最後の旅
世界に平和が訪れていた。
それを見守り、成し遂げたと感じた俺は、遂に最後の修業を行う事を決心した。
これが最後の修業となるだろう。
遂に神様修業はこれで終わりを告げる。
最後のこの世界の旅となる。
どれだけの時間が掛かるのかは分からない。
本当に成し遂げられるのかもである。
簡単にはいかない事は分かっている。
これまでの修業とは違い、大きな存在に挑まなければいけないからだ。
でもやるしかない。
俺は創造神に成ると決めたのだから。
この決意は変わらない。
もう機は熟している。
挑まない訳にいかないのだから。
それを島野一家と旧メンバー、そして神様ズに俺は告げた。
最後の旅に出ると。
どれだけの旅になるのかは分からない。
帰って来れるのかも定かではないと。
各自はそれぞれの反応を示していた。
否、好き勝手な回答をしていた。
本当にこいつらは・・・いい加減にして欲しい、やれやれである。
でもこの反応も俺には笑えてしまった。
そんな気分になってしまっていたのだ。
もしかしたら今生の別れになるかもしれないしね。
まあそうするつもりはないけどさ。
最初にドランさんは、
「ガハハハ!島野君、行ってらっしゃい!ガハハハ!」
大声で笑っていた。
大きなお腹は優雅に揺れていた。
安定の大笑いである。
あんたは最後までスタンスは変わらないね。
カールおじさん。
レイモンドさんは、
「気を付けてー、行って来てねー」
間延びしながら話していた。
マイペースは変わらないねぇ。
それでいいと思うよ。
生ビールの飲み過ぎには御注意を。
ゴンズさんは、
「そうか、達者でな!」
元気に送り出してくれるみたいだ。
この人らしくあっさりしているな。
五郎さんは、
「島野・・・絶対帰って来いよ!ええっ!分かってんだろうな!」
少し苦い顔をしていた。
ちょっとグッときてしまった。
あざっすパイセン!
恩にきます!
エンゾさんは、
「早く帰ってきてよね、今度新しいスイーツをお披露目するんだから!」
自分勝手な事を言っていた。
はいはい。
もうあなたはどうでもいいです。
スイーツ好きの上から女神め!
始めはこうじゃなかったのに・・・はあ。
ランドールさんは、
「行くんですね・・・私は島野さんの帰りを待っていますよ・・・」
珍しく少々涙ぐんでいた。
俺は嬉しく感じていた。
ありがとうランドールさん。
エロ神モードは程々にね。
オズとガードナーは、
「島野さん!うっ・・・うっ・・・」
「そうですか・・・ううっ・・」
涙を流していた。
否、号泣していた。
こつらはほんとに・・・手の掛かる奴らだな。
今生の別れにはしないからな。
またお前らのラーメンを食いにくるからな!
ゴンガスの親父さんは、
「という事は、赤レンガ工房は儂が貰っていいという事かの?」
無遠慮に宣っていた。
あんたはいい加減遠慮を学べ。
また締めるぞ!おっさん!
カインさんは、
「島野君が帰ってくる頃には新たなカレーの味を提供する事を約束するよ!」
要らない約束をしてくれた。
あんたはダンジョンの神の名を返上してくれ。
あんたはもうカレーの神だ。
そろそろ改名しろ!
マリアさんは、
「ムフ!」
最大限のムフを頂いた。
結局ムフって何?
俺には分からないのだが・・・
オリビアさんは、
「否だ!行かないで!」
無茶苦茶ごねられた。
・・・ごめんなさい。
これ以外に言えることはない・・・
いろんな意味で・・・
オリビアファンクラブを解散して下さい。
お願いします。
ファメラは、
「そうなの、頑張ってね!」
余り関心は無いみたいだ。
ファメラは安定しているな。
子供食堂頑張れよ!
