社員旅行とダンジョンアタックの準備
ダンジョンの街の再興にバタバタしたが、俺にはやらなければいけないことがある。
そう、社員旅行兼新年会である。
他の街のことばかりを構っている訳にはいかない。
社員旅行兼新年会は三日間に渡って温泉街ゴロウにて行われることになっている。
結構な強行軍だ。
さっそく第一陣が転移扉を使って、従業員達が温泉街ゴロウに向かっている。
俺はリスクヘッジする為に宴会の三日間全日を、リーダー陣を同行して行くことにした。
どんなリスクがあるかって?
それはどれだけ飲まされるのか?というリスクがある。
それも三日間連続となると肝臓君の心配をしなければならない。
注いだ分注がされるというリスクはこの異世界でも似たようなものなのだ。
俺一人では身が持たない。
分散させるのは当たり前の手段といえる。
特に意味も無くレケが気合が入っている。
既に飲む気満々のようだ。
頑張れレケ!俺の肝臓君を守ってくれ!
お前は俺の肝臓君の盾だ!
まずは部屋にチェックインする。
久しぶりに五郎さんの温泉街を楽しむことにした。
やはり温泉はいい。
とても気持ちがいい。
それに全てのスタッフの対応が丁寧で好感が持てる。
次に五郎さんに寄贈したサウナを楽しむ。
久しぶりのサウナ一号機に出会えて少し嬉しかった。
塩サウナ一号機も好調に稼働中とのことだったが、塩サウナ一号機は女性風呂の方に設置してある為。
今回はお預けとなってしまった。
こうなってしまうともう塩サウナ一号機には会うことが出来ないだろう。
少し寂しさを感じる。
浴衣に着替えて準備を整える。
この日の為に作ったといっても過言ではない、ウコンのエキスをグビっと一気に飲み込む。
これで多少は肝臓君のバリアになるだろう。
念の為リーダー陣にもウコンエキスを飲ませた。
さっそく宴会場に乗り込むことになった。
いざ!戦場へ!
何故か俺達は拍手で迎えられている。
皆旅行を楽しんでいるようでなによりです。
お土産を買ったという社員が多かった。
お土産のナンバーワン商品は饅頭だったようだ。
またアイリスさんには買ってあげようと思う。
彼女は五郎さんの所の饅頭が大好きだからね。
食事もほどほどにさっそく数名の社員が徳利片手に俺に向かってきた。
「島野さん、注がせてください」
俺はお猪口を持って注いで貰う。
いざ尋常に!
「ありがとう、俺だけじゃなく他の皆にも注いでやってくれよ」
「いやいや、まずは島野さんに注がないと話にならないですよ、さあ!どうぞ!」
俺のお猪口に日本酒が注がれる。
俺もお猪口を受け取り注ぎ返す。
「「乾杯!」」
勢いよく飲む。
パアー!
美味しいがこの調子では身が持たないぞ。
早々に援軍に救援を求めなければならない。
俺はマークに目線を向ける。
心得たとマークが前に出る。
「島野さんに注ぎたい気持ちは分かるがそれでは島野さんの身が持たない、代わりに俺に注いでくれないか?」
マークはお猪口を持ち上げる。
それに倣って他のリーダー陣もお猪口を持ち上げる。
因みにこのリーダー陣にギルは含まれていない。
まだギルにはアルコールは早いと思われる。
前に一度ビールを飲ませたことがあるが、
「うえ・・・まずい・・・苦い」
と溢していた。
ギルがお酒の味が分かるようになるのはまだまだ先のようだ。
横を見ると調子に乗ってレケがかなりのハイペースで日本酒を飲んでいる。
大丈夫かな?レケの奴。
ペース早すぎないか?
今日はあと二件宴会場を周らないといけないんだぞ?
