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神様のサウナ ~神様修行がてらサウナ満喫生活始めました~  作者: イタズ


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スーパー銭湯オープンその2

順調にプレオープン初日を終えた。

遅めの晩飯を大食堂で食べている。

スタッフ達の顔を見ると、皆な緊張感から解放されたほっとした表情をしていた。

後で風呂にでも入って、ゆっくりと寛いでくださいな。

皆さんお疲れさんです。


よくよく考えてみるとこの世界初の娯楽施設となるスーパー銭湯なのだ、スタッフの緊張も相当なものなのだろう。

でも、ここで息切れしてもらっては到底この先やってはいけないだろう、頑張り処である。




プレオープン二日目。

俺は皆を大食堂に集めた。


「皆な、急な招集に答えてくれてありがとう」

全員が息を飲んで俺の言葉を待っている。


「これが昨日のプレオープンの結果だ。今からアンケートの内容を一部読み上げようと思う、よく心して聞いて欲しい」

スタッフ全員が固唾を飲んでいた。


「本当に癒されました。お風呂は気持ちよかったし、店員さんの対応も心地よく、最高に楽しめました」


「「「おお!」」」

スタッフは歓喜に沸いている。

皆で称え合っていた。


「初めての転移で驚きましたが、受付の皆さんの笑顔に迎えられて嬉しかったです。また来たいです」


「「「よっしゃー!」」」

入島受付班がガッツポーズをしていた。


「食事が無茶苦茶美味しかったです、またカツカレーを食べに来ます。次はお替わりします、絶対に来ます」


「「「よし!」」」

厨房班のスタッフがお褒めの言葉に沸いていた。


「概ねこの様なお褒めの言葉を頂いている、皆の頑張りがお客様に届いているという事だ、引き続きよろしく頼む。では配置についてくれ!今日も昨日同様に全力でお客様を迎えてくれ、以上!解散!」

スタッフ達には励みになったのだろう、自信満々の表情で各自の持ち場についていった。


これで志気が高まったと思う。

各自の持ち場でそれぞれ頑張って欲しい。

実は一件だけ苦情めいた意見があったのだが、内容としては超冷水風呂が寒すぎて心臓が凍えるかと思ったという意見だった。

次からは普通の水風呂を使ってください、と心の中で言って終わっておいた。

こういうのは何とも取り合いようがない。

やれやれだ。




二日目のプレオープンを終え、アンケートを見ると俺は愕然とした。

そうか、俺の好みに偏り過ぎていたんだな・・・

俺は猛省した。

俺は自分の舌の求める物しか作ってこなかったんだと。

その意見はこうだった。


「甘味が欲しいです」

そうか、そうだよな・・・

俺は甘党ではない。

もっと言うと甘みに幸福感をあまり感じないタイプだ。

これはよろしくない。

断じてよろしくない。

精神年齢定年の俺にはない盲点だ。


早速甘味作りに取り掛かる。

先ずはこれだろうとかき氷機を作り、かき氷を作った。

味はイチゴ、レモン、リンゴ、ミカン、イチゴミルクの五種類。

それぞれを煮詰めて砂糖を混ぜてシロップを作った。


もっとフレーバーを増やすことは可能だが、これぐらいが妥当との判断を下した。

多ければその分スタッフの負担になるからだ。

結果。

試食したスタッフからは嘘でしょ!というぐらい大いに受けた。

有頂天となった俺は手を加え、果物をふんだんに乗せたかき氷を作り半端なく受けた。


このサウナ島は砂糖は充分に足りている。

これは更なる開発が必要だろう・・・でもフレーバーは増やさない方が良いと考えた矢先にこれかよ・・・とほほである。

やっちまったな。


次はホットケーキだ、速攻で試食品が無くなった。

予想はしていたが予想以上に完食されるまでが早かった。

メルルが目をハートマークにしてもっと甘みをとせがんでいる。

彼女は甘味中毒になっていた。

ハチミツはカナン産の物を使った。

レイモンド様ありがとう。

大変美味でございます。


更に今度はアイスクリームを作った。

フレーバーはかき氷と同じ種類にバニラを加えた。

これのベースはドラン様から牛乳を購入して作った。

神様ネットワークが上手く機能していると言っていいだろう。


本当はソフトクリームを作りたいが温度の管理が難しい。

今はトライアンドエラーを繰り返している。


そして、ほとんどの神様からサウナ島に連れてくる人数が五人前後では少ないから、人数を増やせないかと相談された。

当然受け入れはしたが程々にして欲しいとは伝えてある。

程々にと。




プレオープン三日目、

大変なことになっていた。

この世界の神様達は人の話をちゃんと聞かないのだろうか?

