それぞれの想い
私はメルル、人間です。
僧侶をしています。
先程契約更新を終え無事に正社員になりました。
個人面談をすると言われた時には、何の事だろうと身構えてしまいました。
意思確認って言われたけど、見習い社員とか正社員とかまったく考えていませんでした。
正直に言って見習い期間なんて忘れていました。
普通にこの先もこの島に居続けると思っていたから。
でも給料が倍になるなんてちょっぴり嬉しいかな。
よく考えたら図々しくないかしら?
そもそも私は島野さん、否、この島に命を救われた身で、過酷な重労働を無償で行う事すらも厭わないつもりと考えていたのに・・・好待遇な上に福利厚生も厚い、更に給料は倍って・・・
まあいいわ、多分断ったら島野さんに叱られるに決まっているし。
島野商事では労働に対価を払わないはあり得ない、って感じで叱られる。
ありがたく頂いておきましょう。
フフフ。
そうそう、福利厚生って、私、初めて知りました。
住む家は社員寮って言うらしく、三度の食事はまかないだって言ってたわ。
二杯のビールはおまけだって。
よく分からないけど、島野さんが居た世界では常識らしいわね。
素敵な世界よね。
作業着と長靴も支給してくれるし、お風呂にも入れる。
お風呂なんてこの世界では贅沢品よ、こんな暮らしを放棄する人なんている訳がないわよ。
何と言っても塩サウナね、あれはいい、すごく良い、お肌がすべすべになるのよ、感動ものよあれは、気に入らない女性は絶対にいないわ。
嫌いなんて言う女性がいたら、私が張り倒してやるわよ。
もう塩サウナが無い生活なんて考えられないわ。
ね?分かるでしょ?
どれだけ私は恵まれているのか・・・
更によ、私がずっと憧れていた体力回復薬の生成にまで携らせてくれるって、凄すぎるわよ。
ああ、私って本当に幸せ者ね。
島野さんには感謝しかないわ。
でもね、私は知ってるのよ。
あの万能な島野さんだけど、意外とおっちょこちょいな一面もあるのよ。
たまに「やっちまったー!」て言って、頭を抱えてるの。
案外可愛らしい一面もあるのね。
フフフ。
そんな島野さんとの体力回復薬の研究は順調に進んでいるわ。
始めは体の良い料理のお手伝いかと思ったりもしたけど、そうじゃなかったわ。
一度そんな表情を私は浮かべていたのでしょうね。
「料理のお手伝いと思うかもしれないけど、野菜をどう加工するかで、回復力に差が出るのかを見極めないといけないだろ?」
なんて言われてしまった。
仰る通りです。
実際料理と一緒な側面しかないとも思えたわね。
まあ、料理の手伝いでも私としては嬉しいけど。
今の処判明している事を話すわね。
焼くや炙るという点では、生野菜の時より回復効果は落ちたわ。
難しいのは煮ると蒸す。
蒸すに関しては、野菜によっては回復効果が上がったり下がったりしたの。
煮るは一番難しく、野菜の組み合わせによって大きく変化するのよ。
正直参ったわ。
でも、これが分かっただけでも凄いことなのよ。
後はどう組み合わせていくのか?
野菜の相性はどうなのか?
これらを検討していけば、自ずと分かってくる筈なの。
だから今は汁物は私が主に担当しているのよ。
ノンとロンメルが味噌汁にしろってやたら煩いのは面倒臭いけど。
でも実際、味噌汁の体力回復効果は高い。
だから味噌汁のルーティーンは割と高めなの。
体力回復薬の研究ではあるけど、皆の健康を預かっているとうこともちゃんと私は分かっているのよ。
因みに私は大根の入った味噌汁が好き。
柔らかくなった大根が口の中でほくほくしてたまらない。
さてと、この辺にして、今日もこれから塩サウナに行ってきまーす。
またね。
俺はランドだ。
先ほど契約更新を終えたところだ。
まったく持って忘れていたよ、今まで見習いだったなんてな。
そもそも意思確認なんていらないよ島野さん。
誰一人この島を離れる奴なんていないよ。
今更ハンターになんか戻りたくないって。
でも、こういうことをちゃんとするのが島野さんなんだよな。
しっかりしてるよ。
なんでも島野さん曰く、自由意志ってものらしいんだが、そんなこと言われても、俺は俺の自由意思でこの島に居させて欲しいよ。
島野さんって不思議な人だなと思う。
この島で一番偉い人なんだから、もっと偉そうにしていれば良いのに、まったくそんなところが無いんだよな。
挙句の果てには、もっと意見を言えよなんていうんだから、前の世界ではそういうのが常識だったのかな?