ダイコクさんは、
「ほんまかいな?何でやねん?」
関西弁全開だった。
でんがなまんがな。
ポタリーさんは、
「旦那の事だから問題ないだろうさ」
信頼をよせてくれていた。
ありがとうございます。
エスメスは、
「僕らの場所で待ってるよ」
自然な笑顔で送り出してくれていた。
川岸のサウナで再開しよう、エルメス。
我が親友よ。
エリスは、
「守さん!坊やとエアーズロックで待ってるよ!」
ギルはエリスに道連れにされそうだ。
ギルはそれでいいのだろうか?
まあいいか。
ゼノンは、
「そうか、待っておるぞ」
余裕の表情を浮かべていた。
お前はそうだろうな。
そしてアンジェリっちは、
「守っち・・・時間を貰える?」
どうやら何か話があるみたいだった。
少し意外な申し入れだ。
でも俺も彼女と二人で過ごしたかった。
実際これまでに二人で過ごしたことは一度も無い。
やっとという気持ちもある。
少々浮足立っている俺もいる。
嬉しい申し入れだった。
上級神一同は放置しておいた。
特に言わなくでもいいと思ったからだ。
旧メンバーは案の定の反応だった。
ランドは、
「そうですか・・・」
なんとも言えない歯痒い表情を浮かべていた。
マークを支えてくれよな、頼むぞ。
メルルは、
「ホノカと待ってますね」
勘違いを受けそうな発言をしていた。
ジョシュア・・・ごめんよ・・・俺は赤子たらしだからな。
ロンメルは、
「旦那・・・寂しいじゃねえかよ・・・」
柄にも無くシュンとしていた。
どうした情報屋、お前は飄々と送り出してくれると思っていたのだがな。
でもありがとうな、ムードメーカー。
メタンは、
「・・・」
無言で号泣しながら神気を濛々と発していた。
神気減少問題はお前がいれば解決出来そうだよ。
あ!もう解決してたか。
プルゴブと仲良くやってくれい!
そしてマークは、
「サウナ島は俺が守ります!心置きなく修業に励んで下さい!」
心強く送り出してくれた。
マークは頼もしくなったな『サウナ島』はお前に任せる。
どうやらマークは一皮むけたみたいである。
その隣でエリカは俯いて黙って話を聞いていた。
このサウナ島はお前達に任せた!
島野一家の反応も様々であった。
アイリスさんは、
「サウナ島の畑は任せて下さいね」
かなり前から既にお任せしていますよ。
畑の拡張は程々にして下さいね。
エアーズロックは、
「北半球の転移扉はお任せあれ!」
本当に好青年だな。
助かるよ。
クモマルは、
「我が主、邪魔せぬよう遠くから見守らせて頂きます」
どうやら俺を遠くから見守るつもりの様だ。
任せるよ、クモマル。
エクスは、
「マスター帰ってきてくれるんだよな?そうだよな?」
不安そうにしていた。
このビビり野郎が、でもお前も成長したな。
レケは、
「ボス・・・」
言葉になっていなかった。
いい加減飲み過ぎるなよ。
エルは、
「お帰りを待っていますの!」
歯茎全開で笑っていた。
一瞬変な子モードになるかと思った・・・
ゴンは、
「主・・・」
涙を必死に堪えていた。
ルイ君と幸せにな・・・これで合ってるのか?
ギルは、
「・・・パパ、待ってる・・・」
寂しそうな顔をしていた。
エリスと青春を謳歌するんだぞ。
着いてくると言い出すかと、ちょっと冷や冷やしていたが、ギルはそれを察してか、飲み込んだみたいだ。
そしてノンは、
「いいよー、僕は着いてくからねー」
勝手に着いてくると宣言していた。
そうだろうなとは思っていた。
ノンは絶対に俺に着いてくると言うと。
こいつはどこまでも俺に着いてくると分かっている。
例えそれが地獄だとしても。
マイペースに飄々と着いてくよと言うだろうなと。
流石は俺の相棒だ。
着いておいで、ノン。
一緒に行こうか!
最後の旅に!
