシュアは、
「何てことをしてくれたんですか?想像の遥かに上を行き過ぎですよ!」
何故か叱られてしまった。
でもこれが大いにウケた。
ブランドショップは、ホバーボード屋として商売を開始することになってしまった。
ジョシュアとしては出先を挫かれてしまったことには違いはないのだが、彼は商魂逞しく。
ここからブランドショップを軌道に乗せる!
と気合たっぷりだった。
ジョシュア・・・何だかごめん・・・
今では街の至る所でホバーボードを使っている人を見かける。
移動手段になっているのかはさておき、一人一台持っているのでは?
というほどのブームになっていた。
因みに一台金貨五枚と決して安くはないのだが、我先にと飛ぶように売れていってしまった。
タイロンではホバーボードの事故もあったと報告を受けていたが、ちゃんとヘルメットを装着していた為、大事には至っていないとうことだった。
よかったよかった。
そしてこのホバーボードだが、ランドールさん曰く建築部材の移動にも役立つと、建築現場でも使っているらしい。
そこまでの強度があるのか心配したが、結構うまくいっているようだ。
更にホバーボードが海面上でも利用が可能なことが判明した。
これをゴンズ様が利用しない訳は無い。
漁でも新たな利用がなされることになり。
特に接近戦が難しかった海獣の狩りに役立つと、ゴンズ様は言っていた。
思わぬ副産物であった。
そうと分かるとサウナ島でもホバーボードの改良版を造った。
クルーザーの後部に紐で繋げて引っ張るという、新たな遊びが大人気となった。
要はウェイクボードである。
皆な遊びへの転用が好きなようです。
休日の従業員達が我先にと、ウェイクボードを楽しんでいた。
その後ブランドショップでは、タオル、バスタオル、サウナハット、ポンチョ、ガウンのサウナ関連商品は元より、作業着、靴下、下着、上着、長靴、安全靴、足袋などが飛ぶように売れた。
特に作業着の売れ行きは凄まじく、機能性に合わせてマリアさんのデザインが大いに評価されていた。
先日ランドールさんに会ったが、全身〇島標のコーデであったのが少し笑えたが、本人にとっては大のお気に入りらしい。
ランドールさん曰く、周りからの評判もいいと鼻を高くさせていた。
女性人気も高いらしい・・・
彼が言うと説得力に欠けるのだが・・・
まあ好評でなによりです。
既にブランド化は成功したと言ってもいいかのしれない。
さて、俺は今後について考えている。
最近では久しぶりとなってるが、今は釣りを行っている。
考え事や考えを纏めたい時には釣りに限る。
ただそんな時の釣果は著しく悪いのだが、それはご愛敬として欲しい。
寄り道だらけの神様修業だが、いよいよ人では無くなった為、この先をどうするのかを思案中だ。
半人半神ともなれば、神様修業も半分は終えたとも言えるだろう。
俺が知る限り南半球の国や村、街にはほとんど訪れており、後は火山の街『ボイル』を残すだけである。
ロンメル情報よるとこの村にはフェニックスが居るということらしい。
あの聖獣から神になったという神獣だ。
南半球最北の街で『火山の街ボイル』その名の通りここには火山が有るということらしい。
そしてこの火山だが、どうやら活火山のようだ。
今でも火山活動は続いているらしい。
数年単位で噴火を繰り返しており、余談を許さない状況が続いているとのことだった。
その内容に俺はこれまで避けていたことは事実で、いつ噴火するか分からない火山の街に行くことに、躊躇していたのだ。
俺としては安全第一に勤めたいからだ。
そして、いつかは北半球に乗り込まなければいけないことは理解している。
だが北半球は謎に包まれており、情報はほとんど皆無と言ってもいい。
聞いた限りでは、数百年前には北半球とも交流があったようだが、いつしか交流が無くなり、今ではほとんど絶縁に近い状況にあるみたいだ。
特に百年前の戦争からは、全くといっていいほど交流は途絶えているようだ。
そして百年以上前の話となると、知っている者すら少なく、また聞いても内容が眉唾ものが大半らしい。
北半球に乗り込むとして、どうやって乗り込むのか?
メンバーはどうするのか?
その際にはサウナ島はどうするのか?
考えなければならないことは多岐に渡る。
でも先ずは『火山の街ボイル』を目指そうと思う。
フェニックスに挨拶をし、いつもの神気減少問題の対策も行わなければならない。
さて、どんな出会いが待っているのだろうか。
ちょっと楽しみでもある。
お!引きがあったぞ。
それ!
