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サイドゼノン

儂は今サファリス国に向かっておる、エリスと共にじゃ。

まだ到着には一時間は掛かるじゃろうて。

せっかくの機会じゃ儂の話を聞いては貰えんかのう?

たまには良いじゃろう?

儂の話は貴重じゃよ。


何じゃ、やっぱり守よな。

あ奴は変わっておるのう。

良い意味でじゃぞ。

それに面白い奴じゃて。

あ奴のお陰で儂も今では天職を得たしのう。

知っておるか?

映画監督は楽しいぞ!

最高じゃよ!

始めて撮った作品の興奮は今でも忘れられんのう。

最近では四作品目の原作に取り掛かっておるんじゃ。

マリアが言うには次はミステリーが良いとの事じゃったが、儂はアクション映画が良いと思うんじゃがな。

どうじゃろう?

アクションならばギルとノンが活躍出来そうじゃて。

まあ今話す事ではなかろう。


はて?何を話しておった?

そうじゃった守よな・・・あ奴はどうやらやっと腹を決めた様じゃな。

次期創造神に成ることをのう。

眼を見て直ぐに儂には理解出来た。

時間を掛け過ぎとは言えんわい。

あ奴にとっては一大事じゃからな。

でもその背中を押してやったこともあったのう。

儂にはあ奴は創造神に成るべきだと感じたからじゃ。

それだけの資格と資質を持っておる。


実はこれまでにも次期創造神候補者はおったんじゃよ。

知られてはおらんことじゃがな。

じゃが誰一人なれなんだのう。

それ程までにハードルは高いということじゃ。

ここまで創造神様に近づいた者は一人としておらなんだ。

守は大した者じゃよ。

本当に不思議な奴じゃ。


そして儂は修業を行った。

この齢にして新たな能力を獲得せねばならん事になるとはのう。

文句の一つも言いたくなるもんじゃて。

新たな能力の獲得なんぞ、かれこれ一万年以上行っとらなんだからのう。

じゃがこれ無くしては戦争を終結出来ぬと守が言っておったから、やらん訳にはいかんじゃろう。

戦争は止めねばならん。

これはドラゴンの性じゃ。

本当は開戦前に止めるべきじゃったが、何故だか創造神様に止められたからのう。

無茶苦茶腹が立ったが、創造神様には逆らえん。

本能に刷り込まれておるからのう。

あの御方は別格じゃわい。

もしかして儂を従える能力を持っておるかもしれんのう。

歯痒いのう。


それにしても人の世とは儚いのう。

何を争う必要があるのだか・・・

今回の戦争はラファエルが無理やり起こしたものじゃが、これまでに儂は何度も人々が争う様を見てきた。

領地を奪うであったり、他者を従え様としたり・・・

人の欲とは・・・まあよい。

今はそれ処では無いわい。


さて演じるかのう。

それにしても柄では無いが、守が言うには尊大な態度を取れということじゃったが、儂よりも守はちゃんと演じることが出来るのじゃろうか?

あ奴は大根役者じゃからのう。

あんな大根役者は見たことが無いからのう。

流石に映画と違って今回はやってくれるじゃろう。

あ奴は本番には強いと信じておるよ。


それにしてもギルは可愛いのう。

目に入れても痛くないとはこのことじゃな。

実際には入れんけどな。

ガハハハ!

目玉が潰れてしまうわい!

・・・要らん事を言ったようじゃ。

ギルは我が孫ながらもよう出来たドラゴンじゃて。

守の教育が良かったという事じゃな。

とは言っても儂も地獄耳と千里眼で見ておったのじゃがな。

ギルは賢い上に実に頼りになるしのう。

でももっと食えるように成らんといかんのう。

まだまだ儂には勝てん、儂の腹は底無しじゃからな。

誰一人として儂より食える者はおらんじゃろう。

何?そんなことを威張るんじゃないとな?

