カノン
そんなティナを軽く凌駕してしまったのがカノンだった。
問題となったのはカノンの分身体だ。
カノンはひと際美人だった。
見惚れる程の透明感。
誰もが振り替えって二度見していた。
何となくアイルさんに雰囲気が似ている。
絶世の美女とは彼女の事を指すのだろう。
アンジェリが見惚れる程だった。
美の神が見惚れるとは・・・
其れぐらいの美貌だった。
余りの美しさにゴブオクンは膝から崩れ落ちていた。
こいつの事はどうでもいいか。
そんな美貌の事など実はどうでもよかった。
なんと全ての上級神がカノンの分身体に跪いたのである。
それだけでは無い。
神様ズも跪いていた。
五郎さんを除いて。
流石に俺も驚いてしまった。
その様は創造神と変わらない。
でもよく考えてみると頷ける。
カノンは惑星なのである。
大地であれ、水であれ、自然は惑星の一部なのである。
ということは、俺はどうなるのだろうか?
そんな存在に名づけを行った俺って・・・
深くは考えないことにしよう。
ここはそうしよう。
それにしても五郎さんはどこまでもマイペースだ。
とても肝が据わっている。
ある意味最強と言える。
「なんでえ、あの別嬪さんはよ!」
と煩かったぐらいである。
多分正体を知っても五郎さんは跪かないだろうな。
五郎さんには是非そうであって欲しい。
俺のパイセンはこうでなくっちゃな。
カノンの事を裏でアースラさんに無茶苦茶切れられてしまった。
なんで教えてくれなかったのかと。
あのフレイズすらも挺身低頭に接していたのだ。
それぐらい重要な事であったらしい。
アクアマリン様に言わせると、ある意味創造神の爺さんと変わらないらしい。
そんな惑星に名づけをした俺って・・・やっぱりおかしいのか?
俺は全く気にかけていなかったのだが。
ごめんなさい。
悪気はないです・・・
そしてカノンが簡単に俺に跪いた。
その後、上級神達と神様ズが俺を見る目が変わった様に感じる。
妙な距離感も感じる。
そういえば自分が創造神になった事を話して無かったな。
このまま当分の間は放置しておこう。
多分察することは出来るだろう。
でも何となく俺からは言う気にはなれなかった。
聞かれれば答えるかもしれないが。
積極的に言う気にはなれなかった。
なんとなくそう想ってしまった。
うん、そうしよう。
否、絶対そうしよう。
意地悪に思えるかもしれないが、上級神と神様ズは、これまで好きにやってきたことをこれで帳消しにしてあげようと思う。
フフフ。
俺を舐めて貰っては困るよ。
俺は他人の褌で相撲が取れるんでね。
これを気にフレイズを俺の舎弟にしてやろうか?
否、要らないな。
あいつは使えない奴だからな。
どうでもいいか?
カノンは当然の如く崇拝されていた。
誰もが敬い、頭を垂れていた。
その様は創造神の様であったが、本人は少々嫌そうにしていた。
俺と同じで放っておいて欲しい質のようだ。
時折苦い顔をしていた。
カノンは温泉とサウナにドハマりしていた。
一日に二十セット近くサウナに入るらしい・・・
まあ、死なないからいいか・・・
只のサウナジャンキーだな。
ていうか・・・変態だな。
まあ好きに過ごしてくれよ。
実際カノンは好きに過ごしていた。
働かなくてもお布施を大量に貰っていたからだ。
実はこうなる様に、俺はサウナ島にある神社を管理しているメタンに話をし、その様に手配していたのだ。
メタンはこれを喜んで受け入れていた。
要はサウナ島にある神社に集まるお賽銭を、全部カノンに渡してくれとしたのだ。
そもそもこのサウナ島の神社に集まるお賽銭に関しては、その使い道に困っていたのだ。
孤児院に渡すにはその額が高すぎる、かといって島野商事の資金にするには憚られていたのだ。
所謂使途不明金になっていた。
時にそのやり場に困って、マークは俺に丸ごと渡したこともあった。