どうやら今日は坊主ではなさそうだ。
今日の俺の晩飯はお魚定食だな。
俺はギルとゴンを連れて『火山の街ボイル』を目指すことにした。
ゴンに話をすると、
「主、私も同行させてください。フェニックスに興味があります」
と言うことだったからだ。
聖獣から神獣に成った存在。
興味があって当たり前ということだろう。
断る理由も無い為同行を許した。
外の聖獣勢は特に興味無しといった具合だったので、留守番を頼んだ。
ゴンは前にもそうだったが、自分のルーツや存在意義について人並み以上に興味があるようだ。
俺達はダンジョンの街エアルに到着した。
ロンメル情報によると、ボイルはエアルから北西に陸路で七日間程度とのことだった。
エアルとボイルは数は少ないが交易もあるらしい。
ボイルの特産品は野菜と果物で、特にダイコンはとても大きな形状をしてるらしい。
ミカンは糖度が高く美味しいと評判だ。
外にもサツマイモやお茶が栽培されているようだ。
ただ、火山の齎す弊害もあるようで。
栽培が上手く行く時といかない時があるらしい。
俺の予想としてはその原因は火山灰だろうと思う。
それ以外には考えられない。
まずはカインさんに挨拶を行うことにした。
彼はいつものべスポジにいることだろう。
ダンジョンの入口に行くと、案の定ダンジョンの入口でカインさんは胡坐を掻いていた。
「カインさん、こんにちは」
眼を開けるとカインさんはこちらを見た。
少し眠そうだ。
「おお、島野君、それにギル君とゴンちゃんまで、どうしたんだい?」
「これからボイルに行こうと思ってまして、ちょっと寄ってみたんです」
「そうなのか、ボイルに・・・」
こうしている間にも、ハンター達がダンジョンの入口で受付を行っていた。
ダンジョンはその後も盛況のようだ。
「はい、ボイルにはまだ行ったことが無いので、転移扉を繋げに行こうかと思いまして」
「そうなのか、それは良い事だ。この街には少しだが交易があるから、これからはもっと移動が楽になりそうだ」
「そうなりますね、でもフェニックスの同意を得られれば、ということなんですけどね」
「断る理由がないだろう?大丈夫だよ、彼女も分かってくれるだろう」
彼女?そうか女性なのか・・・勝手に男性と想像していた。
これは良くない、此処に立ち寄って正解だったようだ。
「女性なんですね?」
「とは言っても私も会ったことは無いんだけどね、商人から教えて貰ったんだよ」
「そうですか・・・」
「確か名前は・・・ファメラだったと思う。特徴的な名前だったから憶えているよ」
「ファメラ・・・確かに特徴的ですね」
「あ!そうだ。今日の夜にスーパー銭湯に行かせてもらうよ。今では金銭的にもゆとりが出来てきたからね」
カインさんは嬉しそうだ。
前に神様ズへの毎月の報酬を配った際には、とても感謝された。
今では毎晩と言っていいほどスーパー銭湯に通っており、食事に舌鼓を打っているみたいだ。
サウナビレッジの予約が出来ないと愚痴も溢していたようだが・・・
彼からは次のサウナ検定は何時なんだ?と迫られている。
次の予定は無いのだが・・・結構問題を十問被らなく作るのも難しいものなのだよ。
前回の問題と模範解答は既に出回っているしね。
それはそれでサウナマナー向上に繋がっているから、いいんだけどさ。
そんなことはさておき、ここで油を売っている訳にはいかない。
俺達は挨拶を済ませてボイルの街を目指すことにした。
移動方法は最早安定の上空での瞬間移動を繰り返した。
三時間ほど進んだところで街っぽい景観が見えて来たので、瞬間移動を止めて地面に降り立つことにした。
ギルもゴンも慣れたもので、転移酔いすらなかった。
ゴンはあまり瞬間移動での移動は行っていなかったはずだが、聖獣の三半規管は頑丈に出来ているようだ。
俺達は街道筋の様な道をゆっくりと歩くことにした。
それにしても・・・
目の前には大きな山が聳え立っていた。
とても雄大な山だ。
標高はどれぐらいなんだろうか?