まあそう言ってくれるな。

儂の自慢じゃからのう。

それにこれはドラゴンの性なんじゃ。


話しは変わるが今ではドラゴムの村も魔物達で溢れておる。

それにしても随分とドラゴムの村も発展したものじゃ。

映画館然り、その生活力然り、随分と様変わりしたものじゃ。

守達に感謝じゃな。

文明化が一気に進み、住みよい村になっておる。

リザードマン達も楽しそうにしておるしのう。

あ奴等も文明化に喜んでおった。

良い事じゃな。


そう言えば先日『ルイベント』のスターシップという国王に挨拶されたのう。

実に好感の持てる若者じゃったわい。

ドラゴムと同盟を結びたいとのことじゃったが、儂にはそんな些事はよく分からんからアリザに任せておいたわい。

じゃが北半球が平和になる事には違いないじゃろうて。


話は変わるがエリスには辛い思いをさせてしまったわい。

我が娘ながらに過酷を強いてしまったようじゃ。

まさか儂の権能を超えてくるとは思わなんだが・・・

それ程までにギルに会いたかったという事じゃな。

じゃが儂としてはああするしかなかったのじゃ。

これ以上娘を傷つけられる訳にはいかんかったのじゃ。

じゃが守のお陰でエリスは翼を取り戻す事が出来たんじゃ。

有難いことじゃよ。

それにしても世界樹の実とは・・・よくもまあ実ったものじゃ。

あの実は神界でも滅多に見られぬ代物なんじゃ。

何で守は三つも持っておったのじゃ?

