ダンジョンの街からの緊急要請
正月の三ヶ日が空けて日常が戻ってきた頃だった。
その時は突然訪れた。
親父さんが社長室に飛び込んできた。
「お前さん!緊急要請だ!力を貸してくれんかの」
親父さんが珍しく慌てていた。
「ちょっと落ち着いてくださいよ、どうしたんですか?」
親父さんは汗だくだ。
「先ほどダンジョンの街から使いが来ての、ダンジョンの神から至急来てくれと要請があったんだの」
ダンジョンの神?
「それはどうして?」
「多分、あ奴は神力を補給したいんだと思うぞ」
「神力の補給?」
「実は前にも一度あったんだの、あ奴はダンジョンを管理する権能を持っておる。その為神力を切らす訳にはいかんのだ」
「前にも一度って・・・」
対策を何もしてないってことか?
「ああ、今では神気が薄くなっておるから、ダンジョンの利用は制限しておるとの話だったが、何かしらトラブルがあったのやもしれんの」
対策はしていたみたいだ、その上でのトラブルか?
「ちょと待ってください、そもそも神力はどうやって補給する気なんですか?」
「あ奴は神力を他の神から吸収する能力を持っておる」
「あらま?」
神力吸収ってところか?
「儂も一度ごっそり持ってかれたの」
「それで今回も不足してるから助けに来てくれということですか?」
「恐らくの・・・」
「それで俺に行けということですか?」
「そうだ、お前さんならどれだけ吸われても平気だの?」
俺の神力の量については話したことはないが察しがついているということか。
このおっさんは意外に目聡いからな。
「はあ・・・」
俺は神力タンクじゃねえっての。
「儂が行くよりよっぽど良い、お前さんなら直ぐに駆けつけれるしのう」
「それはそうですが・・・」
ダンジョンの街か・・・
ロンメルからその存在は聞いてはいたんだよね・・・
その言葉の響きから避けてきたんだけどな・・・
だってダンジョンって、あれでしょ?
魔物やモンスターがたくさんいて、罠とかいろいろあって大変なところなんでしょ?
そんなの家の聖獣勢やギルが耳にしたら、行きたいとか言いそうなんだもん・・・
避けていたら向うからやって来たか・・・
行くしかないか・・・
やれやれだ。
「行くしかなさそうですね」
「すまんが、お前さんに託すの」
「託されました」
俺はギルに『念話』で今直ぐに俺の元にノンと集合する様にと指示を出した。
数分後にノンとギルが社長室に現れた。
「お前達直ぐに準備しろ、今からダンジョンの街に行くぞ」
「ええ!ダンジョンの街?」
「やっとこの時が来たか・・・」
とのコメント。
ギルに至ってはガッツポーズをしている。
こいつらダンジョン知ってたんだ・・・
何だかな・・・
悪い予感しかしない。
「道すがら説明はするが、一先ずは緊急要請があったみたいだから直ぐに行くぞ」
「「了解!」」
ダンジョンの街までの道のりを親父さんに教えて貰い、念の為の準備を整えて出発することにした。
俺の勘が言っている、神力を分けるだけでは終わりませんよと。
巻き込まれ体質なのはもう分かっている。
ノンとギルがいれば大体はどうにかなるだろうと思うが。
ほんとにやれやれだ。
俺達はまず転移扉を使って鍛冶の街に移動した。
そこから東に陸路では三日かかるところを、ズルして瞬間移動を繰りかえす。
ものの三時間でダンジョンの街に着くことになった。
この移動にももう慣れている。
既に日常とも言える。
チートであることは間違いない。
三日掛かるところを三時間だもんね。
街の入場口ではあまり待たされること無く中に入ることができた。
これまでの街と風景はさほど変わり映えしないが、何となく寂しい空気感が漂っている気がする。
というのも人が少ないからだ。
門番にダンジョンの神からの緊急要請を受けて来たと言ったら。
とてつもなく驚かれた。
即座に門番にダンジョンに誘導された。
ダンジョンと思わしき場所の入口に、胡坐をかいて目を瞑った男性がいた。
まるで座禅を組んでいるようだ。
見た目としては四十歳前後、おそらく人間と思われる。
戦士風の格好をしていた。
門番の兵士が話し掛ける。
「カイン様、緊急要請に応じた者達が現れました」
「そうか、随分早いな」
眠そうな目を開けてカイン様と呼ばれた男性がこちらを見る。
訝し気な目でこちらを睨みつけ、
「ゴンガスの親父さんではないのか?」
話しかけてきた。
「始めまして、俺は島野と言います。そしてこちらはギルとノンです」
ギルとノンが会釈した。
「私はダンジョンの神カインだ、よろしく頼む」
「ゴンガスの親父さんから替わりに行ってくれと言われまして、こちらに来ました」
察したのか、カイン様は表情が柔らかくなった。
「君は神なのか?」
「正確には違いますが、似たような者です」
手の平に神気を出してみた。
「そうか、助かる」
「それで、まずは神力が要るということですか?」
「そうだ、分けて貰えるかな?」
「いいですよ、どうすればいいですか?」
「握手をして欲しい」
「分かりました」
俺は右手を指しだした。
カイン様は立ち上がり俺の右手を掴み握手をした。
「神力吸収!」
カイン様が叫ぶ。
俺の中から神力がカイン様に移るのが分かる。
俺は右手に神力を籠める。
俺は神力が吸われる感覚と吸い出す感覚を同時に意識した。
せっかくなので神気を身体に纏わせる。
ピンピロリーン!
