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お地蔵さん大作戦

先日とても重要なことが発見された。


それはいつも道りの朝の畑作業中に起きた出来事だった。

俺達はいつも通りの畑作業を行っていた。

作業途中に畑の傍にある創造神様の石像に、メタンが祈りをささげた時に石像が光り、神気を発したのである。


「おい、メタン、今何をやったんだ!」


何で石像から神気が?


「え?何をやったって、創造神様に祈りを捧げただけですが・・・」


はあ?それでこんなことになるのか?


「今、石像が神気を発してなかったか?」


「ええ、そうですが何か?」

まったく動じていないメタン。

何かいけない事しましたか?という顔をしている。


「祈りを捧げると、決まってこうなりますな」

今度は知らないのか?という表情を浮かべている。


「そうなんだ、知らなかったよ」

これまでも薄っすらと光ってるかな?と感じたことはあったけど、ここまではっきりと見て取れたことは無かった。

なんてことだ・・・


「いやあ島野様、この島に来てから私はずっと思っておりました。この石像は素晴らしいですな、まさに創造神様を体現しているのではないかと、そう思いこの石像の前を通る時には、こうやって祈りを捧げていたのです。そしたらその祈りに答えてくれる様になったのですな。こんな幸福感に満ち溢れたことはありませんでしたよ。なんでもこの石像は島野様が造られたのだとか、それに、ゴン様が言うには本人にそっくりだと、いやなんとも素晴らしいですな・・・ペラペラペラペラ」

勝手に悦に入りだしたメタン。

こいつよくしゃべる奴だな。

てっことは置いといて。


「なあメタン、教会にも創造神様の石像は置いてあると思うんだが、その石像はどうなんだ」

そうだ、リズさんの教会にもあったぞ。


「そうですな、そう言われてみれば、稀に薄っすらと光る時はありましたな、ここまで光り輝くことはありませんでしたな、にてもペラペラペラペラ・・・」

そうなんだ、石像の完成度の違いかな?祈りを捧げる人の違いか?


「その祈りってのは、具合的にはどうやってるんだ?」

どんなことを考えて祈っているのかが重要に思える。


「具体的にですか?私の場合は創造神様に感謝を述べる様にしておりますな、後は世界の平和を祈ったりですかな」


「なるほど、因みになんだがメタン以外の人が祈っても光るのか?」

こいつは異常なぐらい信仰心が高いからな。

ここは確認が必要だろう。


「どうでしょうか、私は信心深い方ですが、他人の祈りを気にしたことはありませんな」


「そうか、ありがとう」

ちょうどそこにメルルが通りかかった。


「メルル、ちょっといいか?」

試すようで悪いがこれは非常に重要なことなのだよ。

メルル君頼んだよ。


「どうしましたか?」

駆け寄ってくるメルル。


「そこの石像に祈りを捧げてみてくれるか?」

俺は石像を指さした。


「石像ですか?ええ、分かりました」

少し困惑気味のメルル。

すると薄っすらと石像が光り出し神気を発した。

そして数秒すると光は収まっていった。


「ええ!嘘でしょ?」

メルルも驚いている様子。


メタンが祈った時程の光量では無かったが、確実に光っていたのは間違いないようだ。

これは個人差がありそうだ、メタンはかなり信心深い、というのはこれまでの彼の発言等でよく分かる。メルルはメタン程信心深いとは感じない。

信心の深さが関係しているとみて間違いなさそうだ。


「メルルはこれまで石像に祈りを捧げて光ったことは無かったのか?」

どうなんだろう、これも重要な部分だ。


「一度もあまりませんでしたよ、びっくりしました。これはどういうことですか?」

やっぱり無いんだ、メタンはあったようだが。


「それを今調べてたんだよ、ありがとう、協力してくれて」

自分で言うのもなんだが、この石像はかなりの自信作で、創造神様にもよく似ている。

祈る人がよりリアルに創造神様をイメージ出来るってことなんだろうか?

そうなるとリズさんの教会の石像はどうなんだろう?