まあよいわ。


ふう、よく喋ったわい。

さて、そろそろかのう。

いい加減戦争を終わらせようかのう。




ゼノンとエリスはサファリス国に降り立った。

サファリスの国民は蜂の巣を突いたかの如く大騒ぎとなっている。

突如現れた二頭のドラゴンに国中が騒然となっていた。


「うわわわわ!ド、ドラゴンだ!」


「どうしてドラゴンが!」


「もしかしてエンシェントドラゴンなのか?」


「凄い!ドラゴンは始めて見た!」

国民の騒ぎは留まりそうもない。

ゼノンとエリスは周りを見渡すと、ホバリングを始めた。

そして王城に向かって飛び立った。

王城の前にホバリングして、ゼノンとエリスは咆哮する。


「ギョワワワワアアーーーー!!!」


「グオオオオーーー!!!」

その凄まじさに国民は震え挙がる。

腰を抜かして座り込む者もいた。


「あわわわわ!!!」


「腰が抜けた・・・」


「ウウッ!」

ゼノンがエリスに合図を送るとエリスが自身とゼノンに拡声魔法を行使した。

それを受けてゼノンが声を挙げる。


「サファリスの国民よ!我が声を聞くがよい!!!」

地響きする程の声量に国民は縮み挙がる。

実際に家屋が揺れていた。


「儂はゼノンじゃ!エンシェントドラゴンである!!!」


「そして私はエリス、ドラゴンのエリスだ!!!」

エリスも続く。


「サファリスの代表者よ!儂の前に出てくるがよい!!!」


「出て来い!!!」

これにサファリスの国民が更に騒然となる。

そして何が始まるのかと緊張感が伝播する。

国中の国民が騒ぎを見守ろうと家から飛び出してきた。

その声を受けて国王始め上層部の者達が血相を変えてベランダに現れた。

バタバタ感は否めない。

中には勢い余ってずっこけてしまっている者もいた。


「エンシェントドラゴン様!ご用件は何で御座いましょうか?」

大臣の一人であろう者が口を開く。

ゼノンは一瞥すると問いかけた。


「お主は何者じゃ!!!」

ゼノンに睨まれて老齢の男性は慄いていた。


「わ、私はサ、サファリス国の外務大臣であります!」


「フン!大臣如きが口を開くでないわ!!!儂は代表者を呼んだのじゃ!!!お主の耳は飾りなのか?!」

外務大臣はゼノンに一括されて青ざめていた。


「し、失礼致しました!」


「して、国王はどいつじゃ!!!」

王冠を被った青年が徐に手を挙げた。

まだ幼さが見受けられる。


「ほう、そなたか!早く名乗らんか!!!」


「ぼ、僕はレイン!レイン・ジョルト・サファリス・・・です!」

青年国王はブルブルと震えながらも、何とか名乗りを上げた。

ガチガチと歯が鳴っている。


「レインと申すか!そう怖がるでないわ!何も取って食おうという訳ではないからのう!」


「そうだぞ!」

エリスも頷く。


「はっ!」

レイン国王は直立不動の姿勢を取っていた。

緊張で凝り固まっている。


「さて、儂が来たのは他でも無い!お主達に聞きたいことがあるのじゃ!!!」

国民達に再び緊張が走る。


「聞きたい事でしょうか?」

レイン国王は未だ震えているが、国民達の前であることからか、何とか落ち着きを取り戻しつつあった。

青年ながらも国王としての責務を全うしようと勤めていることが分かる。

ゼノンには健気に映ったのかもしれない。

ゼノンは薄っすらと口元を緩めたかに見えた。

だがそれは一瞬の出来事でしかない。

其れと気づけた者は誰一人としていないだろう。


「そうじゃ!お主達は不毛な戦争をいつまで続ける気なんじゃ?!」

レインは何を言われたのか分からない表情をしていた。

そんな事を聞かれるとは思ってもみなかったみたいだ。


「それは・・・」

レインは答えに窮してしまっていた。

そしてゼノンは国王と大臣一同に『催眠』の能力を行使する。

守との修業で得た能力であった。

其れと気づけた者はエリス以外にはいないだろう。

此処からは本音の時間だ。

嘘偽る事は一切出来ない。


「早よう答えんか!!!」

ゼノンに一括されてレインは慄く。


「それは・・・止めたくとも止められません・・・」

この発言に国民達は騒然となる。


「そうなのか?」


「嘘だろ?」


「これまでが何だったというのだ・・・」


「国王は戦争を止めたいのか?」


レインは続ける、

「僕には止めるすべが有りません・・・なにより家族を亡くした者達がいます・・・友人を亡くした者も・・・恨みを晴らさなければ・・・」

この発言に大臣一同も頷く。


ゼノンは全国民に対して集団催眠の能力を行使した。

こうした理由は守と同じで、この先語られる会話の全てを心で感じて欲しいからだ。

頭で考えるのではなく、潜在意識で捉えて欲しい。

本音で語り、本音で聴く、そうすることに意味があるのだと。

理屈は要らないのだと。

心からの対話をゼノンとエリスはしたいのだった。