でさ、こんなことがあったんだ。
水道管の引き込みをする為に川と村を繋ぐ道を造り、掘削工事をしていたら、岩盤層に当たってしまい、どうしようかと考えていたら島野さんがやってきたんだ。
状況を説明すると島野さんが、
「ランド、どうしたらいいと思う。意見を聞かせてくれよ」
と言ってきた。
俺も馬鹿じゃない、島野さんの万能さはよく知っている。
いちいち意見を求めなくても島野さんに解決策はある筈だ。
でも聞かれれば俺だって意見ぐらいあるから当然答える。
「岩を砕く器具とかがあれば、何とかなると思いますよ」
「そうか、どんな器具がいいだろうか?」
「そうですね、岩より頑丈で先が多少尖ってるものがあればいいかと」
「いいね、良い意見だ、採用だ。ナイスだランド!」
島野さんは喜んでくれたんだ。
嬉しかったな、意見したことで喜んで貰えるなんて、初めてかもしれない。
何より、島野さんに認められた気がした。
これからも自分の意見はどんどん言っていこうと思う。
そして、島野さんはツルハシとか言う器具を作ってくれた。
グリップ部分にはゴムまで撒いてくれて、もの凄く使いやすい。
軽く振ってみたところ、とても俺の手に馴染む。
うんこれならいける。
岩盤層の岩は簡単に砕けた。
凄い!
これって武器にもなるんじゃないか?
もう俺には武器を手にしてハンターになることはないだろうがな。
ノンやギル達とたまに行う模擬戦で使ってみるか?
まったくもってあいつらには適わないが、武器を持った相手だと、勝手が違うらしく勉強になるみたいだ。
一度ぐらいは勝ってみたいけどな。
ツルハシならいけるか?
後俺は今サウナとバスケットボールに嵌っている。
サウナはいい、最高だ!こんなリラックスの仕方があるなんて夢にも思わなかった。
俺は決まって露天風呂の後に三セット行う。
休憩中の解放感のことを整いというらしいが、俺はほぼ毎日整っている。
サウナ明けのビールは格別だ。
無上の幸福感とはこの事かと思う。
この島に来なかったらと思うとぞっとする。
俺は決してこの島から離れないぞ。
あと飯が無茶苦茶上手い、知らない料理が多いが、何を食っても上手い。
お替り自由ってのも最高だな。
俺は朝から茶椀三杯はいく、ギルは五杯だけど、あれは別格だな。
そしてバスケットボールは面白い!
スリーオンスリーと言うらしいが、三対三で行うゲームだ。
バスケットボールとバスケットゴールを、島野さんが皆の遊びの為にと作ってくれたんだ。
やり方とルールを説明されたが、なかなかこれが難しかった。
特に反則プレーというのが難しい、どうしても手が出がちになってしまう。
だが何度もやるにつれて、どんどん面白くなってきた。
最初はドリブルすらも上手く出来なかったが、今ではそれなりに出来る。
それになんと言ってもダンクシュートだ。
初めて決めた時の爽快感は凄かった。
スカッとしたね!
この島でダンクを決めれるのは俺とノンだけだ。
たまに島野さんがズルしてやってるけど、ダンクを決めると決まって全員からブーイングが起こる。
すると島野さんは「おれの類稀なるジャンプ力の成果だって」と言うけど絶対に違う。
皆なあの人が飛べるの知ってるんだからさ。
良い加減認めてくださいよ。
でも器用なもんで、本当に自分のジャンプ力で決めてる様に見えるんだよな。
もし本人の言い分が本当なら、とんでもない身体能力だけど。
あの人が言うと本当に思えてくるから怖いよ。
ギルも島野さんを真似てダンクをやるけど、明らかにぎこちないないからな。
案外本当のことなのかもしれない。
おー怖!
バスケットボールは人を入れ替えて、組替えを何度もしながら楽しんでいる。
最強のチームは島野さんとノンとギルのチーム、圧倒的にチームワークが凄い。
因みに俺とノンが組むことはほとんど無い。
流石にバランスが悪くなる、二メール越えの二人が組んだらそりゃあ良くない。
今は更なる高みを目指して、スリーポイントの練習に励んでいる。
この島の暮らしは本当に最高だ!
