同盟国会議開幕
宴会ムードもそこそこに同盟国会議は始まった。
本当は俺は混じる気はさらさらなかったが、どうしても同席して下さいと、ルメールに懇願されてしまったのだった。
断ることも考えたのだが、こいつらの現状を慮ると無下にも出来なかった。
しょうがないのでこっそりと末席で見守ろうと思っていたのだが、何故か俺は中心に席を譲られてしまった。
でも極力口を出さない様に努めたい・・・
無理だろうな・・・
はあ・・・やれやれだ。
ここは我先にと弁えたスターシップが音頭を取った。
とても好感が持てる。
ここは英雄に期待したい。
俺はアドバイザーに徹したい。
出来るかな?
出来るよね?
最近気づいたのだが、俺はお節介らしい。
何を今更と言われる覚悟は出来ている。
でもこれが本心なので許して欲しい。
それぐらい自分の事は分かっていないという事だと、達観して見守って下さいな。
ほぼ神と言っても所詮そんなもんなんです・・・
スターシップが口火を切った。
「ルメール殿下、そしてレイン殿下、戦争の終結おめでとうございます」
出席者一同は拍手でこれを迎えていた。
歓迎ムードが辺りを包む。
「さて、ここからは政治の世界となってきます。気を改めましょう」
スターシップの発言に身を引き締める一同。
因みにこの席に同席を許されたのは国王以外は大臣一人だけである。
それはどの国も同じである。
これ以上を許すと発言が多岐に渡り、収集が付かなくなるからだ。
でも魔物同盟国に関しては全首領が出席している、それは公然の事実と受け止められていた。
極稀にクロマルが席を外すことがあるが、それは暗黙の了解と受け止められていた。
というもの、クモマルは俺の陰に徹する事を前提としている事を皆が分かっていたからだった。
本当はそれを許す訳にはいかない。
でもクロマルにとっては魔物同盟国の行く末よりも、俺の陰に徹することが優先されている事なのだ。
それを外の出席者達は当然の事と受け止めていた。
というより、そうしてくれという風潮の方が強い。
それをまじまじと感じて俺は唸ってしまっていた。
これはどうなんだろうか?
有難いのだが・・・ちょっと違わないか?
まあいい。
先に進んでくれ・・・
スターシップが話を進める。
「さて、ルメール殿下、そしてレイン殿下、一応確認させて貰いますが、同盟の仲間入りの意思有ということでよかったんですよね?」
ルメールとレインは同時に頷いた。
「よろしくお願いしたい」
「よろしくお願いします」
「さて、同盟の現状について話をさせて貰おうと思う、因みに私は便宜上同盟国の会議においては議長を務めさせて貰っている、所謂進行役です。私がこの同盟のトップという訳では無い事は強調させて貰いたい」
とは言っても事実上スターシップが旗振り役であることも参加者全員が分かっている。
だがここは平等な立場であることを強調したかったということだろう。
スターシップらしい謙虚さである。
「スターシップ、話の腰を折って悪いが、少し待ってみないか?何度も同じ話をするのも面倒だろ?」
「そんな面倒だなんて・・・でも島野様の仰る通りですね。待ちましょう、少々気が急いてしまったようです」
スターシップは苦い顔をしていた。
時は少し遡る。
ゴンとエルは『魔道国エスペランザ』に向かっていた。
二人は獣スタイルで空を駆けていた。
その光景は神々しく、それを見かけた者達は思わず手を止めていた。
声も出せず、ただただ茫然と眺めていた。
空を駆ける二体の聖獣は、迷うことなく一直線に王城を目指している。
その光景をエスペランザの国民は息を飲んで見守っていた。
王城の入口に差し掛かるとゴンとエルは飛行を止めて地上に降り立った。
護衛の兵士達が慌てて二人に駆け寄る。
「聖獣様、どのような御用でしょうか?」
ゴンは護衛兵を一瞥すると答えた。
「我が主の命に従い、この国の代表者に会いに来ました」
無遠慮にゴンとエルは王城の中に入ろうとする。
「お待ちください!ただいま執り成して参ります!」
護衛兵達は腰が引けながらも二人を止めようとした。
それを見てエルが護衛兵達を一睨みする。
