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会議は踊るその3

絶妙なタイミングで守が話し出す。


「よお、お前ら、楽しそうだな」

不意に守から声が掛けられる。

楽しい訳が無い。

だが真逆の事を言われて全員がキョトンとしていた。

そして当の守は実際に楽しそうに笑顔だったのである。

意味が分からなく、全員が固まっていた。


「こうやって話し合うことに意味があるってな」

守は笑顔を崩さない。


「島野様」


「我が神よ、ご教授下さい」

ソバルとプルゴブが頭を下げる。

不意に守は表情を正し、レインを見つめた。

その眼差しは優しい慈愛に満ちていた。


「なあレイン、誰かに戦争の責任を取らせたいのか?本当にそう想うのか?」


「それは・・・」

レインは困った表情をしていた。


「レインよ、けじめだの責任だのと言うが、本当にそれが必要だってんなら、前向きなけじめや責任を取ろうじゃないか」

レインは眉を潜めた。


「前向きとは?・・・」

レインには守の意図が理解出来ないみたいだ。


「簡単な話だ、『イヤーズ』にはインフラを整備する技術がある、それを広めればいい、それに他にもラファエルが開発した魔道具の作製の技術であったり、馬車の定期便のノウハウを『サファリス』と『オーフェルン』に提供するってものいいな。どうだ?レイン、誰かが不利益を被る必要なんてないだろう、違うか?こういう責任の取り方も有るんじゃないか?」

この発言に賛同者が相次いだ。


「確かに!」


「それは名案じゃな、流石は島野様!」


「素晴らしい!」


「前向き最高!」

こうなると話の矛先が変わってきていた。

守の思惑通りである。

話の筋道が見えたのかレインも笑顔になってきていた。

これまで黙って見守っていたダイコクとポタリーも呟いてしまっていた。


「島野はん・・・敵わんで・・・」


「旦那・・・あんたって人は・・・よくもまあどうしてそんな事を思いつくんだい?」

スターシップが割り込んできた。


「こうなると決まりですね」

にやけ顔で守はスターシップを見つめていた。


「せっかくだからもう少しいいか?スターシップ」


「どうぞお構いなく、もう先は見えてますから。好きにやって下さい」

スターシップはやれやれと首を振っていた。

これは一本取られたと言いたげだ。

本来であればここで採決を取らなければならない。

もうそんな必要は無いと場の空気が認めてしまった事を、スターシップは理解したのである。


「なあ、ラズベルト『イヤーズ』の復興だが俺が知恵を貸そう」


「本当で御座いますか!」

ラズベルトはガバっと立ち上がっていた。

相当興奮しているのだろう。

目が血走っている。


「ああ、本当だ。ラファエルの尻拭いを俺がしてやるよ」


「ありがとう御座います!」

ラズベルトは頭を打ち付けるかという程に頭を下げていた。

彼は頭を挙げると万遍の笑顔で泣いていた。

それを参加者達は驚きと笑顔で受け入れていた。


「しかし、どうして島野様はそこまでなさるのですか?ラファエルは大罪人で御座いますよ」

レインの純粋な疑問だ。


「それはな、ラファエルは俺と同じ異世界からの転移者なんだ、あいつは大馬鹿者だよ。それに困った奴でな、やりたい放題やった挙句、俺に尻拭いをしてくれときたもんだ、面倒臭い事この上ないよな」