ちょっと行ってみるか。


アイリスさんに許可を貰い、ギルを引き連れてリズさんの教会に行ってみることにした。

教会の中に入るとリズさんが正に石像に祈りを捧げているところだった。

石像が神気を発しているのが分かる、しかしリズさんは祈りに夢中でそれに気づいていない様子だった。


「リズさん、こんにちは」

リズさんが振り替えってこちらを見る。


「あら、島野さんこんにちは、本日はどうなされましたか?」


「あの、今、祈りの最中でしたよね?」


「はい、そうですが」

石像を俺は指さした。

まだ薄っすらと石像が光っている。


「えっ、石像が何か?」

ん?気づいてないのか?


「今、光ってませんでしたか?」

ちゃんと確認する必要がある。


「そうですか?私この通り目が悪いので、この距離となるとぼやけてしまうのですよ」

まじか!単に視力が悪くて見えないってことか、何だそれ。


「でも、子供達が光ってると言ってたことはあったんですが、ちょうど陽の当たる位置ですし、何かの見間違いでしょうと取り合いませんでしたが、どういうこと何でしょうか?」

うーん、どう説明しようか悩むな。


「ギル、石像の後ろに立っててくれないか?石像が影になるように」


「分かったよ、パパ」

石像の後ろにギルが回り込み石像に陽が当たらないようになった。

ギルは石像の後ろにフワフワと浮いている。


「リズさん、もう一度祈りを捧げて貰ってもよろしいでしょうか?」

これなら分かる筈だ。


「ええ、構いませんよ」

リズさんは祈りを始めた。

それに応えるように石像が光り出した。

祈りを終え目を開けてリズさんは石像を見た。


「あらまあ、これは嬉しいこと」

リズさんは微笑んだ。


「この年になって初めて見ましたわ『聖者の祈り』を」


「『聖者の祈り』ですか?」

この現象に名前があるのか、そうなんだ。


「ええそうです、信心深い高位のシスターが稀に祈りを捧げると起きる現象のことです、まさか私に『聖者の祈り』が出来るとは、こんなに嬉しいことはありません、ありがとうございます」