「それには及びませんですの、中に入らさせて貰いますの!」
護衛兵達が二人を押し留めようとする。
「何ですか?邪魔ですよ!あなた達に私達を止められるとでも思っているのですか!」
ゴンに一括されて護衛兵達はたじろいでいた。
「そうですの!次期創造神様の島野様の命にて私達は此方に伺っているのですの、逆らう気ですの?!角で刺してあげましょうか?!」
エルの恫喝にビビると共に、護衛兵達は島野の噂を聞いているのだろう、その名を聞いて青ざめていた。
「め、滅相もございません!し、失礼しました!」
護衛兵は二人に道を開けていた。
悠然と王城の中に歩を進めるゴンとエル。
王城の中が騒然となっている。
そこかしこで驚きの声が挙がっていた。
王室の前に辿り着くと、大臣と思わしき一団が頭を下げて二人を待っていた。
「聖獣様、お待ち申し上げておりました」
一人の大臣が腰を折って挨拶を行った。
「ふん!邪魔です!どきなさい!」
ゴンは大臣一同を睨みつけた。
その迫力に慄く大臣一同。
場に不穏な空気が漂っていた。
エスペランザの大臣達は『イヤーズ』の一件を伝え聞いている。
聖獣の不機嫌な態度に全員が青ざめていた。
実は『魔道国エスペランザ』からは、守宛てに親書が届いていたのである。
その内容としては、兼ねてから守の噂を聞いており、時間がある時に一度立ち寄って貰えないかとのものであった。
守としては立ち寄る必要も無い為、放置していたに過ぎない。
本当はただ単に面倒臭がっていたことと、何でこちらから伺わなければならないのだと機嫌を損ねていたのである。
大事な話があるのなら他っておけば、勝手に向うからやってくるだろうと、守は高を括っていたのだ。
その経緯を知っているゴンとエルも少々機嫌が悪い。
それに加えて守から王様の鼻っ柱をへし折っても良いぞ、と言われていたのだ。
喧嘩腰になるのも無理はない。
特に礼儀に煩いゴンは王様を締め上げる気満々である。
我が主を呼びつけるとは何様だと、腹の中では怒り心頭なのだ。
それを分かっていない大臣一同を睨みつけるゴンとエル。
数名の大臣は発狂し出しそうな程怯えていた。
エルが頭の角で王室の扉を強引に開いていた。
否、扉を破壊していた。
その有り様に王室から悲鳴が挙がっている。
ずかずかと歩を進めるゴンとエル。
王様の前に仁王立ちするとゴンが高圧的話し出した。
「お前がこの国の王か?」
「は、はい・・・」
国王は余りのゴンとエルの迫力に気圧されている。
見た目としては初老の男性だった。
少し神経質そうな顔をしている。
ちょび髭が小物感を増長していた。
細長の眼が軽薄にも見える。
しかしよく見ると横に控える男性はひと際異彩を放っていた。
先ず身長が高かった、大男とも言える。
引き締まった身体に柔和な表情をした、話の分かりそうな視線を宿した男性だった。
「・・・お前は・・・何で我が主を呼びつける様な親書を寄越したのだ!」
ゴンが凄んでいた。
その様に国王はワナワナと震えていた。
そして隣に立つ大男は国王を一瞬睨んでいた。
「それは・・・」
国王は答えになっていない。
「何様だお前は!回答次第では噛み千切りますよ!」
「そうですの、角で抉って差し上げますの!」
先程の大男が突然国王の腕を捕って、王座から引きずり降ろすと。
ゴンとエルの前にやってきて、土下座をさせていた。
「「申し訳ありませんでした!」」
大男も同様に土下座をしている。
「家の兄貴が余計な事をした様です、申し訳ありませんでした!」
その発言と行動にゴンは眉を潜める。
「何のことですか?」
「はっ!恐らく大臣の誰かにそそのかされて兄が行った事だと思われます、決して他意は御座いません!」
「ほう、他意なく出来る行動では無いと思いますが?」
「国王の兄は悪い者ではありませんが、一部の大臣を取り立てる癖がありまして、自分で国政を行おうとしないのです、なんともお恥ずかし限りです」
「であれば、あなたが国王に成りなさい!」
「えっ!・・・それは・・・」
この場に守がいたら頭を抱えていたことだろう。
内政干渉はなはだしい出来事である。
ただゴンにとってはそんな事は関係ないことだ。
