ダンジョンアタックその1
一階層は前に一度来た事がある。
デカい芋虫とデカい蜂がいる階層だ。
洞窟の様な造りをしている。
前回は始めてだったので走って進んだが今回は違う。
俺はエルに乗りギルの背にノンとゴンが乗るいつもの島野一家スタイルだ。
飛びながらどんどんと進んで行く。
念のため結界を張っておいた。
途中デカい蜂がぶつかったがほとんど轢き逃げ状態だった。
プチプチと潰れていった。
デカい芋虫は近寄ることすらも無かった。
そりゃあそうだよな。
飛んでるんだもん。
壁が迫ってくることが一度あったが難なく抜けて行った。
恐らく罠なんだろう。
やはりこのスタイルは速い。
どんどんと進んでいく。
数名のハンター達が嘘だろ?といった顔をしていた。
適当にドロップ品を拾って行ってくださいな。
こちらは先を急ぎますのでね。
さらばだ!諸君!
ものの数分で二階層に繋がる階段に辿り着いてしまった。
さっさと先に進もうと思う。
俺達は早々に二階層にやってきた。
ギルが、
「前もこうすればよかったね」
と言っていたが、まったくその通りだった。
でも前回は始めてのダンジョンだったから慎重に歩を進めたのでしょうがない。
慎重に事は進めるべきだからね。
そんなことはお構い無しにノンに至ってはギルの背中でほとんど寝ていた。
ここの階層もすいすいと飛んで行く。
草原をただ単に飛んでいっただけ。
ここでもハンター達が考えられないといった顔で俺達を見つめていた。
なんだかごめん。
悪気は無いのだ、でも飛べるんだから飛ぶに決まっている。
決してズルしている訳ではない。
これも能力なんです。
ここも数分で階段に辿り着いた。
ノンはギルの背中で鼾をかいていた。
階段を降りる時にギルは人化しないといけないぐらい階段が狭い為、ノンはギルに叩き起こされていた。
「ノン兄!いい加減にしてよ!」
「ん?ああ、めんごめんご」
「またそれ?何やってんの?」
じゃれ合っている。
階段を降って行く。
まだスタートから三十分も経っていない。
早くも三階層に到達した。
この階層も飛んで行くことにした。
下に見えるハンター達の反応も同じだ。
中には、
「ずるいぞ!」
叫ぶ者もいたが気にしない。
だから能力なんだって!
俺達は先を急ぐことにした。
今日の目標は七階層までの転移扉を設置することだ。
いちいち気にしてはいられない。
あっという間にセーフティーポイントに辿り着いた。
先ずは小屋の中に転移扉を設置する。
念の為『加工』で転移扉を床に張り付ける。
持っていく者はいないと思うが一応ね。
そしてテーブルの上に通信の魔道具を設置する。
ゴンに魔道具を使用して貰う。
ゴンは通信の魔道具を手に持つと、
「こちら三階層のセーフティーポイントです、聞こえますか?」
通信出来るかをチェックしていた。
「こちらダンジョンの入口、聞こえてるよ」
カインさんの声が返ってきた。
俺は横から話をする、
「カインさん、転移扉の設置が完了しましたので今から開けますね?」
「島野君、随分早いね、よろしく頼むよ」
回答があった。
俺は転移扉を開いてみた。
扉の先にはカインさんが居た。
早速扉を潜ってみる。
俺はダンジョンの入口に出た。
「よし、上手くいきましたね」
「成功だ、凄い!」
カインさんは興奮している。
「これで運用が出来ることが証明されましたね」
「ああ、そのようだ」
よかった、よかった。
「では次は五階層ですね」
「それにしても早すぎるよ、島野君・・・」
「今回は前回と違って飛んで行ってますからね」
「見ていたよ、あれは何というか・・・まあいい」
含みの有る言い方だな。
どうせズルいとか言うんでしょ?