バスケット頑張るぞ!
おれはマーク。
今契約更新を終えた処だ。
もちろん更新した、当たり前だろ?
俺はまだこの島に対して、なにより島野さんに何にも恩返しが出来ていない。
それを叶えずして、この島を去ることなんて俺には出来ない。
恩を返す事が出来るのか?と考えてしまうが、俺でも何かの役には立つだろう。
だってそうだろう?
島野さんはジャイアントシャークから救ってくれた。
死にかけてたメルルの病を治し、ランドの腕やメタンの視力を、そして俺の指を治してくれた。
それだけじゃない、そんな俺達に住む家を与え、食事を与え、あろうことか嗜好品まで与えてくれた。
挙句の果てには給料まで、それも俺の知る相場より倍以上の額を。
余りに恵まれ過ぎている。
正直怖くなるぐらいだ。
これまでの人生が何だったのかと思える程に、世界が変わってしまった。
何から何まで凄すぎる。
あり得ないだろ。
結果的に俺達の決断は間違い無かったのだが、これはあくまで島野さんに出会えたからだ。
あの人が居なければ、俺達は間違いなくこの世にはいない。
俺は今後の人生の全てを、島野さんに預けたいと考えている。
あの人はそう思える人だからだ。
だがそれは、あの人の能力が抜きに出ているからということだけではない。
あの人の凄さはその人間性にある。
特に俺が凄いと思うのは、人の上に立つ者の在り方だ。
最初になんと言ってもその観察力。
飄々としている様で、実はよく観察している。
俺も何度もそれに助けられた。
それにその指導力には脱帽する。
ある時こんな事があった。
水道管の引き込みをする為に、川と村を繋ぐ道を造り、掘削工事をしていたところ、岩盤層に当たってしまい、どうしようかと考えていたら島野さんがやってきた。
状況を説明すると島野さんが、
「ランド、どうしたらいいと思う。意見を聞かせてくれよ」
と言ってきた。
俺は衝撃を受けた。
ランドは自分の意見を持ってはいるが言わないことが多い。
それを分かった上で、島野さんは敢えて振っている。
それに、島野さんに解決策がない訳がない。
この人の万能感は折紙付きだ。
「岩を砕く器具とかがあれば、何とかなると思いますよ」
「そうか、どんな器具がいいだろうか?」
「そうですね、岩より頑丈で、先が多少尖ってるものがあればいいかと」
「いいね、良い意見だ、採用だ。ナイスだランド!」
と言ってランドを喜ばせていた。
これは俺には出来ない芸当だ。
敢えて一歩引いて相手の良さを引き出すだけでは無く、積極性も引き出す。
真のリーダーとはこういうことが出来る人なんだと実感した。
おそらくこれで認められたと、ランドは今後自分の意見を言う様になるし、楽しく仕事が出来るようになるだろう。
なによりランドが生き生きとした表情をしている。
俺はランドのあの表情を引き出せた事はなかった。
格が違う。
見た目の年齢としては、俺よりも年下に見える島野さんだが、前に年齢を聞いた時に彼が言ったのは、
「俺の精神年齢は定年だ」
とのこととだった。
定年が何かは知らないが、おそらく相当の苦労をしてきたのではないかと思う。
余りに強烈な存在だ。
俺はこの背に近づくことが出来るのだろうか?
ある時島野さんがぽつりとこんな事を言ったことがあった。
確かあれは、晩飯後に皆で飲んで騒いでいた時だった。
「なあマーク、もし俺がこの世界から居なくなった時は、この島とこいつらの面倒はお前がみてくれよな」
「えっ!」
俺は何を言われたかを理解するのに時間が掛かってしまった。
俺に期待をしてくれているのか?
この俺にどうして?
横を見ると島野さんが笑っていた。
「もしもの話だ、気にするな」
でもこの一言は俺にとっては大きな一言だった。
今まで以上に俺にやる気と生きがいを与えてくれた。
俺はこの人に一生付いていく、そして全力でこの島を守ってみせる。
俺は最高の人生を送っている。こんな満ち足りた人生になるとは思わなかった。
ああ、俺は今幸せなんだな。
最高の人生を歩んでいる。
話は変わるが、この島の飯はあり得ないぐらいに上手い。
島野さんが料理してくれるからなんだろうか?
