ダンジョン踏破のその後
俺達はまともに会話が出来ないぐらいの歓声と賑わいに囲まれていた。
いい加減にして欲しい。
でも一向に歓声は鳴りやむ雰囲気が無い。
どうしたらいいんだろうか?
これほどの規模感となると正直怖い。
ここまでの観衆に取り囲まれるのは忌避感すら感じる。
頼りのカインさんも興奮状態からまったく持って冷める感じがしない。
もしかしたらこの人が一番興奮しているのかもしれない。
訳の分からない言葉をずっと叫んでいる。
これは・・・俺達はサウナ島に帰れるのか?
疑わしいが、俺としてはさっさと帰りたい。
俺は押し寄せる観衆を押し返して。
未だ興奮しているカインさんを何とか捕まえてきた。
「カインさん!帰ってもいいですか?!」
大声を出さないと聞こえないだろうと思い、それなりに大きな声で話し掛けた。
なんてったって周りの歓声が凄い。
「何だって?」
どうやらこれでも聞こえない様だ。
身体を寄せてもう一度大声を出す。
「帰ってもいいですか?!」
お前は何てことを言うんだという顔をカインさんはしている。
「駄目だよ!今日は付き合って貰うよ!」
最悪の回答が返ってきた。
でも神剣のこともあるし、早く親父さんに会いに行きたいのだが・・・
今も刀身を剥き出しで持ってるし。
「カインさん!神剣のこともあるので、ゴンガスの親父さんの所に行きたいんですけど!」
カインさんはそうだったと悔しそうな顔をしている。
「そうか・・・そうだよな・・・でもな・・・」
諦めきれないようだ。
こうなったら最終手段だ。
「じゃあ俺とギルは行きますので、他のメンバーを残していきますね!」
「・・・分かった」
俺はゴンとエルに残る様に伝えてギルと転移することにした。
ゴンだけ少し嫌そうな顔をしていたがエルは観衆の興奮が感染したのか、変な子モードになりそうになっていた。
現に歯茎剥き出しで笑っている。
ノンはまだ変てこダンスを踊っている。
あいつは外っておいてもいいだろう。
「ギル行くぞ!」
「分かった!」
ギルは俺と同じでこの場を離れたいようだった。
流石は俺の息子だ。
俺達は直接転移でサウナ島に帰ってきた、それもゴンガスの親父さんのお店の前に。
いきなり現れた俺とギルに数名のお客さんがびっくりしていた。
なんだかごめんなさい。
店の中に入るとメリアンさんがいた。
「メリアンさん、親父さんは何処にいますか?」
「多分赤レンガ工房にいると思うわよ?」
よかった、あそこなら作業中でも中に入ることができる。
俺の施設だしね。
「ありがとうございます」
問答無用で赤レンガ工房に転移する。
すると親父さんは一心不乱に鍛冶仕事を行っていた。
これは・・・待つしかなさそうだ。
適当に椅子に腰かけて親父さんが気づくまで待つことにした。
ギルがお腹が減ったということだったので『収納』から食事を取りだして食事を摂ることにした。
今回はチャーハンだ。
ギルは十杯も食べていた。
俺は疲れていたこともあって二杯も食べてしまった。
ちょうど食べ終わったところで親父さんがこちらにやっと気づいたようだ。
「お前さん、何をやっておる?」
手を止めてこちらにやってきた。
俺は徐に神剣を見せた。
「おおっ!エクソダス!」
親父さんは走り寄ってきた。
神剣を俺から取り上げて大切そうに撫でている。
不意に親父さんが固まった。
「お前さん・・・踏破したのかの?!」
興奮気味に話しだした。
「そうですよ」
「そうか!やったか!」
親父さんが興奮している。
なんでこの世界の人達はこうもダンジョンの踏破に対して興奮するのだろうか?
「お前さんならやってくれると思っておったぞ!よかった、よかったの!」
よかった?何でだ?
興奮する親父さんを無視して疑問を投げかけることにした。
「親父さん、聞きたいことだらけなんですけど?」
「おお!そりゃあそうだろう、分かっておる皆まで言うな」
察しがよくてありがたいです。
「この神剣についてじゃろうて?」
「そうです」
「ちょと待っておれ」
親父さんは神剣をブンブンと振り回した。
「エクス!おい起きろ!エクス!」
親父さんは叫び出した。
ていうか寝てんの?