「熟練度が一定に達しました、ステータスをご確認ください」
アナウンスが流れた。
よし、パクれたぞ!
「もういいよ、ありがとう」
カイン様は手を離した。
たいして吸われたとは思えないのだが?
もしかして遠慮している?
「あの、もっと吸ってくれていいのですが・・・」
カイン様がほんとか?という目で俺を見ている。
「まだまだいけますよ」
「そうなのか?」
「はい、遠慮なくどうぞ」
「そうか・・・ではお言葉に甘えて・・・」
再び握手をし神力吸収を受ける俺。
先程よりも吸われている感覚がある、でも全然余裕だ。
結局俺の神力ってどれぐらいなんだろうか?
未だに計測不能なんだよな・・・
毎日サウナで補給しているし、休日には日本で大量の神気を補充してるから、この先もずっと計測不能なんだろうか?
等と考えていると、
「もう充分だ、これ以上は吸いきれない。君はいったいどれだけ神力を貯め込んでいるんだ?」
「どうなんでしょうか?ハハハ!」
笑って誤魔化そう。
うん、そうしよう。
計測不能だなんて言える訳が無い。
「それで、現状を教えては貰えないでしょうか?」
「ああ、そうだったな。先ずは礼を述べさせてくれ。ありがとう」
カイン様は頭を下げた。
「それにしても、随分早かったな」
また胡坐を掻いてカイン様が言った。
これが彼のベスポジのようだ。
それに倣って俺もその場に座り込んだ。
「はい、俺には転移能力がありますので」
「本当か?」
目を真ん丸にしているカイン様。
確か上級神様の能力だってアンジェリっちが言っていたな。
余り言わない方が良いのかも?
「ええ」
「そうか、羨ましいなそれは・・・」
この能力を得るのは大変だったよな。
自分で自分を褒めてあげたいよ、全く。
「今の現状を話す前に、君はダンジョンのことをどれぐらい知っているんだ?」
「ダンジョンのことはほとんど知らないです、噂で少し聞いた程度です」
なんだよね、教わりましょうか!
「そうか、ならば先ずはそこから話そう」
「お願いします!」
俺は姿勢を正した。
「まず、ダンジョンとは自然発生した。瘴気が造りだした神殿と捉えて貰ったら分かり易いと思う」
神殿?
ちょっとイメージと違うのだが・・・
「神殿ですか?」
「そうだ、元は違う物だったのだが私の能力で作り変えてしまったからね。神殿といった方が適切だろう」
「そうですか・・・」
神の力で行使しているからそうなんだろうね。
「その神殿では試練を与え、様々な事にチャレンジして貰うことになる」
「試練ですか?」
「そうだ、主に戦闘に特化しているが、それだけではない。知力や胆力を試される階層もある」
「階層ですか?」
「そうだ、私の管理するこのダンジョンは二十階層あり、その階層ごとにそれぞれの試練が用意されている」
「なるほど」
「そのダンジョンを管理運営するのが、私ダンジョンの神カインの権能なんだよ」
「へえ」
「そしてこのダンジョンは、ハンター達のレベルアップの為の場所として人気を博してきたのだが、今では神気が薄くなったことによって、余り私のダンジョンを解放できなくなってしまっていてね。そのこともあってこのダンジョンの街も随分寂しくなってしまったんだよ」
だから人が少なかったのか。
「そうなんですね」
この街の産業の中心がダンジョンという事なんだな。
だから寂しくなってしまったと言う事か。
「でも今は君から貰った神力のお陰で、全ての階層が開けそうだよ。ガハハハ!」
おい、いきなり調子に乗るんじゃねえよ。
全くこの世界の神様ってお調子者が多いよな。
そんな俺の視線を察したのか、
「ああ、すまない。悪気はないんだ、権能を使って人々を喜ばせたい気持ちが先走ってしまったようだ」
「そのようですね・・・」
「それで、実はちょっとお願いしたいことが・・・」
そらきた、始まったよ。
イベント発生って事なんでしょ?
