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アカシックレコード

その想いは余りにも無慈悲に踏みにじられていた。

だから何だと言わんかの如く、俺の身体からは神力が奪われていた。

もっと寄越せと猛烈に神力を吸われていた。

反撃をしたつもりが、真逆にこちらが追い込まれていた。

あり得ない・・・

もっと寄越せと言うのか・・・

いったいどこまで・・・

もう差し出せる物は・・・


ウオオオオオオオ!!!!

俺の中の何かが弾ける様な音がした気がした。

本当の所は分からない。

でも俺の中の何かが弾けた。

全てを剥き出しにしていた。

これ以上はもう何もないと。

俺の生命力、俺の魂すらも削る程の爆発であった。

全身全霊以上の全てを曝け出していた。


ここで俺は最後の賭けに出たのだ。

もうこれ以上は俺にはなにも無い。

儘よ!

世界よ、これが俺の全てだ!!!




結果は散々だった。

俺の全てだけではない。

俺の仲間や全ての者達の想いや愛情すらも全て吐き出したのに届かなかった。

・・・

もう何も考えられなかった。

もう何も感じられなかった。

もう意識も薄れ出していた。

既に神力はとうに尽き、全てを吐き出して、人族としても形を亡くしそうに俺はなっていた。

今は只の意識でしかない。

フワフワと空気中に浮かぶ思念でしかなかった。

俺は終わってしまったのか・・・

世界に名を授けるなど・・・

無謀な挑戦をしてしまったのだろうか・・・

そうとは思えない・・・

だが現実はどうだ・・・

こうして俺は思念でしかなくなってしまった・・・

あと少しだという気がする・・・

でももう・・・差し出せる物は・・・なにもない・・・

思念まで差し出してしまっては・・・

もう俺は俺ではなくなってしまう・・・

消えてしまうだろう・・・




ここであり得ない現象が起こっていた。

地面が突如光り出し、守を包みだしたのだった。

神力を失い、身体も全て差し出した守は思念体であったのが、肉体を得てこれまでの守に急速に戻っていたのだ。

此処に奇跡が起こっていた。

身体を取り戻した守は急激に復活した。

「ウオオオオオ!!!!」

叫んだ守は最後の反撃の狼煙を挙げた。

一気に複式呼吸を始めた守は一気に神気を吸い込み、世界に神力を吸われていた。

そして遂に世界は守から膨大な神力を吸収し終えたのだった。


ピンピロリーン!

「熟練度が一定に達しました、ステータスをご確認下さい」

世界の声が響き渡っていた。




奇跡の正体はラファエルの遺骨だった。

地中に埋まっているラファエルの遺骨から突然俺の思念に神力が移ってきたのだ。

正に奇跡の出来事だった。

思念の状態であったからそれを俺は感じ取れたのかもしれない。

それを俺は手に取る様に理解出来た。

あの野郎・・・

恩返しってか?