静かにリズさんは涙を流した。


俺には一瞬石像が笑ったかのように見えた。

まあ見間違いだろうけどね。

リズさんの信仰は深い様だった。


「そう言えば、お陰様で雨漏りが無くなりました。島野さんありがとうございました」

お礼を言われた。


「リズさん、お願いがあるんですが」


「ええ、なんでしょうか?」


「この石像を改修したのが俺だってことを、秘密にして欲しいんですよ」


何で?という表情をしたリズさんだったが、

「ええ、島野さんのお願いなら必ず守ります」

約束してくれた。

リズさん申し訳ありませんが、よろしくお願いします。

その後、俺とギルは孤児院に野菜をいくつか寄付し、帰宅の途に就いた。




その翌日、

俺はメタンとギルを引き連れて、五郎さんの所にやってきた。


「おー、島野、それにギル坊、元気だったか?」


「元気だよ、五郎さん」

五郎さんがギルの頭を撫でている。

まるで孫と祖父だなと俺は思った。

ギルは五郎さんのことが大好きなようだ。

ギルも五郎さんに好かれているようで何よりだ。

微笑ましい光景だ。


「お、見ねえ顔がいるな」


「メタンです、家の見習い社員です」

メタンを紹介した。


「メタンと申します、以後お見知りおきを」

メタンは仰々しくお辞儀をした。


「そうか、儂は山野五郎だ、五郎と呼んでくれ、で島野、今日はどうした?納品は明日じゃなかったか?」

五郎さんは俺の方に向き直った。


「五郎さん、実は見て欲しい物があるんですよ」

俺の表情がいつになく真面目に見えたのか、人払いできる部屋に通された。


「五郎さんこれなんですが」

『収納』から石像を取りだした。


「おお!立派な石像じゃねえか」


「実はですね」

これまでの経緯を俺は五郎さんに伝えた。


「するってえと、信心深い者がこの石像に祈りを捧げると、神気が放出されるってことか?」

百聞は一見に如かず。

見て貰いましょうか。


「そうです、メタン頼む」

メタンが石像に祈りを捧げると石像が光り出し神気を放出しだした。


「おお、おおお!凄げえじゃねえか。なんでえこりゃあ」

五郎さんが驚いている。


ドヤ顔のメタン。

メタン君、相手は神様ですよ。

程々にね。


「『聖者の祈り』と言うらしいのですが、知ってましたか?」

先程リズさんから聞いたばかりだが、どうなんだろう。

情報通の五郎さんなら知っていてもおかしくは無い。


「『聖者の祈り』いやあ、聞いたこたあねえな」

情報通の五郎さんでも知らなかったか。


「前にこの世界の神気が薄くなっているって、話をしたじゃないですか。それでこれを使えないかと思いまして」

実は五郎さんには神気が薄くなってます問題は共有済で、何かしらそれに関係する情報が無いかと相談していたのだ。


「これを先ずはお地蔵さんのように、街道や街の邪魔にならない所に配置できないかと思いまして」


「なるほどな、いい考えじゃねえか」


「これが広まれば、少しでも神気減少問題を解消できるんじゃないかと思ったんです」

腕を組んで何かを考えている様子の五郎さん。


「よし、どこにどれだけ置けるか調べておこう、それと島野、一人紹介したい奴がいるんだが、構わねえか?」

誰のことだろうか?


「ええ、どなたですか?」


「エンゾだよ」

五郎さんから聞いたことがある、たしか経済の神様だったような。


何でまた?