俺は程々にして欲しいと言ったのに・・・これがあの人達の程々なのだろうか?・・・違う、ちゃんと人の話しを聞いていないのだ。


来客数が大幅に多くなっていた、入場制限の手前までくる人数が一気に押し寄せて来た。

始めの入島受付室からてんやわんやの大賑わいで、その数はピーク時で三百人以上にも上った。

危なかった、時差のお陰で何とか凌げた。

入島時間がばらけたお陰で凌ぐことが出来た。

結果的には大賑わいの大盛況ではあったが、こちらとしても心構えという物があるってもんだろう。

スタッフにとってはいいトレーニングになったとは思うが、この調子では明日以降が大変なことになりそうだ。


それにしても・・・疲れた。

というか疲れてしまった。

予想外は良くないと珍しく真面目に思った。


そして俺はこの日のアンケートにも気づかされる点が多かった。

先ずはトイレの使い方が分からないという意見があった。

これは使い方を紙に書いて、張り出すことで対応することにした。

確かにこの世界でのおトイレ事情は著しく劣っている。

不衛生な上に匂いも酷い。

水洗トイレを始めて見る者が大半だ。

ここは丁寧に対応すべきだろう。


次にサウナの最もいい入り方を教えて欲しいという意見があった。

それはそうだと思う。

まったくこれまでに無い文化だから、分からなくて当然だし、マナーや使用の方法も分からないだろう。

これまでは小人数であり神様達の側近と言ってもいい人達だった為、前持って話を聞いていたんだろう。

この様な意見はこれまでには無かった。

今日は大所帯であった為、こういった意見があって当然とも考えられる。

ここは肩を回さなければいけない処だ。

プレオープンを行って正解だった。

正に目から鱗である。


ここはマリアさんにお願いし、水風呂の一番目立つ所にイラスト付きでサウナの入り方やマナーの説明を書いて貰った。

マリアさんには感謝だ。

尻を振りながらノリノリで書いてくれた。

マリアさんの能力の一つで『どこでもペイント』というのが有るらしく、仕組みはよく分からないが何処でも固形物の上ならば、思い通りに文字やイラストを描き込める能力らしい。

俺はとんでもない能力だと感心した。

更にイラストも上手な上に伝えたいことが分かり易く描かれていた、芸術の神様は伊達ではないと思ってしまった。


他にも、何故靴を脱がないといけないのか?とか、タオルを湯船に付けてはいけないのか?といった意見や、体を洗わずに風呂に入ってはいけないのか?という我が目を疑う意見もあったが、これは無視してもいいだろうと考えた。

いくらお風呂文化が根付いて無いとはいえ、こんなことを分からないようではたかが知れている。

そういった方々は今後はご遠慮いただくことにしたい。


だが、そうとも言ってられないと感じた出来事が起こっていた。

タオルを持参する人があまりに少なかったのだ。

まずはスーパー銭湯の受付で販売している、〇島マークの入ったタオルがと飛ぶ様に売れてしまった。

中にはタオルも買わずに風呂に入ってしまい、ビショビショのまま脱衣所を出る人までいたようだ。

先が思いやられる・・・


でもこれが現実、彼らにとってはお風呂やサウナは元より、このサウナ島自体が未知との遭遇なのである。

たかが知れている、ご遠慮いただこう等と考えてしまったことを俺は大いに反省した。

ここが異世界であることを俺は改めて思い知らされた出来事だった。

この後はスーパー銭湯の受付でタオルの有無の確認という、要らないひと手間がかかる様になってしまった。

致し方あるまい。


お風呂・サウナ文化を広めると同時に、そのマナーや使用方法も広めなければならないと痛感した。

まだまだ先は長い・・・


そして当然のごとく甘味が大ヒットした。

アイスクリームの在庫が全て無くなってしまっていた。

中には全てのフレーバーを食べた猛者まで現れたらしい。

お腹を壊してないといいのだが・・・

責任は取りませんよ。


既にメルルに率いられた料理班が増産体制に入っている。

この調子ではグランドオープン後はどうなることかと心配で仕方がない。

だが一つ一つコツコツとやっていくしかないとも感じている。


五郎さんが温泉街を作った時はどうだったんだろうか?