「おい!エクス!いい加減起きんかの!」
更に神剣を振り回している。
すると神剣が起きた気がした。
何故だか俺には分かった。
「ん?・・・親父?何で親父がいるんだ?」
『念話』が聞こえて来た。
「やっと起きたか、久しいのうエクス」
神剣を振るのを止めて親父さんは神剣から手を離した。
すると神剣は床に落ちること無く宙に浮いた状態でピタッと止まった。
おお!何だこれは?
「親父!・・・ってここは何処だ?」
見えてるのか?
何とも不思議な出来事だ。
剣が宙に浮いており、喋る上に周りが見える様だ。
「ここは工房だの、島野のな」
「島野?・・・誰?・・・」
「俺だよ、始めましてエクソダス様?さん?」
ん?どう対応したらいいんだ?神様なんだよな?
「お前さん、こやつはエクスでええ」
と言うことらしい。
「おお・・・って、何?おいらのマスター!嘘!なんてことだ!・・・親父説明してくれよ!」
興奮しているのが手に取る様に分かる。
剣なのに・・・
「説明も何も分かっておろう?お前の装備者だの」
「・・・」
神剣は固まっているようだ。
「こ奴はダンジョンの踏破者だの、やっとお前さんにも主人が出来たということだの」
主人?俺が?
装備者だからか?
「そうか・・・んんっ!・・・嘘だろ・・・あり得ない・・・何だこの人は・・・」
神剣が驚愕している。
何が起こっているんだ?
さっぱり分からんぞ・・・
「エクス・・・分かったか、お前の主人の出鱈目さがの」
「ああ・・・親父・・・こんな人間いるんだな・・・」
神剣は半ば放心状態だ。
「あの・・・どうなってるんですか?」
俺は親父さんに問いかける。
「お前さん、この神剣エクソダスは装備者のステータスが分かるのだの、そしてお前さんのステータスを見て驚愕しておるのだ」
へえー、そうなんだ・・・っておい!
勝手に人のステータスを見るんじゃない!
個人情報保護法に抵触するぞ!
ってここは異世界か・・・
はぁ・・・どうしたもんかね?
「マスター!おいらはエクソダス!よろしく!」
いきなり自己紹介された。
なんだこの変わり身は。
「ああ・・・俺は島野だ・・・よろしくな・・・」
「マスター!あんた何者だ?何でこのステータスで神じゃないんだ?」
おいおい遠慮の無い奴だな。
ていうか、一から教えてくれないとさっぱり分からん。
「ちょーっと待ってくれ!親父さん。一から説明してくれませんかね?」
とにかく状況を整理したい。
勝手に興奮されたり、ステータスを見られたりして何とも付いていけてない。
そもそもからお願いします。
そもそもから・・・
「そうじゃったな、すまんすまん、先ずはこのエクスだが儂が造ったんだの」
でしょうね。
「そしてこ奴もその名の通り、神だ・・・」
マジか・・・物に神が宿るって・・・まさに八百万の神だな。
「てことは、親父さんは神を造ったということですか?」
「そうなるのう、こ奴を造るのは大変だったのう、十日間飲まず食わずで一心不乱に鍛冶に没頭しておったのう」
十日間?
普通に凄!
よく餓死しなかったな・・・あ?神様だった・・・
死ななくて当然か。
「そしてこ奴は誕生し、儂は名前を与えたんだの」
ふむふむ。
「名前を与えるということは非常に大事なことだの」
はあ?・・・ネームドってこと?
よく聞くアイテムなんかに名前を与えると強くなるみたいな?
「名前を与えるということは、それ即ち加護を与えることにもなるんでのう」
はい?名前を与えるだけで何でそんなことになるの?
強くなるとか進化するとかじゃなかったっけ・・・
「名前を与え、加護を付与することによってより強力な存在へと成るのだ」
「はぁ・・・」
「因みに儂の加護には武具を再生する力があるんだの」
そうなんだ。
てことはある意味エクスは最強ってことか?