「レケ、ちょっとはペースを考えろよ」
「大丈夫だって、ボス!」
まったく注意を気に留めていない。
どうなっても知らねえぞ・・・まったく。
何とかのらりくらりとお酌を躱しながら次の宴会場へと向かった。
既にお酒が周っているのが分かる。
少しフラフラする。
ここでも同様のやり取りが始まった。
皆が皆、俺にお酒を飲ませにやってくる。
躱すのも骨が折れる。
案の定レケが出来上がっていた。
顔が真っ赤になっている。
あいつは飲まされるのではなく飲みにいっている。
現に手酌で日本酒を飲んでいる。
駄目だなこりゃ。
あいつはやっぱり当てにならない。
酒が絡むとあいつはただのへべれけのレケだ。
その後最後の宴会場に移った。
ここでもお酌タイムが繰り広げられている。
俺もかなり酔っている。
いまいち会話を覚えていない。
いい加減眠たい・・・
そろそろ限界というところで宴会は終了した。
俺はなんとか部屋に辿り着き一瞬で倒れ込む様に寝てしまった。
翌日の朝には案の定二日酔いで、朝からサウナに入り酒を抜く作業に取り掛かった。
いくら二十歳の肉体とはいっても限度がある。
結局、酒を抜け切るのに五セットも掛かってしまった。
これを後二日敢行し終えた時には、身体に鉛でも背負いこんでいるのかと思える程の疲労感があった。
なんとかやりきったと自分で自分を褒めてあげたい。
だが当分の間はお酒を控えたい。
回復するのに二日間掛かった。
急性アルコール中毒にならなかっただけでも御の字か?
だが同時に従業員達を労ってあげられたという、満足感もあった。
はやり連日は堪える。
でも二百五十名全員となると受け入れ先は温泉街『ゴロウ』以外に見当たらないのが実情だ。
どうしたものだろうか?
いっそのこと本格的な宿泊施設でも造ろうかな?
まあそんなことは置いておいて。
そういえばほとんどの従業員からダンジョンに挑むのか?と聞かれた。
ダンジョンに挑むことがこの世界では注目を集めることなんだろうか?
俺にはよく分からない。
マーク曰く、
『ダンジョンを踏破することはとても名誉なことです』
ということだった。
そうなるとカインさんはとても誉高き神様となる。
確かダンジョンを踏破して神になったと言っていたはずだ。
それでいてカインさんはとても気さくな人だ。
尊敬するに値する人物だ。
俺達がダンジョンを踏破したらどうなるんだろうか?
挑むというだけでこんなに注目されているんだよな・・・
タイロンの時のように人に囲まれるのは嫌だな・・・
まあ成るように成るか?
ダンジョンアタックについて考えなければいけないが、その前にエアルの街の再興の様子を確認しようと思う。
俺はエアルの街に転移扉を使ってやってきた。
エアルの街は随分と賑わっていた。
街の喧騒を感じつつもまずはカインさんのところに行くことにした。
「カインさん、調子はどうですか?」
カインさんはいつものダンジョンの入口で座禅を組んでいた。
目を開けるとこちらを見つめた。
「やあ島野君、君のお陰で大賑わいだよ」
「そうですか」
それはよかった。
「今日も朝から百名近いハンターがダンジョンに潜って行ったよ」
「へえー、それはよかったですね」
カインさんは嬉しそうだ。
それに充実した表情をしている。
本来の自分のやるべきことが行えているということなんだろう。
「ハンター達は皆な賞金目当てに集まり出しているようだ」
「そうですか、それはよかった。街の再興は上手くいっているようですね」
「そうだね街は賑わいを取り戻したし多くの商人がやってくるようになったよ。あ!そうそう、島野君が以前紹介してくれたリチャード君がたくさんの素材を買い取りに来ていたよ。本当に助かる」
「メルラドは服飾が盛んな国ですからね、まだまだ買い取りにくると思いますよ」
「そうか、それは助かる」
「ではまた後で」
「また寄ってくれ」
俺は道具屋に行くことにした。
俺を見つけた従業員が寄ってきた。
「島野さん、お疲れ様です!」
「お疲れさん、それでお店は順調かな?」
上手くいっていると報告は受けているが一応聞いてみた。
「はい、今日だけでも体力回復薬と魔力回復薬が七十個売れてます。お客さんの切れ目が無いです」
魔力回復薬はメッサーラと同じ値段設定にしている。
メッサーラよりもこちらの方が需要が高いと考えられたから値段を高くしようかとも思ったが止めておいた。
体力回復薬に関しても同じ値段設定にした。
変えようかとも思ったがどちらの価値が高いかが分からなかった為、同じにすることにした。
無難な考えである。
こちらも瓶の持ち込みに関しては銀貨五十枚となる。
今のところ瓶の持ち込みは少ないようだが直に増えてくることになるのは目に見えている。
一日で約金貨三十八枚の売り上げか、決して悪くはない。
というより好調だ。
魔力回復薬も体力回復薬もほぼ仕入れは無いに等しい。
相当に利益率が高い。
唯一瓶だけは親父さんに造って貰っているが、一瓶で銀貨五枚でしかない。
掛かるのは人件費ぐらいだが、この道具屋で勤務している従業員は五名しかいない。
三日もあれば五人分の人件費になってしまう。
また利益が大きくなることは目に見えている。
エンゾさんに嫌味の一つも言われそうだがもうお金の使い道に関しては気にしない事にした。
経済が不健康になる?
