世界樹
新居完成からおよそ一ヶ月が経った頃。
「ゴン、そろそろ話してもいいんじゃないか?」
俺はタイミングを見て声を掛けた。
本当は本人から言い出すまで待とうと思っていたが、真面目なゴンは抱え込んで言い出さないのでは無いかと思ったからだ。
「えっ、何をでしょうか?」
ゴンは分かっていないみたいだ。
「前に創造神様が来たことがあっただろ?その時からお前、ずっと何かを考え込んでないか?」
ゴンが下を向いた。
何とも話しずらそうにしている。
やはりそうだ、自分で抱え込んでいる。
「あっ、そのことですか・・・私が話をして良いことか、ずっと分かりかねていまして」
分かってましたよ、だから今話しを振ってるんだよ。
「せっかくだから言ってみろよ。創造神様の話ってあれだろ?この世界の神気が薄くなっているってやつだろ?」
「えっ!どうして分かるんですか?」
ゴンはこちらを向いた。
「分かるに決まってるだろ、あの話があった時にお前の表情が変わってたもん、もろバレだよ」
「そうですか、察してらしたんですね。分かりました、ではお話しさせていただきます」
意を決した様にゴンが姿勢を正した。
「実はこの島の山の頂上には世界樹があります」
世界樹ってなんだ?
「ほぉー、それで」
よく分からんが先を促した。
「世界樹は世界に神気を循環させる樹なんですが、私には細かい事は分かりませんが、百年ほど前にその世界樹が枯れてしまったようなのです」
百年前ということは人々がこの島から居なくなったタイミングだな。
「枯れた?」
「何故だか枯れて、世界樹の葉を付けなくなったんです」
世界樹というからには樹なんだろう、ならば葉は付けるだろうな普通は。
「世界樹の葉?」
「はい、世界樹の葉はとても貴重な植物で、煎じて飲めば万病にも傷にも効いて、中には欠損した手まで生えてくるとさえ言われています」
欠損した手まで生えてくるってどんな治癒力だよ。
さすが異世界なんでもありだな。
ちょっと怖いよ。
「ふーん。そういうことね」
神気を循環させる樹か、そんな樹が枯れてるから神気が減っているってことなのかな?ちょっと安直すぎやしませんかね・・・でもまぁ、ゴンはそう考えたってことで、そんな大事な事を自分で告げていいのかと、悩んでいたということね。
まだまだ真面目過ぎる性格は治らないというか、遠慮があるんだろうな。
「いいんだよゴン。よく教えてくれた。ありがとう、辛かっただろう、そういうことは気にせずに話してくれていいんだぞ。家族なんだからな」
ゴンは申し訳なさそうにしていた。
「はい、ありがとうございます」
行ってみますかね、世界樹の処へ。
しかしそんな貴重な物があるのか、そうなると・・・
俺はエルに跨り頂上までやってきた。
前に上空から山の頂上を見た時には何も気にならなかったが、言われてみると確かに枯れ木が一本植わっていた。
目の前には俺の腰ほどぐらいの高さしかない、小さな枯れ木があった。
これが世界樹か・・・ただの枯れ木にしか見えないけど・・・良く見渡すと確かに違和感はある。
頂上付近には木や植物は一切無く、生命の息吹をまったく感じない。
ぽつんと枯れ木が植わっているのだ。
それも小突いたらポキっと枝が折れそうな程だ。
世界樹を良く眺めてみるが根本や枝の部分に傷などは見当たらない。
土に触れてみたが多少の湿気はある。
植物にとって重要なのは水と土壌。
水に関しては土に触った感じからして問題はないと思うが、土壌についてはさっぱり分からない。
ゴンの話によると神気を循環させる樹ということだったが、神気を発生するということは神気を与えても意味が無いということになるだろう。
何と循環させているのか?