いや、野菜そのものが格別なのだろう。
これを食べて文句を言う奴がいたら俺は許さない。
何を持ってしても成敗してやる。
それになによりあの風呂とサウナだ。
俺は知らなかった、こんな解放感があるんだとは。
サウナ後のあの言い表し様のない解き放たれた幸福感。
そしてサウナ明けのビールの美味さ。
ここが天国なのかと錯覚するぐらいだ。
こんな満ち足りた人生が送れるとは思わなかった。
メタンではないが創造神様に感謝だ。
否、違うな、この島に感謝だ!
俺はロンメル。
今契約更新を終えた。
柄ではないが先に言わせて貰おう、旦那、ありがとうな。
恩にきるぜ。
俺達は八方塞がりのハンターチームだった。
所が今では俺達以上に最高のハンターチームがいるのか?って思える。
『ロックアップ』は一応解散はしてはいない。
事実上の解散なのは俺も分かっている。
俺にとっては『ロックアップ』が人生の全てになっていたんだ。
そんな『ロックアップ』を旦那が救ってくれた。
それは紛れもない事実だ。
感謝してもしきれないな。
今の俺は島野商事の漁部門の責任者だ。
とは言っても特に責任なんて問われることは無い。
旦那曰く、
「とにかく安全に気をつけてくれ、無理は一切するな、成果は上がらなくても一切気にしないでくれ」
ということだ。
せっかくだから成果は出したい。だが、漁は博打の要素が強い。
旦那の言うことに甘えたくはなるが、精いっぱい全力で挑ませて貰う。
俺の漁は基本的には地引網だ。
地引は何かしらの成果が出やすいと俺は考えている。
だが、この島の近海の特性をまだ把握していない俺には難しい漁場だ。
少し話は変わるが、どうやら旦那は海産業に興味が沸いたらしい。
面談時に、
「俺は今、海に強烈な興味を持っている、今後は養殖事業を行おうと考えている」
との話だった。
一応説明はして貰ったが、どうやら牛や鶏の様に、海で魚を飼育しようと考えているようだ。
なんてことを考えてやがるんだ。
有り得ねえぞ。
魚を飼育するのか?
そんなことはこの世界で考えた奴なんて一人もいねえぞ。
だってそれが叶えば、漁に出る必要が無くなるってことじゃないのか?
俺の解釈が正しければそういう事なんだろう?
有り得ねえぞそんな事。
だが、そのあり得ないを覆すのが旦那だ。
俺は冷や汗を止められなかった。
まだ四ヶ月近くの付き合いだが、とにかく旦那は出鱈目だ。
俺達の常識を当たり前のように飛び越えていきやがる。
それも平然と何食わぬ顔をして。
勘弁してくれだぜ。
やってらんねーよ。
俺は今ビリヤードってやつに嵌っている。
旦那が気晴らしにと作った遊戯物だ。
あれは楽しい、俺にはもってこいの遊びだ。
成績はいいぜ。
旦那以外の者で俺に勝てる奴はなかなかいない。
アイリスさんが意外と上手だが、まだまだ負けることはそうそう無い。
旦那曰く、
「ビリヤードは技術もそうだが、先読みをどれだけ正確に出来るかだ」
とのこと。
それをあまり広めて欲しくはないってのが本音のところだ。
この遊びをやって、俺は直ぐにそういう物だと気づいた。
他の者達はそれに気づいていない。
だからあまり広めて欲しくないんだよ。
勝率が下がるのは嫌だな。
俺の我儘なんだがな。
この島の食事はかなり旨い。
これまで食べて来た食べ物がなんだったのかと思えちまう。
それにあれだ、犬飯だ。
恐ろしく旨い。
聞く処によると、ノンは元は犬だったらしい。
なんでもシベリアンハスキーという、オオカミとの混血だったようだ。
どう見てもフェンリルなんだがな。
犬飯はノンから勧められた。
今では俺の定番になっている。
味噌汁と米を別々に食べても美味しいのだが、混ぜ合わせると、米に味噌汁がしみ込んで格段に美味くなる。
犬飯を食ってると決まってゴンに睨まれる。
お行儀が悪いってな。
飯ぐらい好きに食わせてくれよ。
誰にも迷惑をかけてる訳じゃないんだからよ。
ほんとあの子は生真面目過ぎるぜ。
さてと、お喋りはこれぐらいにして漁に行ってくるぜ。
じゃあな!またな!