知るか!
俺には大きな買い物は出来そうにない。
そもそも大きな金額の掛かる物がこの世界には見当たらないし見当もつかない。
有るのなら教えてくれということだ。
だから知るか!である。
もしエンゾさんから文句を言われたら・・・新しいスイーツでも作ってはぐらかしてやろうと思う。
最近はあの人の扱いにも少し慣れて来た。
上から女神め、やれやれだ。
親父さんの武器屋を見に行くことにした。
随分好調との評判だ。
「お前さんか、どうしたんだの?」
「ちょっと様子を見に来ました」
親父さんはニコニコ顔だ。
これは相当稼いでいるな。
「そうか、何か武器でも買ってくか?」
「なんで俺が武器を買わないといけないんですか?」
俺に武器が要るって?
冗談でしょ?
「お前さんダンジョンに挑むんじゃなかったのかの?」
「そうですが・・・武器なんていりますかね?」
「お前さん・・・ダンジョンを舐めとりゃせんか?階層が深くなればなるほど強い魔物がおるのだぞ」
それぐらい知ってるっての。
「ですが素敵なナイフをカインさんから貰いましたし、特に家の聖獣達は獣化して戦いますので武器は要らないと思いますよ、強いて言えば何かしらの防具はあった方が良いかもしれませんが」
「ちょっと待て、カインからどんなナイフを貰ったんだ?見せて見ろ」
親父さんは手を指し出した。
何やら意味深な表情をしている。
「ええ、いいですよ」
俺は『収納』からオリハルコンのナイフを取り出した。
鞘ごと親父さんに手渡す。
ナイフを抜くと親父さんが、
「お前さん・・・これはオリハルコンかの?」
驚愕の表情を浮かべていた。
「そのようですね」
「そのようですねって・・・お前さんこのナイフの価値を分かっておるのか?国宝級だぞ、否、それ以上と言っていいんだの」
「そうなんだ・・・」
価値のある物だとは思っていたけどそんなに凄いんだ。
国宝級以上って・・・何なの?
「それにカインの奴も何を考えておるのか、これはカインがダンジョンを踏破した時の戦利品だの」
「ええ!」
そんな一品を貰ってよかったのか?
でも今さら返す訳にはいかないよな。
戦利品って・・・記念品みたいなもんだよね。
例えるならオリンピック選手が金メダルを取って、その金メダルを差し上げるみたいなことなんじゃないのか?
正直引くのだが・・・
「やっぱりお前さんは知らなんだか、これはあ奴が始めてダンジョンを踏破した時に授けられた伝説のアイテムだの」
「伝説って・・・」
「それだけの価値のある物をよりによってお前さんに渡すとは・・・そうじゃないのう、お前さんだからこそ託したんかもしれんのう」
そもそも恩返しの品じゃなかったか?
託したって何を?
ダンジョンを踏破しろってことか?