そもそもオリハルコンなんだから削れることもないだろうしな。
そういえばゴン達に俺は名前を付けたけど、加護なんてつかなったな。
眷属にはなったけど。
まあ俺人間だけどね。
生き物とアイテムとは違うというところなんだろうね、きっと。
「そしてエクスだがの、もともとはカインがダンジョンを踏破した時のドロップ品だったんだの」
「ん?オリハルコンのナイフじゃなかったんですか?」
確か親父さんからそう聞いたけど。
「始めはロングソードだったんだの、それを儂の鍛冶仕事でナイフと剣にしたんだの」
「へえー」
「カインはダンジョンの神に成ったはよいが、踏破者に与えるドロップ品が無いと困っておっての、それで儂のところにやってきたんだの」
「なるほど」
「それでせっかくならとエクスを造ることにしたんだの」
「そうだぜマスター、そうやっておいらは親父から生まれたんだぜ」
誇らしげにしている。
顔無いけど・・・
「そしてカインにエクスを任せたということだの」
「へへ、分かったかよ?」
「それとエクス、分かっておるな?」
「何をだ?」
「お前さん、約束したよな?」
「・・・!」
「何だ忘れておったのか、まあよい。約束は約束だ。お前さんは島野に仕えるんだぞ。文句はあるまいのう?」
「ああ、マスターは人間だけど、どうやら本物みたいだしな。おいらは全然構わないぞ」
「ちょと待って、俺に仕えるってどういうことなんだ?」
「その儘だの、エクスはお前さんに仕えるということだの」
「はあ・・・」
「雑用なり何なり好きに命じればよかろう」
「そうですか・・・」
いきなり神剣が部下に加わっちゃったよ。
神が部下って・・・いよいよだな。
「それとなエクス、装備者だがのう、ギルに変更せい」
「何でだ?」
「お前さん能力共有でこ奴の能力を使おうと考えておるのだの?」
「そうだぜ」
「こ奴の能力は万能だが、お前さんには使いこなすことは難しいのう、それに神力の量から見ても直ぐにお前さん直ぐに枯渇するの」
「そうなのか?」
「ああ、お前さんの神力は決して多くはないからのう。こ奴の能力はこ奴だからこそ使いこなせる代物だの、それとギルに装備者を替えればお前さんの夢が叶うの」
夢?
何の事だ?
「本当か?親父!」
「そうだ、ギルが装備すれば分かるがこ奴はドラゴンだの」
「何!・・・中級神様かよ・・・格下かと思ってたぜ」
「格下ってなんだよ、そんなこと言うと装備者になってあげないぞ」
ギルは憤慨していた。
「ごめん、悪気は無かったんだ。すまない許してくれ!」
まるで手を合わせているかの様に感じた。
「どうしたものかな・・・」
ギルの気持ちは分かる。
エクスは終始舐めた態度を取っている様に感じる。
こいつはただの生粋な小僧だな。
「ギル、許してやったらどうだ?」
「流石はマスター!分かってるぅ」
こいつお調子者もいいところじゃないか。
「まあ、パパがそういうなら・・・で、どうしらいいの?」
「おいらの柄を持ってくれ、そうすれば変更可能だ」
「うん」
ギルはエクスの柄を握り締めた。
するとエクスが、
「よし、変更できた。ギル、これからよろしくな」
「ああ、分かったよ」
と返事するがギルは不服そうだ。
「それでエクスの夢って何ですか?」
ギルが親父さんに尋ねる。
「こ奴の夢はな、酒を飲むことだの」
何だそれ?・・・剣が酒を飲めるのか?
「ギルは人化の魔法が使えるだろ?エクスが人化すれば飲み食いが出来る様になるからの」
嘘でしょ?
どういう仕組み?
「何だ、不思議かの?」
「そりゃあそうでしょ、剣が人化したからといって飲み食い出来るものなんですか?」
「お前さんには分からんかもしれんがのう、ギルよ、獣型の時と人型の時では味が違ったりするもんだの?」
「そうだね、まったくの別物だね」
「だの?前にエリスとそんなことを話したことがあってのう。だからエクスを造った時にその可能性を含めておいたんだの。だが儂は人化の魔法は持っておらん。そこで人化魔法を持つ者が装備者となった時に、飲食できるように仕掛けを施しておいたんだの。だがあくまで可能性だ、実際には口にしてみないと分からんがのう」
「何だそれ・・・」
「ガハハハ!お前さんに呆れられたか!儂も一廉ということだの。これは面白い!ガハハハ!」
そもそも神様を生み出すことが出来るって時点で、一廉なんだけどな。
にしてもゴンガスの親父さんはとんでもないな。
ただの酒飲みの悪だくみ親父では無いということか。
流石は鍛冶の神様だ。
「では、さっそく」
突如エクスが人化した。
おお!