「その、私の権能で二階層まで開いていたんだが、遭難者が出てね」
カイン様はバツが悪そうに頭を掻いている。
「遭難者?」
「そうなんだ、初級のハンター達なんだけど、何を間違ったのか三階層にまでたどり着いてしまったんだ」
「はあ・・・」
「そして、この復活の指輪を付けている限り、ダンジョン内で死んでも蘇るのだが、有ろうことか籠城してしまっているんだよ」
「もう少し詳しく話してください、後、外に救出に行けるハンターはいないのですか?」
「今はこの街には外にハンターはいないんだ・・・すまない」
どうせそんなことだろうと思ったよ。
「説明をすると、先ずこの復活の指輪を必ずダンジョンに入る者達には装備させているんだ」
「・・・」
「これがある限り、戦闘で命を落としたり罠に嵌って命を落とした時には、必ずこのダンジョンの入口で復活することができるんだ」
へえ、便利な道具だな。
修業し放題じゃないか。
でもトラウマになったりしないのか?
いくら蘇るといっても心には傷が残るもんだろ。
そうなったらハンターは引退だろうな。
これは復活出来るからと安易に考えてはいけないな。
「だが、今ダンジョンに潜っている者達は、有ろうことかセーフティーポイントで数日を過ごしているんだよ」
「どういうことなんですか?」
「ダンジョンにはセーフティーポイントといって、魔物に襲われないポイントがあるんだよ」
まあよくある話しですよね。
「そこに留まり続けている一団がいるのだよ」
「それが何か問題でも?」
「問題になるよ。餓死に関しては復活の指輪の権能は及ばないからね」
抜け道があるのかよ・・・全く。
そもそもなんで籠ってるんだ?
「なんで籠ってるんですか?」
「おそらく三階層から魔物が強くなるから、出られないんだと思う。そもそも初心者向けの階層ではないからね」
「何かの手違いで入ってしまったと」
「だと思う、すまないが助けに行って貰えないだろうか?」
行くしかないようだな。
「分かりました、どうせこいつらが行きたいって言うでしょうし」
隣を見ると案の定ギルとノンが頷いていた。
「それで帰りはどうやって帰ってこればいいですか?」
何かしら裏技とかあるんでしょ?
セーフティーポイントがあるぐらいだし。
「直ぐに帰還できるような裏技とかは無いんですか?」
「そういった物は用意されていないのだよ」
準備しておいてよー。
楽出来ないということじゃないか。
「転移は出来ますか?」
「試した者はいないが、多分出来ないと思う」
「それはどうしてですか?」
「ダンジョンはある意味生き物だと言えるからだよ。ダンジョン自身も意思を持っているからね。生き物の中で転移が出来るとは考えづらいよ」
「そうですか・・・」
一応試してみるか?
「それで遭難して何日経ってるんですか?」
「だいたい二日だね」
災害の救助なら厳しい日数だな。
「急いだほうがよさそうですね」
「そうして貰えると助かるよ」
「じゃあ行きますか」
カイン様から指輪を三つ受け取り、その場で指輪を装備した。
「ではいってきます」
「よろしく頼む、念のため罠は解除しておくよ」
それぐらいはして貰って当然か。
俺達はダンジョンに向かっていった。
ダンジョンの中は薄暗い場所と明るい場所があり、所々にランタンの様な照明があった。
まるで洞窟だ。
さて、どんな魔物が出てくるのかな?
スライムとかかな?
そういえば異世界物の定番のスライムは、今まで見たことも聞いたこともないんだよな。
この世界にスライムはいないのかな?