神気の反対に位置するもの・・・思いつくのは大気の汚れや地中の汚れなど。
又はこの世界そのものの汚れ。
いまいちピンとこない。
それにゴンのニュアンスとしては百年前に急に枯れたという話だった。
そうなると土壌が理由で枯れたとは考えづらい・・・
分からないことは本人に聞くしかないか・・・
俺は腹を決めた。
「エル、これから少しの間集中するから、物音を立てないで貰えるか?」
「分かりましたの」
エルは答えると俺から距離をとった。
俺はその場に座り込んだ、胡坐をかき腕の力を抜いた。
背筋は真っすぐだが力は込めない。
呼吸に意識を集中する、複式呼吸開始だ。
吸って吐いてを何度も何度も繰り返す。
どんどんと自己催眠状態へと入っていく。
呼吸と共にこの世界樹に人格があることをイメージする。
植物といえども同じ生き物だ、意識があっても決して不思議ではない。
世界樹という程の立派な木なら意識があると考えてもいい筈だ。
自己催眠の状態になれば意識を同調することができると思う。
吸う息に目の前の世界樹が吸う空気をイメージする。
そして吐く息も世界樹が吐く息をイメージする。
更に自分の足が根となり、地面と同化していくイメージを強くする。
胴体は幹となり、腕は枝へと変わっていく。
俺自身が目の前の世界樹になることを強く、より強くイメージする。
世界樹となり、風を感じ、土を感じ、生命を感じる。
あともう少し、
世界樹の生命の波長を感じる・・・
世界樹の波動を感じる・・・
世界樹の意識を感じる・・・
すると遠くで音が聞こえた。
ピンピロリーン・・・
世界樹の意識と繋がったのが分かった。
話かけてみる。
「聞こえるかい?・・・」
回答は無い。
更に話かけてみた。
「聞こえるかい?・・・」
「わ・・・・せ・・・を・・め・・・ば・・・い」
返事とも言えない言葉が返ってくる。
もっと同調しなければ・・・
俺の意識を世界樹の意識にもっと近づくように、イメージを深める。
世界樹の波動を強く感じる。
「わた・は・・ちょう・とめな・・ば・けない」
世界樹と波長を合わせる。
「わたしはせいちょう・とめな・れば・けない」
「私は成長を止めなければいけない」
はっきりと聞こえた。
「君は成長を止めなければいけないのか?」
俺は尋ねてみた。
「私は成長を止めなければいけない」
「それは何故?」
「私が成長を止めなければ、人々が争うから」
世界樹の気配が変わった。
こちらの存在に気付いたようだ。
「あなたは?・・・」
「俺は守・・・今あなたと意識を同調している・・・人間だよ」
「守・・・同調・・・人間・・・」
「そうだ、君と同調することで話が出来ないかと試してみたところ、どうやら上手くいったみたいだ」
「・・・あなたからは・・・神の気を・・・感じる」
「ああ、ずいぶん体に溜まっているらしい」
「本当に人間?」
「ああ、本当に人間だよ、ただ訳あってちょっと普通の人間とは違うらしい」
「・・・」
「それで、何で君は成長してはいけないんだ?」
「私は成長すると世界樹の葉を付けてしまう」
「それで?」
「世界樹の葉をめぐって争いが起きてしまう」
「争いが?」
「そう、かつて人々は世界樹の葉を求めこの島までやってきた。世界樹の葉を使って体を癒し傷の手当てをした。人々の役に立てたと私も満足だった。しかし、人々は過剰に世界樹の葉を採取するようになった。やがて世界樹の葉を求めて争いがおこるようになり。奪い合いが始まり、せっかく癒した傷もまた傷になった。争いは激化し人々は互いを傷つけあった。暴力の連鎖が始まり、そして命を落としていった者も・・・」
「・・・」
「私は思った、世界樹の葉で争うなら葉を付けなければいい」
「・・・」
「だから私は成長を止めなければいけない」
「そうか・・・あなたは自らの意思で成長を止めたのですね?」
「そうです、私は人々に争って欲しくないのです」
「では、私を通じて今のこの島を感じてみてください・・・」
世界樹の意識が俺の中に流れこんで来る。