茶褐色の青年だった。
心なしかギルに似ている。
というよりギルの兄弟と言っても疑う者はいないだろう。
特徴的な顔をしている。
だが明らかに違うのは目だ、エクスの性格が影響しているのだろう、人を小馬鹿にするような含みをその視線から感じる。
「パパ、僕にそっくりじゃ・・・」
「だな・・・ギルの能力を使ってるんだから、そうなるんじゃないか?」
「だね・・・」
「どうだ?親父?成功か?」
「だと思うがのう」
ということで試してみましょうかね。
俺は『収納』からおにぎりを取り出した。
「エクス、食べてみるか?」
「いいのか?マスター?」
「試すしかないだろ?」
「そ、そうだな・・・」
エクスは恐る恐るおにぎりを手にした。
「いけ!エクス!」
親父さんが鼓舞する。
それに答えてエクスは一気におにぎりを口にした。
「もしゃもしゃもしゃ・・・」
始めは探るような感じだったが、エクスの顔が歓喜に満ち溢れだした。
「お、お、味がする・・・これが味・・・何ていうんだ・・・おお!」
ポロポロと溢しながらもおにぎりを頬張るエクス。
「う・・・うう・・・親父・・・マスター・・・そしてギル・・・ありがとう・・・おいら・・・おいら・・・」
エクスは涙を流し出した。
エクスは相当嬉しいみたいだ。
でもこれで食せれたということなのか?
後でお腹痛くなるとかないのか?
その疑問を察したのか親父さんが、
「大丈夫そうだのう、後はあまり人化を解かないことだの。この調子なら当分は剣には戻らんだろうがのう」
剣になった時にどうなるんだろうか?
俺が心配することでもないか?
自己責任ということでやっていこう。
「さて、エクスこうなると遂にだの」
「そうだな親父・・・酒が待ってるな・・・」
「ちょっと待った!エクス、カインさんに挨拶しなくてもいいのか?」
「うう!・・・そうだった・・・カイン様には話をしないといけなかった・・・」
エクスは残念そうにしている。
「エクスや、酒は逃げてはいかん。そう肩を落とすな」
「親父・・・」
エクスはしょんぼりしている。
「挨拶だけしてから帰ってこい。儂は大食堂で待っておるからのう」
今のカインさんが直ぐに帰してくれるとは思えないのだがな・・・
「親父さん、エアルの街は今飛んでも無いことになってるので早々に帰って来れるとは思えないのですが・・・」
親父さんは何?と言わんばかりの顔をしてる。
「そうだったのう。念願のダンジョン踏破だったの・・・今頃街を挙げての大宴会になっておろうのう」
「だったらそこで一緒に飲んだら?」
ギルからの建設的な意見だった。
「そうだな!ギル!良い事を言った。待っておれ、儂の上等の酒を準備する。お前さん!お前さんも酒と食事の準備をしろ!」
おいおい、勝手に仕切るんじゃないよ!
でも俺もこのまま家に帰るとはいかないよな・・・ノン達も迎えに行かないといけないしな。
なんとかどんちゃん騒ぎが収まっていることを祈るしかないな。
そんなに甘くは無いだろうけどね。
やれやれだ。
俺は大食堂の厨房に入ると大歓声で迎えられた。
ここまで辿り着くまでにも同様の待遇を受けた。
すれ違う人から、
「おめでとうございます!」
「やりましたね!」
「やっぱり島野さんは規格外だ!」
等と声を掛けられた。
どうやら俺達がダンジョンを踏破したことが早くも伝わっているらしく、興奮したエアルの住民がいろんなところで吹聴しているみたいだ。
後から知ったんだが、俺とギルが親父さんやエクスと話をしている隙に、カインさんが転移扉を開けて入島受付に入ってきたらしく。
「島野一家がダンジョンを踏破したぞー!皆に伝えてくれ!」
等と騒いだらしい。
一体何をやっているんだかあの人は・・・
事情をメルルに話したところ、さっそく食事の用意を開始した。
彼女も相当嬉しかったらしく、
「やってくれると思ってました!任せてください。腕に縒りをかけて準備します!さあ料理班!気合入れてけよ!」
フンスと言わんばかりに力を籠めていた。
メルルの親方化は留まることを知らないな。
俺はその間にお酒の準備をする。
どうしようかと考えていたが、面倒臭くなってワインを樽ごと持っていくことにした。
そうこうしている間に食事がどんどんと作られていく。
これは・・・オードブルだな。
揚げ物中心だがパーティー使用のオードブルが作られている。
何人分用意したらいいのだろうか?