守は笑顔で答えていた。


「いまいちよく分かりませんが・・・」


「だろうな、別に同意なんて求めてないよ。まあ俺はお人好しなんでね」


「はあ・・・」


「まあ良いじゃないか、何も悪い事しようってんじゃないんだからさ」


「ですが・・・」


これに魔物達が呟く、

「レイン殿は分かってはおらんな」


「島野様は慈悲深いのじゃ」


「兄弟の言う通りだな」


「我等の神は最高神だ、理由なんて要らないのだよ」

守信者の魔物達は当然の事と受け止めているみたいだ。


ベルメルトも続く、

「ラズベルト殿も島野様に救われるのですね」

こいつがこれを言うと重みがある。

実際ラズベルトはルミルに羨ましがられていたぐらいだ。


場は完全に守のペースになっていた。

こうなると守劇場の始まりである。

我物顔で守が勝手に仕切り出していた。


「お前達!質問だ!『イヤーズ』を復興させる上で一番重要な事は何だと思う?分かる奴はいるか?」

全員が一様にして考え込む。

ソバルが我先にと手を挙げる。

自信に満ちた表情を浮かべていた。

守が顎で発言を許す。


「島野様、それは資源ではないでしょうか?」


一度守は頷く、

「資源も重要な要素だが違うな」

続いてプルゴブが手を挙げる。


「資金力で御座いましょうかな?」


「資金力は確かに要る、資金が無いと何も造れないからな。でもそこじゃあないんだよな」

ルミルが手を挙げる。

ルミルは積極的な性格みたいだ。

それに何とかして守に気にいられようと必死だ。


「技術力でしょうか?」


「ルミル、それは何に関する技術力だ?」


「それは・・・建築であったり、国造りであったり、はたまた調理であったりとか?」


「ルミル・・・質問を質問で返すんじゃないよ、全く」


「すいません・・・」

ルミルは頭を掻いていた。


「技術力に関しては『イヤーズ』はそれなりに有している。そこでは無いぞルミル」

ルミルは名前を呼ばれて嬉しい様だ。

万遍の笑顔をしている。


「他にはいないか?」

全員が辺りを見回している。

そしてベルメルトが手を挙げる。


「島野様、宜しいでしょうか?」


「良いぞベルメルト、もし当たったら今度エアーズロックで寿司を奢ってやる」

この発言に全員が色めき立った。


「本当ですか?良し!絶対当てるぞ!」


「ちょっと待って下さい!私にも答えさせて下さい」


「狡いですぞベルメルト殿」


「もう少しお時間を頂戴頂けませんか!」


「アハハハ!お前達そんなに奢って欲しいのか?分からなくは無いけどな。五郎さんの所の大将の握る寿司は別格だからな!」

守は実に楽しんでいた。

守劇場ここに極まれりである。


「ベルメルト、良いから答えろ!」


「はっ!では早速・・・思いますに、娯楽ではないでしょうか?如何でしょうか?」

守がにやける。


「ベルメルト・・・正解だ!」


「よっしゃー!」

ベルメルトはガッツポーズを決めていた。


「そうだったのかー」


「ベルメルト殿が羨ましい!」


「娯楽でしたか、納得です」


「当てられてしまったか・・・」

ルミルが睨みつけるかの如く鬼の形相でベルメルトを睨んでいた。

相当羨ましいらしい。

それを見て守がやれやれと首を振る。


「ルミル・・・お前そんなに羨ましいのか?」


「そりゃあそうですよ!羨ましいに決まってますよ!」