ああそうか『タイロン王国』にも広めようってことだな、流石は五郎さんだ。


「よろしくお願いします」


石像を五郎さんに預けて、俺達は温泉街『ゴロウ』を後にした。

ついでにアイリスさんからの要望で、饅頭を十個購入したことは敢えて記しておこう。




それから数日、俺は石像の製作に明け暮れた。

大変だったのは石の確保だった。

万能鉱石を用いることはできるが、それは違うと考えた。

この石像はこの世界にあるもので造るべきだと。

更に安易な方法を取るべきでは無いとも思った。

苦労をしただけその石像に想いが宿るのだと考えたからだ。


ゴンから島の東側に岩石群があることを教えて貰い、石の確保を頑張った。

ここ数日で石像を五十体作成した。


そして雨避けが必要となる為、簡単な社を製作した。

これも五十台。

次に『コロン』の街を訪れ、ドラン様に事情を説明した処、是非にと協力を得られたのでお地蔵さんを設置することになった。


これを反対する神様はいないだろう。

何と言っても神気は神様にとっては必要不可欠なものだからだ。

ほとんどの神様が神気の薄さには気づいている筈で、危機的な状況であるともいえる現状を、少しでも変えようというのだから、賛成一択であるのは間違いない。


ドラン様に十体の石像と社を十台預けて、養蜂の村のレイモンド様の所へと向かった。

レイモンド様もドラン様同様に理解を得られた。

石像五体と社を五台預けておいた。

設置場所等はレイモンド様に任せておいた。

こうして『お地蔵さん大作戦』が開始されることになったのである。




温泉街『ゴロウ』の人払いされた一室で、俺の正面にはエンゾ様がおり、その隣には五郎さんが座っていた。

俺は目の前のエンゾ様に釘付けになっていた。

エンゾ様はまるで行司の様な恰好をしていた。

透き通る肌に薄っすらと紅が入った唇、切れ長の目、そしてその目には知的な光を宿していた。

とても綺麗な女神様だった。


これまでの人生で出会った女性の中でも、最上位クラスの美しさであることは間違いない。

そして俺は知的な女性は好きだ。

話の飲み込みが早い上に話の理解が速い。

知的な方との話は、話のテンポやリズムがシンクロしやすいと思っている。

彼女からはそんな気配を感じていた。


「初めまして、島野守です、よろしくお願致します」

俺は軽く会釈をした。


「こちらこそ始めまして、エンゾと申します。五郎から話は聞いているとは思いますが『タイロン王国』で、経済の神をやらせて頂いておりますわ」

エンゾ様は真っすぐに俺を見ている。

その瞳の奥には大らかな優しさが含まれていた。


「早速ですが、石像のことは聞いてますか?」

俺は切り出した。


「ええ、聞いたわよ。素晴らしいアイデアだと関心しましたわ」

五郎さんが隣で頷いている。


「エンゾよ、島野は目の付け所が良いと思わねえか?」

五郎さんが同意を求めていた。


「まったくですわ」


「儂も日本人だが、お地蔵さんとは恐れ入ったぞ」

お地蔵さんは日本人の心ですもんね。

分かりますよ。


「俺達日本人にとっては、お地蔵さんは生活の一部みたいなものですからね、街や村の片隅に置いてあったり、街道筋にも置いてある。旅の安全や地域の安全を見守るようにとの思いから造られたと聞いたことがあります」

エンゾ様が感心した様子で聞いていた。


「いい文化ですわね、そのお地蔵さんというのは創造神様なんでしょうか?」

俺はこの世界独特の質問だと感じた。


「いいえ、そうではありませんね。なんというか、簡単に体と顔がある石像ですね、中には凝った造りをしている石像もあるらしいのですが、一般的なのは先程お話した石像ですね。創造神様を象徴しているとは聞いたことはありません」


五郎さんが話を繋ぐ、

「あれは氏神さんに近いんじゃねのか?」


「どうでしょうか?よく分かりませんが、いずれにしても宗教感はあまり感じないですね」


「宗教ねえ・・・」

エンゾ様が少し表情を曇らせた。


「どうかしました?」

宗教というところが気になっている様子だった。


「宗教ってものが何なのか、前に五郎に教えて貰ったことがあるけど、あまりこの世界にはいいものとは思えないわ」


「でもこの世界に宗教は無いと聞いていますが?」

俺はこれまでに聞いていることを伝えた。


「それがそうでもないのよ、北半球には何かしらの宗教があるってことらしいの」

えっ、そうなのか?情報が間違っているのか?


「そうなのか?儂も初めて聞くぞ」

五郎さんも俺と同じで初めて聞いたことのようだった。


「まあ、今回の石像は創造神様を象ったものですので、今回の計画には宗教的要素はありませんので問題無いと思いますが・・・」


「そうね、少し脱線してしまったようね、ごめんなさい」

軽くエンゾ様が会釈した。

随分正直な神様のようだ。

好感が持てる。

こういう人は好きだ。


「本筋の話をする前に、ちょっと話しておきたいことがあるのだけどいいかしら?」

エンゾ様の問いかけに俺と五郎さんは頷いた。


「そもそも神気が薄くなっていることについてなんだけど、何か情報や心当たりは無いかしら?」


「儂は残念ながらねえな、いろいろと客とかにも聞いてはいるんだがよ」

俺は世界樹の件が頭を過ったが、この場では伏せておくことにした。


「俺も無いですね」

エンゾ様が残念そうな表情をした。


「実は数名の動ける者達がいろいろ調査をしてくれてはいるけど、なかなかこちらも上手くいってないようなのよ」

前に創造神様が動いている者もいると言っていたが、その者達なんだろうか?


「そういやあエンゾよ、そもそもいつから神気は薄くなってんでえ?」

それは重要な処だと思う。


「はっきりとは覚えてないけど、薄くなり始めたなと感じたのは、百年前ぐらい前かしら」


「するってえと、儂がこっちに来た頃ってことだな」

百年前といったら世界樹が活動を止めた頃だが、偶然の一致なのか?

それより世界樹が再開した今でも、まだまだ薄いってことは、明らかに他にも原因があるということになる。

そうだとは思ってはいたが、改めて考えてみるとやはりそういう結論になる。

早く原因が判明して欲しいのだが、今はまだ難しそうだな。


「百年前ぐらいから徐々に薄くなってきたと感じるわね、ただ、ここ最近多少持ち直した感はあるわね」

なかなかエンゾ様は鋭いようだ。

世界樹が復活しましたからね。


「今回のお地蔵さん大作戦で、もっと持ち直して欲しいですね」

どれだけ効力を発揮するかは未知数だけどね。


「ああ、まったくだ」


「本当にそうね、神気不足は私達神にとっては死活問題ですわ」

皆で頷き合っていた。


「それで一先ず三十五体の石像と三十五台の社は、俺の方で既に作成済みですが、足りますでしょうか?」

勝手にこれぐらいかと考えたのだがどうだろうか?