「今日中に七階層まで行く予定ですのでよろしくお願いします」
「・・・そうか・・・助かるよ」
カインさんは歯切れが悪い。
「では先を急ぎます」
そう言って俺は先ほど使った転移扉を開いた。
扉の先ではエルが手を振っていた。
「それでは後ほど」
「待ってるよ・・・」
カインさんは今度は呆れた顔をしていた。
俺は無視して転移扉を潜っていった。
セーフティーポイントに戻ると俺達以外のハンター集団が一組いた。
俺達とは距離を取っている。
「さあ、行こうか」
俺達はセーフティーポイントを離れて階段へと向かった。
階段を降り四階層へと向かう。
四階層も森だった。
三階層とたいして変わらない。
飛んで行こうかとも思ったが、
「せっかくだから、どんな魔物が要るのか確認してから飛んでいこうか?」
「うん、そうしよう」
ノリノリなギル。
「僕もそうしたい」
ノンも同意見のようだ。
背伸びをして身体を解している。
先に進むと森の中からさっそく魔物が現れた。
ジャイアントブルが三匹だ。
ノンが先行して一匹を獣化して首を爪で抉った。
ジャイアントブルが消えていく。
ドロップ品は角だった。
これは肥料になりそうだ。
確かアイリスさんが欲しがっていたはずだ。
「ドロップ品はアイリスさんが欲しがってた角だから回収していこう」
「「了解!」」
残りの二匹もゴンが土魔法で作った、先の尖った土の塊をジャイアントブルの腹に突き刺していた。
あっさりと終了。
ジャイアントブルの角を回収した。
先を急ぐことにする。
森を進んでいくと今度はジャイアントボアが二匹現れた。
獣化したエルが角で胴体を横からぶっ刺した。
ジャイアントボアが消えていく。
もう一匹は俺に向かってきたので首を蹴って骨を折った。
ドロップ品は前回と同じ毛皮だった。
要らないが一応拾っておく。
その先もジャイアントボアとジャイアントブルしか出てこなかった。
「よし、もういいだろう、飛んで行こう」
「そうだね」
「もう飽きたよ」
ギルとエルが獣化し俺達は乗り込んだ。
『探索』で階段を探す。
階段の方向をエルに指示しそちらに飛んで貰う。
ものの数分で階段に辿りついた。
軽い運動をしたが四階層に入ってからまだ二十分程度だ。
俺達は五階層に降りていく。
五階層は草原だった。
二階層の草原とは様子が違う。
二階層は昼のようだったがこちらは夕方の様相だ。
陽光に赤みがある。
先に進んで行くが魔物が見当たらない。
数分進んだ所で襲撃があった。
ジャイアントイーグルだ。
これはありがたい。
「飛びながら戦闘しよう、先を急ぐぞ」
再び獣化したギルとエルに乗り込みジャイアントイーグルを迎え撃つ。
前回のジャイアントイーグルとの戦闘は間抜けなものだったが、今回はもっと間抜けな戦闘になると思う、それは魔獣化していないからだ。
案の定ギルに丸焦げにされて消えていた。
その後も何度か襲撃にあったがギルのブレス一撃でジャイアントイーグルは沈んでいった。
ギルのブレスが強力すぎるのかドロップ品が出なかった。
もしかしたらドロップ品も焼いてしまったのかもしれない。
「ギル、ドロップ品まで焼けてるようだから、次はブレスは無しな」
「分かった」
次の襲撃ではギルは珍しく土魔法で攻撃していた。
ゴンの魔法を真似たようだ。
先の尖った土の塊がジャイアントイーグルの腹に刺さっていた。
ドロップ品が地上に落ちていった。
「エル拾ってくれ」
「分かりましたの」
エルは急降下してドロップ品の下に潜り込んだ。
拾いあげるとドロップ品は爪だった。
これは要らないのか?要るのか?判断に悩む。
鑑定してみよう。
『鑑定』 ジャイアントイーグルの爪 薬の材料になる
へえー、薬の材料になるんだ、エルフの村に寄贈しようかな?