まあ適当でいいか。
最悪は島野一家と親父さんとカインさんと、エクスの分があればどうにかなるだろう。
酒を樽ごと大判振舞するんだからいいだろう。
文句は言わせないぞ。
ていうか俺が準備していることが間違っていると思うのだが・・・
祝って貰う側なはず・・・
なんだかな・・・
食事の準備を終え、ギルとエアルの街に向かうことにした。
どうやら親父さんとエクスは既に先に向かったらしい。
「パパ、エアルの街はどうなってるんだろうね?・・・」
ギルも恐る恐るといったところなんだろう、心配が顔に出ている。
「まず普通ではないだろうな」
「だよね・・・」
「まあ、付き合わん訳にもいかんだろう?」
「はあ・・・」
俺達は入島受付に辿り着いた。
案の定興奮したランドから歓待を受けた。
「やりましたね!島野さん!」
「お、おう」
「やってくれると思ってましたよ!」
「そ、そうか・・・」
「ギル!お前凄いじゃないか!ダンジョンを踏破だぞ!」
ギルの両肩を掴んで揺すっている。
ランドの興奮は止みそうにない。
案外褒められて嬉しいのかギルは照れていた。
ギルは俺に付き合って面倒臭そうにしているが、案外本心は違うのかもしれないな。
「へへ!」
胸を張っている。
「ランド、すまんがエアルに行かないといけないんだ。悪いな」
「いえいえ!行ってくださいよ。宴会ですよね!良いなー、俺も行きたいな!後日サウナ島でも宴会をやりましょうよ!」
聞きたくない台詞が耳に飛び込んできた。
俺は顔に出ていたんだろう。
「島野さん、俺達にも祝わせてくださいよ!連れないじゃないですか!」
と言われてしまった。
こう言われてしまえば宴会を開くしかなさそうだ。
「そうか・・・分かった・・・」
「よっしゃ!ちゃんと聞きましたからね!」
言質を取られてしまったな。
やれやれだ。
「じゃあ行くからな」
「「いってらっしゃいませ!!!」」
ランド以外の従業員達からも大声で送り出されてしまった。
エアルの街は大騒ぎだった。
ハチの巣を突ついた状態といってもいいだろう。
てんやわんやの大賑わいだった。
そこらじゅうで繰り広げられる宴会。
中には地面に直接腰かけている者達もいた。
花見かよ!
どこでどう準備されているのか酒を片手に食事をする人達。
漏れなく大声で騒いでいる。
ひと際目立って騒いでいる集団の中心にはノンがいた。
ノンはへらへらとしながら酒を飲んでいた。
あら珍しい。
その脇でゴンが顔を真っ赤にしていた。
随分飲まされたご様子。
エルは歯茎むき出しで笑っていた。
こちらも相当飲まされたようだ。
ノンが俺とギルを見つけて駆け寄ってきた。
「ギルー、お前も飲めよー」
上機嫌で絡んでいる。
ゴンとエルもこちらに来ては、
「主ー、飲まされちゃいましたー」
「そうですのー、フラフラしますのー」
完全に出来上がっている。
「お前達珍しく出来上がってんな。大丈夫か?」
「大丈夫だよー」
「平気ですー」
「ですのー」
随分ご機嫌なご様子。
「カインさんの所に行くが付いてくるか?」
「行くー」
「行きますー」
「ですのー」
と言うことだったので、フラフラになっている三人を連れてカインさんを探すことになった。
道中珍しくエルがギルに甘えていた。
ノンとゴンは俺から離れようとしない。
こいつらも俺に甘えたいようだ。
二人の頭を撫でてやると、
「へへへ」
「フフ」
喜んでいた。
道行く酔っ払いに声を掛けてカインさんのところまで辿り着くと、親父さんとエクスも既にいた。
場所はダンジョンの入口だった。
簡単なシートが敷かれており花見スタイルだった。
カインさんの所だけでは無く、それを取り囲むかの様に花見スタイルで人々が酒を煽っている。
俺達は拍手で迎えられた。
「お待たせしました!」
「やっと来おったかの!」
「マスター、遅せえよ!」
と言われてしまったがしょうが無い。
こちとら道行く人々に絡まれてきたんだからね。
途中で何度声を掛けられたことやら。
「ここまで辿り着くのにどれだけ苦労したことか・・・」
「しょうがないのう、この調子だしの!」
そう思うんならやっと来たとか言うな!
