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サイドラファエル

俺は何をやっているんだろう・・・

自分で自分をコントロール出来なくなっている。

またこの感覚だ・・・

もう嫌だ・・・

これは本当に気持ち悪い・・・

でも解放しては貰えないみたいだ・・・

頭の中に常に靄が掛かっている。

感情が抑えられない・・・

それに身体の震えも止まらない。

時折冷静に成れるのだが、直ぐにまた頭がおかしくなる。

頭が痛い。

顔も引き攣っているのが分かる。

足取りもおぼつかない。

ああ、眩暈がする。


もう死にたい・・・

誰か俺を殺してくれ・・・

もういい・・・もういいんだ。

俺は全てを失った。

もう何も残っていない・・・

突如現れた神獣と聖獣に全てを破壊されてしまった。

でも分かっている。

それは切っ掛けでしかない事を・・・

俺は間違っていたんだ。

ああ・・・頭が割れそうだ。

この神石が俺に残された全てになってしまった・・・

何で俺はこんなことをしているんだ?

身体に神力を蓄えても霧散してしまう。

訳が分からない・・・


俺は神になった筈だった・・・

崇拝され拝み奉られていた。

なのに・・・

くそぅ!

意識が朦朧とする。

また感情の波が押し寄せてきた。

ああ・・・涙が止まらない。

息苦しい。

辛い。

悲しい。

どうでもいい。

もう何も考えられない。


ん?

あれは何だ?

おい!俺の神石だぞ!

どうなっているんだ?

ふざけるな!


「止めろお前!何をやってやがる!俺の神石だぞ!」

誰なんだこいつは、俺の神石に何やってくれてるんだ!

数が随分減ってやがる。

畜生!


「よう!やっと気づいたみたいだな」


「お前は誰だ!私を神と知っての狼藉か!」

何だこいつは殺してやる!


「お前、ラファエルだろう?馬鹿を言うんじゃねえよ、お前は神では無いだろうが!嘘を付くんじゃねえよ!」

うっ!こいつ・・・どうして知ってやがる・・・もしかして・・・

噂のシマノか?


「なっ!・・・もしかして・・・お前はシマノか?」


「察しが良いじゃないか、そうだ俺は島野だ、俺の事を知っているみたいだな」

ふつふつと怒りが沸いてきた。

そうか、こいつがシマノか、俺の全てを奪った張本人か!

殺してやる!殺してやるよ!死にやがれ!

お前だけは許せない!木っ端微塵にしてやるよ!


「・・・お前だけは許せない!・・・お前の所為で俺の世界は・・・この野郎が!死ねよ!殺してやるよ!」

焼き殺してやる!死んでしまえ!

喰らえ!俺のファイヤーボウルを!

何?全く効いて無い?

何でだ?


「なっ!クソッ!」

ならばこうだ!

土の塊で押しつぶしてやる!

何?これも効かないのか。


そうか、じゃあこいつも俺の意のままにしてやる!

これまで初見で効かなかったことは一度も無いからな。

ざまあみろ!これで俺の勝ちだ!

ハハハ・・・俺の前に跪くがよい!

お前はこれで俺の傀儡だ!


「『催眠!』」

俺は催眠魔法を行使した。

勝ったな!

俺が負けるなんてそんな事は有り得ないだろうが!

・・・

え?嘘だろ?

何でだ?何で効かない?

あり得ない・・・訳が分からない・・・何だこいつ・・・怖い・・・否だ・・・何なんだよ!嘘だろ!


「止めろ、来るな!来ないでくれ!」

あわわわわ!

俺は何で浮かんでいるんだ?

何が起こっている?


「止めろ!止めてくれ!」

全く身体の自由が効かない!

何で?何だ?

否だ!否だ!止めてくれ!