まあ好んで拾う必要は無いな。
そろそろセーフティーポイントに着く。
最後にもう一度ジャイアントイーグルの襲撃を受けたが、ドロップ品は要らないと言うとギルが問答無用でブレスで焼いていた。
セーフティーポイントの小屋に辿り着いた。
小屋の中が少し騒がしい。
ノックをして中に入った。
すると一組のハンター集団が食事を摂っていた。
この階層まで来れるということは、Cランクぐらいだろうか?
よく見ると餅を練炭のような物で焼いていた。
「おお、餅だ!」
俺は思わず声を出してしまっていた。
その声に振り返るハンター達。
何気に視線が合う。
お互いが軽く会釈した。
すると犬の獣人に話し掛けられた。
「もしかして、島野一家の人達ですか?」
何故に知っている?
顔に見覚えはないが・・・
何処かで会ったかな?
「そうだが・・・」
「やっぱり、だと思いましたよ」
「はあ・・・」
「島野一家がダンジョンに挑むって、噂になっていたので」
そういうことね。
「噂になっているみたいだね」
「そりゃあ島野一家が動くとなれば、ハンターとしては見過ごせないですよ」
「そうか・・・」
見過ごしてくれていいのに・・・
結構迷惑なんですけど・・・
「それでここまで何日掛けたんですか?」
「何日?」
「ええ、俺達は三日目です」
これは・・・真面に答えていいんだろうか・・・
「今日だよ」
「・・・」
「だいたい二時間ぐらいかな・・・」
「「えええ!!」」
ハンター達は腰を抜かしていた。
やっぱりな、こうなると思ったよ。
それよりも気になるのがあの餅だ。
保存食として使えるのは分かっていたが、こういう使い方が出来るとは驚きだ。
「それよりも、その餅はどうしたんだい?」
犬の獣人が気を取り直したようで、
「サウナ島でもち米を買ったんです。それで調理の仕方を教えて貰って試しに作ってみたんです」
犬の獣人は誇らしげにしていた。
「そうなんだ」
「店員の女性の方が凄く親切に教えてくれて、保存食になるって言われたので・・・」
アイリスさんかな?
良い仕事してるじゃないか、今度褒めておこう。
「正月の餅つき大会は楽しかったです、また参加したいです」
そうか、あの時の参加者か。
「そうか、それは良かった」
「あそこで餅の美味しさに目覚めました」
それにしても考えたな。
ハンターの食料といえば干し肉だと聞いていたがこれは賢い選択だ。
固形の餅であればマジックバックで運ぶのは簡単だし、焼き餅にすれば美味しく食べられる。
干し肉を食べるより数段増しだ。
これは道具屋で販売しようと思う。
「干し肉を食べるよりも、餅の方がよっぽど旨いですよ」
「だろうね、そうだ」
俺は『収納』から醤油を取り出した。
「よかったら使ってくれよ」
「いいんですか?これってあれですよね、餅つき大会の時にあった調味料ですよね?」
犬の獣人は醤油を受け取ると大いに喜んでくれた。
いいヒントを貰ったお礼だ。
「そうだ、これは醤油というんだ。餅にはこれだろう?」
「ありがとうございます!」
相当嬉しかったのだろう、きっちりと頭を下げられた。
ハンター達は再度餅を焼きだした。
餅が焼ける美味しそうな匂いがする。
さて、ハンター達に構ってばかりはいられない。
まずは転移扉の設置をしなければならない。
三階層の時と同じ要領で『加工』で転移扉を動かせないようにした。
そして通信用の魔道具も設置した。
「ゴン、通信用の魔道具を使って、カインさんに繋げてくれ」
「分かりました、主」
ゴンが通信用の魔道具を使用した。
「こちら五階層のセーフティーポイントです、カイン様聞こえますでしょうか?」
一拍置いて返答があった。
「ああ、聞こえているよ」
俺は横から話し掛ける。
「カインさん、転移扉の設置が完了しています、今から向かってもいいですか?」
カインさんからの返答を待つ。
「今回は私がそちらに向かってもいいかい?」
どうやら転移扉を使ってみたいようだ。
「いいですよ、お待ちしています」
すると数秒後に転移扉が開かれた。
カインさんが転移扉を潜ってセーフティーポイントに現れた。
「おお、繋がったね」
カインさんはご満悦だ。
「これで二つ目設置完了ですね」
「すまないね、こんなことをさせて」
「いえいえ、ついでですので気にしないでください」
「それにしても島野君、君達は早すぎるよ。ちょっとは戦闘を楽しんでくれたようだけど、にしても強すぎる」
「ハハハ!」
笑うしかないな。
島野一家は過剰戦力なんです。
眼を瞑って貰えると助かります。
「それで今日は七階層までは潜るのかい?」
「その予定です、今日はそれぐらいでいいかと」
「そうなんだね」
「その後はいつも通り、サウナ島に帰ってサウナに入りたいので」
「・・・」
カインさんが呆れた顔をしていた。
あれ?間違った?