良いとこ持ってくんじゃねえよと、口にしたいぐらいだった。

まあいいさ・・・ありがとうな・・・ラファエル・・・我が友よ・・・




そして俺の意識は次の段階に移っていた。

これで終わらせてはくれない様だ。

もう精魂尽き掛けているのに・・・

まだ続きがあるみたいだ。

せめて一息つきたい処である。




そんな俺の気持ちは無視されていた。

俺の前にある存在が鎮座していた。

『アカシックレコード』

惑星の全てを知る存在。

この存在を俺は知っていた。


かつてヒプノセラピーを学んだ時にこの存在を、M氏から教えられていたからだ。

世界の全てを記憶する存在であると、それは惑星の歴史だけに留まらず、人類の一人一人全ての歴史や辿ってきた軌跡、そしてその想いに至るまで。

全ての世界の事象や現象の全てが詰まっている存在であると。

それは未来の出来事に至るまでもだ。


インドのある高僧はこれを一つの大樹に表現した。

幹は惑星その物であり、枝がその惑星の歴史であると。

そして葉の一枚一枚が人の歴史であり、その葉を観ればその人の歴史と未来があからさまに観えるのだと。

実に多くの高次なる次元と繋がる事が出来た者達が、アカシックレコードに関する多くの表現を残していた。


そのアカシックレコードが俺の前に存在していた。

俺にはそれは大きな光り輝く球体に見えていた。

とても大きな存在だった。

否、ここは大きさで表現することなんて間違っている様に感じる。

サイズではないのだ。

永遠と続き、そして深淵となる存在。

それは時空など超越した存在であった。

圧倒的な存在感。

これは何の為に存在し、何の為に在るのか。


おそらく創造神の爺さんが何かしらの意図でこれを創造したのだろう。

今の俺にはまだその意味を感じ取れなった。

その意味を俺は知らなければならない。

創造神に成る為の最後の壁。

圧倒的な存在感だった。

気を抜くと飲み込まれてしまう様な感覚があった。

決して気は抜けない。


俺はその球体に触れてみた。

そうすべきだと想ったからだ。

するとこの惑星の記憶が一気に俺に流れ込んできた。

俺は瞬時に『演算』と『最適化』の能力を発動した。

ここは自然体とはいかない。

能力をフル活用するしかない。

情報の波と戦わなければならない。

もう援軍は存在しないのだから。

ラファエルが起こした奇跡の様な現象はあり得ないのだ。

孤軍奮闘するしかない。

ここはアカシックレコードと俺とのタイマン勝負である。

さて、最後の勝負をしようじゃないか!

俺は不敵な笑顔を浮かべていた。

やってやろうじゃないか!

絶対に勝ってやる!




俺には情報戦の経験がある。

時間との戦いを経験しているのだ。

でも楽な戦いになるとは考えられなかった。

連戦に告ぐ連戦。

精神力を試されている。

本音を言えば精魂尽きそうであった。

でもそうはいかない。

本当の意味でこれが最後の戦いになるだろう。

俺は更に気合を入れた。

ここはなにを持ってしても勝たなければならない。

絶対に家族とアンジェリの元に帰るんだ!