「ノンとギルはどうしてダンジョンを知ってるんだ?」
「マークから聞いたんだよ」
「僕はロンメルから教えてもらった」
「そうか、何て聞いてるんだ?」
「ハンターの腕試しやレベル上げにもってこいの場所だって教えて貰ったよ」
「僕もそんな感じかな」
「そうか、まあ聞いた感じとしては二階層までは初心者向けらしいから、どうってこと無いだろうけど気は抜くなよ」
「了解」
「分かった」
「ちょっと急ごうか」
そう言って俺達は駆け足で先を急いだ。
ギルに乗って一気に飛んでいこうかとも思ったが、始めて足を踏み入れる場所である為止めておいた。
何があるのか分からないからね。
念の為の用心です。
お!あれが魔物だろうか?
デカい芋虫みたいなのが道の真ん中にいた。
ギルが邪魔だと蹴り上げる。
「ギャギャ」
悲鳴を挙げるとデカい芋虫は消えていた。
おお!倒すと消えるんだな。
衛生的でよろしい。
ん?なんか落ちてきたぞ。
ドロップ品ってやつかな?
小さい毛糸玉が落ちていた。
手に取って『鑑定』してみた。
『鑑定』
ジャイアント芋虫の毛糸玉 服飾に用いることができる一般的な糸
なるほど、でもこのサイズだと服を造るには十個でも足り無さそうだな。
こんなことを続けることに意味は無さそうだ。
「救助優先だから倒さずに済むなら素通りしていくぞ」
「「了解!」」
俺達は先に進むことにした。
その後もデカい芋虫やデカい蜂に遭遇した。
躱して行ける物は躱していったが、倒さないといけない位置にいる魔物は倒していった。
そのほとんどが蹴ったり殴ったりで対処できた。
ドロップ品は外っておいた。
ちなみに蜂のドロップ品は針だった。
「恐らくここが一階層の終着地点だな」
目の前に下りの階段がある。
俺達は階段を降っていった。
二階層。
唖然としてしまった。
目の前には草原が広がっていた。
「おいおい、どうなっているんだ」
「なんで草原が・・・」
「へえー」
ノンはひとりマイペースだ。
それにしてもどうして明るいんだ?
太陽は出てないけど充分に明るい。
どういう構造なんだ?
まあ、考えるだけ無駄かな。
何てったってダンジョンだからな。
よし、切り替えよう。
「先を急ごう!」
「「了解!」」
俺達は駆け足で先を急ぐことにした。
行く手を塞ごうと角の生えた兎が三匹現れた。
跳ねる様にこちらに向かってくる。
大きさは日本で見る兎の倍ぐらいの大きさだ。
『鑑定』
ジャイアントホーンラビット 狂暴な性格をしており、頭の角で襲ってくる。食用可
蹴り倒して先を急ぐ。
ノンとギルも面倒だと同じ様に蹴り倒していた。
首を狙って放つ蹴りは難なく兎の首の骨を砕いている。
ドロップ品は毛皮だった。
これも放置することにした。
先を急ぐ。
今度はジャイアントラットだ。
こちらは見たことある獣だ。
簡単に蹴り飛ばして先を急ぐ。
こちらのドロップ品も毛皮だった。
うーん、どれも服飾に役立つものばかりだな。
メルラドの人達が知ったらこぞってこのダンジョンに来るんじゃないか?
先を急ぐと何度も魔物に遭遇した。
躱していきたかったがどの魔物も何故か好戦的で、目が合うと途端に襲い掛かってくる。
走って追いつかれることは無いだろうが、倒した方が早いと考えられた為どれも蹴り倒していく。
ノンとギルも同様にしていた。
そして二階層の終着地点に到達した。
「やっとか」
「だね」
「結構広いよね」
「次が三階層だ、遭難者達はセーフティーポイントにいるらしい。セーフティーポイントを探さないとな」
「そういえば一階層と二階層にはそれらしい所は無かったね」
ノンの奴ちゃんと観察していたようだ。
えらいえらい。
「そうだな、あれぐらいのレベルの魔物相手なら、初心者でもセーフティーポイント無しでもいいと言うことなんじゃないか?」
「そうかもね」
「さて、行くぞ」
「「了解!」」
俺達は階段を降っていった。
ほんとにこのダンジョンってところはどうなっているんだ?