「お前え流石だな、仕事が早え『ゴロウ』では十体頂こう」


エンゾ様が続く、

「『タイロン』は二十体頂こうかしら、残りの五体は『タイロン』と『ゴロウ』を繋げる街道筋に設置しましょう」

丁度の数となった。


「あと、本当は教会の石像も改修したいところなんですけどね・・・」

『タイロン王国』には行きたくないからな。

やれやれだ。


「えっ!島野君!教会の石像の改修はやってくれないの?」

エンゾ様が驚いている。


「いやー、『タイロン王国』には行きづらくて・・・」


「どういうこと?」

俺は『タイロン王国』でやらかした、ジャイアントイーグルの件について話した。


「あれって、島野君だったの?凄いじゃないの!」

エンゾ様が目を輝かせている。


その反応が嫌なんですって・・・

俺は英雄とか持て囃されるのは苦手なんですから・・・

勘弁してくださいよ、まったく。


「英雄扱いされるのはどうにも苦手でして、それにいろいろな人に囲まれるのは目に見えているので、避けているんですよね、タイロンは・・・」


「そういうことなのね」

エンゾ様が何かを考えている様子だった。


「夜中にこっそりやるってのはどう?」

はあ?何言ってんの?

神様がそんなこと言っていいの?

まあ出来るけど・・・


「エンゾ様、本当にそれでいいのですか?」

神様の発言とは思えないけど、どうなんだろうか?


「いいも何も他にやりようがあって?あと私のことはエンゾでいいわよ」

二ヤリと笑うエンゾさん、その表情にはゾッとするような迫力があった。

怖いんですけど・・・エンゾさん・・・


「おい、島野お前え、そんなことできるのか?」

当然の疑問ですよね。


「まあ、なんとかできますけど、あまりやりたくは無いですね」


「おめえ、出鱈目だな」

やっぱり言われましたか。

言われると思ってましたよ。


「はい、最近自覚しました」


「やっぱりね、この数日で何十体も石像が造れるってことは、そういう能力を持っているってことよね?」

エンゾさん・・・どこまで俺の事を分かってるんだ?

いろいろ怖いんですけど・・・この人・・・


「まぁ、そんな処です」

誤魔化せれたとは思いづらいな。


「他に話し合いたい議題はあるかしら?」

エンゾさんが仕切る。


「あっ、すいません、教会の場所はせめて教えて貰えると助かるんですけど・・・」

笑顔でエンゾさんが地図をくれた。


「ここに記している四ヶ所が『タイロン王国』の教会の位置よ」

後で透明化して見にいかないといけないな。


「準備が良い事で・・・」


「これぐらい当たり前でしょ?」

なんだか降参です。

綺麗な花には棘があるとはこの事かと思う俺だった。




お地蔵さん大作戦は人知れず開始された。

場所は『タイロン王国』

月の光が明るい深夜の出来事だった。


俺は透明化の能力でひっそりと教会に偲び込み、教会の石像を『加工』で改修を行っていった。

その数四ヶ所。


周りに人の視線が無いことを確認した上での作業。

見られては不味いと最大限の注意を払った。

確認してみた処、どの石像も原型を留めていなかった。

教会の管理はどうなっているのか?

石膏職人がいないのか?