「・・・ああ・・・随分変わりましたね・・・どうやら島に平和が訪れたようですね・・・」
「今、島にいる人間は私だけです・・・あと私の家族もいますが・・・」
「おや?そのようですね。まぁ、神獣様もいらっしゃる・・・」
「ベビードラゴンのギルですね、やんちゃで困ってますよ」
「ありがとう、どうやら私は元に戻ってもいいようですね・・・」
「どうぞそうしてください。今後、島であなたを巡って争いが起きないように、私の家族達で見張っておきますよ」
「ありがとう・・・守さん・・・ひとつお願いしたいことがあります・・・」
「何でしょう?」
「この後枝を持ち帰って、あなたの許で次木をしては貰えませんでしょうか?」
「いいですが、どうして?」
「やがてその木は成長し、生れるべき時に生まれてくるでしょう、きっとあなたのお役に立つでしょう。その子は私の分身ですので・・・」
「そうですか、私にはよく分かりませんがそうさせていただきます」
「では、私は成長させていただきます」
ふいに視界が明るくなった。
目を開けてみる。
俺の目の前で世界樹は光輝きゆっくりと葉を付けた。
そして神気を大気中に放出し出した。
俺は一番太い枝を貰い、世界樹に結界を張ってから家族の元に帰ることにした。
帰宅した俺は創造神様の石像の傍に次木を植えた。
神気を土に流すと次木が根を張った。
皆を集めて山頂での出来事を話すことにした。
以外だったのは誰よりも真剣にギルが話を聴いていたこと。
ギルはもう既に言語理解を取得している。
全てを話し終わったところでゴンが話し出した。
「納得がいきました、百年前に人々が島から離れていったのは世界樹が葉を付けなくなり、島にいる意味が無くなったということなんでしょう。同時に中級神様が島を離れたのも分かります。犠牲者が出たことに責任を感じ、無事に島を離れるのを見守る為に同行したのでしょう。そして自分の代わりにとドラゴンの卵を社に奉納し、島の新たな守り神になるようにと考えたんだと思います」
ゴンの意見はあながち間違ってはいないだろう、筋は通る。
だが、それではあまりにもギルに対して無責任だ。
それにゴンを置いてきぼりにした事も許しがたい。
「その中級神は元々この島の守り神だったのか?」
「そうです、但し初めは下級神としてこの島の守り神をしていました。それがいつの間にか中級神になっていました」
どうやって昇格したのか・・・
「そうか、下級神から中級神にどうやってなったかは分からないとうことか?」
「そうです、申し訳ありません」
「いや、謝ることではない」
少し引っかかる処はあるが、大筋はそういうことなんだろう。
だが正直気に入らない。
中級神の行動自体は理解するが、ギルとゴンに対して無責任過ぎる。
もし本人に会う事があったら問い正してやりたい。
お前本当に神なのかと。
余りにも慈悲が無さ過ぎる。
とにかくドラゴンの成長スピードは速い、まるでスポンジが水を吸い込むようにどんどんと成長していく。
ギルが家族になってから二ヶ月ぐらいだろうか。
獣型だとノンよりも頭一つは大きい、俺が面と向かって話すには見上げないといけない程だ。
既に人化は出来るようになっているが、尻尾や角はまだ人化しても残っている。
人化すると身長は俺よりも低く百六十センチぐらいかと思われる。
金髪で顔つきはやんちゃ小僧そのもの、相変わらずノンとじゃれ合っているのは微笑ましい。
人語発言も無事習得し今ではスムーズな会話が出来るようになった。
ここはエルお姉ちゃんの献身による処、だが未だに納得出来ない事が俺には一つある。
初めて発した言葉が「ノン」だったことだ・・・
そりゃあ嫉妬もするでしょうよ、悪かったね親バカで!
まぁ冷静に考えてみれば、誰も俺のことを「パパ」や「お父さん」なんて言わないし。
実際ギルが初めて俺のことを言った言葉は「アルギ」って言ってたもんな。
全力で違うよ「パパだよ」「パパ」と言って訂正したけどね。
因みに今のギルのステータスはこんなんです。
『鑑定』
名前:ギル
種族:ベビードラゴンLv3
職業:島野 守の子供
神力:309