私はメタン。
先程契約更新を終えました。
当然この島から離れることはありませんな。
私は島野様のお側を離れることはありません。
島野様は私にとっての全てです。
これからも島野商事の正社員として邁進して参ります。
この島に来てからというもの、驚きの連続ではありますが、島野様の行いの所存、私は全てを受け入れております。
しかし石像には本当に驚きましたな。
始めて観た時には涙が止まりませんでした。
敬愛する創造神様とはこの様なお姿をしていらしたのかと初めて知りました。
ええ、毎日お祈りさせて頂いておりますよ。
当然聖者の祈りの効果で毎回金色に光っておられます。
私の祈りが届いていると、毎回嬉しく思っております。
一度、背後から島野様をお祈りさせて頂いたことがありました。
無茶苦茶嫌な顔をされましたので、以後直接お祈りを行うことは一度もしておりません。
今では、就寝前に島野様の居られる方角に向かってお祈りさせて頂いております。
私はこの島が大好きです。
食事は美味しいですし、お酒も美味しい。
お風呂に入れるのもありがたいですな。
給料を頂けるなんて、感謝の念が止まらないです。
この島は私にとっては楽園そのものですな。
私は視力を失った時は人生が終わったと感じました。
人の手を借りなければ生きていけない。
自分では何も出来ない無力さを感じていたのです。
自死することを何度も考えました。
本当に辛かった。
この島に連れて来てくれた『ロックアップ』の皆には感謝しておりますぞ。
そしてなにより、私を癒してくれたアイリス様、島野様には最大級の感謝をしております。
リーダーによくメタンは変わったなと言われますが、変わって当たり前ですな。
こんな経験をしたのですから。
私は島野様とこの島の為に、今後の人生を歩もうと決めております。
この決断は決して変わることはありませんな。
私の全てを島野様とこの島に捧げます!
私の仕事は魔法の開発のお手伝いと、畑で採れた収穫物の管理です。
主にゴン様の魔法の開発をサポートしております。
私は演唱による魔法を使いますが、ゴン様は無演唱による魔法ですな。
魔法の威力としては演唱による魔法の方が高く、無演唱による魔法の方が低いのです。
それは演唱をした方が魔法をイメージしやすいからだと考えられております。
しかしゴン様はそもそも魔法のレベルが高いので、無演唱でもいいと私は思っております。
ゴン様は攻撃魔法や戦闘に特化した魔法を開発しているようです。
なかなか上手くいってないようですな。
私としては生活魔法から行ってみてはと思うのですが、残念ながら私には生活魔法は使えません。
なので私は提案しました。
『魔法国メッサーラ』の『魔法学園』に留学してみては如何かと。
それが一番最良の道かと思うのです。
実は私も『魔法学園』の卒業生です。
あそこにはあの方がおりますので、なんとかなるのではないでしょうか?
行くか行かないかはゴン様がお決めになることでしょう。
では私はこの辺で、そろそろお祈りの時間ですので。
さようならですな。
俺はレケ、この島の新人だ。
ルーキーってやつだな。
この島に来てまだ一週間ちょっとだ。
いやー、この島は凄えな。
こんなところにこんな広大な畑があるなんて知らなかったぜ。
ここには風呂や露天風呂、サウナなんてもんがあるんだぜ。
あのサウナってやつは凄えな。
誰が考えたんだ?わざわざあんな部屋を暑くして汗をかこうだなんて、ドMだな考えた奴は。
でもサウナはいいぜ。
始めは何のためにわざわざ汗をかかなきゃいけないんだと思ったけど。
サウナの後の酒は無茶苦茶旨い!
これまでも酒は浴びるほど飲んで来たけど。
あれほど美味しいと感じたことは無かったぜ。
後ビールっていうエールみたいな酒、あれは反則だ。
もうゴルゴラドの酒場でエールが飲めるとは思えねえぜ。
ボスに初めて貰ったワインには衝撃を受けたが、このビールにも衝撃を受けた。
この島に来て本当によかったと思ったぜ。
酒好きにはこの島は天国だな。
しかしいろいろ聞いてみて分かったんだが、ボスは凄えな。
魔獣化したクラーケンとの戦闘を見て、強いのは分かったが、腕っぷしだけじゃなく人を纏める力がある。
それに俺達には無い発想力が凄い。
異世界人らしいんだが、それだけじゃない底知れない何かを感じる。
この島の皆から慕われてるのも頷けるな。
それとここでの飯は旨いなんてもんじゃない。
こりゃ気をつけないと、俺でも太るかもしれない。
なかなか食事の手が止まんねぇんだよ。
俺はあんまり外見を気にするほうじゃないが、太るのだけは勘弁だ。
酒を控えればいいんだが、多分無理だな。
福利厚生ってので一日二杯までは無料ってのはありがたい。
毎回ビールにするか、ワインにするか迷っちまう。
サウナに入った後のキンキンに冷えたワインも、案外良いもんなんだぜ。
そうそう、なんちゃって冷蔵庫とかって物があるから、冷たい物が飲み食いできるんだ。
最高だろ!
