表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様のサウナ ~神様修行がてらサウナ満喫生活始めました~  作者: イタズ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

65/182

ダンジョンアタックその3

十二階層に辿り着いた。

先程の神殿とは風景が違う。

これはどう見ても迷路だ・・・

辺りは壁一面だった。

入口は一カ所しか無くここから入るしかなさそうだ。

ここでも魔物の気配は感じない。


『探索』を行うと簡単に迷路の様子が見て取れた。

知力が試されるとは聞いていたが・・・こんなものなんだろうか?

簡単過ぎる・・・ここまでがブラフってことは・・・考えずらいな・・・

どうにも解釈に困る。


俺達は『探索』が導くままに迷路を進んでいった。

少し厄介だったのは正規ルートと思われる箇所にも罠があり、何度か落とし穴に落ちそうになった。

でもここは飛行能力を持っている者が俺を含め三人いる為、危なげなく罠を看破していた。

気が付くと早くも十三階層へと繋がる階段に辿り着いていた。

少々味気ない。

というか呆気なさ過ぎる。


階段を降りていく俺達。

十三階層はこれまた先ほど見た神殿だった。


「おいおい、またこれかよ・・・」


「またおじさんがいるのかな?」


「どうかな?」


「あの壁のおじさん、うざかったよね」


「ああ、まったくだ」

長い通路を歩いていく。

無駄に通路が長いんだよな。

これに意味はあるのか?

やっと最深部まで辿り着いた。


また先ほどと同様に壁からおじさんの顔が現れた。

またあいつだ。

いい加減否になるな。


「勇敢なる者達よ、よくぞここまで辿り着いた」


「また会いましたね・・・」


「・・・」

ってなんか言えよ。


「聞こえてますか?」


「聞こえておる」

あれ?

ちょっと声質が違うようだ。

十一階層のおじさんとは違うのか?

でも同様に態度と顔はムカつくな。


「それで、何をすればいいんですか?」


「・・・ちょと余韻に浸らせてくれ・・・」

余韻?

またか・・・

いい加減にしろよ!

腹が立ってきた。


「はぁ・・・」

壁のおじさんが目を瞑り余韻に浸っている。

だから何の余韻なんだよ!

いい加減にせい!


「あの・・・百年ぶりに人と話すことの余韻に浸ってるんですよね?」

壁のおじさんは目を開き、以外そうにこちらを見ていた。


「何で知っておる?」


「十一階層でも同様のやり取りがありましたので・・・」


「そうか、あいつか・・・ちっ!」

気に入らない表情を浮かべている。


「どうやら別人みたいですね?」


「あんな奴と一緒にするな!」

吐き捨てていた。


「はあ・・・」


「儂はあいつほど間抜けではない!」

何なんだよいったい!

たいして変わらん気がするが?

ていうか十一階層の壁のおじさんを知ってるんだな。


「十一階層の壁のおじさんを知ってるんですか?」


「知ってるも何も、しょっちゅう会っておる」

それで人とは久しぶりってことか・・・

壁のおじさん同士ではお話してたってことね、これが業務上の秘密なのか?


「それで、今回はどんな質問なんですか?またなぞなぞですか?」


「いいや違う。そんな簡単な物ではないぞ」


「へえー」

どうだかな・・・

どうにも信用ならん。


「ここでは計算を行って貰う、それも時間厳守でだ、どうだ?難しいだろ!」

壁のおじさんはどや顔をしていた。

計算って・・・まさか足し算とか引き算ってことなのか?

であれば簡単過ぎるな。

まあいい、さっさとやっちゃいましょうか。


「では、お願いします」


「ちょっと待ってくれ、そう急かすな。儂も十一階層のあいつと同様、百年ぶりの人との会話なんだもう少し会話を楽しませてくれ。ところで最近の世情などはどうだ?」

何がところでだ、付き合い切れん。

というか話にならん。


「あのなあ、十一階層の壁のおじさんにも伝えたが、今は事情が変わってカインさんも神力が充分に確保できる状況に変わったから、ちょいちょい覗きに来ると思うぞ?」


「そうなのか?」


「そうだ、だから先を急がせてくれ」


「・・・嘘じゃないよな・・・」

壁のおじさんは眉を潜めている。


「疑うのか?」


「・・・疑う・・・」

面倒臭い!