アカシックレコードから惑星の歴史が俺に流れ込んできた。

俺はこの歴史を知る必要がある。

その理由は明らかだ。

俺は創造神になるのだから。

創造神とは言っても、俺は一から世界を造る訳ではない。

俺は後継者なのだ。

要は引継ぎが必要なのだ。

俺はこの惑星に起きた歴史を知る必要がある。

創造神の爺さんが造ったこの惑星を、俺は理解しなければならない。

正直言ってしまえば、一から造った方が簡単である。

引き継ぐ、受け継ぐといったことの方が大変である。

だってそうだろう。

一から造るとなればその工程や経緯を分かっている。

でも受け継ぐとなると、その意図や想いから知らなければならない。

それも他者の物である。

こちらの方が難しいのだ。


そして俺は本能的に感じていた。

アカシックレコードには意識はないと。

あって欲しかったのが本音だった。

だって意識があったのならば教えて貰えるからだ。

でもそれは出来ない。

自ら学ぶしかないからだ。

アカシックレコードはあくまで記憶媒体でしかない。

もっというならば、そこに未来を見透す機能が付いている触媒でしかないのだから。




情報戦は此方が優位だった。

それはその筈である。

先ほどのレベルアップで俺はある能力を獲得していたからだ。

『同化』である。

『同調』上位能力である。

それにこのアカシックレコードの存在を俺が知っていた事が優位に働いていたのだろう。

要は心構えが出来ていたということだ。

ある程度の予測が出来ていたのだ。

それに先程の戦いで俺は戦いの本質を見抜いていた。

戦いの本質とは相手に勝つ事ではないということだ。

事は自らの限界に挑むことなのだと。

決して自分と戦う事ではない。

ここは間違っては欲しくない。

あくまで自らの限界に挑むことであるのだ。


俺は『同化』の能力を発動させた。

俺はアカシックレコードと同化していく。

それは例えるならば、風に乗って運ばれた若葉が海に辿り着き、海面に波紋を発生させる。

その波紋が収まることなく拡大していき、それはやがて波となる。

その波が海全体に行き渡っていき、津波となっていく。

そんな感覚だった。

全体を覆い尽くしていく。

ここに同化の本質が現れていた。

情報を包み込んでいったのである。


アカシックレコードの情報量は途轍もなく多い。

時間の把握の時に感じた情報量よりも圧倒的に。

しかし、時間の時に感じた様な切迫感はなかった。


始めは膨大な情報が押し寄せてくる感覚だった。

だが『同化』の能力を発動してからは大きく変わっていた。

いうならば、始めは向うから迫って来る感覚であったが、『同化』を始めてからは此方から情報を取りに行く感覚に変わっていたのだ。

この差はあまりに大きい。

攻めるられるのではなく、攻めているのだから。

余りに大きな違いだった。




そして俺はこの惑星の歴史を知った。

この地に生を成した数多くの者達の歴史や経緯、そして想い、その行いを知ったのだ。

更に今生きている者達の歴史も。

未来に関しては敢えて情報を集めなかった。

未来を知りたくは無かったからだ。

未来は切り開く物であるし、結果の分かっている人生なんて歩みたくはない。

それに本当は知りたければいくらでも知ることが出来る。

今はこれが必要とは思えなかったからだ。

そして俺は遂にアカシックレコードと完全に同化した。

アカシックレコードを完全に読み解いたのだ。


ピンピロリーン!

「熟練度が一定に達しました、ステータスをご確認下さい」

世界の声が響き渡っていた。




最後の戦いを終え、アカシックレコードに同化した俺は、やっと普段の自分に戻っていた。

遂に肩の力が抜けるみたいだ。

一気に疲労感が押し寄せてきた。

ああ・・・風呂に入りたい。

徒労感が半端ない。


俺は眼を開けた。

其処には心配そうに顔をくしゃくしゃにしたノンが俺を見下げていた。


「ウェーン!、主ー!怖かったよーー!、グスン・・・グスン・・・」

ノンが大泣きすると共に俺の身体にもたれ掛かってきた。


「怖かったよーー!、主が死んじゃうかと思ったよーーー!!、やだよーーー!グスン・・・グスン・・・」

俺はノンの頭を撫でた。


「ノン・・・心配かけたみたいだな・・・悪かったな・・・」


「ウェーーーン!、ウッ、ウッ・・・」


「ノン・・・俺がお前をおいて死ぬ訳がないだろ?」


「うん!・・・うん!・・・」


「俺達が離れるなんてあり得ないんだからさ・・・地獄にだって一緒に行くんだろ?」


「そうだよ!そうだよ!主と僕はずっと一緒なんだよ!・・・僕は主にずっと着いて行くんだからね!」


「ああ・・・分かってるよ」

俺は想わず空を眺めていた。

どうやら俺は本当に創造神になったみたいだ。

今は何も考えたくはなかった。

ただただぼんやりと空を眺めていたかった。

とても綺麗な澄んだ空だった。




世界は俺に跪いた。

(我が主・・・)


これは俺の意識の中である。

それは『念話』に近い。

声だけでは無く、その情景が浮かんでいるのである。

世界が俺に頭を垂れていた。

(よお・・・たくさん持っていってくれたな)


(はい・・・申し訳ありません・・・)

ほんとやってくれたよ、ラファエルのあれがなかったら・・・俺はここにはいなかったのかもしれないな。


(まあいいさ、それに跪かなくていい)


(何故?)


(俺はお前に加護を与えたが、それは創造神に成る為に必要な事だったからだ。それにお前はそもそも創造神の爺さんの眷属みたいなもんなんだろ?)