体力:1563
魔力:2053
能力:人語理解Lv5 浮遊魔法Lv3 火魔法Lv3 風魔法Lv3 土魔法LV2 人語発言Lv3 人化魔法Lv2
せっかくなので、他の3人も
『鑑定』
名前:エル
種族:ペガサスLv12
職業:島野 守の眷属
神力:0
体力:1936
魔力:3567
能力:風魔法Lv17 浮遊魔法Lv16 氷魔法Lv14 雷魔法Lv14 治癒魔法Lv5 人語理解Lv7 人化Lv5
『鑑定』
名前:ゴン
種族:九尾の狐Lv13
職業:島野 守の眷属
神力:0
体力:1414
魔力:2459
能力:人語理解Lv6 水魔法Lv17 土魔法Lv15 変化魔法Lv14 人化Lv4 人語発音Lv5
『鑑定』
名前:ノン
種族:フェンリルLv15
職業:島野 守の眷属
神力:0
体力:3843
魔力:2304
能力:人語理解Lv6 火魔法Lv14 風魔法Lv17 雷魔法Lv16 人化Lv4 人語発音Lv5
みんな順調に成長しています。
ギルは他の三人と違い神力を保持することが出来る。
神獣と聖獣の違いという事なんだろう。
今度ギルに神気操作を教えようと考えている。
俺はどうなっているのかって?それはまた、おいおい・・・
今、非常に重要なことを考えている。
最重要事項と言っても過言ではない。
その内容はと言うと、どうサウナを改築するのかである。
前にサウナ建設の話をしてから実はいろいろと手は加えている。
順を追って説明していこう。
先ずは露天風呂を造った、もちろん屋根付きで、岩をふんだんに使った広めの風呂にした、家族全員で入れる。
岩の隙間にコンクリートを流し込み、最後に『合成』で仕上げた。
自慢の露天風呂である。
当然洗い場も備わっている。
後は細かい話だが水風呂に屋根を取り付けた。
そのお陰で水風呂の水の温度が、十六度前後を保てるようになった。
良い温度です。
更に行ったのは、レモン・カモミール・オレンジ・ジャスミンの栽培、これをロウリュウに使う水に混ぜてアロマ水として使っている。
やはり匂いが在るのと無いのとでは大きく違う、特に女性陣に人気だ。
さて、今回考えているのはサウナの拡張と塩サウナの建設。
特に塩サウナは重要案件と捉えている。
何故かというと、塩サウナ後のサウナのパフォーマンスは格段に違うことを俺はその身を持って知っているからだ。
塩サウナの塩で肌の角質を取り除き、更に毛穴の汚れを除いた肌から流れる汗はサラサラの汗となる。
すなわち塩サウナ後のサウナは短時間で大量の汗がかけるというメリットがあるのだ。
パフォーマンスを中心に考えるならば、これは非常に重要な要素と言える。
ただ塩サウナを現サウナの近くに設置が出来ないのが難点となる。
その理由は一つで畑に近いからだ。
塩サウナから流れ出る大量の塩が、三十メートル近くは離れる位置にはなるものの、風が吹いて塩が飛べば畑に影響するのでは?と考えたからだ。
塩害は避けたいのだ。
それで距離は離れてしまうが、いっそのこと浜辺に一番近い森の一部を切り開いて、そこに設置してしまおうという結論に行きついた。
塩サウナの後はしっかりと体に付いた塩を流す必要がある為、大きな瓶も用意した。
そしてサウナ本体の改装も行う。
今回贅沢にもサウナストーブを一台増設する予定、サウナ室自体も倍の広さにしたいとの考えからだ。
サウナストーブ一台では、流石に高温になるまでに時間が掛かり過ぎるだろうと考えた結果だ。
出費は痛いがここにはお金を掛ける意味がある。
と言うのも人型になれるようになったギルがサウナデビューしたからだ。
我が子のサウナデビューだ、嬉しい限りである。
まだまだ『黄金の整い』は浅いがそれでも楽しめているようだ。
気持ちいい~と大人ぶっていた。
あと世界樹が活動を再開した所為か、大気中の神気の濃さが少し増したような気がする。
嬉しいことだ。
これで少しでもこの世界の崩壊が遅くなってくれたのであればいいのだが・・・今の俺の知る所ではない。
因みにノンは俺の指導の下、現在熱波師の猛特訓中です。
頑張れノン!