「じゃあ先ずは食事の準備からですね」
俺は『収納』からオードブルを取り出した。
それを見てカインさんが、
「待ってました!」
大声で騒いでいる。
ほんとにこの人は・・・
「「いただきます!!!」」
勝手に食事を始める各々。
すると周りの人達も気になったんだろう。
こちらに期待の籠った視線を送ってくる。
はあ・・・どれだけあるのかな・・・
足りなくなっても知らないからな。
『収納』から食事を取り出して、
「欲しい方は居ますか?」
と聞くと、
「こっちください!」
「俺も!」
「では遠慮なく!」
殺到したので適当に渡していく。
「喧嘩しないで分け合って食べてくださいね」
声を掛けておいた。
案の定、
「これは俺のだろ!」
「あ!酷い!何で食べちゃうの!」
やりあっている。
やれやれだ。
これ以上はもう知らん!
俺は『収納』からワインの樽を取り出した。
「おお!」
「樽ごと!」
「よ!太っ腹!」
声が掛かる。
誰も奢るなんて言ってませんが・・・まあ奢るんだけど。
「皆さん適当に飲んでください。喧嘩しないでくださいよ」
最後に注意しておく。
これまた人が殺到し、適当にやってくれと柄杓だけおいて、俺はその場を離れた。
所々で、
「ワイン旨!」
「これ美味しい!」
「最高!」
等と騒いでいる。
俺はこっそりとウコンエキスを飲み込んだ。
やれやれだな。
「さてマスター、ギル、親父、カイン様、念願の酒、不肖神剣エクス行かせて頂きます!」
エクスがワインの入った木製のコップを天に掲げた。
「いけ!エクス!」
「一気に飲め!」
親父さんとカインさんが煽り出す。
グビっとワインを飲んだエクス。
するとわなわなと体を揺すりだした。
「これが酒か・・・美味い・・・親父のいう通りだ・・・無茶苦茶上手い!」
叫んでいた。
「エクス、そうだろう、上手いだろう!ガハハハ!これが酒だ!大いに飲め!」
「エクス、人化出来て良かったな!」
カインさんも嬉しそうにしていた。
隣では食事をがっつくギルに膝枕されているエルがいた。
どうやら眠ってしまったらしい。
ギルも嫌な訳ではなさそうだ。
仲の良い姉弟でよかったです。
「あれ?もう一人ギルがいるよ」
ノンが出来上がっている。
「あ、ほんとだ」
ゴンも同様になっている。
それを見たギルは今話しても埒が明かないと思ったのだろう。
やれやれといった顔をしていた。
俺にワインを飲まそうと次々に人々が殺到した。
これは・・・社員旅行の時より酷くないか?