こうなったら。


「よし!帰ろうか。戻ってカインさんに言いつけてやろう」


「そうだね、そうしよう」


「そうするですの」


「やだやだ」


「おじさん、知らないよー」

全員俺の意を汲み取ったようだ。


「何!待った!待った!悪かった!ごめんこの通りだ!」

ただの不毛なやり取りじゃないか、まったく。


「それで、早く問題を出してくれないか?」


「分かった、そうする!ちょっと待ってくれ、心の準備をさせてくれ」

何が心の準備だ、早くしろよな。

壁のおじさんは深呼吸をしていた。


「よし、準備は整った。よいか、先ほど話した通りここでは計算をして貰う。それも決められた時間内に回答して貰う。時間切れや間違った回答をしたら十階層のセーフティーポイントにまで一度帰ってもらうことになる」


「へえー、それは転移するってことか?」


「いや、違う。歩いていってもらう」

なんだそれ?

まあいいや、こんなことで時間を潰したくない。

突っ込まないことにしよう。

早く先に進みたい。


「まあいい、始めてくれ」


「そうか?質問があるなら受け付けるが?」

壁のおじさんは質問してくれと書いてある顔をしていた。

こいつ、結局は話しをしたいだけじゃないか。

ただのお喋りなおじさんじゃないか。

付き合いきれん。


「いや、いい、始めてくれ」


「・・・そうか・・・」

壁のおじさんはつまらなさそうな顔をした。


「では始めるが回答時間は十秒以内だ、いいな?」


「ああ」


「では、第一問」

このおじさんも要らない間を設けている。

早くしろっての!まったく!


「二十三足す二十四は?」


「四十七!」

暗算キングのノンが速攻で答える。


「・・・正解!・・・」

おいおい、ほんとうに簡単な足し算じゃないか。

ここもちょろいのか?

何かの罠か?

分かりかねる。


「お主、やるのう。速攻で答えられたのは始めてだぞ」


「まあねー」

ノンは気にも留めていない様子。


「では行くぞ、第二問!」


「チャンチャン!」

ノンがふざけている。

ノンの奴、実は正解したのが嬉しいのかもしれない。

よく見ると尻尾を振っていた。

分かり易い奴だ。


「九十一引く四十三は?」


「四十八!」


「正解!」


「イエーイ!」

圧倒的なノンの暗算の速さだ。

秒読みのカウントが全くされなかった。

一秒未満だ。


「ノン兄だけずるいぞ!」

ギルが悔しがっている。

そんな悔しがることじゃないでしょうが。

さっさと終わらせようよここはさ。


「お主、凄いな!圧倒的な速さだ」

壁のおじさんが関心している。


「へへ!」

余裕をかましているノン。

今にも踊り出しそうだ。


「さて、次からはそうはいかないぞ。一気に難しくなるからな、余裕なのもここまでだ!」

壁のおじさんは自信満々だ。


「楽勝!」

ノンもやる気満々だ。


「では行くぞ、第三門!」


「チャンチャン!」

ノンは絶好調のようだ。

もはや遊んでいる。


「十四掛ける二十四は?」


「三百三十六!」


「正解!」


「早っや!」

俺は思わず呟いてしまった。


「凄いでしょー」


「まったく凄いな、ノン!」

二桁の掛け算を解くスピードとしては最速だといえる。

これも一秒と掛かっていない。


「くっそう!何でノン兄は計算がそんなに早いんだよ!」

ノンはふざけて頭を指で示している。

それをギルが悔し気に睨んでいた。

もうここは張り合わなくてもノンに任せたらいいんじゃないか?