今度は森の中に出た。
「今度は森?」
「そのようだな」
「へえー」
考えたら駄目だ。
考えたら負けだ。
さてと、早く遭難者を見つけましょうかね。
「ノン、遭難者の匂いが分かるか?」
「んー、まだ分からないね。それにいろいろな魔物の匂いが混じっててちょっと分かりづらいよ」
「そうか」
俺は『探索』を行ってみた。
お!こちらは使えるみたいだ。
ということは転移も使えるのか?
だが、感覚的には転移は使えないだろうということが解る。
転移は行先を強くイメージすることが重要だが、それと共に今いる自分の位置も同時に意識している。
このダンジョンに潜ってからというもの、自分の位置を上手く把握できていないような感覚なのだ。
さてと、今は転移は置いといて。
探索マップには二キロほど先に人を示す四つの光点があった。
恐らくこれが遭難者だろう。
「よし、こっちだ。着いてこい」
「はい」
「分かった」
森の中の為あまり走ることは出来なかった。
それに結構な確率で魔物に遭遇する。
魔物というよりも獣だ。
ご存じのジャイアントピッグや、ジャイアントチキン、ジャイアントボアといった、ジャイアントシリーズだ。
これまで美味しく頂いてきた獣たちだ。
でもこれが初心者にとっては太刀打ちできない相手ということだな。
こちらも正確に首を狙って蹴り倒している俺達を初心者達が見たら卒倒しかねない。
こちらのドロップ品は毛皮や爪など。
今は急いでいる為放置。
肉がドロップしてくれたら間違いなく拾うんだけどな。
だって肉は放置できないでしょうよ。
肉に魔物が群がるだろうし衛生的にも問題があるよね。
決して食い意地を張っている訳ではないからね。
その後も何度も魔物と遭遇を繰り返した。
はやり普通に森で狩りで出会う獣達とは質が違う。
どの魔物も好戦的だ。
ジャイアントボア辺りだとこちらが複数人だと、逃げたりするものなのだが漏れなく襲ってくる。
正直面談臭い。
ダンジョンの獣はつまるところ魔物ということなんだろう。
違うものと考えた方がよさそうだ。
でもハンターの修行場になることは間違いないと思う。
ドロップした品物がどれぐらいの価値がある物なのかは判断しかねるな。
三階層はハンターランクでDランクぐらいだろうか?
お!あそこかな。
森を抜けた。
森を抜けると小さな広場があり小さな小屋があった。
おそらくこれがセーフティーポイントだろう。
小屋の中に人の気配がする。
小屋のドアをノックした。
ドンドン!
返事がない。
もう一度ノックする。
ドンドン!
しばらくすると、
「はい・・・」
消え入りそうな声が返ってきた。
ドアを開けて中に入ると男女二名づつが、壁に体を預けて虚ろな目でこちらを見ていた。
俺達は駆け寄る。
「おい、大丈夫か?」
「はい・・・なんとか・・・」
立ち上がろうとするハンターを俺は手を出して制する。
俺は『収納』から体力回復薬を取り出し四人に手渡す。
ノンとギルも介抱にあたった。
「これを飲め、体力が回復する」
彼らは体力回復薬を受け取ると申し訳なさそうに頭を下げた。
「ゆっくりと飲めよ」
蓋を開け体力回復薬を流し込んだ。
「ああ・・・凄い・・・」
「助かった・・・」
「死ぬかと思った・・・」
「ありがとうございます」
口々に話しだす。
どうやら落ち着いたようだ。
小屋の中を眺めて見ると台所を見つけた。
「ギル手伝ってくれ。消化に良い物を作ってやろう」
「何にするの?」
「お粥でどうだ?ちょうど『収納』におにぎりがあるから、お湯で解したらお粥になるだろ?まだ固形物を食べるのは難しいかもしれない」
「そうだね、じゃあ先ずはお湯を沸かさないとね」
『収納』からヤカンとなんちゃって水筒を取り出し、天然水をヤカンに入れてギルに渡した。
『収納』からおにぎりと茶わんとスプーンを人数分取り出して、茶わんにおにぎりを入れてスプーンで解していく。
お湯が温まったところで茶わんに注いでお粥の完成。
背中に期待の視線を感じ続けてする食事の準備は、何とも言えない気分だった。
「さあ、ゆっくりと食べてくれ。熱いからな、気をつけろよ」
四人にお粥を配る。