なんとか夜が明けるまでに作業を終えた俺は、人知れず帰宅の途に就いた。

あー、疲れた。

これ以外に言える言葉は何も無い。

だがやり遂げたという達成感もあった。

とにかくこれでこの世界の滅亡の危機を少しでも先延ばし出来れば御の字だと思う。

やれやれだ。




その後、お地蔵さん大作戦は大いに成功した。

一夜にして教会の石像が改修されたことは、創造神様の奇跡として扱われ、その後の時代に足跡を残すことになった。


第一発見者であるとあるシスターは、余りの出来事に腰を抜かした。

そして四ヶ所の全ての教会でその奇跡はおき、衝撃に気を失う者まで現れた。


「創造神様が顕現してくれた」


「奇跡が起こったぞ!」


「神の御業だ!」

等と『タイロン王国』国内が創造神様の石像の変貌に打ち震えた。

またその完成度の高さに感涙する者が後を絶たなかった。

教会に人々が殺到し、これまで信心深く無かった人達まで教会に訪れ、真剣に祈りを捧げた。

信心深い人や聖職者にとっては「聖者の祈り」が叶うと、感動で打ち震える者や中には号泣する者まで現れた。

連日祈りを捧げる人達で教会は大賑わい。

この奇跡を目の当たりにし、教会に寄付をする人達までいた。

更に後日お地蔵さんが、国のあらゆる街道筋や街の片隅に配置され、道行く者や近所の者達によって、お地蔵さんの掃除などが行き届き、適切に管理されるようになっていた。


そしてその余波は他の地域にも波及し「聖者の祈り」が叶うと、特に聖職者の間で一代ブームとなり、その祈りはかつて無い程の賑わいをみせていたのであった。

いったい誰が石像を改修したのか?との犯人探しが始まったが、未だに犯人は特定されていない。


俺はそんなことになっているとは露知らず、島でのサウナ満喫生活を楽しんでいるのだった。

いやー、サウナって最高!

とのんきな俺であった。

サウナっていいよねー。

ハハハ!




『島野商事』設立から三ヶ月が経った。

俺達は畑の一角に集まっている。

俺は皆の視線を一身に浴びていた。

俺の左手には蛇口の栓が握られている。


「ではいくぞ!」

固唾を飲んで見守る一同。

誰かの唾を飲み込む音が聞こえる。

俺は一気に栓を捻った。


シュー!


蛇口から勢いよく水が溢れて出て来た。

確かな水量としっかりとした水圧があった。


「「やったぞー!」」

マークとランドが叫ぶ。


「おめでとうございます!」


「ありがとう!」


「たいしたもんだ!」

口々に賞賛の声が響いた。

俺はマークとランドの元に駆け寄り二人と握手をかわした。


「よくやってくれたお前達!」

本当によくやってくれたと思う。

これでいろいろな施設のグレードが上がるぞ。


「いやー、何言ってるんですか、ほとんど後半は島野さんの作業だったじゃないですか」


「そうですよ、島野さん」

謙遜する二人。


「何を言っている、お前達の作業があったからこれは完成したんだぞ、もっと胸を張れよ、なあ皆!」

俺は皆を煽った。


「そうだぞ!」


「謙遜はなしですな」


「マーク、ランド胸を張れ!」


「凄いわよあなた達!」

マークとランドの功績を讃える声が降り注ぐ。

マークとランドは嬉しそうにしていた。


これでいい、確かに後半は俺が仕上げたが俺は今回の功績を自分の手柄にはしたくない。

上に立つ者としては、自分の手柄よりも部下の手柄になって欲しいと思うものだ。

実際一番の体力仕事をこの三ヶ月間頑張って来たのはこの二人だ。

俺は自分の能力で仕上げを行っただけ。

賞賛されるべきはこの二人なのだ。


「よし、皆!胴上げだ!」

俺の音頭に集まる一同。


皆が一ヶ所に集まる。

マークは照れながら中へと入っていく。

マークが空を舞った。

そして続けてランドが空を舞って・・・落ちた。


ドン!