これは島野さんが使うべきだと勝手に押し付けられていた。
会長にはこれぐらい渡さないと沽券に関わると要らない理由を添えて。
まあ俺としては貰える物は貰うとしたのだが・・・
正直複雑な気持ちだった。
もう俺の貯金額は・・・
言わないでおこう・・・
というか、言っちゃ駄目だな・・・
また奢らされることになってしまうからね。
そして島野一家の聖獣達だが、全員神に至っていた。
ゴンを除いて・・・
言い伝え道りだった。
ノンは狩りの神に。
エルは俊足の神に。
ケレは日本酒造りの神に。
エクスは中級神に昇格して新たな能力を得ていた。
そしてクモマルは隠密の神に。
加えてアイリスさんは植物の神に。
エアーズロックは神には成らなかった、というよりほぼ神と変わらないのだからそれで良いと本人は言っていた。
でも新たな能力は授かったらしい。
厳密にはアイリスさんとエアーズロックは一家と言うよりは、アドバイザーなのだが、関係性を考えたら家族である。
俺もそう想っている。
そしてギルは俺との深い関係性が考慮されたのか上級神に成っていた。
それをギルは心良しとしていなかったのだが・・・
俺はギルと話しを重ねた。
最終的には、それぐらいお前は崇拝されているんだという一言が効いたみたいだ。
まだまだ中二病のギルを擽っただけだ。
パパがそう言うならばと、ギルはあっさりと受け入れていた。
一人事情が違ったゴンだが。
ゴン曰く、
「世界の声が聞こえた時に、時間を下さいと請願した処、受け入れて貰えました」
とのことだった。
そんな抜け道があるとは思わなかった。
案外良心的じゃないかと、創造神の爺さんを褒めてやりたくなったぐらいだ。
どうして時間が欲しいのかと思っていた所、数日後ゴンはルイ君を伴って俺の元に現れていた。
そういう事かと俺は納得した。
一際緊張したルイ君が俺に宣言した。
「島野さん!ゴンちゃんを僕に下さい!結婚させて下さい!」
ルイ君は深々と頭を下げていた。
「ルイ君、ゴンは俺の所有物じゃないぞ!でも俺の娘はやらん!」
俺の拒否発言に、ルイ君は口をぽかんと開けていた。
頭を振ったルイ君は再度俺に頭を下げた。
「お願いします!認めて下さい!」
横を見るとゴンが困った顔をしていた。
俺の隣に座るアンジェリは笑いを噛み殺していた。
肩が小刻みに震えている。
「そこまで言うなら付き合って貰おうか」
「えっ!それは何を・・・」
俺はルイ君とゴンとアンジェリを伴って転移した。
場所はメッサーラの武道館だった。
そして俺達の目の前には土俵があった。
俺の意を察したアンジェリが行司となり、俺とルイ君を呼び込む。
突然の出来事にルイ君は挙動不審になっていた。
察したのかゴンは笑いを堪えていた。
「ルイ君、俺を投げることが出来るかな?」
ルイ君の顔が真っ青になる。
「・・・到底、無理です、否、敵いません・・・」
「ほう、ルイ君は諦めると?」
この発言にスイッチが入ったルイ君。
複式呼吸を始めて準備運動を行っている。
やる気スイッチが入ったみたいだ。
「島野さん、勝ったらゴンちゃんとの結婚を認めてくれるのですね?」
「ああ、ルイ君が俺に一度でも勝てたらな。ルールは簡単だ。俺は能力を使わない、ルイ君も魔法は使わない。何度でも付き合ってやる!遠慮なくかかってこい!」
ルイ君は俺に一度頭を下げてから土俵に向かった。
俺は何度もルイ君をぶん投げていた。
もう何度も何度も。
もう何回投げたか分からない。
今ではゴンも真剣になってルイ君を応援している。
俺は一切手を抜かなかった。
ルイ君は既に全身土に塗れている。
でもまだ目は死んでいない。
もう百回以上は投げているだろう。
俺もいい加減へとへとだ。
でも俺は一切手を抜かない。
まだまだだ!
掛ってこいよ!
こんな事で俺の娘はやれないぞ!