間違えたらそれはそれで面倒臭い事になりそうだし。


「ムムム・・・お主・・・やるではないか」

壁のおじさんも唸っている。

ノンの計算の速さは圧倒的だ。


「では最後の問題だ、いいかな?」


「いいよー」

余裕を崩さないノン。

これまた要らない間を取る壁のおじさん。

いい加減止めて欲しい。


「千五百三十六割る九十六は?」


「十六!」


「正解!」


「おお!」


「早い!」


「断トツ!」

ノンへの賞賛が止まらないがギルだけは悔しがっていた。

ギルは地団駄を踏んでいる。


「それにしてもお主凄いな。ここまで正確で速いのはこれまでにもいなかった。断トツだぞ!暗算キングだ!」


「イエーイ!」

更に調子に乗るノン。

どうやらクリアしたようだ。

それにしてもノンの計算の速さは凄かった。

一問目と二問目は未だしも、三問目と四問目の速さは秀逸だった。

俺でも数秒は掛かったと思う。

それにしてもやれやれだ。

やっと終わったよ。


「勇敢なる者よ、先に進む名誉を与えよう、行くがよい」

壁のおじさんが言うと壁が開き十四階層への階段が現れた。


「ちょっと待った!セーフティーポイントは何処なんだ?」


「ああ、そうか、そっちも必要か」

横の壁が開きセーフティーポイントが現れた。

ここのセーフティーポイントはこれまでの小屋の部屋とは違い石造りの部屋となっていた。

台所とトイレは付いている。

中に入ると入口の扉が閉まった。

テーブルがあったので一先ずそこに腰かけた。

何だか妙に疲れた。


「それにしても疲れたな?」


「だね、ここのおじさんもうざかったね」


「全くだ」

ノンは活躍出来たのが嬉しいのかまだ調子に乗っている。

一人で変てこなダンスを踊っている。

さてと、転移扉を設置しなければならない。

これまで通り転移扉を『加工』で床に設置する。

通信用の魔道具も設置済だ。


「ゴン通信を頼む」


「了解です、主」

ゴンは通信用の魔道具を掴むと交信を開始した。


「こちら十三階層のセーフティーポイントです。カイン様聞こえますか?」

少ししてから返信があった。


「聞こえてるよ、ちょっと今までよりも声が小さいがちゃんと聞こえている」


「そうですか、距離が関係しているのかもしれないですね、どうですか?主?」

俺は横から話し掛けた。


「そうかもしれないな、カインさん一先ずおやつタイムにしますのでこっちに来てください」


「了解、行かせて貰うよ」

通信を切るとほどなくしてカインさんが現れた。


「島野君おつかれ様、おやつタイムとは何なんだい?」


「こういうことです」

俺は『収納』から最近新作として作ったシュークリームとなんちゃって水筒を取り出した。


「これは最新作のスイーツです。シュークリームと言います。是非食べてみてください。飲み物は何にしますか?」


「毎度毎度すまないね、飲み物は何があるんだい?」


「天然水とお茶と、オレンジジュース、コーヒーですね」


「では、お茶を頂こう」


「お前達はどうする?」


「僕はオレンジジュース」


「僕も」


「私しはお茶ですの」


「私はコーヒーで」

俺は各自に飲み物の入ったなんちゃって水筒を渡し、シュークリームを配っていった。

シュークリームは一人二個づつだ。

カスタードクリームのシュークリームと生クリームのシュークリームだ。

好みが分かれるところだが俺はカスタード派だ。

シュークリームの皮の作成にはこれまで何度もトライした。

最適な薄さを求めるのに苦労した、頑張って作り上げた一品である。


「これは旨い!それに甘い!」

カインさんは叫んでいた。


「そういえばカインさん、十一階層の壁のおじさんとここの壁のおじさんが寂しがってましたよ?」


「そうなのか・・・」

ちょっとカインさんが嫌そうな顔をした。


「人と話すのは百年ぶりだって粘られましたよ」


「やっぱり・・・いや分かってはいるんだよ私も、だがあいつ等は・・・喋り出すと止まらないんだ。それにいつもあいつらは亜空間に住んでいるから、決して独りぼっちではないからね・・・そうか・・・あとで顔を出しておくよ」

やっぱりそうか。

ゴンとは違うということだ。

甘やかす必要は感じないな。

ただのかまってちゃんのようだ。


「話が長く続きそうなら、十七階層に設置する予定の通信用の魔道具を持っていってくださいね」


「そうだな・・・」

気が進まないようだ。

確かにおじさん達はお喋りだったからな。

ウザいことは間違い無い。


「まあ、気が向かないとは思いますが一度は行ってやってくださいね」


「そうだな、そうするよ」

カインさんは浮かない顔をしていた。

片付けをして要を済ませてと準備をしていると、カインさんに話し掛けられた。


「島野君、ここからは大変な階層が続くけど頑張ってくれよ」


「大変ですか?」


「ああ、島野君なら大丈夫とは思うが一応ね」

警告された。

大変とはなんだろう?