「痛ってえ!勘弁してくれよ!」

大爆笑が巻き起こった。

でかい図体なんだからお決まりには答えて貰おう。


「よし、今晩は打ち上げだ!アルコールの制限は無しだ!」

俺が宣言すると皆が口々に好きなことを言い出した。


「やったー!」


「吐くまで飲んでやるぞ!」


「ワイン三本は確定ですな!」


「あんた達調子に乗るんじゃないわよ!」


「主、よろしいので?」


「僕はどうせお茶なんでしょ?」


「私しは二日酔いは勘弁ですの」


俺は手を挙げ皆を制した。


「宴会やるぞー!」


「「「おおーー!!!」」」

皆さん、お酒はほどほどにね。

でも楽しもうね。

ハハハ。




この島初の宴会が始まった。

食事はバーベキューとなった。

宴会と言えばこれでしょ?ということだ。


一部ピザを望む声もあったが、俺も飲みたかったのでバーベキューにして貰った。

だって楽なんだもん。

たまには楽させてちょうだいよ。

皆なジョッキを片手に俺の音頭を待っている。


「そうだな、せっかくだから、今日の音頭はマークにお願いしよう」

そう言うとマークが照れながらも皆の前に出てきた。


「ではご指名ですので、遠慮なく音頭を取らせていただきます!」


「よっ!リーダー!」


「頑張んなさいよ!」


「決めてくれよ!」

言葉が飛び交う。


いつになく真剣な顔つきになったマークが話しだした。

「最初にこの場を借りて島野さん一同、否、島野一家の皆さんに感謝を伝えたい。本当にありがとうございます!」

『ロックアップ』の皆が席を立ち頭を下げた。

俺達は何を言うことも無くその感謝の意を受け止めた。


「俺達は命がけでこの島を目指した、無茶な旅をしたと思う。今思うとどうかしてるとすら思える程だ。ジャイアントシャークに襲われた時は本当に死を覚悟した、あの時の光景を俺は一生忘れないと思う。ギルに跨る島野さんが、こう言ったんだ「やあ、大変そうだね」って」


「ああ、そうだったな」


「そうでしたな」

後押しをする一同。


「俺はその時思ったよ、俺達の人生を変えるとんでもない何かが始まるんじゃないかって・・・」

皆な聞き入っている。


「そして、それは間違っちゃいなかった、この出会いが俺達の人生を大きく変えた。これまでの人生が何だったのかと思える程の幸福感に満ちた人生に変わった・・・」


「ああ、間違いねえ・・・」

ロンメルが呟いた。


「俺達は島野さんと出会い、ノン、ギル、ゴン、エル、そしてアイリスさんと出会った、皆な俺達に優しかった。ただの負傷者集団でしかなかった俺達に対して・・・本当に心に染みたよ、嬉しかった。そんな俺達を島の皆なは当たり前のように受け入れてくれた。挙句の果てには住む家を与えてくれて、食事も与えてくれた、在ろうことか労働の対価だって給料まで与えてくれた。こんな幸せは俺達の常識には無いんだよ・・・」


「そうだわ、間違ってないわ!」

メルルが同意する。


「そんな俺達がこうやっていられるもの全て島野さんのお陰だと俺は思っている。今日この場で改めて俺達は誓う。島野さん!俺達はあなたに一生着いて行く!」

『ロックアップ』の皆が片膝をつき頭を垂れた。


俺はその様をまるで映画のワンシーンを見る様に受け止めていた。

そして頭の片隅でこうも思っていた、マークの野郎やってくれたなと。

こいつに振るんじゃなかったな、上手くやりやがってこの野郎。

でももし、俺がこの島を離れるようなことがあったとしたならば、この島はこいつに任せようと。


「まあ、成り行きだよ」

こう言うのが精いっぱいだった。


「島野さん!俺達はこの先何があってもあなたを裏切らない。あなたの為になるんだったら何でもやる!そんな俺達のことを今後もよろしくお願いします、ってことで皆な!乾杯!」