救援のサインを親父さんに送ると親父さんが割って入ってきた。
「お前さん達、儂にも飲ませろ!」
一気に注目を浴びている。
神様からのお酌のおねだりだ、無視する訳にはいかない。
それにしても凄い人の渦だ。
人酔いしそうだ。
中には見かけたことがある者達も見かけたが、その者達は遠慮しているようで、こちらを気にかけるのだが近寄ってこようとはしなかった。
ああ、そんな・・・助けてくれてもいいんだぞ・・・遠慮するなよな・・・
あれ?餅ハンター。
俺は餅ハンターに向かって手を振ってこいこいと手招きした。
待ってましたと頷く餅ハンター。
よし、あいつらには悪いがここは盾になって貰おう。
到底身体がもたんのでね。
「よう!ブルーエッグ!こっちだ!」
周りの者達を牽制する為にあえて声を掛けた。
ドリルが今だと割り込んできた。
俺に声を掛けられたブルーエッグの面々への妬みの視線が所々から放たれている。
「島野さん!おめでとうございます!」
「ああ、ありがとう」
ドリルに続いて他のメンバーも声を掛けてきた。
「島野さん、おめでとうございます!」
「島野さん、やりましたね!」
「島野一家なら踏破すると思ってました!」
賛辞が止まない。
俺は小声でブルーエッグの面々に伝える。
「すまんが、壁になってくれ。このままじゃ身体がもたない」
「「分かりました!」」
俺の目の前に座り込む。
後ろから、
「何だよ!」
「後ろが痞えてるだろ!」
等と声が挙がるが気にしないブルーエッグの面々。
なかなか肝が据わっている。
「島野さん、それでどうでした?」
「ああ、あの後結構大変でな」
「それはどんな?」
「七階層までは話したよな」
「はい、聞いております」
ダノンが頷く。
「八階層はな、ジャングルだったんだ」
「「ジャングル!」」
意外だったようだ。
「デカい蟻やらが多くて、大変だったぞ」
これまで文句を言っていた後方の者達もダンジョン情報が気になったのか。
「ちょっと静かにしてくれ」
「ここまで聞こえない」
「押すなよ!」
一気に雰囲気が変わった。
そうかこの手があったか、しめしめだ。
「後はデカい蛾やデカいカマキリも居たな、カマキリはそれなりに素早かったし腕の鎌がデカかったぞ」
「「おお!!!」」
どよめきが凄い。
「それでそれで」
意を汲んだドリルが急かしてくる。
「まあそう急かすなよ、次階層までの道のりは大体二キロぐらいだったな。そして九階層目もジャングルだった」
「「またジャングル!!!」」
「そうか」
「なるほど」
皆が皆聞き耳を立てている。
終いには知っているに決まっているカインさんまで混じっていた。
「九階層のジャングルは八階層よりも乾いていたな。湿気をあまり感じなかった。そしてこの階層で出会った魔物はまずはジャイアントパンサーだろ」
「ジャイアントパンサーか、各上だ」
「お前煩えって、黙ってろ!」
「おお、すまん」
等と外野が騒いでいる。
「後はジャイアントタイガーだろ、それからジャイアントベアーだな」
「ここはもうA級でも難しかもしれませんね」
ダノンが考え込む。
「そうかもしれないな、あ!そうそう、この階層でS級のハンター達に遭遇したよ」
「なんと?」
「ほんとですか?」
ドリルまで騒いでいる。
「ああ、追い込まれてたようだから手出しさせて貰ったよ。いくらダンジョンとは言っても流石にな」
「うおー!!!S級を助けた?!」
「規格外だ!!」
「考えられない!」
また外野が煩い。
このままでは俺もしんどいのでギルにも話を振る。
「なあギル、そうだったよな?」
「うん、そうだったね。僕達島野一家はトリプルS級だよ!!!」
何故かギルが高らかに宣言した。
「「トリプルS?!!」」
「うおおおおお!!!」
「そりゃ凄え!!!」
騒いぎ出したと思いきや、
今度は、
「「「トリプルS!!!」」」
「「「トリプルS!!!」」」
大合唱が始まった。
流石のノンもここで踊ることは出来ず酔いつぶれて寝ていた。
今回はノンの変てこダンスはお預けだ。
それにしても大合唱が止まらない。
こうするつもりではなかったのだが・・・
何故にギル君や、君はトリプルSを宣言したんだい?
しまった!そうだった、ギルには中二病的なところがあったんだった。
やれやれだ。
その後、興が乗ったギルが身振り手振りを交えて、ダンジョンでの出来事を詳しく語りだした。
まるで英雄譚でも語るかの如くギルは活き活きと話していた。
後ろにまで聞こえる様にと敢えて大きな声で話している。
ギルは喜々としてダンジョンでの出来事を話していた。
やっぱりこれは中二病だな。
中二病ここに極まれり!