まあ、行ってみれば分かるか。

とこの時の俺は安易に考えていた。




本当に大変だった。

正直ヘトヘトだ。

ここまで追い込まれるとは思わなかった。

作り手の悪意を感じる。

決して舐めてはいなかったがここまでとは思わなかった。

勘弁して欲しいよ、いい加減さ。




俺達は十四階層に降り立つと唖然としてしまった。

まさかの砂漠地帯だった。

異常に熱い。

サウナで暑さには慣れているがこれは違う熱さだった。

肌がヒリヒリする。

これは良くない。

間違いなく百度以上の温度がある体感だ。


俺は昔に味わった百十度のサウナを思いだした。

あれは酷かった。

サウナは熱ければいいという物ではない。

やはり適温というものがある。

百十度のサウナの全身にビリビリする感覚は危機感すら覚えたものだった。

真っ先に俺は結界を張りそこに『限定』の能力を付与して、温度を通さないようにしたのだが地面の熱さは遮断できず、汗だくになっていた。


それに加えてジャイアントワームというかなりデカいミミズからの襲撃を受けることになった。

面倒臭い事この上ない。

こいつらは牙が鋭くて気持ち悪い。

奴らが厄介なのは地面から湧き出てくることで『探索』にもなかなか引っかかってくれない。

いきなり地面から口を開けて襲い掛かってくる。

無茶苦茶苛々させられる。


これは良くないと俺は瞬間移動の移動を問答無用で行った。

ものの数分の移動で済んだが全員汗だくだ。

サウナに慣れ切った俺達でこれなんだから、他のハンター達がこれに耐えれるとは到底思えない。

これはカインさんが何かしら手を加えてるのか?

という疑問すら伺える。

どう考えてもこれをS級のハンターが踏破出来るとは考えづらい。

先程会ったハンター達がこの階層を超えれるとは思えないからだ。

それぐらい辛い階層だった。

もう二度と挑みたくは無い。

敢えてもう一度言う、二度とごめんだ。




そしてそんな火照った体を冷やしてくれる心使いなのか。

十五階層は氷の世界だった。

いい加減にして欲しい・・・

ものの数秒で身体は冷めていた。

何で外気浴場が無いんだ!

と言いたかったがここはダンジョンであることを思い出した。

思わず外気浴出来る場所を探してしまったのは条件反射という事で・・・

いやはや俺の脳みそはサウナに支配されているようだ。

それはさておき。


ここでも結界を張るしか無かった。

先程と同様に『限定』で温度を通さないようにしたが、やはり地面からの温度は抑えきれず異常に寒かった。

足に霜焼けが出来るかと思ったほどだ。

この階層ではアシカだかオットセイだかの魔物が襲いかかってきたが、無視して先を急ぐことにした。

すまないと思うが構ってられないというのが正直な感想だ。

魔物はスルーしたが許して欲しい。

ここまで寒いのは生命の危機を感じる。




十六階層は暴風雨のステージだった。

一見ただの草原なのだがそうはいかないということだった。

とにかく雨風が強い。

身体を持っていかれそうになる。

気を抜くと身体が宙に浮かびそうになる。


そこに加えてこれまでの草原ステージの魔物達が襲いかかってくる。

だが魔物達も強風に身体を持ってかれておかしなことになっている。

魔物達が俺達に辿り着くことは無かった・・・

これって何なの・・

意味があるのか?

余りに間抜けだった。

全く意味が分からない。


ここでも瞬間移動を繰り返して先を進むしか無かった。

かつてのS級ハンターがよくもここまで辿り着いたものだと俺は関心してしまった。

その精神力には天晴だ!