「ありがとうございます」
「三日ぶりの飯だ」
「温かい料理・・・」
「うう・・・」
四人は涙を流しながらお粥を食べていた。
「美味しい」
「旨い」
「何杯でもいけそう」
「なんてこと・・・」
これはお替りが必要みたいだ。
ギルが察したのかお湯を沸かしに向かう。
「まだまだあるから遠慮なく食えよ、若者達!」
「「はい!」」
元気よく答えが返ってきた。
その後結局三回お替りを食べ一段落ついていた。
俺達も腹が減ったのでおにぎりを食べることにした。
ギルがフードファイターの如くがつがつとおにぎりを流し込んでいる。
もはやギルとは張り合わなくなったノンは、マイペースに具の中身を確認してからおにぎりを食べている。
気に入らなかった具はしれっとギルの皿に置かれている。
それを気にすることも無くギルはがつがつとおにぎりを頬張る。
その様子に呆気にとられた四人が真ん丸の目で眺めていた。
「さて、そろそろ話しをしようか」
四人は姿勢を正した。
「俺は島野だ、それで君たちは?」
「僕はノンだよ」
「僕はギル」
二人はおにぎりを頬張りながら言う。
青年の一人が前にでる。
「僕たちはハンターグループの『ニュービー』です。そして僕はヴィクトール」
『ニュービー』新星ってことね。
「僕はワット」
「私はマレ」
「私はマイン」
新人のハンター然としている四人。
年齢は十五歳ぐらいだろうか?
戦士風の青年一人と魔法士が一人、後は僧侶と斥候か。
装備も新人の如く軽装、何とも心もとないハンターグループだ。
それにしてもどうしてこんなことになったんだ?
「で、どうしてここに籠っていたんだ?」
「はい、二階層までは潜ってもいいと、カイン様に言われたので二階層で魔物を狩っていました」
ヴィクトール君が答える。
「それで?」
「はい、一段落ついて休憩をしようと壁にもたれかかったところ、三階層の入口を見つけてしまいまして」
カイン様はどうやら入口を壁に見立てて入口を見えなくしていただけだったようだ。
ただの手抜きじゃねえか。
ちゃんと仕事しろ!
「それで、せっかくだから覗いて見ようといったところか?」
「そうです、全員レベルも上がったので、なんとかなるだろうと挑んだんですが・・・」
「まったく刃が立たなかったと」
「はい・・・」
「それで引き返そうとしたんですが、二階層への階段が見当たらなくて・・・」
ワットと名のった青年が説明を加えた。
「それでこの小屋に籠ってたんだな」
「そうです・・・申し訳ありません」
「いや、謝ることはない。だが自分達の力を過信することはよくないな、後は自死する勇気も無かったということだろ?覚悟を持たない者がハンターをやっていくことはお勧めできない」
四人とも頭を垂れている。
それにしてもこれぐらいの年齢の子にいくら指輪の効果で入口で蘇ることが出来ると分かっていても、自死を選択することは難しいぞ。
考えものだな。
「さて、じゃあ帰るか?」
「「はい!」」
隣を見るとギルがまだおにぎりを頬張っていた。
よく食う子ですな。
たんとお食べ。
四人を連れて俺達は帰還することにした。
行きと違って走って行くわけにはいかない。
『探索』が使える俺が先頭に立ち、その後ろに四人が控え、その脇をギルとノンが固める布陣。
これならこの四人に魔物の手が伸びることはないだろう。
三階層の魔物はやはり執拗に襲ってきた。
実際の獣とは訳が違う。
これもほとんどを首をピンポイントに狙った蹴りで仕留めていった。
四人には欲しければドロップした品は持って帰っていいと言ってある。
四人は我先にとドロップ品を採取していた。
「島野さん、何でそんなに強いんですか?」
ヴィクトール君からの質問だ。
「俺か?決して強くはないと思うぞ」
「でも一撃であっさりと、それも武器無しで」
「ああ、俺は魔物の弱点を狙って蹴っているからな」
「弱点ですか?」
「そうだ、大体の魔物は首から上が弱点だからな、そこを狙うんだ」
「なるほど」
「やってみるか?」
「いいんですか?」
「やばそうなら助けてやるからやってみろよ、いいかちゃんと魔物の動きを捉えて首から上を狙うんだぞ」