今度暇が出来たら聞いてみるか?

それにしても疲れたな・・・




プレオープン五日目

お風呂とサウナの見回りを増やしたことで、マナーや使い方の問題はなんとか上手く回り始めているようだ。

スタッフにはこちらから積極的に声を掛ける様にさせている。

聞いたところでは既にリピーターが多数おり、そのリピーター達も知ったかぶりをして、サウナはこう入るんだとか風呂はこう入るんだと、聞いてもいないのに語り出す者が出始めたということだった。

昔はスーパー銭湯でもよくそういった指導をしているおじいさんを見かけたもんだ。

最近ではあまり見かけくなった・・・


テレビの影響なのだろう、日本のサウナ事情は数年前から随分と変わってきている。

正に空前のサウナブームと言ってもいいだろう。

様々なサウナ施設が誕生し、利用者の平均年齢も低くなってきている。

指導をしなくても入り方を弁えた若者が実に多い。

稀に指導が必要な若者も見かけるが、それを注意する者はほとんどいなくなってきている。

ちょっと寂しさを感じるが、これも時代の変化なのだろう。


三日後にはグランドオープンを迎える、スタッフ達の動きは日を追うごとに良くなってきている。

流石は倍率二十倍を潜り抜けた選ばれし者達というところか。

誰一人として気を抜いていない。

実際一番気を抜いているのはもしかしたら俺かもしれない。

というよりはほとんどの業務が神様達からの相談事や、人を紹介されて話し込むといったことになってしまっている。

要は自分の仕事ができない状態に陥っているということだ。


本当はスタッフの仕事ぶりを見て周りたい所なのだが、やっと解放されたと思っても次々に紹介させてくれという人が現れてしまう。

せっかくサウナ島に来てくれているので邪険にする訳にもいかない。

困ったものだ・・・


相談事のほとんどがこのサウナ島で商売がしたいという物なのだが、今は神様が直接行う形式以外は受け付けていない。

とは言っても神様が直接商売を行うことはまずない。

いわば直営店と言ったら分かり易いだろうか。

カナンのハチミツとコロンの牛乳を販売するブースを設けて、そこで販売を行って貰っているということだ。


個人的にはゴルゴラドの海鮮を売るブースが欲しいところなのだが、今のところそういった申し入れはない。

ちょっと残念ではあるが魚介類の仕入れはしっかりと行っている。

リチャードさんからは服飾を扱うブースを設けて欲しいと言われているが、スペースの空き問題もあって今は保留としている。

服飾は食品以上に場所を取ることになってしまうからだ。

リチャードさんは神様ではないが、信用のおける人物なので許可してあげたいところなのだが、今はそこに手を回すだけの余裕がない。

少し時間を頂きたいと思う。

腹案はあるのだが、今はとにかくスーパー銭湯を無事にオープンさせることに集中したいと考えている。


そんなことを行っていると、遂にあの大物がやって来た。

来るだろうとは思っていたが案の定だった。

口元に笑みを含んだエンゾさんが異様にごつい男性を連れてやってきた。


「そなたが島野か、会いたかったぞ!」

やたら大きな声でどすどすと近寄ってきた。

はあ、来やがったか・・・


「はあ、どなたでしょうか?」

俺の言を受けてエンゾさんが紹介してくれた。


「島野君、お気づきでしょうが、タイロン王国の国王ハノイ十三世ですわ」


「余がハノイ十三世である、ガハハハ!」

無駄にデカい声でその男性は言った。

体はガチムチのマッチョで何故かポージングをしていた。

上腕二頭筋をアピールしている。

こいつアホだな・・・

なんでタンクトップなんだ?

本当に国王なのか?


「して、島野とやら、お主やたら強いと聞いておる、余と手会わせ願えな」


「やですー」

食い気味で言ってやった。


「余と手」


「やですー」

まだ言うかこのアホ。


「余」


「やですー」


「・・・」


「ごゆっくりとお過ごしください」

愛想笑いを添えて俺はその場を去ることにした。


背中でエンゾさんが、

「このアホマッチョが!」

ハノイ十三世にローキックを入れているのを背に感じながら、そそくさと俺は立ち去った。

アホマッチョの相手なんかしてられるか、まったく。

こちとら忙しいんだよ、ふざけんな!