「島野君はほんとに規格外だよ、サウナに入りたいからって・・・でもそれが君らしいということなんだね」
そうです、私とサウナは切り離せないのです。
永遠のパートナーです。
俺はサウナと結婚したと言っても過言ではないのです!
寂しい発言なのだが・・・
「じゃあ俺達も食事にしますがカインさんも食べて行ってくださいね」
「いいのかい?」
と言いつつも、顔はやった!という表情になっている。
「せっかくですので一緒に食べましょう」
俺は『収納』から弁当を取り出した。
本日の献立はジャイアントチキンのから揚げと、ハンバーグ、海老フライ、スパゲッティーサラダに、各種おにぎり、そしてなんちゃって水筒に入れた味噌汁だ。
ノンから、から揚げとハンバーグが食べたいとのリクエストがあった為、この献立にした。
お弁当の定番ともいえるメニューだ。
カインさんが目を輝かせている。
随分とサウナ島の食事に期待を寄せているようだ。
先日のカツカレーの衝撃が忘れられないと溢していたしな。
「「いただきます!」」
俺達は食事を始めた。
から揚げを食べたカインさんは、
「旨い!」
年甲斐も無く大声で叫んでいた。
「何でこんなにサウナ島の食事は美味しいんだ・・・信じられない」
今度はおにぎりに貪りついている。
「ああ、これも最高!」
カインさんの興奮は止まらない。
ノンはここでも犬飯にして食べていた。
どんだけ好きなんだか。
おにぎりの具は先に食べてご飯は味噌汁に入れていた。
すると先程のハンター達が物欲しそうにこちらを見ていた。
視線が痛い。
しょうがないな。
サービスしましょうかね。
「君達も食べるかい?」
俺は声を掛けた。
ハンター達から羨望の眼差しで見つめられている。
「いいのですか?」
「ほんとに!」
「やった!」
「ああ、こちらにおいで」
俺は『収納』から更に食事を取り出した。
「好きなだけ食ってくれ、たくさん用意しているからな」
「「いただきます!」」
食事会が始まった。
せっかくだ、皆な腹いっぱい食べてくれ。
「旨い!」
「ホクホクで最高!」
「何だこれ、上手すぎる!」
どうやら好評のご様子。
それを島野一家の皆は微笑ましそうに眺めている。
褒められると嬉しいよね。
それにしてもカインさんの食欲が凄かった。
特にから揚げが好きなようで十個以上も頬張っていた。
胃もたれしないといいのだが・・・
「旨い!」
「最高!」
カインさんは何度も連呼していた。
今後はダンジョンでの食事の度にカインさんを呼んであげようと思う。
餅を食べていたハンター達も美味しそうに食べている。
食事を食べさせてニコニコ眺めるって・・・俺もお爺さんだな。
孫に食べられない量の食事を与えて、たんとお食べってね。
まあ家にはギルがいるから食べ残しはあり得ないんだけどね。
さて、ダンジョンアタックを再開することにした。
階段を降って六階層に出る。
これまた不思議な光景だった。
俺達は海岸に降り立っていた。
砂浜の上に立っている。
向かって左手には海?湖?があり右側には崖がせり立っている。
これはどう進もうかな?