雰囲気としては阿蘇山に似ている。
先程までの上空から見た感じとしては、カルデラの地形をしていた。
山の上部に向かえば向かう程、地面が剥き出しになっている。
正に活火山だ。
街の入口では簡単なチェックを受けることになった。
「ボイルに訪れた目的は?」
皮の鎧を纏った兵士に尋ねられた。
険悪な雰囲気は全くない。
「フェニックスに会いに来ました」
そのままの目的を告げた。
「ええっ!」
とても驚かれてしまった。
「今は何処にいますか?」
「何処にって・・・多分モンドール山の中にいると思いますよ」
「山の中ですか?」
「はい、彼女は大体そこに居ますので」
「そうですか・・・ありがとうございます」
ゴンとギルも首を傾けていた。
いまいち要点を得ない回答だった。
「ではどうぞ」
街への入場は許可された。
街の雰囲気としては、広大な山の裾に出来た街で、のどかな雰囲気と喧騒の入り混じった独特な雰囲気があった。
建造物のほとんどが石やレンガで出来ており、頑丈な印象を受ける。
噴火した時のことを考えて、木製にはしていないのかもしれないな。
人の数もそれほど多くは感じないが、長年に渡り脈々と歴史を重ねてきた街であることが空気感として分かる。
新しい建造物などは見当たらない。
中世ヨーロッパの田舎町といったところだろうか。
道行く人々にフェニックスの居場所を尋ねてみたが、
「山の中じゃないかい?」
「山の中だと思うぞ」
こちらも意味が分からない。
もしかしてそのままの意味で、噴火口にでもいるだろうか?
だとするとちょっと困るな。
いけなくは無いのだが・・・少々危険では無かろうか?
「ギル、ゴン、フェニックスは本当に火山の噴火口に居るってことなのか?」
「そうとしか考えられないよ」
「そうですね、主」
どうしたものか・・・
そうだ!
「二人共ちょっと待っててくれるか?」
「いいけど・・・」
「はい・・」
俺は瞬間移動で山の中腹に転移した。
ここで『探索』を使用する。
すると噴火口らしき場所の近くに青色の光点があった。
おいおい、そのまんまかよ。
参ったなこりゃ。
一旦二人の所に戻った。
急に転移してきたが二人に慌てた様子は無かった。
俺が何をしにいったのか分かっていたようだ。
結果を告げなければならない。
「言葉通りだったよ、火山の噴火口の側にいたよ」
二人は困った顔をしていた。
「どうするの?」
「主・・・」
「行くしかないだろう、どうする?結界を張ったらいけなくは無いだろうが、危険だぞ。活火山だ、いつ何時噴火活動を始めるか分かったもんじゃないからな」
「だよね」
「・・・」
「一先ず俺だけ行って、フェニックスを呼んでくるか?」
「いえ、せっかくです。お供させてください」
「僕も行くよ」
そうは言うが本当に大丈夫だろうか?あまり危険な目には合わせたくは無いのだが。
もし噴火にでも巻き込まれたら堪ったもんじゃないぞ。
まあ、結界が破れるとは思えんけど。
問題はガスだな。
火山の噴火に伴うガスは致死性があったはずだ。
最悪は転移で逃げるか?
そうだ、そうしよう。
どうにも危なそうなら転移だな。
「よし、取り敢えず行ってみるか?どうにも危なそうなら転移すればいいしな」
「そ、そうだよね」
「う、うん、そうですね」
二人は不安そうだ。
そりゃあそうだよな、俺に命を預けるってことだもんな。
全ては俺の能力しだいってことだからね。
まあ、行くしかないな。
「じゃあ行くか!」
敢えて大きな声で言ってみた。
「「はい!」」
元気よく返事が返ってきた。
お!腹を決めたようだな。
よしよし。
俺はギルとゴンと共に転移して山の中腹に転移した。
ここでまずは結界を張る。
そして山頂付近に移動した。
シュン!
「お!これは凄い!」
思わず声に出していた。
眼の前には正に火山活動真っ最中の火口部が見えた。
まるで生き物のように噴火口が上下し、息をしているかのようだ。
赤色や黒色が入り混じっている。
その表面は柔らかいアスファルトを彷彿とさせる。
しかしその下には溶岩があり、何千度、何万度という強烈な熱を持ったマグマが蠢いている。
「うう」
「うえ」
ギルとゴンも言葉になっていない。
すると視線を感じた。
眼をやると噴火口の脇で一羽の鳥がいた。
フェニックスか?