やだやだ、次行こう次。




やっとエンドレスの紹介ループから抜け出せた。

まだ閉店時間までは一時間以上あるが、せっかくだから客に紛れてサウナに入ることにした。

挨拶しようとするスタッフの口に手を当てて制する。

その様子にそれではと立ち去るスタッフ。

察しが良くて助かります。


いつものルーティーンを終えてサウナに入る。

サウナは八割方が埋まっていた。

俺は最上段が空いていたのでもちろん最上段に陣取る。

温度計に目をやると八十度だった。

湿度も申し分ない。

個人的にはあと五度欲しいところだが文句は言うまい。


丁度オートロウリュウが始まるところだった。

オートロウリュウにサウナ内のお客達がどよめく。


すると知ったかぶったエルフの男性が、

「これはオートロウリュウだ、三十分に一回起こるイベントみたいなもんだよ」

常連ぶって語っていた。


隣の獣人の男性が、

「そうなのか、良く知っているな?」


問い返すと、

「俺も昨日知ったんだ」

素直に答えていた。


面白い光景だった。

こうやって見てみるとなんだか笑いそうになる。

人間、魔人、エルフ、獣人、ドワーフ、魚人が黙ってサウナで蒸されている。

異世界ならではの光景だ。

少し独特な汗の匂いもするがこれはご愛敬だ。

恐らく獣人さんだろう。


二つ前の席にガードナーさんがいた。

そういえば彼には転移扉は渡してなかったな、欲しいと言われるのだろうか?・・・言われるまでは待っておこう。

おや?

隣に座っている男性に目が留まった。

小声でガードナーさんと何か話しをしていた。

後ろで黒髪を纏めた男性で神経質そうな顔立ちをしている。

細身で白い肌をしていた。

彼の存在感に違和感を感じる。

はて?


そんなことを考えていると、ガードナーさんとその男性は連れ立ってサウナを出て行ってしまった。

オートロウリュウがきつ過ぎたようだ。

そそくさと退散していった。

その後、俺はお客様の動向を眺めながらサウナを堪能した。


因みにこのスーパー銭湯の外気浴場には、俺とギルしか入ることが出来ない、秘密の整い部屋がある。

これは『黄金の整い』を俺とギルが行う為に用意した専用のVIPルームである。

当然内にはインフィニティーチェアーが二台設置してある。

その部屋の名は『パパとギルの部屋』とそのままである。

名前はギルが勝手につけていた。

俺は特に文句はない。


ノン達には悪いが俺とギルは神力を蓄えておく必要がある。

まだまだ他の神様達には『黄金の整い』を教える訳にも見せる訳にもいかないのでこの部屋を作った。

この部屋のドアノブは神石が付いており、その扉を開くことは俺とギル以外の神様でも、開けることは出来ないように能力を付与してある。


神石に俺とギルのみが扉を空けれるイメージをしたら、普通にその様になった。

念の為ランドールさんにドアノブを回してみて貰ったが回すことすらできなかった。

こんなことも出来るのかと神石の可能性に驚かされた。

と思っていたら、


ピンピロリーン!


「熟練度が一定に達しました、ステータスをご確認ください」

アナウンスがあった。


能力に『限定LV1』とあった。

限定ってなんだ?

てか、神石ではなく俺の能力だったのね・・・

限定?まったく分からん・・・

まあ時間の有る時にでもいろいろ試してみるか・・・

にしてもまったく分からん限定って・・・何なんだ?


俺は『パパとギル部屋』で『黄金の整い』を堪能した。




プレオープン最終日

今日はプレオープン開始前に各リーダー達と打ち合わせを行うことになっている。

メンバーはマーク、ランド、メルル、ギル、ジョシュア、そして、サポートメンバーとして、メタン、ロンメル、ゴンが集まっている。


「皆な、お疲れさん」


「「お疲れ様です!」」

全員リラックスした表情を浮かべている。


「遂にプレオープンも今日で最終日となった、そこで打ち合わせを行って、現状の把握と今後の問題点の洗い出しを行なおうと思う」

皆一様に砕けた感じでの打ち合わせとなっていた。

このメンバーで畏まることはほとんど無い。

飲み物を飲みながら遠慮なく意見が交わされる。


「まずは現状の報告を頼む、マークからだ」


「はい、迎賓館の現状ですが、既にリピーターもおり、テーブルもほとんどの時間半分以上が埋まっている状況です。利用客はやはり商人が多く、商談に来ている者が多いようです。個室の利用はまだそこまででもありませんが、VIPがこの先利用する様になってくれればと考えています」