一先ず『探索』を行った。
うーん、海岸線を進めということね。
「海岸線を進もう、ここでもある程度狩りを行ったら飛んで行こうか?」
「そうだね」
「了解です」
俺達は海岸線を歩いていった。
すると水辺の方から魔物が出て来た。
デカい蟹だった。
『鑑定』 ジャイアントクラブ 水辺に棲む魔物 食用可
ノンが火魔法で焼いていた。
デカい蟹のドロップ品は甲羅だった。
甲羅って・・・何に使うんだ?
『鑑定』 ジャイアントクラブの甲羅 堅い甲羅、防具の材料になる
「へえー」
一先ず回収することにした。
親父さんにでもあげようと思う。
特に必要性を感じないがお土産に渡す分には喜ばれるだろう。
その後もデカい蟹の襲撃を何度も受けた。
漏れなく焼いていく。
時折、デカい亀も現れた。
このデカい亀は口から高圧縮された水を吐いてきた。
ただ動きが遅い為、躱すのは容易だった。
デカい亀は面倒なことに近づくと顔と手足を甲羅の中に引っ込めてしまう。
その為、ノンの雷魔法で倒していった。
雷には弱いのかあっさりと消えて行く。
こちらのドロップ品も甲羅だった。
蟹の甲羅よりも少し大きい。
この甲羅も防具の材料になるらしい。
これまた親父さんへの土産だな。
親父さんの喜ぶ姿が目に浮かぶようだ。
「主、もうそろそろよいのでは?」
痺れを切らしたゴンから要請があった。
「そうだな、エル、ギル飛ぶぞ」
「了解!」
「はいですの」
俺達は飛行スタイルに変更し先を急いだ。
階段に辿り着き階段を降っていく。
遂に七階層。
本日のダンジョンはここのセーフティーポイントに転移扉を設置して終了の予定だ。
軽い運動をしたせいか少し汗ばんできた。
そろそろサウナに入りたい、早く終わらせてしまおう。
七階層も水辺だった。
ただ六階層ほど海岸は広くない。
ところ処で足が水に浸かってしまう地形だ。
濡れるのは面倒だ。
始めから飛んでいこうかな?
それに気づいたのかノンが、
「主、濡れたくないんでしょう?」
と言ってきた。
「そうだな、あまり濡れたくはないな・・・」
「どうするの?」
「しょうがない、飽きるまでは魔物を倒そうかな?」
「分かった」
会話を済ませ先を急ぐことにした。
少々面倒なことになっていた。
水辺からクラーケンやシーサーペントの襲撃を受けた。
どうやら水辺はなかり深い構造のようだ。
奴らは攻撃を外すと水中に潜っていってしまう。
ヒットアンドアウェーとは姑息な。
いっそのこと捕まえて水辺から引っ張り出してやろうか?
等と考えていると遠慮なくノンが雷撃をぶつけていた。
だが仕留めるまでには至ってない。
水中では効き目は薄い。
今度は痺れを切らしたエルが氷魔法で氷塊をぶつけていた。
クラーケンとシーサーペンとが水中に沈んでいく。
ドロップ品は回収する気にはなれなかった。
わざわざ魔物がいる水中に潜る気にはなれない。
すると水辺が騒がしくなってきた。
またクラーケンかと思ったが違った。
デカいオットセイが三匹体当たりしてきた。
俺達は寸での所で躱した。
ちょっと油断しすぎていたらしい。
危ない、危ない。
油断は禁物だな。
『収納』からミスリルのナイフを取り出して首元にぶっ刺す。
「ギョエエエエ!」
気持ち悪い声を挙げるデカいオットセイ。
更に首元に一撃を加える。
「ギョエエ・・・」
声を漏らしながらデカいオットセイは消えていった。
残りの二匹もギルに焼かれて消失していた。
ドロップ品は牙だった。
『鑑定』 ジャイアントオットセイの牙 粉にすると精力剤になる
・・・何だこれは・・・一応拾っておこう。
使い場に困る・・・
エルフの村に寄贈?