でも昔のダンジョンと今のダンジョンが同じものだとは限らない。

そう思うのはあまりに過酷過ぎるからだ。

これはカインさんに問い正してみないといけない。

俺の予想ではカインさんが何かしら弄っているのは間違いないと思っている。

あの人ならやりかねない。




やっと十七階層に辿り着いた。

ここの風景はまるで禿山のようだった。

そして気づいたことがある。

空気が薄い・・・

標高何メートルかは分からないが、三十台後半の頃に登った富士山の山頂よりも空気は薄いと感じる。

こんなに息苦しかった覚えは無い。

肉体的にはあの頃よりも若いのだから間違い無いだろう。

標高三千八百メートル以上はあるということだ。

なんとも忍耐力を試される。


数メートル歩くと息が切れそうになる。

だが思いの外、楽な階層となってしまった。

ほとんど魔物を見かけなかったからだ。

それはそうだろう、魔物にとってもこの環境は辛いはずだ。

稀にデカいカモシカの様な魔物に遭遇したが、動きが遅く簡単に倒すことができた。

ドロップ品は角だった。


『鑑定』 ジャイアントカモシカの角 高価な薬の材料になる


となっていた。

高価な薬が何の薬なのかは分からないがとりあえず回収しておいた。

そして飛行はしんどいだろうと、瞬間移動を繰り返してセーフティーポイントに辿り着いた。

やっと着いた・・・はあ・・・


セーフティーポイントに入ると息苦しさが無くなっていた。

どうなっているのだろうか?

仕組みがまったく分からない。

まあダンジョンだから考えるだけ無駄なことだ。

このダンジョンという処はファンタジーが過ぎる。

何でもありと言わざるを得ない。

常識で考えると頭がパンクする。


もはやルーティーンの転移扉の設置と通信用の魔道具を設置する。

これが最後のルーティーンとなる。

全てのセーフティーポイントの転移扉と通信用の魔道具の設置が完了した。


「ゴン、通信を頼む」


「主、了解です」

ゴンは通信用の魔道具を使った。


「こちら十七階層のセーフティーポイントです。カイン様聞こえますでしょうか?」

少しして返信があった。


「こっらカッン、かなりきっえ、づっらい」

あれ?