「そうか、商人の中でおかしな行動をとるような者はいなかったか?」


ロンメルが手を挙げる。

「旦那、そこは俺が話させて貰おう、今のところ怪しい動きをする者はいないが、オープンして慣れた頃から注意を高めていく必要はあると思うぞ、今は注目度が高いからおかしな行動は取るに取れないと思うぜ」


「そうだな、ロンメルの意見は一理あるな、まあ、神様が認めた者達しか入れないのがこのサウナ島の現状だが、神様も万能じゃないから潜り抜けてくる者は必ず現れるだろうから、気にかけておいて欲しい」


「ああ、任せてくれ」


「あとは今はまだ未稼働だが、宿泊施設が稼働しだしたら特に注意は必要になってくるかもしれない」


「分かっている、泊りともなれば動きは変わってくるからな」


「でも、実際はずっと張り付いて動向を見て周ることは出来ないから、こいつはという者が現れたら注意する程度で構わないからな」


「そうさせてもらうさ」

ロンメルが心強く頷いた。


「次にランド、報告を頼む」


「はい、なんとか捌いているっていうのが正直なところですね。どうしても入島のタイミングが重なると渋滞がおきますね」

ランドは頭をポリポリと掻いていた。


「どれぐらい待たせてしまってるんだ?」


「そうですね、最大で十五分ぐらいでしょうか?」

微妙だな、多いとも少ないとも言えない。


「十五分かー、微妙なところだな、でも雑な対応になるぐらいなら、ちょっと待たせても問題無いと割り切った方が良いかもしれないな」


「私もそう思いますよ」

メルルが賛同した。


「私もそう思いますな」

メタンも同意見のようだ。


「どうしても待たせる様になるなら人員を増やすことも視野にいれておこう、その必要がある時は遠慮なく言ってくれ」


「分かりました、そうさせて頂きます」

どうしたものかとランドは腕を組んで考えていた。


「じゃあ、メルル」


「はい、食事の提供に問題はありませんが、やはり甘味の売れ行きが良すぎて、スタッフの大半がそちらに割かれてしまうのが問題かと、カツカレーや親子丼は提供に時間が掛からないからいいですが、日替わり定食の内容によってはお客様を待たせてしまう可能性があります」

日替わり定食か・・・


「そうか・・・考えどころだな」


「人を増やしたいのもありますが、スタッフの数の問題だけでもない様に思えます」

それ以外の問題ということか?


「そうか、質は落とさずに提供の時間は早めたいということか・・・なかなか難しところだな」


「いっそメニューを変えてみては?」

ゴンの意見だ。


「いや、このタイミングでの変更はスタッフには負担でしかないだろう」


「ですね」

メルルが同意する。


「ただ、提供までに時間の掛からないメニューを増やすことは在りかもしれないぞ」


「といいますと?」


「俺達は正直言ってこの世界では食に恵まれている方でグルメになっていると思うんだ」


「そうなの?」

ギルには実感はない様だ。


「そうだと思う、マーク達はこの島に来た時のことをよく思い返してみて欲しい。俺は今回のプレオープンでいろいろ気づかされる点があって、自分の常識が他人にとっては非常識となっていることに気づいたんだ」


「確かにそうですな、我々もこの島に来て一年以上が経っておりますが、今では当然の様に食事の味やはたまた飾り付けにまで目を向けておりますが、もとは堅いパンを普通に食べていた身ですぞ、贅が過ぎると言われても文句は言えませんな」

メタンは理解しているようだ。


「ああそうだ、旦那の言うことはよく分かる。俺達は旦那のお陰で今では食うに困らない処か、これまでにない贅沢な生活を送っている、数年前の俺達には考えられないことじゃないか?」

ちょっと褒め過ぎじゃありませんかね、ロンメル君。


「まあ、思う所は人其々でいいと思うが、俺達はちょっとこの世界では高すぎるレベルの食事環境にあって、他から見るとやり過ぎて無いかと思うんだ」


「それは分かる気がします、正直に言いますとちょっとついて行けないと思う時も俺にはあります、良すぎるっていうんですかね」

これがジョシュアの本音のようだ。

この意見はありがたい、ジョシュアは異例の抜擢をしてはいるものの、やはり新人に代わりはない。

彼の意見は貴重な物なのだ。

ある意味ではこの異世界に住む者達の代表としての意見となっている。


「そうか、ジョシュアでもついて来れないとなると、他の者達にとっては尚更だろう。ここでちょっとペースを落としたほうがいいかもしれないな」


「そうかもしれませんね」

メルルは考え込んでいるようだ。

下を向いている。


「実はな、前にちょっと違和感を覚えたことがあったんだ」


「それはどういうことですか?」

メルルが顔を上げた。


「メルル、覚えているか?メルラドの件でへとへとになった時に晩飯をお茶漬けで済ました時があっただろ?」


「ええ、ありましたね」


「その時に俺達サウナ島の者達は物足りないと感じたみたいだが、ジョシュア達は違っていた。こいつらはこんな上手い物があったのかと何度もお替りをしていたし、上手い上手いと連呼していたんだよ」