良い熱波を期待しています。
ただいま絶賛サウナの改築を行っている最中である。
予定道り順調に進んでいる。
既にサウナ室の拡張と二台目のサウナストーブは設置済み。
今は塩サウナの建設中だ。
先にも考えを述べたようにサウナから離れた所に建設の予定だ。
木を伐採し設置場所を確保する。
自然操作にて地面を造っていく、草を刈り土を耕す。
不要な石等を取り除き、その後耕した土を固めていく。
ここで一つ手を加えなけばならない。
サウナルームを設置する箇所は平行にするが、それ以外の地面は海に向かって下がっていくように傾斜をつけなければならない。
大量の塩が発生する為少しでもその塩が海に流れ込むようにしたいからだ。
気分的な物ではあるのだが塩は海に返したい。
自然操作を使用し地面を造った。
地味に時間が掛かった。
そしてここからは塩サウナの建設だ。
塩サウナにとって最も大事な要素は湿度の高さだ。
その為木製では心もとない。
そこで外側は木製のままだが、内側の床から壁、更には天井までをタイル張りにすることにした。
そうすれば湿度を保つことが出来る。
ありがたいことに万能鉱石は粘土にもなる、それを『加工』にてタイルを造っていく。
そのタイルを『合成』で木目に張り合わせていく。
これをサウナルーム内の床、天井、壁に貼っていく。
更にサウナストーブにも手を加える、加熱部分の上盤の上に水が入るように容器を造った。
これで湿度は早い段階から高くなると考えている。
最後に大きな瓶をサウナルームの中心に設置し大量の塩を入れて完成した。
これで整いは深くなるだろう。
期待で胸が躍る。
さっそく皆で塩サウナを体験してみた。
予定通り湿度の高いサウナルームとなっていた。
肌がツルツルになると女性陣は大喜びだ。
ギルは普通にサウナとしても楽しいと感じている様子。
ノンに至っては気合を入れ過ぎて、
「塩が目に入った!」
大騒ぎしていた。
塩は目に入れるものではありませんよ、ノン君。
サウナ満喫生活は順調に行っていると言っても過言ではないだろう。
満足度が日に日に増していっている。
重畳、重畳。
あと最低でも三十年は続けたいものだ。
雨の日の過ごし方について話をしようと思う。
基本的に雨の日は家の中で過ごす。
狩りにも行かないし畑にも行かない。
そもそも雨の日は珍しく、雨は週に一度降るか降らないかという程度で、降っても一日中雨が降ることはまずない。
半日もすれば止んでしまう。
ゴンによると年中こんな感じらしく、特に雨期なども無いらしい。
身体にとってはとても良心的な天候であるといえる。
気温も特に変化がなく、大体日中は二十四度前後、身体に優しく大いに結構。
雨の日は少ない為、雨の日は持て余し気味だった。
そこで雨の日限定のゲーム大会を行うようになった。
ゲームと言っても一番行う頻度が高いのはジェンガだ。
その次にやるのはダーツ、たまに行うのは暗算大会。
先ずジェンガだが特別ルールが設けられている。
それは五秒以内にパーツを抜かなければならないということ。
きっかけは慎重になり過ぎたゴンが長考し、苛立った俺が追加ルールを加えた。
次にダーツだがこれは通常通りに行っている。
追加ルールは無し。
意外とエルが上手だ。
そして異色の暗算大会は実はギルが人型になったのを機に、俺が皆に読み書き計算を教えだしたのがきっかけだった。
夕食後に三十分間の勉強の時間を設け、計算を中心に授業を行っている。
エルとゴンは元々足し算と引き算は出来ていたが、掛け算と割り算は出来ていなかった。
今は特に覚える必要はないかもしれないが、学んでおいた方が何かと今後役に立つだろう。
基本的な算数は会得しておいて欲しい。
そして意外や意外、ここ三回連続で暗算大会のチャンピオンはノンだった。
ものの見事に計算を行う。
二桁と二桁の掛け算の問題では出題後直ぐに答えてしまう俊才ぶりだった。
それに負けじと負けず嫌いの我が家の息子と娘達は、今ではたまに思い立っては、地面に数字を書いては計算をしている。
良い傾向だ。
後、読み書きも順調に覚えていっている。
基本的な勉強は今後何かしらの役に立つと俺は思うのだ。
今から勉強をする習慣をつけて欲しいとも思う。
夕食後、今日は授業は止めてお話をしようと皆に伝えた。
片付けを終え皆でテーブルを囲んでいる。
「なぁ皆、この先やりたいこととかあったりするのか?」
問いかけてみる事にした。
突然の俺の問いかけに、皆、考えこんでいる様子。
するとノンが話し出した。
「僕は強くなりたい。まだ主には一度も稽古で勝ったことは無いけど、主を守れるような男になりたい!」
ふぅ、あの甘えん坊だったノンがこうまで成長するとは・・・少し寂し気もするが・・・
空気感としては違うが、思わずノンの頭を撫でてしまった。
俺は親バカだ。
許して欲しい。
ゴンが続けて話し出した。
「私も強くなりたいですが、私は魔法の研究というか鍛錬というか、主が能力の開発を行っているように私は魔法の開発を行いたいと思っております」
「ほう」
思わず関心してしまった。