何だか違う気がする。
俺はしれっと牙を三個回収した。
使い道はなさそうだが・・・念の為ね・・・
なんだか疾しい気分。
この後も海獣達からの襲撃を受けたがデカいオットセイは現れなかった。
もしかしてレアなのか?
まあいいや。
どの道ドロップ品の使い道に困るし。
「そろそろ飽きたな」
「だね」
「ですの」
皆も同意のようだ。
「飛んで行こうか」
「「了解!」」
俺達は空の旅に変更した。
だがここでも水中からの攻撃があったが流石に高度を上げていた為、攻撃が届くことはなかった。
海獣はしつこい本当に否になる。
『探索』してセーフティーポイントを探す。
直ぐに見つかり向かうことにした。
八階層に繋がる階段の手前に小屋を発見した。
やっと今日のダンジョンを終えれるようだ。
小屋に入る前に念の為ノックをする。
誰もいないのは分かってはいるがマナーということで。
当然返事は無い。
中に入りさっそく作業を行う。
転移扉を固定し後は通信用の魔道具を設置する。
「ゴン、通信を頼む」
「畏まりました」
ゴンは通信用の魔道具を手にして話し掛ける。
「カイン様、こちら七階層のセーフティーポイントです、聞こえますか?」
少しして返事があった。
「ああ、聞こえてるよ。転移扉も設置済みの様だね」
「そうです完了してます。主、変わりますか?」
俺は横から話し掛けた。
「今から戻りますね」
「分かった、待ってるよ」
俺達は転移扉で帰ることにした。
ダンジョンの入口に戻るとカインさんと先ほどの餅を食べていたハンター達に迎えられた。
「島野君、お帰り」
カインさんに右手を差し出される。
俺達は握手を交わす。
「いやー、疲れましたよ」
「島野さん、先ほどはごちそう様でした!」
一緒に食事をした犬の獣人に話し掛けられた。
「いやいや、気にしないでくれ。それよりも君達は戻ってきたのか?」
「はい、なんだかサウナ島に行きたくなってしまったので、あの後カイン様と一緒に入口に戻ってきたんです」
「そうなのか?」
それで俺達を待っていたということか。
「はい、今回のダンジョンアタックで結構稼げたのでサウナ島に行こうかと、それに島野さんに奢って貰ってばかりでは悪いので、少しでもサウナ島にお金を落としておこうと思いまして」
そんな気にしなくてもいいのに・・・律儀な奴らだな。
まあ、ありがたく好意は受け取っておこう。
「そうか、返って気を使わせてしまったかな?」
「いえ、そんなことはありません、元々今回のダンジョンの後でサウナ島に行こうと決めてましたので」
「そうか、なら一緒に行こうか?」
「是非!」
俺達は連れ立って転移扉に行こうと思ったのだがそうはいかなかった。
ぞろぞろと俺達の周りに人が集まってきた。
「ダンジョンはどうでした?」
「何階層までいったんですか?」
「俺の話を聞いてください!」
たくさんの人に囲まれてしまった。
これは良くない。
このままでは転移扉に辿り着けそうもない。
するとカインさんが割って入ってきた。
「お前達いい加減にしろ!」
カインさんの一喝に人々は静まり返った。
「島野君もお疲れだ、いろいろと聞きたい気持ちは分かるが時と場所を考えろ!」
カインさんの男気、あざっす!
「じゃあ、行かせてもらいますね」
俺達は転移扉に向かった。
やれやれだ。
それでもまだ数人が付いてこようとしていた。
それを先ほどの餅ハンター達が壁になって制止していた。
なんだか巻き込んですまん。
こいつらには晩飯を奢るしかないな。
そしたらまた気を使わせてしまうのか?