(否・・・それは・・・)

答えていいのか逡巡が伺える。


(いいさ、分かっている)


(そうですか・・・)


(ということだ・・・カノン)

俺は世界に『カノン』の名を授けた。

惑星『カノン』

その意味は永遠に続くという言葉の意味と、ギリシャ語で物差しの意味を持つ言葉であるのだが、それが転じて信仰の中心となる教えという意味があり、更には地球の有名楽曲のパッヘルベルのカノンは基本コードと呼ばれており、この世界には打って付けの名だと想ったからだ。

それに女性的な響きであることもいいと思えた。

母なる大地といった処だ。

いい名づけが出来たと想う。


(このカノンという名・・・気に入っております)


(そうか、まぁよろしく頼むよ)


(はい、数ヶ月後には分身体として参上致します)


(分かった、待っているぞ)


未だ俺から離れようとしないノンの頭を撫でた。

「ノン、この惑星の名前が決まったぞ」


「ん?そうなの?」

ノンは頭を挙げた。


「ああ、聞いて驚くなよ」


「なに?なに?」


「この星はな・・・この惑星の名前はな・・・『カノン』だ」

ノンが俺から飛び跳ねる様に離れた。


「嘘っそー!凄い!凄い!僕の名前とそっくりだ!」


「ハハハ!よかったな」


「うん!やったー!嬉しいなー!」

ノンはやっといつものノンに戻ったみたいだ。

調子に乗って変てこダンスを始めた。

俺は想わず笑ってしまった。


「ハハハ!良いぞノン!その調子だ!」


「イエーイ!」

ノンは絶好調だ。

俺は笑顔でノンを眺めていた。

こいつはこうでなくっちゃな。

心配かけてごめんな。

ノン!ありがとうな!




俺はステータスを見る気にもならなかった。

そんな事をしなくても得た能力は分かっている。

でもせっかくだから見て見ることにした。

其処には新たに『万物想像』の能力が加わっていた。

そして神力はラファエルのお陰で計測不能に戻っている。

俺は手の平を眺めて『万物想像』を発動した。

掌の上には俺がイメーした通り、石が出来上がっていた。

何てこと無いただの石だ。

更に今度は小鳥をイメージしてみた。

掌の上で小鳥が囀っていた。

ピーピーと鳴いている。

俺はノンに小鳥を渡した。

ノンはこの事に驚いていた。

大事そうに小鳥を抱いている。


俺はイメージしただけで何でも生み出せる様になっていた。

それは無機物だけに留まらない、有機物や生物までも。

正に創造神だ。

そしてステータスにははっきりと創造神と明記してあった。

遂に成ってしまった。

特に達成感はない。

成るべくして成ったとしか思えなかった。




そして最大のミッションはここからだった。

神と成ったからにはこれまでの様に例外とはいかない。

神のルールに縛られる可能性が大だからだ。

俺は創造神の爺さんに念話を繋げた。

さて、会話を始めようか。


(もしもし、儂じゃ)


(もしもし守です、創造神様、話があります)


(そうか、お主やってくれたのう・・・まあよい、それよりもサウナ島に直ぐに帰った方がよくないかのう?)

やってくれたとは?

まあいいか。

にしても今直ぐ帰れとは?


(・・・というと?)


(いいから早く『念話』でギルに話し掛けるがよい!)

ん?何かあったのか?

どうなっている?


(分かりました、では!)

俺は忠告に従ってギルに『念話』を繋げた。


(ギル!俺だ!)

安堵の声と共に緊迫した声が返って来る。


(ああ・・・パパ!やっと繋がった!早く帰ってきてよ!)


(何があった!)


(いいから早く!)

ギルらしくもなく切羽詰まっているみたいだ。


(分かった、直ぐに行く)


(早くね!今直ぐだよ!)

俺は『念話』を終えた。


「ノン、サウナ島に帰るぞ!何かあったみたいだ!」


「えっ!そうなの?」

小鳥を大事そうに抱えていたノンは驚いていた。


「行くぞ!」


「うん!」

俺はノンを伴ってサウナ島に転移した。


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