ゴンは話が出来る相手と話がしたいだけである。
特にゴンとエルはサウナ島での生活が長い為、立場や地位等は意に返さ無いのだ。
ゴンの内政干渉発言に大臣達が騒めく。
「そんな・・・あり得ない」
「嘘でしょ?」
「どうしたら良いんだ?」
「あり得ない出来事だ」
するとそれまで土下座していた国王が徐に話しだした。
何故か少々嬉しそうな顔をしている。
「じゃあそうしよう、そもそも僕は国王なんてやりたくなかったんだ。弟のルミルに王の座を譲るよ」
国王はあっさりと玉座を譲ると言い出してしまった。
その発言に大臣達はあっけらかんとしている。
「では、そうなさい」
ゴンは満足げに頷いていた。
エルも歯茎を剥き出しにしている。
「ちょっと待ってくれ兄貴!そうはいかないだろう?」
流石にルミルが止めに入る。
「いいじゃないか、聖獣様もそう仰っているんだし。そうですよね?聖獣様?」
「そうですの、それでいいですの。そんなことよりあなた達に大事な話がありますの」
そんなことと吐き捨てられてルミルは茫然としてしまった。
そんなルミルの背中を叩いて、兄は満足そうにしている。
その有り様を見る限り、本当に国王には成りたくなかったみたいだ。
一度がっくりと項垂れたルミルは、腹を決めたのか表情を改めてエルに質問をした。
「大事な事とは何で御座いましょうか?聖獣様」
話を受けてゴンが空間から魔水晶を取り出した。
「この魔水晶に我が主からのメッセージが入っています。心して聞きなさい!」
その発言を受けてルミル一同は跪いて、姿勢を正していた。
その様子を確認してからゴンが魔水晶に魔力を込め出した。
其処には心なしか緊張の面持ちの守が立体映像として浮かび上がっていた。
ゼノンの言う通り、大根役者感が半端ない。
「よお!俺は島野だ、どうせ噂とかで俺の事は知ってるんだろう?それで、どうして俺がそっちに足を運ばなければいけないんだ?国王に要らない事を吹き込んだ馬鹿大臣が居るみたいだな。俺の情報網を舐めるなよ」
その発言にひと際肩を震わせている大臣がいた。
それを目聡くゴンがチェックしていた。
後でゴンからお灸を据えられる事確定である。
「それで、ここは寛容な俺はそんな些細な事は無視することにした。感謝するんだな」
「はい!感謝致します!」
ルミルが思わず言葉を発していた。
実に真面目な男である。
「さて、今回家の聖獣達を送り込んだのは、お前達にチャンスを与える為だ。心して聞いて欲しい。俺達は今日『サファリス』と『オーフェルン』の戦争を終わらせる事にした。そして現在『ルイベント』『ドミニオン』『シマーノ』で締結されている同盟に『サファリス』と『オーフェルン』を加える予定だ」
「嘘だろ?」
「あり得ない」
「あの戦争が終わるのか・・・」
数名の大臣達が声を漏らしていた。
「そこでその同盟にお前達は加わる気があるのか?ということだ。返事はこれから一時間以内に家の聖獣に伝える様に、以上だ。新たな仲間に加わってくれることを期待する。じゃあな!」
ここでメッセージは終わった。
王の間は静寂に包まれていた。
一方、ノンは人化したクモマルを背中に乗せて天を駆けていた。
ご機嫌にも鼻歌交じりである。
ノンは大好きなアニメのテーマソングを歌っていた。
そんな呑気なノンをクモマルは呆れ顔で見つめていた。
二人が向かっているのは『イヤーズ』である。
真面目なクモマルは守から与えられた使命を遂行しようと、余念無く頭の中でイメージトレーニングを行っている。
そんなクモマルがノンに話し掛けた。
「ノン兄さん、少々余裕過ぎやしませんか?」
「そんなことないよ、クモマルも歌いなよ。楽しいよ。マジンガーZ!」
ノンのご機嫌は変わらない。
「そんな・・・もういいです」
クモマルは首を振っていた。
「クモマルは相変わらず糞真面目だね、面白くないなあ」
「はあ?ノン兄さんがお気楽過ぎるんですよ」
「そんな事ないよ」
「何でそんなにお気楽なんですか?主からの使命を達成しないといけないんですよ」
クモマルは納得がいかない様だ。
「クモマル、よく考えてごらんよ。今回の使命なんて楽勝じゃないか」
「楽勝ですか?」