「ダンジョンを踏破してくれってことですか?」
「それ以外に何がある?お前さんなら出来ると見込んでおるに違いないのう」
そういうことか・・・ますますダンジョンに挑まないといけなくなったな。
ちょっと面倒臭いと思ってしまう俺は、正真正銘の面倒臭さがり屋のようだ。
カインさんごめんなさい・・・
「それで、防具は何か買うのかの?」
「そうですね・・・お勧めはありますか?」
特に必要性を感じないが聞くだけ聞いてみよう。
「お勧めというより、そもそもお前さんの戦闘スタイルはどんなだの?」
戦闘スタイルか・・・考えたこともなかったな。
殴る蹴るみたいなもんだと思うのだが・・・
どうだろう?
眠らせて首をって・・・
「特に無いですね」
「はあ?」
「これといって戦闘スタイルはありませんね」
「何だそれは、狩りはしたことはあるんだの?」
まあ何度かね・・・
もういい、言ってしまえ。
「はい、あります。でも大体は眠らせてから首を折るで終わらせてますね」
「無茶苦茶だな・・・呆れるのう」
親父さんは首を横に振っていた。
やっぱ呆れられたか。
「後は前回のダンジョンに救助に向かった時は、ほとんど蹴り飛ばしてましたね」
親父さんが今度はため息を吐いていた。
「真面に取り合った儂が間違っておったようだの。盾と籠手ぐらいが丁度いいかもしれんのう」
盾はいるのか?
瞬間移動で躱せるんだけど・・・
転移は無理そうだったけど瞬間移動なら出来そうだったんだよね。
盾はいらないよな。
「盾はいらないです、籠手はあっても良いかもしれないですね」
「盾は要らんか・・・」
親父さんは重い腰を上げて店内をうろつきだした。
「これならどうだ?」
意匠が凝った鉄製の籠手を手渡された。
案外重いな・・・
これではただの重りでしかない。
「ちょっと重くないですか?」
「そうかの?」
「そうだ、万能鉱石で軽くて硬い鉱石にして造ってくれませんか?」
「そうか、じゃあ工房に行くかの?」
親父さんは工房に行くことが嬉しいようだ。
目をキラキラとさせている。
「ですね、店番は大丈夫ですか?」
「おお、店番を呼んでくるからちょっと待っててくれるかの?」
「俺がそれまで店番ですか?」
「すまん、頼んだぞ」
親父さんはそう言うと店から飛び出していった。
何で俺が店番を・・・
やれやれだ。
三十分後に親父さんが店番のドワーフの女性を連れてやってきた。
幸いにも俺が店番をしている時にはお客さんは来なかった。
来られたら大変だっただろう、ところ処値札が無い品物がある訳で・・・
そんな品物の値段なんて分からないんだからさ。
勘弁してくれよ、まったく。
俺達は連れ立ってサウナ島に帰島した。
工房に着くとさっそく火入れを開始する親父さん。
俺は『万能鉱石』を準備する。
考えた結果、素材はカーボンにすることにした。
カーボンであれば柔軟性もあり軽くて丈夫だ。
『万能鉱石』をカーボンに変えてあとは親父さんに任せることにした。
出来たら呼んで欲しいと伝えたら、
「儂が呼びに行くのかの?」
と言われたので、
「俺が店番したでしょうが」
遠慮なく返しておいた。
俺だけ使われるのは気が済まない。
親父さんは一本取られたという顔をしていた。
俺はただのお人好しではありませんよ。
全く!
さて、本格的にダンジョンアタックについて考えてみようと思う。
まず食事についてはセーフティーポイントで取ることが基本になると考えている。
台所があったのは確認できたが、毎食わざわざ作るのも面倒臭そうだ。
弁当等を沢山作って貰い『収納』に入れておこう。
トイレに関してもセーフティーポイントで使えるから問題ないだろう。
そう考えるとセーフティーポイントは重要な施設だ。
逆に無くては困る施設だ。
安全に食事と用を足すことが出来るのはありがたい。
これが無いとなると不便で仕方が無い。
セーフティーポイントは三、五、七、十、十四、十七階層だから、極力その間の階層は早く抜ける必要がある。
催すタイミングは人其々だからね。
どうしてもという時には結界を張ることができるが、あまり結界を使う所を誰かに見られたくはない。
それにズルをしている様でちょっと気が引ける。
まあでも結局は結界を使うことになるとは思う気がする・・・
さて、メンバーをどうするか?