「「「乾杯!!!」」」


グラスがガシャンガシャンと音を立てている。

ごくごくと飲み干す一同。


「さあ、食うぞ!飲むぞ!」

誰が言ったか分からないが、その声は幸せに満ちた一言だった。


俺はアルコール以外の何かに酔っている自分を感じた。

それはとても幸せな酔いだった。

人生の中で初めて『黄金の整い』以上に幸福感を感じる出来事だった。




せっかくなので上下水道の話をしよう。

我ながらそれなりに頑張ったので是非聞いて欲しい。


二ヶ月以上の期間を掛け、マークとランドが給排水の基礎となる道と地盤を完成させていた。

そこで俺は水道管を設置していく。


素材はステンレスを使用することにした。

鉄だと錆びの不安があり、今後のメンテナンスを考えるとこれしか思いつかなかった。

費用はそれなりに掛かったが気にしない。


水道管は川から引かれている。

そして村から百メートル先には浄水するための、貯池が造られている。

貯池は十メートル四方で深さは百五十センチ。

土のままでは具合が悪い為、コンクリートを使用している。


浄水池を造ったのは、川から直接蛇口では砂や小石等が含まれている可能性があると考えたからだ。

又、雑菌などが含まれている可能性も考えた。


川の水を『鑑定』したら飲用可となってはいたが、安全性はより高いレベルで確保したい。

そこで、浄水池で一旦川の水を貯め、水を安全な物にしようと考えたのだ。


実際、浄水池の下にはよく見ると小石や砂が溜まっていた。

そして川で魚を確保した。

その魚は『プルコ』という名の魚で、ハゼの様な容姿をしていた。


その『プルコ』だが、たまたま川で見つけたのだが、『鑑定』してみたところ、水の掃除屋さんとなっていた。

確か地球の魚でも、水中の微生物や苔などを食べる魚がいたことを思い出し、これと同様のものであると考えた。


念の為アイリスさんに聞いてみたが、俺の解釈は正しかった。

アイリスさんは水草にも意識を向けられるのだからその判断は間違い無い。

その『プルコ』を川で大量に捕まえてきて、浄水池に放逐している。


この浄水池は排水側の方にも設けてあり、内容は引き込んだものと同じ仕組みになっている。

この『プルコ』だが実に繁殖力が高く、ものの一ヶ月で倍の数になっていた。

特に排水側の『プルコ』の成長が早く、食用にもなる為、数ヶ月後には食卓に並ぶことになりそうである。

試しに一度食してみたが、身がプリプリでとても美味しかった。


浄水場は水の浄化施設だけではなく『プルコ』の養殖場としても活用されている、正に一石二鳥となっていた。

ありがたいものです。


そして畑への水道の引き込みと共に手を入れたのは風呂場であった。

これを機に男女別々にすることにした。

先ず最初にお風呂一号機となる木の風呂を解体した。

長いことお世話になりありがとうございました。


そして洗い場には勿論の事、新設した風呂にも水道が引き込まれた。

ここに実は一工夫入れている。


今回の土木工事中にマーク達が神石を五個発掘していた。

どうやら神石は地中に埋まっているものらしい。

この神石に自然操作の火の能力を付与したことで、風呂場にお湯が出ることになった。

更に洗い場にシャワーを設置した。


神石が四個しかない為、男女共に二台づつ設置した。

当然お湯が出る様になっている。

これで手持ちの神石は無くなった為、新たに発掘されることを祈りたい。


風呂場が一気に豪華になり、皆な喜んでいるようだった。

俺の風呂などを建設するスピードの速さに、マークとランドは度肝を抜かれたようであった。


「なんでもありだな」

そう呟いていた。


せっかく得た能力なんだから気にせずに使わせて貰うさ。

そして、その後は水道管を台所に引き込んだ。

水道があると料理の手間が省ける。

野菜を洗ったり出来るし、何より洗い物が楽になった。

大変重宝している。


そしてなにより望まれたトイレが遂に水洗式となった。

はやり衛生的なトイレは素晴らしい。

匂いも気にならないし、掃除も簡単に済む。

ありがたいことです。


こうしてみると、やはり上下水道を引き込んだのは正解だったと言える。

暮らしが豊かになり、文化レベルも格段に上がったように思える。

どんどん島の暮らしが豊かになっていくのがなんとも嬉しく思う。




数日後、

料理の為に自然操作の火を使っていたところ、


ピンピロリーン!


「熟練度が一定に達しました。ステータスをご確認ください」


とのアナウンスがあった。


自然操作がLV3になっていた。

これにより天候の操作が出来るようになっていた。


上下水道が完成して数日でこれは無いんじゃないか?と思ってしまった。

タイミングってもんがあるでしょうが!

だって雨を降らせれるんだったら、畑に水道いらないじゃないか!

悔しいから畑用には雨を降らせないことにした。

だって悔しいんだもん!

もう!

やってらんないよ!

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