「そうか、しょうがないなあ、お前も連れてってやるよ」


「やったー!夢が叶ったぞ!」

ルミルがガッツポーズを決める。

それを外の参加者達が黙っていない。

スターシップまで身を乗り出していた。


「島野様!二人だけ狡いですよ!」


「そうで御座います、是非ご相伴に預からせて下さい!」


「大将の寿司!食べたいです!」

次々と騒ぎだしてしまった。

これは収集が付きそうもない。

守もしまったなと苦い顔をしていた。

分かったと守が手を挙げていた。


「分かったから騒ぐな!全員奢ってやる!」


「やったー!」


「よっしゃー!」


「一度行きたかったんです!」


「これは一大事だ!」

守は首を振りながら通信用の神具を取り出した。

繋げる先は五郎だ。


「おう島野、どしたってえんだい?」


「五郎さん、お疲様です」


「おうよ」


「五郎さん、エアーズロックの寿司屋なんですが、近々貸し切りに出来ませんか?」


「貸し切りか?お前え相変わらず景気がいいじゃねえか、ええっ!」


「いやー、めでたい事がありまして、どうにもまた奢らないといけなくなりましてね。特上寿司を四十名程お願いしたいんですけどどうでしょうか?」


「かあー!お前えはいちいちやる事が大胆じゃねえか、よっしゃ待ってろ、確認してから折り返すからな。ちと待ってな!」

そう言うや否な通信が一方的に切れてしまった。

期待の眼差しで守を見守る参加者達。

守はいつのも様に飄々としている。

誰かが唾を飲み込む音がした。

ものの数分で五郎からの返信があった。


「島野!明後日はどうでえ?夜でいいんだよな?」


「はい、そうです。後、日本酒もたくさん用意して貰えると助かります」


「そうか、特級品を準備しとくとするか!ええっ!」


「よろしくお願いします」


「おうよ、じゃあな!」


「では」

このやり取りを聞いていた参加者はまた騒ぎ出した。


「早く明後日が来てくれ!」


「明日から俺は食事を抜くぞ!」


「特級品の日本酒とは?」


「特上寿司!万歳!」

どうやら騒ぎは収まる事は無さそうだ。




騒ぎを納める為に俺は一度手を叩いた。

「いいかお前達、話を戻すぞ!いい加減切り替えろ!」

俺の一喝に全員が顔色を変えた。

やれば出来るじゃないか。

場を荒らしたのは俺か?

まあいいや。


「良く聴けよ『イヤーズ』は長年ラファエルに支配されてきた。娯楽を求める暇が有ったら祈りを捧げろと強要されてきたんだ」

ラズベルトが返事をした。


「その通りで御座います」


「だよな、でもな俺はこう思うんだ、娯楽は人生を豊かにする。娯楽は人生を幸せにする。息抜きはとても重要で、これが無い人生なんてつまらないだろうってな」


「そうですぞラズベルト殿、娯楽を我等は島野様から教わり人生が明るくなりましたからな」

プルゴブは誇らし気だ。


ソバルも続く、

「そうじゃな、娯楽は最高じゃよ」

魔物達が好き放題言い出した。


「そうだぞ、サウナは最高だし、温泉も良い。漫画も面白いからな」


「俺はスキーが好きだな」


「私はビリヤード!」


「俺はキャンプだな」


「やっぱりボードゲームだな」

徐にスターシップが手を挙げた。


「島野様、因みにどんな娯楽を広めるおつもりでしょうか?少々気になりますが・・・」


「スターシップ、聞きたいか?」

ここは焦らしてみようかな?