「ああ・・・」

メルルは何かを理解した様だ。


「俺もその時のことは良く覚えています、こんな無茶苦茶上手い食事をしているのに、何でこの人達は不満げ何だと思いましたよ」

この意見を言えるジョシュアは大した者だと思う。

これがこいつの優れている処だと言える。


「と言うことなんだよ、だから今丁度お茶漬けが話に出たが、お茶漬けをメニューに加えるというのも有りなんじゃないか?他にもせっかくカレーがあるんだから、カレーうどんとかだったらスタッフの負担にはならないし提供時間も早いだろ?」


「確かに、加えてみます」


「言われてみれば納得です。俺達はちょっと頭に乗っていたのかもしれませんね」

マークらしいコメントだ。


「頭に乗っているとまでは言わないが、この世界の水準に合わせていくことが大事な事だと思うんだ、どうだろうか?」


「「「賛成!」」」

全員が俺の言いたいことを理解してくれたようだった。


俺達が当たり前の様にしている土足厳禁や、お風呂に入る前に体を洗うということがこの世界の人達にとっては、当たり前では無いということなんだろう。

ここは頭を垂れて謙虚に受け止めなければならない。

マナーの押し付けが良いとは限らないのだ。


プレオープンの最後にして良い確認が出来たと胸を撫で下ろした。

俺達の進む道はゆっくりで良い、徐々に受け入れて貰えればありがたいという気持ちでやって行こうと心に留めたのだった。




そして俺は今、テープカットの掛け声を待っている。

まだフワついている感覚はある。

いい加減普段の俺に戻って欲しい。


そうだ、複式呼吸だ。

ゴンではないがそれが一番良い。

俺は人知れず複式呼吸を行った。

鼻から吸って口から吐く。

そう、それだけの単純な作業だ。


でも不思議だ・・・このやり慣れた作業がいつもの俺に戻してくれる。

ああ・・・こんな簡単なことだったんだと、今さらではあるが思い出した。

やっといつもの自分に戻れた気がした。


それで・・・オリビアさんのテープカットの掛け声を待っているのだが・・・

オリビアさん・・・まだですか?


「皆さん!ご注目!テープカットは置いといて、まずは私が一曲歌いまーす」

マジか!

これ絶対確信犯でしょ?

ワザとだよね?

嵌められたー!

他の神様達も唖然としていた。

オリビアさんの独壇場が始まった。

この注目される一時を正に自分の為に使っている。

好き勝手やってくれるよな。


一曲歌って気が済んだのか、

「では、テープカットお願いします!」

雑に振られた。

オリビアさんの掛け声にテープを持った神様達が、一斉にハサミでテープを切った。

切れ端の紅白の花を皆で掲げる。


「「「おめでとうございます!!!」」」


「オープンだー!」


「やったぞ!」

歓喜の声と共に大きな拍手が巻き起こった。

止まない拍手と声援に俺は照れを隠せなかった。

本当にありがとうございます。


不意に後ろから誰かに掴まれた。

振り返るとゴンズ様が俺の肩を掴み皆を呼び込んだ。

俺は宙を舞うことになった。

神様達に胴上げされている。


俺が宙を舞うと、

「「「バンザーイ!!!」」」

祝福の掛け声がする。


そしてお決まりの三回目ドスンは・・・無かった。

神様達は慈悲深いということか?俺の背中は守られたのだった。

何とも言えない奇妙なグランドオープンとなった。




スーパー銭湯の入り口が開けられ、ギルが大きく宣言した。

「スーパー銭湯守!開店しました!」


「おお!」


「やっとか!」


「待ってました!」

騒がしい。

それにしてもスーパー銭湯守って何?

聞いてないんだけど・・・ギルのアドリブか?