「そうだよ『イヤーズ』に僕達は二度に渡って襲撃を行っているんだよ」
「そうですね」
「もうあの国には宗教は無いし、ラファエルも死んだんだよ」
「はい」
「あの国が僕達に逆らう事をすると思う?」
「・・・確かに」
「だから今回の使命なんて楽勝じゃないか」
クモマルは意外そうにノンを見つめている。
案外考えているじゃないかと言いたげな表情をしている。
「あの国はもう傾きかけているんだから同盟に加わるしか生き残る道は無いんだからね」
「そうですね・・・」
「でしょ?さあ、クモマルそろそろ着くよ」
『イヤーズ』の町並みが迫ってきていた。
クモマルは気を改めようと首を振っていた。
ノン達は街のどよめきを無視して、王城にあるベランダに突入した。
国民達は阿鼻叫喚となっていた。
それはそうだろう、これまで聖獣と神獣に二回も襲撃を受けているのだから。
それをノンとクモマルは飄々とした顔で受け流す。
迷うことなくズカズカと進んで行く。
この時クモマルもノンの背から降りて獣化している。
聖獣二体の来訪に王城はパニック状態に陥っていた。
所々で叫び声がする、
「ぎゃあー!」
「フェンリルが出たぞ!」
「アラクネだ!逃げろ!」
「また暴れにきたぞ!殺されるぞ!」
王城でも阿鼻叫喚になっていた。
そんな事はお構いなしにノンは鼻歌交じりに進んで行く。
そして何の抵抗も無く王の間に辿り着いていた。
其処では王様と大臣の一団がブルブルと震えて腰砕けになっていた。
ノンがマイペースに話し掛ける、
「やあ、僕はノンだよ。よろしくね」
「私はクモマル」
国王一同の震えは止まらない。
「王様は誰かな?」
遠慮も無くノン達はずかずかと踏み込んでいく。
「早く答えなさい!」
「誰かなー」
大臣の一団が一斉に国王を指さした。
国王は裏切られたとショックを受けている。
その行動に少しは落ち着いたみたいで、国王は震えが止まっていた。
「わ、私がラズベルト・フィリス・イヤーズと申します、こ、国王で御座います」
国王が前に出てきた。
国王は未だ目に脅えが浮かんでいるが、自分を取り戻した様だ。
そして国王は徐に跪いた。
その光景を見て、しまったと我に返った大臣の一団も後に続く。
ノンとクモマルに全員が跪いていた。
ノンはマジックバックから魔水晶を取り出した。
「主からのメッセージが入ってるから流すよー」
この発言に一同に緊張が走る。
「聖獣様お待ちください、主とは島野様でしょうか?」
ラズベルトが口を挟む。
「それ以外誰が居るっての?分かってるでしょ、いいから聞きなよ」
「も、申し訳ありません!よ、よろしくお願い致します!」
更に場の緊張が高まる。
ノンが魔水晶に魔力を流すと守の立体映像が浮かび上がった。
こちらは上がった様子は無く、力が抜けている。
撮影も二回目となると慣れてきたみたいだ。
だがよく見ると大根役者感はあった。
多少眼が泳いでいる。
「よう!俺は島野だ。家の聖獣と神獣がお世話になったな」
ノンとクモマルがにやけている、世話になったの意味が面白かったのだろう。
だが国王の面々はそうはいかない、数名は身体をビクつかせていた。
「先ず最初に教えておく、お前達の教祖のラファエルは死んだぞ、俺があいつの死に立ち会ったからな」
国王達が呟く、
「そうなのか・・・」
「やはり・・・」
「ですか・・・」
「これで・・・」
「まあ、そんなことは良いとしてだ。今回家の聖獣達を送り込んだのは、お前達にチャンスを与える為だ。心して聞いて欲しい。俺達は今日『サファリス』と『オーフェルン』の戦争を終わらせる事にした。そして現在『ルイベント』『ドミニオン』『シマーノ』で締結されている同盟に『サファリス』と『オーフェルン』を加える予定だ」
誰かが唾を飲んでいる音がした。
「戦争の終結・・・」
「そんなことが・・・」
「同盟・・・」
数名の大臣達が声を漏らしていた。
「そこでその同盟にお前達は加わる気があるのか?ということだ。選択は一択しかないと思うが、返事はこれから一時間以内に家の聖獣に伝える様に、以上だ。新たな仲間に加わってくれることを期待する。じゃあな!」
ここで映像は途絶えた。