「当たり前ですよ、教えて貰えないんですか?」


「どうしたもんかな?・・・」


「ここに来てそれは無いでしょう?焦らさないで下さいよ・・・」

スターシップも随分と砕けたものだな。


「しょうがないな・・・教えてやるか、ラズベルト、ラファエルの神殿は今はどうなっている?」


「はっ!今は崩壊したままで御座います」

本当はそんなことは知ってるけどね。


「じゃあそこだな」


「と言いますと?」


「『イヤーズ』にとっては象徴となる建物だった神殿の跡地に、とある施設を建設するんだ」


「それは?・・・」


「その施設は『イヤーズ』の新たな象徴、否、北半球の象徴となるんだ、これを機に『イヤーズ』はこれまでと違う娯楽と魅惑に溢れる国に変わるんだ」


「おお!・・・」


「それは一体・・・」


「新たな象徴とは?」

全員がこちらに意識を向けていた。


「とある施設とは、この北半球において初めての施設となる」

スターシップが痺れを切らした。


「いい加減教えて下さいって!」

俺は思わず笑いそうになってしまった。

にやけ顔で俺は話した。


「スーパー銭湯を建設するぞ!」

場に静寂が訪れていた。

まるで時が止まったかの様に静まり返っていた。

だがそれは一瞬の出来事であった。


「遂に北半球にスーパー銭湯が!」


「宜しいので!」


「いよいよか!」


「あの魅惑のサウナ島のスーパー銭湯がこの北半球で!」

実は前に『シマーノ』でスーパー銭湯建設に関しての話が持ち上がった事があったのだ。


その際には魔物達からは、

「サウナ島に我々は行けますので充分です」


「魅力的な話ですが、我々は島野様のスーパー銭湯に行きたいのです」


「そんな滅相も御座いません!」


「嬉しくはありますが恐れ多いです!」


「我々には温泉とお風呂がありますので大丈夫です」

『シマーノ』の魔物達にとっては、サウナ島に行けるから充分で、自分達でスーパー銭湯を建てるなど恐れ多いと恐縮されてしまったのだった。

魔物達は俺がスーパー銭湯とサウナを愛して止まないことを知っている。

こいつらにとってはスーパー銭湯は特別な施設であるみたいだ。

それが遂に北半球に建設されることになったのだ。

それも北半球の新たな平和の象徴として。

そしてスーパー銭湯の事もどうやら噂になっていたみたいだ。

初参加の者達も目を輝かせていた。

ラズベルトに至っては、笑顔で泣いていた。

ルミルに関しては興奮していた。

他の者達も似た様なものである。

俺は更に捲し立てる。


「いいかお前達、スーパー銭湯は皮きりに過ぎない。他にも俺は沢山の娯楽を持ち込むぞ、それも『イヤーズ』だけじゃない、同盟の参加国全てにだ!」

一瞬の間の後に歓声が挙がった。


「うおおおお!」


「きたー!」


「幸せがやってきた!」


「もう泣きそうです!」


「幸せしかない!」

興奮は冷めやらなかった。


「南半球にも負けない娯楽施設を沢山造る。渡航者が絶えない施設を造るんだ、どうだお前達!」

俺は散々煽ってやった。

もうこうなってくると会議は破綻していた。

俺の好きにコントロールされている。

でもこれは俺が悪いのではない。

会議の中心に俺を座らせたこいつらが悪い。

まあこうなることは想定内なんだけどね。

ある意味こうなることを望んで、こいつらが俺を座らせたことも分かっている。

まあ良いじゃないか。

実際楽しいんだからさ。

この後も俺はいろいろぶち上げた。

当たり前の様に『イヤーズ』は同盟の仲間入りを果たしていた。

雪崩式になった事は否めない。

でもそれで良いじゃないか。

大事な事は其処ではないのだから。

北半球に平和がやってきた。

これが一番大事な事なんだから。

そして皆で先に進むんだ。

栄光はもう見えているのだから。




そして約束の宴会が催された。

参加者の全員が美味しそうに寿司を味わっていた。

日本酒に舌鼓を打ち、最高の一時を満喫していた。

俺は案の定お酌合戦に付き合わされそうになり、クモマルを壁に宴会を楽しんでいた。

こいつは本当に頼りになる。

俺の肝臓はクモマルに守られている。

クモマルを乗り越えて来ない限り、俺には辿り着くことは出来ない。

しめしめである。

クモマルに勝てそうなのは・・・ゴンガスの親父さんぐらいかな?

一度競わせてみようかな?

止めとこう、絶対に可笑しなことになるのは目に見えている。

それにしてもルミルは浮かれていたな。

何をそんなに嬉しいのか。

でもこれってよく考えてみると、初めての同盟の宴会なんだよな。

俺が幹事って・・・どうなの?

そう言えば・・・


「なあ、お前達。同盟の名前をどうするつもりなんだ?」

この発言に固まってしまう一同。


「えっ!」


「それは・・・」


「考えて無かった」


「しまった!」

これが要らない一言だと俺は後で後悔してしまう事になるのだが、この時の俺は知る由も無かった。

安易に言葉を発してしまった俺が悪い。


全員が本気で考え込んでいた。

唸っている者が何人か居た。

そんなに考え込む必要があるのか?

いまいちよく分からん。

ここは安易に北半球同盟とかでいいんじゃないか?俺はそう想うよ。


不意にプルゴブが万遍の笑みで言い出した。

何か思いついたみたいだ。


「ここは『マモール』なんてどうだろうか?島野様の名を冠しておるし、意味も良い。北半球の平和を守るという事になるのではなかろうか?」

これに賛同の意見が列挙した。


「良いぞ兄弟!最高じゃ!」


「それしかないぞ!」


「よく言った!」


「素晴らしい!」


「最高じゃないか!」


「プルゴブ殿天晴だ!」


「北半球同盟、その名も『マモール』!」

しまった・・・やっちまったな・・・

言うんじゃなかった。

俺は間違いなく顔が引き攣っているな。

やれやれだ。

ハハハ・・・もう好きにしてくれ!

皆さん、これを自業自得と言う。

ちょっと違うか?



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