「ギル、スーパー銭湯守って何だ?」


「えっと、五郎さんから名前を付けた方がいいって言われて、皆と相談して決めたんだよ」

皆って・・・俺抜きかよ・・・


「ごねんね、面白いからパパには言うなって五郎さんが・・・」

思わず目を瞑って上を向いてしまった。

まあ確かに面白いでしょうね、あなた達にとってはね!

俺には面白くもなんともないんですけどね!


「そうか、ギル面白かったか?」


「そうでもないよ、でもあっち見て」

そこにはにやけ顔の五郎さんと、ゴンガス様とオリビアさんがいた。

はぁ・・・神様ってなんなんでしょうね?

参りました、降参です。

俺は両手を挙げて降参の意を示すと三人は大爆笑していた。

やれやれ・・・


さあ、仕事仕事!

俺は頭を切り替えて受付業務を手伝うことにした。

あー、忙しい。




グランドオープン初日から大盛況だった。

開始一時間で入場制限を設けることになってしまっていた。


初日から三日まではオープンセールとして、入泉料が半額と島野印入りのタオルが無料で配られることになっている。

実はこのタオルだがちょっとしたブームになっているらしく、このタオルを首に巻いたり、肩に掛けたり、腕に巻いたりするのがトレンドになっているようだった。

既に模造品も出回っているとかいないとか、このタオルを持っていることが、神様に認めらたということの証になっているということらしい。


意味合いとしては間違ってはいないが、拡大解釈しすぎなのではないだろうか?

でも俺にしてもサウナフレンズの飯伏君も、サウナの名店に行ってはそこのお店のタオルを買って、そこに行ったと見せびらかしていたので、ある意味では同類なのかもしれない。

まあ、このスーパー銭湯守が名店扱いされるのであれば嬉しい話ではあるのだが。


入場制限とは言ってもこれは風呂場に限った話しで、脱衣場の入口でスタッフが規制線を張っている状態だ。

館内への入場そのものは出来る為、食事をして時間を潰す人たちが多かった。


一時は暴動でも起きるのではないかと緊張感があったが、大食堂に隣接しているステージで、楽しくなったオリビアさんが歌い出し、あっさりと危機から脱した。

オリビアさんの歌に助けられたのかもしれないな。

でもテープカットではやってくれちゃってましたけどね!


ステージの最前列でなんとも言えないクネクネした踊りをしているマリアさんを見かけたが、俺は敢えて見てない振りをした。

「これは芸術よ!」

踊り狂いながら叫ぶマリアさんを見て、泣き出す子供がいたとかいなかったとか・・・

まあ好きにやってくれ。


また今日もエンドレス紹介ループが始まりそうな気配がしたので、そそくさと逃げようとしたところ、五郎さんに話し掛けられた。


「島野、オープンおめでとさん!」

まだにやけ顔をしている。


「五郎さん、やってくれましたね」

睨みつけてやった。


「ガハハハ!そう怖い顔するなって、なかなか面白かったぞ」


「でしょうね」


「それにしてもスーパー銭湯守って、ギル坊達もセンスがねえなあ」


「まあ、家の者達ならそんなもんでしょう」


「違えねえ」


「そういえば、五郎さんの温泉街のオープンの時はどんな感じだったんですか?」


「儂の時か?」


「はい、興味があって」


「あれだろう?島野、いまいちピンと来てねえんだろ?」


「分かりますか?」


「ああ、儂もそうだったからな、オープンした時はなんだこんなもんかってな感じだったんだがな、後でじわじわ実感が湧いてきたもんさ」


「そうなんですね・・・」

俺も一緒ということかな?