そしてその時は突然訪れた。
決まり手が何だったのかは分からない。
俺は土俵に手を付いていた。
ふう・・・やっとか・・・
俺は不思議と安堵していた。
ルイ君・・・ゴンを頼んだぞ!
興奮したゴンがルイ君に抱きついていた。
ルイ君はヘトヘトで土俵に倒れ込んでいる。
アンジェリから俺に声が掛けられる。
「守、お疲れ様・・・」
「ああ・・・一度やってみたかったんだ・・・」
「だと思った」
「これを異世界では昭和の親父と言うんだ、アンジェリ」
「何それ?意味分からないじゃんね!」
「まあな」
「ハハハ!」
そこに声が掛けられる。
「島野さん・・・はあっ・・・はあっ・・・これで・・・認めて・・・貰えますよね?・・・」
「ああ・・・ゴンを頼んだぞ!ルイ君!」
「はい!」
ルイ君は天に向かって手を挙げていた。
ゴンはそんなルイ君を介抱しながら泣いていた。
「ゴン!幸せになるんだぞ!」
「はい!主!ありがとうございます!」
ゴンは泣きながら笑っていた。
その後ゴンはルイ君と結婚した後に魔法の神となり、メッサーラの一柱となっていた。
それを見届けたマリアさんは、弟子のいるエスペランザに居を構え、エスペランザを見守った。
ゴンの結婚式は盛大に行われていた。
メッサーラ国の威信を掛けて。
全ての神が集められ、各国の重鎮達も集められた。
全世界の重要人物が集まっていた。
俺はスピーチを任せられ、ゴンとルイ君との出会いから今日までの話を面白可笑しく話した。
時に笑いが起き、時に涙が流された。
とても幸せな時間を過ごしていた。
そして俺も感慨深くなっていた。
島野一家から遂に巣立つ者が現れたのだと。
ゴンは泣きじゃくっていた。
それは始めて出会った時を思い出す出来事だった。
ゴンは百年に渡って島で一人暮らしをしており、俺と出会って眷属になった時にこの様に大泣きしていたのだと。
俺の隣でオズも号泣していた。
その気持ちは痛い程分かった。
そんなゴンとルイ君を祝おうと、結婚式の参列者は万を超えた。
大行列が出来上がっていた。
皆が皆、笑顔であった。
ゴンとルイ君はとても幸せそうにしていた。
犬猿の仲のノンも盛大に祝っていた。
メッサーラには幸せの時間が流れていた。
後日語り継がれる程に。
俺が創造神になってからおよそ一年が経っていた。
そろそろ頃合いである。
俺は創造神の爺さんに『念話』を繋げた。
「もしもし、創造神様。俺です」
「守か、待っておったぞ」
「それはすまなかったですね」
「よいのじゃ、気にするでないわ」
「ありがとうございます」
「して、なんじゃ?改まって」
「そろそろお誘いしようかと」
「ほう?それはなんじゃ?」
「サウナに入りに来ませんか?」
「ホホホ!遂に誘ってくれたか!この時を待っておったぞ!」
「お待たせしたようですね、いつきますか?」
「そうじゃな、明日でどうじゃ?」
「分かりました、明日迎えに行きます」
「あい分かった。待っておるぞ」
「承知しました」
俺は『念話』を終えた。
俺はマークに事を伝えた。
明日はスーパー銭湯を貸し切りにすると。
これまでになかった出来事に、マークは戦慄を覚えていた。
その理由を聞かれて、俺は創造神の爺さんが来ると伝えた。
マークは納得したのか、
「そうすべきですね」
と頷いていた。
そして俺は創造神の爺さんを迎えに神界に転移した。
転移した先はあのエデンの園だった。
爺さんは椅子に腰かけて待っていた。
その手には島野標の入ったタオルが握りしめられている。
おお!これはやる気満々ですね。
いいじゃないですか。
俺はこういうのは好きですよ。
やっぱり相当サウナに興味があったみたいだ。
その表情も綻んでいた。
「守よ、待っておったぞ!」
「その様ですね、サウナの世界をご教授させていただきます!」
「そうか!これは愉快じゃ!」
爺さんも待ちに待った時が訪れたみたいだ。
さて、今日もサウナを満喫させていただきましょうかね!