通信状況が悪いようだ。


「ゴン切っていいぞ、どうやら通信状況が良くないようだ」


「そのようですね」


「もう転移扉を使って帰ろう」


「了解です」


「お前ら帰るぞ。今日はここまでだ」


「分かったよ」


「疲れた」


「やっと終わりましたですの」

流石のこいつらも疲れたようだ。

俺は転移扉を開いてダンジョンの入口に戻った。


俺達が突然現れたことにカインさんは少し驚いていたが、

「島野君、お疲れ様」

声を掛けてくれた。


「いやー、ほんとに疲れましたよ。でもこれで転移扉と魔道具の設置は完了しました、コンプリートです」


「ありがとう、助かるよ」


「でも十七階層の通信用の魔道具だけは通信状況が良くありませんね」


「そのようだね、でも通信があればこちらから伺うことができるから御の字だよ」


「そうですね、通信用の魔道具の意味合いは迎えに来てくれとのメッセージを送ることですからね」


「ああ、そうだな」


「そういえば一つ聞きたいことがあるんですが、いいでしょうか?」


「何だい?」


「今のダンジョンと昔のダンジョンって、同じ物なんでしょうか?」

カインさんの顔が引き攣っている。


「気づいちゃった・・・かな?」


「やっぱり・・・」

どうやら俺の予想通り違う物のようだ。

今はかなり過酷になっているみたいだ。


「何でまた?」


「島野君達以外に賞金を持っていかれる訳にはいかないと思ってね・・・」

カインさんなりの気遣いのようだが、正直いらん世話を焼かれた気分だ。

まあ今となってはどうでもいいことではあるのだが・・・

それにしても賞金のことはすっかり忘れていたな。

これで賞金は払わなくてもいいということになったようだ。


「お気遣いありがとうございます、もう疲れたので帰りますね」


「お疲れ様」

俺達は転移扉を使う事無く、俺の能力の転移でサウナ島に帰っていった。

今日は充分に汗をかいたからサウナは止めておいた。

精神的に疲れたのでシャワーと風呂だけ浸かって直ぐに眠りについた。




翌日の朝

この先はどうしようかとの話になった。

朝食を済ませると社長室に島野一家が集まっていた。


「主、ここまで来たからには踏破しましょう!」

ゴンはやる気満々だ。


「そうだよ、やろうよ!」

ギルもその気だ。


「僕はどっちでもいいよ」

ノンはあまり拘っていない様子。


「ご主人様に任せますの」

エルは自分の意見は有って無いような雰囲気だった。


どうしたものか・・・正直面倒臭いのだが・・・

でもここまでやったのだから、ここで終わらせるのもなんだか気が引けるな。

せっかくだからやるか?

随分期待されてるみたいだしな。


「よし、やるか!」


「やった!」


「やりましょう!」

気合の入った返事が返ってきた。


「でも今日は休もう、挑むのは明日にしよう」


「「了解!」」

少しは休憩したい。

特に肉体的に疲れが残っている訳ではないが一拍置きたい気分だ。




翌日

朝食を済ませ準備を整えてからダンジョンの街エアルに向かった。

一日置いたにも関わらず熱狂的な歓声で迎えられた。

至る処で歓声が挙がっている。

早速調子に乗ったノンが例の如く変てこダンスを披露している。

ツッコむ気にもなれない。

ゴンがノンを睨んでいるが、ノンは気にも留めていない。


よかったのは囲まれたり道を塞ぐ者がいなかったことだ。

ただの歓声だけならダンジョンの入口に辿り着けば終わるだろう。

ダンジョンの入口に着くとカインさんに迎えられた。

予想道りとはならずここでも歓声が煩い。

カインさんは何が嬉しいのかニコニコしている。


「おはようございます」


「やあ、おはよう」

カインさんの声が聞こえづらい。

それを察したのかカインさんは手を挙げて歓声を制した。


「とうとうこの日がやってきたようだ」

カインさんは目を輝かせている。


「今日で終わらせますよ」


「頼んだよ」

カインさんは右手を差し出してきた。

俺は握り返すと何故だかまた歓声が挙がった。

いい加減止めて欲しい。


「では行きますね」

俺達は復活の指輪を受け取り十七階層に繋がる転移扉へと向かった。

転移扉を開いて扉を潜った。

十七階層のセーフティーポイントに辿り着いた。


「じゃあいこうか」


「「はい!」」


十八階層に繋がる階段を降っていく。

十八階層は薄暗かった。

月明り程度の明かりしかない。

ゴンに照明魔法を使わせようかと思ったが止めておいた。

光が目印になり魔物が寄ってくるかもしれないかと思ったからだ。


「まずは目を慣らそう、少し待機だ」


「「了解!」」

俺達は五分ほど十八階層の入口で佇んでいた。

そして目が慣れて来たころに分かったのは、ここは墓地だということだった。

所々に墓石のような物があり空気が冷たいのを感じる。


一先ず『探索』を行ってみたが、これまでと様子が違った。

十九階層に繋がる階段が見当たらなかったのだ。

どうなっているんだ?

これまでの傾向からここら辺にあるだろうという場所には、ぽっかりと空白があった。

この空白は何だろうか?

まあ行ってみれば分かるか、先ずはこの空白を目指そうと思う。


それにしてもこの空気感で出てくる魔物といえば、ゴーストのような魔物なのだろうか?

そうなると物理的な攻撃は当たるのだろうか?

と考えていると、さっそくその答えを導き出す魔物が現れた。


ゴーストである。

フワフワと浮いた霊魂のようなものがこちらに迫ってきた。

それに向かってノンが動いた。

爪で抉るが空を切っていた。

早くも答えが出てしまった。

物理攻撃は効かない。

それを見て俺はさっそく自然操作の火をぶつけてみた。

おお!これは効いたようだ。


ゴンは土塊をぶつけていたが空を切っていた。

こうなるとあとは何が有効なのか探るしかない。

結果として分かったのは物理も魔法も聞かない。

どうやら俺の自然操作のみ効いたみたいだ。

ここから導き出される答えは神力しか効かないということだ。


おい!それはないだろう!