ノンとギルは既にやる気満々だ。
こいつらは外せない。
エルとゴンも行くと言うに決まっている。
こいつらも実は案外好戦的だ。
レケはどうだろうか?
いまいちあいつのことはよく分からんというのが本音だ。
前の狩りの時は石化の魔法を使っていたな。
あいつの戦闘力が高いのは分かるがどうだろうか?
狩りとダンジョンは別物だから何とも言えない。
これは本人に聞くとしよう。
マーク達は行きたいだろうか?
前の狩りでは随分とやる気だったのだがどうだろうか?
多分足手まといになると遠慮しそうだな。
そうなると確定メンバーは島野一家の初期メンバーということになる。
安定のメンバーだな。
連携もお手の物だろう。
聖獣三人と神獣一人と俺という、これだけで充分にズルいメンバーだ。
詰まるところ島野一家は過剰戦力なんだよね。
これまでの経験からそう思わざるを得ない。
はっきり言ってこいつらは強い。
特にノンとギルは反則だ。
でもダンジョンに挑むにはこのメンバー以外には考えられない。
後は何を準備しておくか・・・
準備には万全を尽くしたい。
魔力回復薬と体力回復薬は多めに持っていこう。
装備は特に必要は無いがオリハルコンのナイフと、ミスリルのナイフは必須だろう。
これぐらいだろうか?
後は何がある?
随分軽装な気もするが不要な物は持って行きたくはないしな。
マーク達にアドバイスを貰ったほうがいいだろうか?
昔挑戦したことがあると言っていたしな。
カインさんにアドバイスを求めるのは気が引ける。
ダンジョンの神様にダンジョンのアドバイスを聞くのはおこがましいだろうし、ズルいだろう。
まあ、真面に答えてくれるとも思えないのだが・・・
そんなところだろうか?
後は特に思い付かない。
翌日、
親父さんがカーボンの籠手を持ってきてくれた。
値段は言われるが儘だが決して吹っ掛けられたとは思えない値段だった。
素材はこちら持ちだから作業代のみ。
まあ鍛冶の神様のお手製だ、大事に使おうと思う。
軽くて頑丈な籠手だ、しっくりとくる。
これで殴るものありだな。
それなりの防御力もありそうだ。
これは造って貰って正解だったか?
どうだろう?
エルとゴンにダンジョンに行くかと聞いてみた所、案の定行くと即答していた。
やっぱりこいつらは好戦的なようだ。
レケに関しては随分悩んでいたが、養殖がどうしても気になると参加はしないことになった。
まあ、あいつの養殖愛は本物だからそっちが勝ったということだろう。
それはそれで構わない。
好きにしてくれということだ。
マークにも行くか?と誘ってみたが、俺の予想通り足手まといになるので止めておきますとの回答だった。
実にマークらしい返事だ。
マークは何だかんだいって慎重な性格だ。
無理強いしようとは思わない。
アドバイスを求めてみた所、俺達に役立つようなアドバイスは特に思い付かないとのことだった。
因みにマーク達の最高到達地点は五階層だったらしい。
まだC級のハンターだった時の話しらしいが。
当時の戦力ではそこまでが限界だったようだ。
今ならもう少し行けるかもと話していたが、どうなんだろうか?
俺の見立てではロックアップはA級のハンターといってもいいと思えるんだが、どうなんだろうか?
そして今回はカインさんから、セーフティーポイントへの転移扉と通信用の魔道具の設置もお願いされている。
従って最低でも十七階層のセーフティーポイントまでは到達しなければいけない。
S級のハンターでもそこまで到達していないというのに・・・
正直面倒臭い・・・
でも今さら引けないよね・・・
やらない選択肢は俺には無いようだ。
本当にやれやれだ。
骨が折れるな。
ダンジョンアタック当日を迎えた。
どこでどうなったのか見送る人々でサウナ島は大賑わいだった。
所々で歓声が挙がっている。
勘弁してくれよ、まったく。
見世物では無いんだが・・・
ノンが調子に乗って変てこなダンスを披露している。
やれやれだ。
転移扉を使ってエアルの街に移動する。
エアルの街でも大歓声で迎えられた。
いったいどうなっているんだ?