もうどうでもいいや。
成るように成れだ。
転移扉に着くと俺は島野一家と先ほどの餅ハンターのみを潜らせた。
入島受付に着くとにやけ顔のランドがいた。
「おや、お早いお帰りで」
弄ってきたので脇腹に肘鉄を入れてやった。
「ちょっと痛いですよ」
「嘘つけ、相当優しくやったわ」
「ハハハ!」
笑ってやがる。
「それで、どうだったんですか?」
「お前もそれを聞くのか?」
「そりゃあ聞くに決まってますよ、だって島野一家がダンジョンに挑んでるんですよ?」
興味深々って訳ね。
勘弁してくれよな、まったく。
「まあ、予定通り今日は七階層まで踏破してきたぞ」
「おお、この短時間でですか?」
「まあな、そんなに気になるのかよ」
「気になりますよ、当たり前じゃないですか」
駄目だこりゃ、もしかしてサウナ島でもこの調子なのか?
もう日本に帰ろうかな?
「まあ、そんな感じだ。もう入らせて貰うぞ」
「どうぞどうぞ、後でまだまだ聞かせて貰いますからね」
「いい加減にしてくれ」
「いえいえ、逃がしませんよ」
はあ、参ったな・・・
こうなってくると当初の考えを変えないといけないな。
無理なく休み休み行こうと思っていたが一気に行ける所まで行った方がよさそうだ。
こんなに注目されているのか・・・
俺の好きにやらせてくれよ。
全く!
そのままスーパー銭湯に向かい風呂とサウナに入ることにした。
先程の餅ハンター達には後で大食堂に顔を出して欲しいと伝えてある。
風呂の中でも数名に話し掛けられた。
漏れなくダンジョンの話だ。
いい加減勘弁して欲しい。
早々にサウナに向かいサウナを三セット行った。
邪念があった所為かいまいち今日の整いは浅かった。
大食堂に着くと既に先ほどの餅ハンター達が俺を待っていた。
「すまない、待たせたようだな」
「いえいえ、今集まったばかりです」
「じゃあ飯にしようか、今日は世話になったから奢らせてくれ」
「え!昼飯も奢って貰ったのに、そんな・・・」
恐縮している。
「いや奢らせてくれ、先ほどは烏合の衆を追っ払ってくれたじゃないか、本当に助かったよ」
「それぐらいのこと・・・」
「俺の気が済まないんだ、遠慮なく食って飲んでしてくれよ」
「そこまで言われるのでしたら・・・」
「ああ、一緒に食べよう」
「ありがとうございます!」
俺達は好きに注文をし一緒のテーブルに着いた。
まずは乾杯だな。
「では、新しい出会いに乾杯!」
「「乾杯!」」
俺達は生ビールを流し込んだ。
旨い!身体に染み渡る。
こればっかりは止められない!
「いやー、上手い、ここの生ビールは最高です!」
「そうか、嬉しい事言ってくれるね。ところで名前を聞いてなかったな」
四人は姿勢を正した。
「俺達は『ブルーエッグ』というハンターチームを名乗ってます。俺は斥候兼リーダーのドリルです」
ずっと俺と話している犬の獣人が名のった。
「私は魔法士のサルーです」
恐らく人間の男性が言った。
「私は回復薬のルミナです」
こちらも恐らく人間の女性が答える。
「最後に俺はアタッカー役のダノンです」
馬の獣人が名のった。
「そうか、俺のことは知っているようだな」
「そりゃあ知ってますよ、島野さんの事を知らないなんてモグリですよ」
ダノンが答える。
「そうなのか?」
「そうですよ、島野一家の頭領でサウナ島の盟主、知らないなんてあり得ないです」
そうなのか・・・これはまた認識を改めないといけないのか?