その様は正に火の鳥だった。
全身を炎が纏っており、優雅に開かれた羽にも悠然と炎を纏っている。
そして鋭い眼光でこちらを睨んでいた。
その視線は強烈だ。
こちらを見透そうとするかのようだ。
不意にフェニックスが飛び立った。
こちらに向かってくる。
見惚れるほど優雅に舞っていた。
羽の動きはゆっくりではあるのだが思った以上に跳躍力を得ていた。
悠久の時を刻んできたであろうその佇まいは、彼女の存在をより際立たせている。
とても神々しい。
俺はそう感じてしまった。
俺達の目の前でホバリングしたフェニックスは、
「ここに来ては危ないよ、帰りなよ」
声をかけて来た。
「そう言われても、こちらはあなたに会いに来たんです」
俺の発言にフェニックスは首を傾けている。
「僕に会いに来たの?」
僕っ子かよ。
「そうです、俺も神みたいな者なので・・・」
「へえー、そうなんだ」
「俺は島野守、よろしく」
「島野・・・ああ!君が!」
ファメラは俺のことを知っていたようだ。
意味ありげにこちらを見ている。
「俺のことを知っているのですか?」
「聞いてるよ、フレイズ様からね」
フレイズ?
誰?
俺のその様子に気づいたのか、
「まあいいよ、それよりも場所を変えた方がよさそうだね?」
「ここから離れても宜しいのですか?」
「数日なら問題ないよ」
ファメラは飛び立っていった。
俺はファメラを追いかけて転移を繰り返した。
その様子にファメラは、
「へえー、やるねー」
そう呟き目を細めていた。
それにしても速い、ギルやエルよりも数段に速い。
動きは優雅だがそのスピードは驚愕的な速さだ。
羽の動きと合っていない?
炎を纏っているからか?
驚異的な瞬発力だ。
追いかけること数分。
一件の屋敷の前にやってきた。
ファメラは着地すると同時に人化していた。
その姿は少女の様だった。
だがもしファメラが女性であると聞いていなかったら、そうは見えなかったかもしれない。
とても中性的に見える。
現に一人称が僕だしね。
短く刈り上げた金髪の髪に健康的な褐色の肌。
穏やかさを含んだ視線は男性とも女性ともとれる。
服装は個性的な臍だしルックで、ショートパンツが似合っていた。
「ここが僕の家だよ」
手を広げて見せている。
大きな家だった。
一人で住むには広すぎると感じる。
二百坪は有りそうな屋敷だった。
「ここにお住まいなんですね?」
「そうだよ、孤児の皆と一緒にね」
だからか・・・広いと思ったんだよな。
ファメラの気配を感じ取ったのか、家の中から子供達が飛び出してきた。
「ファメ姉!お帰り!」
「ファメラ!」
「ファメラ!お腹減った!」
子供達は駆け寄りファメラに抱きついている。
子供達は元気一杯だ。
「こらこら、お客さんがいるから辞めなさい」
ファメラも嬉しそうだ。
俺は笑みが零れてしまった。
ギルとゴンを見ると、二人も笑顔でこの光景を眺めていた。
こうなったらやるしかないでしょう!
「ファメラ様、この子達はお腹が空いているようですが、俺達に任せて貰えませんか?」
「え!どういうこと?」
「まあまあ、こういうのは得意なんで」
ギルとゴンに合図を送って。
さっそく食事の準備を開始した。
俺は始めてリズさんの教会に訪れた時を思い出していた。
『収納』からテーブルと椅子を取り出し食事の準備を開始する。
ギルとゴンもノリノリだ。
子供達とコミュニケーションを取りながらも食事の準備を進めていく。
そして食事の準備が完成した。
「おおー!」
「旨そう!」
「良い匂いー!」
子供達も涎たらたらだ。
「じゃあ皆な、席に座ってくれ!」
俺は子供達を席に誘導する。
「じゃあファメラ様、お願いします」
あれよあれよと始まった急展開に、ファメラ様は面食らっていた。
付いて来れていない様子。
「ええと・・・いただきます」
「「「いただきます!!!」」」
子供達の元気のいい掛け声が木霊する。
食事が開始された。
テーブルを覆う様々な食事。
パン、シチュー、揚げ物各種、カレーやお惣菜など、種類を問わず、俺の『収納』にある食べ物がふんだんに置かれている。
ファメラ様は唖然としていた。
まるで心ここに有らずだ。
子供達は無我夢中で食事を貪っていた。
良いじゃないか、腹いっぱい食ってくれ!
俺は満足気にこの光景を眺めていた。
たんと食えよ。
こうなると俺もおじいちゃんだな・・・
ハハハ。