ゴルゴラドの酒場のエールは冷えてなかったからな。
冷たいだけでこんなに美味いとは知らなかったぜ。
二杯目以降は自分で購入するのが、この島のルールで、毎日飲んでるんだが、少々俺には酷な話だ。
酒も社員割引で安くしてくれてるんだが・・・
なんてったって金がねえんだよ、ツケも禁止だしよ。困ったもんだぜ。
月末には給料が出るらしいんだが、まだまだ先なんだよな。
どうしたもんか。
誰かに借りるか?いや駄目だ。
絶対ボスに怒られる。
あの人だけは怒らせちゃ不味い。
「レケ、これからはお前も家族になる、だからこの島のルールには絶対従え、いいな?約束を違えたら、この島から出て行ってもらうことになる」
って言われたからな。
この島を追い出されるって、死んだ方が増しだよ。
しょうがない、今度ボスに相談してみよう。
ちゃんと相談すれば、ボスのことだ、何とかしてくれるだろう。
そうそう、そういえば俺はここでは午前中は皆と一緒に畑仕事をしているんだが。
あのアイリスさんって人は凄えな、畑のプロだな。
どこにどんだけ肥料を与えるとか、どこにどんだけ水を撒けとか、ここはもう間引きなさいとか。
これがプロの仕事ってやつだな。
本当に凄いと思うぜ。
尊敬するぞ。
昼からはロンメルと漁に出かける。
なんでも、これは一時的なことになるかもしれないとボスは言っていたな。
まあ、どんな仕事でもやってみせるさ。
「あ、ボス、ちょっといいか?」
「どうした?レケ」
「あの、早い話が金がねえけど酒は飲みたいんだ、どうしたらいいと思う?」
「はあ?お前何言ってんだ?」
「いやー、ボスに付いていったら酒は飲み放題だと思ってたんだ。へへ」
「そんな訳あるか!」
ボスが呆れてるよ。
ごめんな。
「そうだな、ちょっと待てよ」
腕を組んで考え込んでいるボス。
「そうだ、ワインの原料を買って、自分でワインを作れば安上がりになるんじゃないか?」
「ワインを俺が作るってことか?」
「ああ、そうだ。仕上げだけは俺がやってやるが、それ以外は自分で作るんだ。そうすれば社員割引の価格よりも半額以下ぐらいになるんじゃないか?」
「ワインってどうやって作るんだ?」
「そうだな、後で教えてやるから待ってろ」
「おお、流石ボス!頼りになるなー」
「レケ、そういやあお前、何で俺のことをボスって呼ぶんだ」
「え?ノンがそう呼べって言ってたから・・・」
ボスがニヤリと笑っていた。
ちょっと怖い笑顔だな。
ノン、知らねえぞ。
俺はこの呼び方を気に入ったから今さら変えないぞ。
「そうか、分かった」
フュン!
ボスが消えた・・・ビックリしたあ。
しかしこれで何とか今月は乗り越えれそうだな。
自分でワインを作るか、面白れえな。
ちょと楽しみだぜ。
私はアイリス、世界樹の分身体ですわ。
私は植物ですので、畑のことは私にお任せくださいね。
大好物は『ゴロウ』の温泉饅頭ですわ。
あの甘くて口の中に広がる幸福感がたまりませんわね。
そうですわ!