俺ってそんなに有名なんだ・・・
非常に迷惑なのだが・・・
「俺も声を掛けるのに勇気が要りました、失礼になるんじゃないかと・・・」
ドリルが首を窄めて話していた。
あちゃー、そんなんなんだ俺って・・・
どうしたもんかね・・・
恐縮されるのも考えもんだな。
「そうか、悪い事をしたようだな」
「いえいえ滅相もないです、こうして一緒に卓を囲ませて貰ってるんですから鼻が高いですよ」
「そうですよ、島野さんと一緒に食事をしたって自慢出来ますよ」
ルミナも誇らしげな顔をしている。
「あと、今日のハンター達の行動ですが許してやって貰えませんでしょうか?」
今度はサルーが神妙な表情で言った。
「どういうことだ?」
「島野さんはご存じないかもしれませんが、ダンジョンに挑むハンター達はダンジョンの情報が欲しいんです」
「ダンジョンの情報とは?」
「特に六階層より先の情報が無いので知りたいのです」
ドリルに目をやるとウンウンと頷いていた。
「因みになんだが、ブルーエッグのハンターランクは?」
「Cランクです」
ドリルが答える。
となると六階層は行けるのか?
「そうか分かった、今日は七階層まで潜ったから教えてやるよ」
「「ええ!」」
「いいので?」
驚愕の表情を浮かべている。
そもそもSランクのハンターがいるのに何で公開されてないんだ?
「ていうか、Sランクのハンターが今も八階層以上に潜ってると思うんだが、そいつらは教えてくれないのか?」
「ダンジョンの情報はとても貴重です。誰もが最初に踏破することを夢見てますから」
ダノンが答えていた。
「先に踏破されたくないから教えないってことなのか?」
「そうです」
それはそれでセコクないか?
「秘匿すべきことなのか?そうとは思えないが・・・」
「そう考えてくれるのは嬉しいことですが現実は違います。中には偽の情報を売っている輩までいます」
そこまでするのか?
マジかよ?
「島野さんはお気づきになってないかもしれませんが、今ではハンター達は通常の狩りよりもダンジョンに目が向いています」
サルーが未だ神妙な表情をしている。
もしかしてこういう顔なのか?
「どうしてだ?」
「いくつか理由があります」
「というと?」
「まず通常の狩りの場合は空振りになることもあります、それに得られる報酬もその時で違うので博打の要素が高いです」
「それは分かる」
「それに比べてダンジョンならドロップ品が確実に手に入りますし、今のエアルの街はバブルになってまして、買取の金額も今までよりも高いのです」
そうなのか・・・
カインさんに入知恵したのがまずかったか?
「一回で得られる報酬がはっきりしているダンジョンの方が効率的ですし、なにより最悪の場合は死ぬこともないので・・・」
そういうことか・・・
となれば、そうなるはな・・・
不味ったか?
「なるほど」
「それに、ダンジョンを踏破するのは名誉なことですし、何より島野さんが賭けた賞金が魅力的です」
あちゃー、調子に乗り過ぎたかも?
「やり過ぎたか?」
「というより俺達ハンターにとっては夢とロマンが大きくなりました」
「・・・」
「それでダンジョンはブームになっています、そしてハンター達は我先にと挑んでます。さらに情報を明かす訳にはいかないという考えが普通になっているんです」
「そういうことか・・・まったく知らなかったよ」
「ということなんです、なのであいつらも悪気は無いんです」
「話は分かった、それで俺にどうして欲しい?」
「どうして欲しいとは?」
「これから島野一家は最終階層まで挑むんだ、全ての情報を公開して欲しいか?」
「「う!」」
全員が困った顔をしている。
「それは・・・」
「俺にはなんとも・・・でも本音を言えばこれから挑む六階層と七階層に関しては教えて欲しいです」
ドリルが答ていえた。
ドリルは随分正直者だな。
嫌いじゃないなこういう奴は。
「そうか分かった、ダンジョンの全階層の情報をどうするかはハンター協会と話をした方がよさそうだな」
「そうかと思います」
俺はその後、六階層と七階層の情報をブルーエッグの面々に教えた。
どうやらまた俺はやり過ぎてしまったようだ。
何とも言えないな・・・
でもやるからには徹底的にエアルの街の再興に手を貸すと決めたんだ、決して後悔はない。
とっととダンジョンを踏破しちゃいましょうかね。
それでチャラになるかな?
どうだろう・・・