「私には主のように神力を扱うことは出来ないです。でも魔法は使えます。魔法には適正があると言われていますが、それだけでは無いんじゃないかと主を見て思うのです。ですので私は魔法の研究がしたいです」
ゴンらしいといえばそれまでだが、それはそれで良いと感じた。
「いいじゃないか、やってみろよ」
「はい!」
ゴンの笑顔が眩しかった。
するとエルが俺を見ながら徐ろに話し出した。
「私くしは、一度天使の村の兄弟達に会いたいと思いますの」
「うん」
「村を飛び出してそのままこの島にずっといますので、心配しているのではないかと気にかけてますの」
そうだな、今まで気遣え無くて申し訳無いとすら思う。
一度帰らせるべきだな、ただこの村の秘密は伏せて貰うように話しをすべきだな。
「そうだな、一度帰ったほうがいいだろう」
頷くエル。
そしてギルは下を向いていた。
他の皆が次はお前だとギルに視線を送っている。
ギルが意を決したという表情で俺を見た。
「僕は・・・僕は・・・パパの様になりたい!」
ギルが振り絞る様に言った。
「そうなのか?」
意外な発言だった。
「うん、パパの様になりたい・・・パパは人間で・・・でも神様なんだ」
ギルが一生懸命話そうとしているのが分かる、必死に言葉を探している様子。
歯痒さでもぞもぞとしている。
「神様では無いぞ?」
「パパは神様だよ、いろんな能力を持っていて、強いし、何よりも凄いじゃないか!僕もそうなってこの島を、世界樹を守らないと・・・」
やはりそう想うのか・・・
「どうして世界樹を守ろうと思うんだ?」
「どうしてって、僕、世界樹の話を聴いた時に思ったんだ。おそらく僕は中級神様がこの島の守り神として僕をここに置いていったんだって。ゴン姉ちゃんもそう言ってたし、だったらそうしないといけなんじゃないかって・・・それに世界樹がまた酷い目に合わないように守ってあげなきゃって・・・」
思った通りだな・・・ギルがそう思うのはしょうがないが、本当にそれでいいのか?
「そうなのか?」
「そうだと・・・思うんだ・・・」
下を向いて何かに耐えているような表情を浮かべている。
「そうかギル、お前は優しいな、俺はお前のパパになれて本当に良かったよ。ありがとう。でもなギル、中級神の目論見通りになる必要なんてあるのか?お前は自分の好きなようにしたら良いと俺は思うんだけどな」
ギルが顔を上げてこちらを見た。
「そうなの?」
俺の発言が以外だったのか、ギルはキョトンとしている。
「そうだぞ、中級神には中級神なりの考えがあったのかもしれない。でもな、俺から言わせてもらえば、まだ生まれても無いお前を社に置いて、後はよろしくってのは無いと思うんだ。はっきりと言わせてもらえば無責任なんだよそいつは!それにゴンを置き去りにしやがって、腹が立つんだよ!そんな奴の思う通りになんてなって欲しくないな。俺は!」
ギルはまた下を向いた。
「・・・」
ギルは言葉に詰まっている。
更に俺はたたみ掛けた。
「違うか?ギル、勝手に役目を背負う必要なんて無いと思うぞ。お前はお前の好きなように生きなさい。全てはこのパパが引き受けてやる。いいな!」
言いたいことを言ってやった。
もしかしたら俺の自己満足なのかもしれない。
しかしこれを間違っていると俺は一切思わない。
思いたくもない、だってそうだろう?
生れて直ぐに何にも分からないまま、勝手に自分の知らない所で勝手に役目を与えられる。
こんな勝手があるもんか!
生きとし生ける者、その全ての者が自分の思うが儘に目指したい自分があっていいと思う。
それすらも無いなんて、余りに一方的な話は俺は容認出来ない。
ましてや自分の家族にそれは許せない。
勝手な奴だと思われてもいい。
でも生まれながらに自由を奪われるのは、俺には絶対に許せない。
「うん!分かった!」
ギルは目を輝かせていた。
「よし、いい返事だ!」
見回すと皆の目が輝いているのが分かった。
ゴンはうっすらと涙を浮かべていた。
「じゃあ、俺からいいか?」
皆が俺の方を向く。
「今の直ぐじゃないから心配しないで欲しいんだが、この島を出ようと思うんだ」
「「「「えっ!!!」」」」
四人が固まっていた。
「いやいやいや!驚きすぎでしょ?」
皆が正気を取り戻すまで待った。
「いいか皆、俺は人間だ」
四人がブンブンと縦に首を振り回している。
「でも普通の人間じゃない、自分で言うのもどうかと思うが・・・まぁ皆の知っている通り神様の修業中だ。そしてこの体にはたくさんの神力を宿している。そしていろんな能力も持っているし、今後も開発していくつもりだ。でも俺が思うに、これ以上の能力の開発にはそろそろ限界が来ていると感じている。そしてなによりこの世界の神様達に会ってみたいんだ。一人で旅に出ようかとも考えたが、俺には皆を残して旅に出ることは出来ない。だから皆と旅に出たいんだ。それに神様に会う事は俺だけじゃなくて、ギルにも必要な事だと俺は考えている」
ギルが頷いていた。
「なので準備が整い次第この島を出ようと思っている」
間をおいてからゴンが言った。
「それはいつなんでしょうか?」
「だから準備が整い次第って」
ギルが体を乗り出して言った。
「世界樹はどうなるの?」
明らかに四人はまだ動揺している。
一度手を叩いてみせた。
パン!!!