神力を持たない者がほとんどのこの世界で、この様は無いんじゃないか?

待てよ、そういえばメルルの鎮魂歌があったな。

でもあれは怒らく固有魔法だと思うのだが・・・

まあいいか。


ズルいと感じるのはゴーストは魔法を使ってくる。

これは俺達には効くのだ。

通常のハンターでは太刀打ちできないぞ。

島野一家では俺とギルが神力を使える為対応は可能だが、ここもカインさんが弄っているのか?

それとも俺が知らない対応可能な魔法があるのだろうか?


「ギル、ここは神力を持ってる俺とギルで対処するしかないようだ、神気銃を射ってみろ。有効なはずだ」


「分かった」

ギルは神気銃をゴーストに向かって撃っていた。

ゴーストが消滅していく。

そしてムカつくことにドロップ品は無かった。

倒し損でしかない。

ふざけるな!


その後、骸骨の襲撃を受けた。

こいつらは簡単だった。

物理攻撃が効いたのだ。

頭を砕くとあっけなく崩れていった。

その名は鑑定によるとスケルトンとなっていた。

まんまである。


外には武具や剣を装備したスケルトンに遭遇した。

こちらはスケルトンソルジャーとなっていた。

スケルトンシリーズはハッキリ言って弱い。

そしてこれもムカつくことにドロップ品は骨だった・・・

要らんわ!

誰が好き好んで骨を集めるというのか。

あっ!畑の肥料にはなるのか?

念のため鑑定してみたが、ただの骨となっていた。

やっぱり要らないな。


その他にもアンデットやらが襲ってきたが、漏れなく火魔法で焼いて処理した。

焼いてしまった所為かドロップ品は出なかった。

ここの階層は只々魔力や体力、そして神力を削られるだけのようだ。

見返りは全くない。

悪意を感じる。

腹が立って仕方が無い。


そして遂に空白ポイントに辿り着いた。

そこには神殿のような建造物が鎮座していた。

壁のおじさん達が居た神殿とは雰囲気が違う。

石造りであることは同じだがあまりに空気感が違う。

禍々しさを感じるのだ。

これはもしかしてボス部屋ということなんだろうか?

ここを進むしかないのは分かる。


神殿に足を踏み入れると直ぐに両開きの大きな扉に辿り着いた。

やっぱりそうなんだろう、ここを空けるとこの階層のボスが居るということなんだろうと思う。


「皆な、多分この扉を開くとこの階層のボスが居ると思う、心して掛かって欲しい」


「そうなの?」

ギルの疑問だ。


「多分な」


「そうなんだね」

ギルは臨戦態勢に入っていた。


「じゃあ行くぞ!」


「「おう!」」


「「了解!」」

全員気合が入っている。

俺は勢いよく扉を開けた。


中に入っていくと案の定ボスの様な魔物が待ち構えていた。

その魔物は高貴な僧侶のような衣服を纏ったスケルトンだった。

その手には杖が握られている。


『鑑定』 リッチスケルトン 死霊魔物の最高位に属する魔物 死霊魔法を得意とする


死霊魔法?

聞いたことがない・・・それに響きが怖い。

呪われるってことなのか?

これは一気にやっつけたほうがいいだろうな。


「死霊魔法という物を使ってくるらしい、一気に片付けるぞ!」


「おう!」


「了解です」

俺とギルはリッチスケルトンに対して神気銃を連発した。

するとあっさりとリッチスケルトンが消えて行った。

何だったんだ・・・

ちょっと可哀そうに思えてきた。

ドロップ品は杖だった。


『鑑定』 呪いの杖 呪うことが出来る杖


・・・要らないな。

放置するのも良くないと自然操作の火で焼いて、念の為踏み砕いて粉々にしておいた。

誰が呪いなんてしたいんだよ。

ふざけるな!

ほんとにやれやれだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