確かに今日挑戦すると聞かれた時には答えていたが、こんなことになるとは・・・
期待の眼差しが痛い。
ここでも調子に乗ったノンが変てこなダンスを披露している。
ノンはお調子者だ。
目立つことが大好物のようだ。
俺とは正反対・・・
何だかな・・・
ダンジョンの入口では待ってましたとカインさんが笑顔で迎えてくれた。
カインさんに手を差し出された。
握手で迎え入れる。
俺は念の為に神力をカインさんに贈呈した。
前回の神力吸収された時に俺は二つの能力を手にしていた。
『神力吸収』と『神力贈呈』だ。
神力を与えることと吸うことができるということだ。
カインさんに神力を与えたのはダンジョンに潜っている間に、何かあっては困るからだ。
念のための対応ということ。
「島野君、貰ってしまっていいのかい?」
「ええ、念のためです。あとこれも貰っておいてください。ただし他の神様達には内緒ですよ」
俺は神力を籠めてある神石を手渡した。
「神石だね、貰っておくよ」
「どうにも神力が足りなくなった時に使ってください」
「ありがとう、そうさせて貰うよ」
カインさんは大事そうに神石を懐に仕舞っていた。
「セーフティーポイントに転移扉を設置していきますね、こちらは出口用の転移扉です、使い勝手の良い所に設置しておいてください」
俺は『収納』から転移扉を六個手渡した。
「扉に書いてある階層に繋がるようになっています、あとで確認を行いましょう」
「分かった、設置後にそちらから開いてくれると助かる」
後は実際に設置してみて、具合を確かめることにしようと思う。
「あとはこちらもどうぞ」
今度は通信用の魔道具を六個手渡した。
この魔道具はメッサーラで購入した物だ。
「何から何まで申し訳ないね。島野君には頭が上がらないよ」
「いえいえ、それ以上の一品を頂いてますのでこれぐらいして当然ですよ、こちらも設置後に繋がるか確認しましょう」
オリハルコンのナイフを貰ってしまったからね。
これぐらいして当然ですよ、ハハハ。
「そうすることにしよう」
「今は何人ぐらい潜ってますか?」
少ないと嬉しいが・・・
「そうだね、だいたい百五十名ぐらいだね」
多いじゃないか!
先日は百人だったのに・・・
「そうなんですね・・・」
「S級のハンターが挑んでいるよ、たぶんすれ違うことになるんじゃないかな?」
「そうですか・・・」
S級のハンターか・・・会ったことはないな。
挨拶出来るといいのだが・・・
良い人達だといいな。
「S級のハンター達は随分と島野君を意識していたよ、先に踏破するんだって意気込んでいたよ」
これは参ったな。
先行されているってことじゃないか。
「そのハンター達は今何階層にいますか?」
「ちょと待ってくれ」
カインさんは座禅を組みだした。
どうやら座禅を組むとダンジョンの中を見ることが出来るようだ。
目を瞑って集中している。
瞼の下で目玉がグルグルと周っている。
まるでヒプノセラピーを受けている時の反応のようだ。
カインさんの目が開かれた。
「今は七階層のセーフティーポイントにいるみたいだ」
七階層か・・・だいぶ先行されているみたいだ。
まあ気にする必要はないだろう。
先に踏破されたとしてもそれはそれでいい。
祝ってあげればいいと思う。
賞金は持ってかれるがそれで盛り上がるならいいじゃないか。
こちらとしては競い合う気は全くない。
それにしても盛り上がっているな。
まだ歓声が鳴りやまない。
ていうかノンの奴まだ踊ってやがる。
アホだなあいつは。
「ノン、良い加減にしろ!そろそろ行くぞ!」
「分かったー」
のんきな返事をしている。
それではダンジョンに挑むとしましょうかね。
やれやれだ。