「分かりました」
ヴィクトール君は俺の斜め前に立ち、剣を両手で構えて前に進んで行く。
ちょうどタイミング良くジャイアントピッグが一頭、ヴィクトール君に一直線に向かってくる。
ヴィクトール君は腰を深く落とし剣を前に構えている。
突進してくるジャイアントピッグの頭に剣を突き刺す。
ジャイアントピッグの眉間の所に剣が突き刺さる。
ゴリっという嫌な音がした。
「やった、一撃で倒した!」
ヴィクトール君がガッツポーズをしている。
「いいじゃないか、悪くない」
「ありがとうございます!」
「でも、今の狩り方だと直ぐに剣を駄目にしかねないな。現に嫌な音がしただろ?」
「はい」
ヴィクトール君は剣を眺めている。
「魔物の頭蓋骨は結構堅い、できればもっと柔らかい場所を狙った方がいい。ちょっと剣を借りてもいいか?」
「どうぞ」
ヴィクトール君は剣を俺に差し出してきた。
この重さだったら俺には片手剣になってしまうが敢えて両手で使わないと参考にならないよな。
俺は両手で剣を構えて獲物が現れるのを待った。
直ぐに獲物が現れた。
ジャイアントボアが鼻息荒く俺に向かって突っ込んでくる。
俺は直前でサイドステップで躱し斜め上から首に剣を降ろした。
シュン!
うん、良い音だ。
「おお!」
ヴィクトール君が目を丸く見開いていた。
「こんな感じだ」
「凄い!スパッといきましたね!」
「分かったみたいだな、真正面からの攻撃は入りづらいものなんだよ」
「なるほどです」
俺は剣をヴィクトール君に返した。
「さて、次はヴィクトール君の番だ、頑張れ!」
「はい!」
この俺達のやり取りを見てノンとギルも他の子達にアドバイスや魔物の狩り方を教えていた。
そして三階層を抜けて二階層に登っていった。
「ありがとうございます。お陰でレベルアップしました!」
「俺もです!」
「私も!」
全員レベルアップしたようだ。
二階層からは陣形を変え『ニュービー』に前を任せることにした。
時折アドバイスをしながら先を進んでいく。
行きとは違って時間が掛かっている。
三階層を抜けるのに三時間近くかかってしまった。
ちょっと小休止でもしようかな。
「ちょっと休憩するか?」
「「はい!」」
元気のいい声が返ってくる。
俺はこっそりと結界を張って魔物が近寄って来られないようにした。
『収納』からサンドイッチを取り出して人数分渡す。
「旨い!」
「最高!」
「こんな柔らかいパンは始めて!」
好評だった。
若者達よたくさん食べなさい。
俺は次々にサンドイッチを『収納』から取り出していく。
みるみるサンドイッチが無くなっていった。
でも半分以上はギルのお腹に入っていったのだが・・・
まあいいでしょう。
腹が満たされたので帰還を再開した。
まずは結界を解除する。
布陣は変わらず『ニュービー』に前を任せる。
二時間ほど経ったところで一階層に到達した。
そのまま一階層を進んでいく。
ゴールは目の前だ。
その後一時間ほどでダンジョンの入口に到着した。
到着を待っていたカイン様から労いの言葉を頂戴した。
「それにしても島野君、君達無茶苦茶強いじゃないか、驚いたよ!君達ならこのダンジョンを踏破出来るんじゃないか?」
ダンジョンを踏破って買い被り過ぎですよ。
「そうですか?俺が強いというより、こいつらが強いんですよ。なあノン、ギル」
「それほどでも」
照れるギルに対し、
「まあねー」
相変わらずマイペースなノン。
「それにギルはドラゴンですし、ノンはフェンリルですから」
「「ええ!」」
ニュービーの視線が熱い。
「島野さん達ってもしかして・・・」
ああ、始まったな。
お決まりのやつだ。
「「タイロンの英雄!」」
ノンがノリノリで獣化している。
それに負けじとギルも獣化していた。
なにやってんだか・・・こいつらは・・・
「すげー!」
「本物見ちゃった!」
「まじ!」
「これはなかなか見られるものではないな!」
カイン様まで感心している。
「ハハハ」
こうなると笑うしかないんだよな・・・
やれやれだ。
なんにしてもミッションコンプリートということで、めでたしめでたし。