「はい注目!島からの旅出はちゃんと準備が整ってからです。万全の態勢を整えてからとなります。いいですか?」
「「「「はい!!!」」」」
少しは落ち着いたかな?
大丈夫そうだな。
「なので早くても半年後になります」
「「「「おおー!!!」」」」
皆で顔を見回している。
「準備にはしっかりと時間をかけます」
頷く四人。
「そこで皆に前持って話しておきたいことがある」
「何?」
ノンが食い気味で反応した。
「これだけは守って欲しいルールが三つある」
皆が姿勢を正した。
皆を見回してから俺は話し出した。
「先ずは世界樹については絶対に外部には話さないでくれ、特に世界樹の復活については言ってはならない。下手に漏れてまた同じ悲劇は繰り返さない必要がある。世界樹とも約束したしな・・・分かるだろ?」
皆な集中して話を聞けているようだ。
「次にこれは創造神様との約束だから絶対に守って欲しい『黄金の整い』の方法を明かさないこと」
フムフムといった様相。
「最後に俺についてだ、俺の能力についてだがお前達以外の人の前では使わないようにしているのは分かっているな?分かり易い話しとしてはアグネスだ。俺はアグネスの前では『収納』の能力以外を見せていない。敢えてそうしている。ただの転移者の人間だと思われるようにしている」
ノンがそうだったのかという表情をしていた。
マジかノン!お前以外の皆なは分かってたみたいだぞ。
ギルですら頷いてるぞ。
「以上だが守って貰えるか?」
「「「「はい!!!」」」」
口を揃えて返事が返ってきた。
「あっ!次いでだから話しておくと、世界樹なんだけど俺の結界に守られているから問題ないと思う。神力を扱えない者は近づけ無いようにしてある。あと、前に世界樹と同調してから世界樹とは交信が行えるようになったんだ。何でも世界樹が言うにはこの世界のほとんどが地下で根っこが繋がっているらしい。だから俺の近くに草花があればどこでも交信は可能らしいんだ。今は毎朝世界樹に話し掛けれられているよ。とは言ってもほとんどが天気の話だけどな。だからこの島を離れても何かあれば連絡が取れるってことだ」
皆が胸を撫で下ろしていた。
まだまだ先のこととはいえ、島を離れることに俺は少し興奮してる。
新たな出会いを求めてそして刺激を求めて、見たことの無い景色を見てみたい。
こいつらとならもっともっと楽しめそうだ。
旅立ちの準備が進められている。
その中心は俺の能力の開発とこの世界の勉強。
無理なく順調に進んでいる。
この世界の常識の話しをすると、一年は三百六十日、一週間は七日、一ヶ月は三十日とほとんど地球と変わらない。
時間も十二進法で何も問題はない。
距離と重さの単位は街や国によって違うので、一概には言えなく、世界の共通の単位はないらしい。
以外だったのは休日という概念が無いらしく。又、祝日も無いということらしい。
祭りや祝祭は各街や村で行われることはあるらしいが年に一度程度。
この世界の人々は働き者なのか?遊びを知らないのか?休みたいと感じないのか?どうしてもこれには違和感を感じる。
もしかしたら娯楽が少ないからなのか?