「お主らに問う!そもそも戦争の原因を知っておるのか?!」

この発言に国民と国王一団は騒然とする。


「それは・・・」


「俺は・・・知らない・・・」


「確かに・・・」


「そう言われても・・・」

そんな事だろうとゼノンとエリスは口元を緩める。


「お主達に教えておく!戦争の原因を創ったのはイヤーズのラファエルじゃ!」

この発言に国民達は騒めく。


「ラファエル?」


「誰だ?」


「分からない」


「もしや・・・」

レインが一歩前に出てきた。


「ゼノン様、そのラファエルとは誰でしょうか?・・・」

ゼノンは回答する。


「ラファエルはイヤーズに宗教を興した張本人で、あの人と呼ばれていた者じゃ!イヤーズの元教祖じゃよ!」


「なんと!」


「あの人だったと?」


「そうか・・・」


「そんな・・・」

サファリスも同様であった。

イヤーズを見限ったイヤーズの元国民がこの国にも多数流れ込んでいたのだ。

こちらもラファエルを知る者は多いのだ。


「ラファエルは催眠魔法を駆使して、両国間の間柄を悪くしたのじゃ!そして自由意志を奪いサファリスとオーフェルンを戦争へと導いたのじゃ!!!」


「嘘でしょ・・・」


「そんな・・・」


「そうなのか・・・」


レインが口を開く、

「実は僕の曽祖父はオーフェルンの王族です・・・」

レインは神妙な面持ちをしている。

大臣達が口々に話し出した。


「私の親族もオーフェルンの者がおります」


「先々代の母上がオーフェルンだった筈・・・」


「昔は仲が良かったと聞いたことがあります・・・」


再びレインが口を開いた、

「ゼノン様。そのラファエルは今はどうしているのでしょうか?僕はそいつに責任を取らせたい!」

レインはラファエルが気になったみたいだ。


「ラファエルは既に死んでおる!」


「・・・誠で御座いますか」


逡巡したレインは徐に話し出した、

「であったとしても、僕は戦争で死んだ者達に顔向け出来ません、親族に手を掛けた者を許してはおけません!」

やはり復讐の輪廻は終わることはなさそうだ。


今度はゼノンが口を開く、

「お主らの気持ちは分からなくはないのじゃ!実際儂は娘を傷つけられた!間違っても許すなんて出来ぬのう!!!」

国民や国王の一団はゼノンの言葉に食い入る様に耳を傾けている。

国民達は頷いていた。

そして口々に賛同する。


「ゼノン様の言う通りです!」


「許せる訳が無い!」


「そうだ!あり得ない!」


「気持ちは同じです!」

エリスが手を挙げて場を制する。


「ちょっと待ってくれ!私は先の戦争で翼を失った・・・」

エリスの突然の告白に国民は静まり返った。


「翼を失ったドラゴンはもうドラゴンでは無い!!!」

国民はエリスの言葉に食い入っている。


「でも私は許す事にしたよ・・・だって見てくれよ!今では私の翼は帰って来たんだ!次期創造神、島野守のお陰でね!こうやって大空を優雅に舞う事も出来るんだからさ!!!」

国民は騒めく。


「おお!噂の島野様か?」


「何と!そんな事が!」


「素晴らしい!」

守がこの場にいたら間違いなく照れていただろう。

それぐらい島野が連呼されていた。


レインがそれでも話したがっていた、

「ゼノン様!エリス様!仰ることは分かります、しかし・・・」

ゼノンが手を挙げて場を制した。


「レインよ、殺られたから殺り返す!これを何度繰り返すつもりなんじゃ!それではお主らの心は何も浮かばれんのじゃぞ!分かっておるのか!復讐の連鎖なんぞ断ち切るしかないのじゃ!!!」


「しかし・・・」


「ですが・・・」


「復讐の連鎖・・・」

ゼノンは注目を集める為に、更に浮かんで国民の方に向き直った。


「今から儂の言う事を頭では無く、心で聴くのじゃ!よいか!!!」

ゼノンの発言に国民達に緊張が走る。

全ての国民がゼノンの言葉に耳を傾けて集中している。

ゼノンは決め台詞を言うかの如く見得を切った。

流石は映画監督といった処か。


「儂はこう思うのじゃ!恨んだり憎むべき相手は決して戦争相手では無いのじゃ!即ちオーフェルンの民や戦士達では無いのじゃ!・・・憎むべきは恨むべきは戦争そのものなのじゃ!!!」

サファリスの全国民が静まり返った。

ゼノンの想いを心で感じているのだろう

ゼノンは畳み掛けていた。


「そうは思わんか?いつまでも恨みつらみで生きていくことに何の意味があるのじゃ?許せとまでは言わぬ!じゃが新しく生まれてくる命にまでお主らは憎しみを植え付けるのか!もう一度言う!戦争相手を憎むべきでは無く!戦争そのものを憎むのじゃ!戦争の行為を許すな!戦争という物事を恨むのじゃ!!!」

ゼノンの絶叫にサファリス国は静まり返っていた。




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