俺はアンジェリっちの為に時間を作った。
否、俺の為でもあるのかもしれない。
場所はサウナ島にあるアンジェリっちの部屋である。
女性の部屋に入ることに少々抵抗はあったが、そんな事はいいからと誘われてしまっては断れなかった。
やっと二人の時間を過ごせるみたいだ。
少し嬉しい俺がいる。
アンジェリっちは徐に、
「ワインでいいかな?」
問いかけてきた。
「ああ、任せるよ」
俺は自然に頷いていた。
ワイングラスを重ねて、俺達は乾杯をした。
軽快なグラスの音が部屋に響き渡る。
特に何を話すことなく過ごしていた。
適当にワインを飲み、ツマミにチーズを食べていた。
俺には無言であることが全く苦にならなかった。
これが普通の出来事に感じていたからだ。
この自然体の感覚は何なのだろうと思っていた。
とても心地よく感じる。
何となくだが、夫婦とはこんなものなのかもしれないと思っていた。
すると何か決心したかの如くアンジェリっちが話し出した。
「守っち、行くんだね・・・」
彼女は視線を落としていた。
「ああ」
「長くなりそうなの?」
探る様に訪ねてきた。
「どうかな・・・」
俺にも分からないな。
「・・・ねえ?」
「なに?」
「オリビアの事はどうするつもりなの?」
真っすぐにこちらを見据えていた。
「どうするとは?」
俺は普通に問い返していた。
「分かってるんでしょ?」
「まあね・・・」
「で、どうするの?」
「どうにもしないよ・・・俺にはその気はないからさ・・・分かってるんだろ?」
「だと思った・・・」
ここでやっと視線が外れる。
「やっぱり?・・・」
「そりゃあ・・・分かるわよ・・・」
歯痒い時間を過ごしている。
でも嫌いじゃないな、こんな時間も。
「で、何か話でも?」
敢えて振ってみた。
答えは分かっている。
「まあね・・・」
「それで?・・・」
アンジェリっちが少し照れている様に、俺には見えた。
「もう少し飲もうか?」
「ああ・・・」
何とも言えない時間を過ごしていた。
でも居心地はよかった。
多分彼女もそう感じているのだろう。
時折交わす視線に微笑が含まれていた。
リラックスした時間を過ごしている。
ワインを取りがてら俺の隣に座った彼女が、不意に俺の手に彼女の手を重ねた。
とても暖かな手だった。
愛くるしい手だった。
いつまでも握っていられる、そんな気分だった。
「どうした?」
「いいから・・・」
アンジェリっちは肩を寄せてきた。
俺にしては珍しく、恥ずかしげも無く受け入れていた。
それが当たり前の様に。
そして俺はその手を握り返していた。
お互いの手がしっかりと握りしめられていた。
「・・・」
アンジェリっちが俺を見つめた。
自然に身体が動いていた。
それが当然であるかの如く。
俺達は唇を重ねていた。
まるで挨拶を交わすかの様に。
とても自然な行為だった。
これまでなんでこうして来なかったのかと思える程だった。
理由は要らない。
そして俺達は愛情に満ちた一夜を共にしたのだった。
ここに一つの愛が成就したのである。
これまでこうならなかったのが不思議な出来事であった。
余りに自然な行為であった。
俺は心の底でこう想っていた。
やっとかと・・・
最高の夜を過ごしていた。
それはとても愛情に満ちた時間だった。
俺はノンと共に旅立つ事にした、それも目立たずに。
見送られるのもどうかと想い、人知れず旅立つ事にしたのだ。
それを察してか、島野一家が俺の家のロビーに勢揃いしていた。
「主、いってらっしゃいませ!」
「お待ちしておりますわ!」
「待ってますよ!」
「パパ!絶対帰ってきてよ!ノン兄!パパを頼むよ!」
「我が主、警護はお任せください」
「ご主人様お待ちしてますの!」
「マスター、早く帰ってきてくれよ!」
「ボス!俺は寂しいよ!」
全員が送り出してくれるみたいだ。
俺は宣言した。
「お前達!俺は必ず帰ってくる!またな!」
俺は転移することにした。
一抹の寂しさを残して。
ヒュン!
俺はノンと転移した。