生活様式は街によって随分違うらしく、特に全世界共通というものは無いらしい。
まぁ多種族が暮らす世界だからそうなのだろう。
礼儀作法もあるにはあるが、それを気にするのは一部の者達だけらしい。
その点は助かる。
不作法ですいません。
こんな処だろうか。
今は俺以外の四人はエルを中心に、人化のレベル上げと更にギルは浮遊のレベル上げを頑張っている。
獣耳や尻尾がなかなか消せないようだ。
俺はというといくつかの能力を獲得していた。
『変身』『念話』『探索』
『変身』は同調で得た感覚をもとに、自分の体が変わっていくことをイメージしていたらあっさりと身に付いた。
ノンにフェンリルの格好に変身したところを見せた時には無茶苦茶ビビられた。
やっぱりノンのリアクションはハズレがない。
いつも楽しませてくれてありがとう。
『念話』は世界樹との交信の延長みたいなもので直ぐに身についたし。
今では四人全員との『念話』が可能になった。
ただいくつか条件があって少し不憫さはある。
能力の発動には神力が必要な為、ノン・ゴン・エルは神力が切れている時は使えない。
彼らは神力を体内に保っていられないのだからしょうがない。
全員通話は『黄金の整い』後の数時間に限定されている。
これでは俺とギル間でしか無制限で繋がれない為、ゴンに魔法による『念話』を取得するように話してみた。
俺のサポートを受ける形で魔法開発を行ったところ無事に成功した。
全員と繋がる時は神力と魔力の両方を持っているギルを介して『念話』を行うようにしている。
使用時に若干のタイムラグがあるが無いよりはよっぽどましだ。
と言うよりこの能力は島を離れる上では必須の能力だ。
人前で話してはいけない時があることが考えられるからだ。
そして『探索』も狩りの中で身についた。
脳内マップをイメージし獣の気配を辿ることを繰り返し行っていたら、脳内マップに気配を感じた獣が示されるようになった。
今は獣しかマッピング出来ていないが、レベルを上げていくことでその対象を広げれるようになると考えている。
いやー、順調!順調!
順調ではなくなっていた。
壁にぶち当たっている、今獲得を目指している能力が『転移』だ。
既に開発を始めて一ヶ月以上が経過している。
まったくもって獲得出来る気がしない、気配すら感じない。
この能力の獲得無くして島を離れることは出来ない、と言うよりは離れられない。
島への行き来が片道切符では何かあった時に困るからだ。
何より島を離れるといっても一時的なものと考えている。
なんなら毎日島に帰ってくるぐらいに俺は思っているからだ。
時には現地で宿泊するのも良いとは思うが。
お金もかかるだろうし、旅とは言っても日帰りぐらいにしか考えていない。
なので転移は無いと話にならない。
旅の目的はあくまで神様に会うことと、この世界を見ることだ。
厳しい長旅なんてする気はサラサラない。
能力の獲得に向けていろいろなイメージをしてみた。
五メートル前にいる自分をイメージした。
目に見える場所に移るイメージをした。
行きたいところを強くイメージしそこに自分がいる所をイメージした。
扉をイメージし、別の場所にあるもう一つの扉に繋がっているイメージをした。
イメージした時に全身に神気を纏ってみた。
自己催眠の状態でもやってみた。
思いつくことは大半やった。
だが決定的な何かが足りないと自分でも感じる。
一体何が足りないのか?
時に脱線して『転移』と『転送』の違いについても考えてみた。
『転移』は自分自身が移動すること。
『転移』は物が移動すること。
どうなんだろうか?合っているのだろうか?微妙だな・・・
それはさておき。
能力の獲得には強いイメージ、具合的なイメージが必須であることはこれまでの経験から分かっている。
でも『転移』に関してはそれだけでは通用しない。
何かが足りない?
こうなったら一から考え直してみるしかない。
言葉の意味『転移』とは?一瞬にして自分が移動すること。
転は転がる、移は移動のこと、いまいち飲み込めない。
どういうこと何だろう・・・
あれ?何かが引っかかる。
一瞬にして移動する・・・一瞬とは・・・ゼロ秒・・・時間!
分かった気がした。
時間をイメージに重ねる必要があるということか?
又はそれをトリガーにするということなのか?
先ずはやってみる、五メートル前に自分がいることを強くイメージした。
加えて時間をイメージする。
過去・現在・未来、イメージは現在。
時計の針をイメージする。
その時計の針がゼロ秒を指す時に能力が発動する。
更に全身に神気を纏わせる。
ゼロ秒を時計の針が刺した。
シュンッ!という音がしたような気がした。
五メートル先に自分がいた。
ピンピロリーン!
「熟練度が一定に達しました。ステータスをご確認ください」
やった・・・何だかどっと疲れた気がする。
気晴らしにノンでも驚かせてこよう。
ノンの前に突然現れてみた。
「ピギャー!!!」
ノンは素晴らしいリアクションをしていました。
やっぱりこれ好き。