後で実感と言われてもな・・・

まあいいか。


「それで、この後はどうするんですか?」


「おお、今日はダンと連れの連中が一緒に来ているんだがな、ちと厨房を見させてもらえねえか?と思ってな」


「もちろんいいですよ、でも大将はメルルに手伝えって捕まるかもしれませんよ」


「それはそれで構わねえ、それもあいつにとっては勉強の一つだ」


「であればいいんですが」

俺は大将達を引き連れて厨房に向かった。

このメンバーはメルラドの時に手伝ってくれたメンバーだ、ひょっとして・・・


「島野さん、オープンおめでとうございます、にしても凄い物造っちゃいましたね」

周りを見渡す大将。


「じゃあ、厨房に入りましょうか?」


「お願いします」

厨房はちょっとした戦争状態だった。

動き回るスタッフ、怒号に満ちた厨房内、メルルがスタッフに檄を飛ばしている。


こちらに気づいたメルルは、

「大将、お願い手伝って!」

遠慮も無く言っていた。


「合点承知!」

腕まくりをした大将達が案の定助っ人参戦していた。

やっぱりこうなったか・・・

というよりはこれは五郎さんからの粋な計らいで、大変な初日の助っ人を厨房の視察と言いながらも、送り込んでくれたという訳だ。


ありがたいことだ、持つべきは粋な隣人というところか。

でも料理馬鹿の大将が次は何を作りたいといいだすのか・・・

多分甘味だろうな。

ありがたく使わせていただきます。


その後俺はエンゾさんに捕まった。


「島野君ちょっといいかしら?」


「エンゾさん、どうしました?」


「まずは開店おめでとう」


「ありがとうございます」


「先日はすまなかったわね」

国王のことか?


「国王は悪気の無いアホなのよ・・・」

悪気の無いアホって、凄い言われようだな。


「はあ・・・」


「悪い人ではないんだけど、強いと言われる人を見ると、すぐ立ち合いをしたがる癖があってね」


「癖ですか・・・」


「ええ、まったく、本当はこれまでのことをお礼するのが筋なんだけど、そんなことも忘れて直ぐあんなことになっちゃうのよあのアホマッチョは」

今度はアホマッチョか・・・


「でね、ちゃんと叱っておいたからちゃんとお礼を言わせて頂戴。じゃないと私の気が済まないのよ」

あんたの気なんかい。


「でも、また会うと立ち合いをなんて言い出すんじゃないんですか?」


「流石にもう大丈夫、次に島野君にそんなことやったらタイロンを出るって脅してあるから」

タイロンを出るって言い過ぎでしょ。


「そうなんですか・・・あまり気が乗らないですが・・・」


「お願い島野君、私の為を思って、ね、いいでしょ?」

両手を合わせて懇願しているエンゾさん。


「まあ、エンゾさんがそこまで言うならいいですけど・・・」


「ありがとう、恩に着るわ、このままだとタイロンは恩知らずな国だと言われかねないからね」


「そんなもんなんですかね?」


「そんなもんなのよ」

なんか前にも似たような話をしたような気がするな・・・

エンゾさんに連れられてハノイ十三世のところに向かった。

ハノイ十三世はポージングを行っていた。

警護の者達と思わしきマッチョの軍団がハノイ十三世に掛け声を掛けている。


「肩がメロン!」


「あなたは肉柱です!」


「キレてるよ!」


「ナイスバルク!」

まるでボディービル大会の様相だった。

額に手をやるエンゾさん。


「止めなさい!」

エンゾさんの怒号が響き渡った。

一様に動きを止めた面々。

辺り一体に緊張感が走る。


ハノイ十三世が前に出て来た。

今日もタンクトップ姿だった。


「島野とやら、先日は失礼した。詫びよう」

ハノイ十三世は頭を下げた。


「構いませんよ、でも立ち合いは絶対しませんからね」


「そうか、それは残念だ」

項垂れている。


「そんなことよりハノイ王、島野君に言うことがあるでしょ?」


「おおそうであった。島野とやら、いや島野殿、タイロンでの度重なる功績、感謝する」

再び頭を下げた。


「たまたまですよ、たまたま」


「そう謙遜せんでもよい、そなたが強いことはガードナーからも聞き及んでおる。そこで、褒美を取らそうと思うのだが何か所望する物はあるか?」


「欲しい物ですか?」


「そうだ」

欲しいものと突然言われてもなあ・・・

特に無いんだよな・・・


「今は特に見当たりませんね」


「そうか・・・」


「じゃあ、島野君、欲しい物が出来たら言ってくれる?」


「そうですね、そうします」

とは言ってみたが、本当に何も思いつかないな・・・

あっ!そうだ!


「エンゾさん、ちょっとよろしいでしょうか?」


「何?」

俺はエンゾさんにしか聞こえない様に、エンゾさんの耳元であることを囁いた。


「ん!本当にそれでいいの?」


「可能ですか?」


「ちょっと考えさせてもらえる?」


「ええ、お願いします」

エンゾさんは眉間に皺を寄せて考えだしていた。


「では、ごゆっくりとお過ごしください」

ハノイ十三世に軽く一礼して俺はその場を去ることにした。

さて、あとはエンゾさんの快い返事を待つとしよう。

それにしても異世界って変な人が多いよな。

なんだかな。


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