今度島でも作れないか守さんに相談してみましょう。
なんだかワクワクしてきましたわ。
そうそう、前に行った祭りはとても楽しかったですわ。
あんなにたくさんの人がいて、ビックリしました。
一人だったら、怖かったかもしれないけど。
常に誰かが付いていてくれたので、頼もしかったですわ。
また来年も行きたいですわね。
分身体として生を受けてからというもの、楽しいことばかりですわ。
島の皆さんは優しいし、お食事も美味しいし、少し頂くお酒も美味しいですわ。
ハンターの皆さんも、最初はぎこちなかったですけど、今では皆さん打ち解けて、仲良しさんですのよ。
ウフフ、皆さん可愛い。
私は皆さんのよく使っているサウナは少々苦手です、守さんからは無理して入ることはないと言われています。
でもお風呂は気持ちいいですわね。
あれは凄くいいですわ。
身体がポカポカして気分が良くなります。
毎日入ってますのよ。
塩サウナという物がありますが、とてもではありませんが、私は入れませんわ。
お肌がつるつるになると、女性陣がイキイキと言ってましたが、生命の危機と美容を天秤にかけることは出来ませんわ。
気にはなってますけどね。
実は私は性別がありませんのよ、正確には男性にも女性にもなれますのよ。
けど前に守さんから、
「アイリスさんは俺達家族のお母さん的な存在ですね」
と言われて、嬉しかったのでそれ以降は女性として通していますわ。
それに男性の姿になったら、ギルちゃんは必ず泣くでしょうから。
あの子は凄く甘えん坊さんなんですよ、私の前だけではね。
ギルちゃんを悲しませたくはありませんからね。
それでは皆さん、またお喋りしましょうね。
ウフフ。
俺はレケからボスと呼ばれることの意味を知って、ノンに仕返しをした。
例の如くいきなり現れて驚かせてやった。
けど何で毎回ノンの奴は「ピギャー!!」て叫ぶんだろうな?
どうでもいいか。
すっきりした俺は、レケにワイン作りを教えている。
「いいかレケ、ワインの一般的な原材料は葡萄なんだ」
「へえー、そうなんだ」
「先ずはこうやって葡萄を収穫する」
葡萄の枝をハサミで切って籠に入れる。
「やってごらん」
「おう!」
何故か気合を入れているレケ。
「こんな感じか?」
「そうそう、良いじゃないか」
「一先ず十房ほど収穫しようか」
「十ね」
レケが収穫を始めた。
「よし、そんなもんだな、次行くぞ」
場所を変えた。
小さめの樽を用意した。
「この樽の中に葡萄をつぶしていく、種は抜く様に」
俺はいつもは『分離』を使うが、ここは手作業で教える。
葡萄の実を潰して中の種を取る、皮ごと樽に入れる。
「ボス、こんな感じか?」
「ああ、それでいいが、もう少し潰した方がいいな」
樽の中に入れた葡萄を更に潰すレケ。
「この実全部を潰していくんだ」
「これを全部だって?ワイン作りってのは大変なんだな」
そう、本当は大変なんです。
俺が能力でズルしてるだけなんです。
全部の実を潰しきるのに三十分近くかかった。
「よし出来たな、この後は蓋をして寝かせる」
「寝かせるってどれぐらいなんだ?」
「うーん、どうだろう何ヶ月?何年?」
「えっ!そんな待てねえよ!」
項垂れるレケ。
「だから仕上げは俺がやってやるって言っただろ?」
「どういうことだ?」
俺は樽に手を翳し『熟成』の能力を使った。
「はい、出来上がり」
「嘘だろ?もう出来たのか?」
「ああ、俺の能力で出来上がっている筈だ、飲んでみたらどうだ?」
「ああ、そうするぜ」
樽の蓋を外し樽を持ち上げて強引に飲みだしたレケ。
まあ、大胆だこと。
ああ、横から零れてるよ。
プハー、じゃないって。
「旨え!ボス、出来てるよ、ワインになってるよ、凄えな!」
満足そうでなによりです。
「ワイン作りの大変さが分かったか?大事に飲めよ」
と偉そうにしてみた。
「ああ、大事に飲ませて貰うよ」
「これもやるよ」
一緒に作った俺の分の樽をレケにあげた。
「いいのか?ボスあんた最高だぜ!」
飲み過ぎには注意しなさいよ。
やれやれ。
因みにレケはこんな感じです
『鑑定』
名前:レケ
種族:白蛇Lv15
職業:島野 守の眷属
神力:0
体力:3309
魔力:1956
能力:土魔法Lv15 風魔法Lv15 石化魔法Lv3 人語理解Lv6 人化Lv5 人語発音Lv5
手の掛かる娘です。
ほんとに。