「俺が何をしたっていうんだ!止めてくれ!お願いだ!」

俺は意識を失った。




俺は空中で何度もぶん投げられていた。

不規則に上下左右に。

時々地面にぶつかりそうになった。

気が付くと失神してしまっており、水をぶっかけられて起こされていた。

起こされる度に様々な感情が沸き起こってきていた。

殺してやる、勘弁してくれ、恨んでやる、許さない、許してくれ、何でこんなことするんだ?俺が何をやったというんだ?もう好きにしてくれ、いい加減止めろ!呪ってやる、どうしたら挽回できる、もう死なせてくれ・・・


もう何回投げられては起こされたのか分からない・・・

もうどうでもよくなってきた。

もう殺してくれ・・・

もう死なせてくれ・・・

ああ・・・何も考えられなくなってきた・・・もう感情も沸き立って来ない・・・

やっとだ・・・やっと静寂を迎えることが出来た。

やっと静かになってきた・・・


俺は地面にそっと降ろされていた。

気が付くと正面から倒れ込んでいた。

顔を打ち付けたみたいだが痛みも感じない。

もう、どうだっていい・・・

俺は仰向けにされていた。

全て吐き出してしまったな・・・

少々気持ちいいぐらいだ。

俺は空になってしまったみたいだ。

・・・どうでもいい。

無性に泣けてきた。

何でなのかは分からない。

ただただ涙が頬を伝っていた。

もう何も考えられない・・・


ふと気になってしまった。


「なあ・・・シマノ・・・お前は創造神なのか?・・・」

シマノが俺の近くに腰かけた。

こいつの存在感の絶大さに俺は敗北を感じていた。

こんな奴に勝てる訳がないだろう・・・


「いいや、違うな。俺は創造神じゃないよ」


「そうなのか?・・・なのに何でそんなにも強く、様々な能力を持っている?」


「様々な能力?」

どうせこいつのあり得ない噂は真実なのだろう。

でなければ納得がいかない。

こいつは気持ち悪いぐらいに存在感がデカい。


「そうだ・・・噂は聞いている・・・お前は瞬間移動したり、急激に作物を成長させたり出来るんだろう?・・・それに俺を念じるだけで放り投げていたし、浮かんでもいた・・・違うか?」


「違わないなあ」

じゃあなんで創造神じゃないんだ?

それだけの力を有しているだろうが?


「だったらお前は創造神じゃないか?そんな事は創造神しか出来ない事だろうが」


「でも俺は創造神では無い・・・まあ今は成る予定だけどな・・・・」

なる予定?俺と同じで創造神を目指しているってことなのか?

それにしては余りに背が遠すぎる。


「・・・」


「創造神が気になるのか?」

気になるに決まっているだろうが・・・だって俺は・・・


「俺は創造神に成ることを目指していた・・・」


「それで・・・」


「俺は創造神に成って・・・創造神に成って・・・成って・・・」

・・・ああ・・・俺は何で創造神に成ろうとしたんだ?

あれ?何だったっけ?

思い出せない・・・どうして・・・

そんなこと・・・覚えてな・・・ああ・・・そうだった・・・そうだった・・・くそぅ!俺はどうして!・・・


「成ってどうしたかったんだ?」


「・・・ああ・・・俺は何でこんな大事な事を忘れてしまっていたんだ・・・何で・・・ああ・・・俺は余りに馬鹿だ・・・そんなことも忘れて・・・ああ・・・もう死にたいよ・・・」


「死にたきゃあ勝手に死ね・・・そんな事よりお前は何で創造神に成りたかったんだ?崇め奉まつられたかっただけじゃないよな?成ろうと思った切っ掛けかは何だったんだよ?」

勝手に死ねか・・・それも悪くないな・・・切っ掛けか・・・やっと思い出したよ。もういい・・・吐き出してやる。


「それは・・・ザックおじさんを・・・俺の父親代わりの恩人を・・・蘇生したかったんだ・・・俺はザックおじさんと・・・でも俺は・・・いつしかそんなことも忘れてしまっていたみたいだ・・・何なんだよ・・・くそぅ!」

・・・・

ザックおじさん・・・会いたいよ・・・俺はどうしてこんな大事な事を忘れてしまっていたんだ?俺は大馬鹿者だ・・・自分で自分が嫌になる・・・俺はもう終わってしまった。

でもどうして・・・こんな大事な事を・・・


「俺はザックおじさんと・・・一緒にワインを飲みたかっただけなんだよ・・・馬鹿みたいに騒いで・・・どうでもいい事を話して・・・ああ・・・ザックおじさん・・・ごめんよ・・・許しておくれよ・・・ザックおじさんは忠告してくれていたのに・・・なんで俺は・・・くそぅ!くそぅ!!」

自分で自分が許せない!

もういい。

この人生を終わらせよう・・・そうすべきだ・・・


「ラファエル、ちょっと待ってろ」

はあ?何をだ?


「え?」

シマノが消えた・・・




俺はラファエルが生を得るところから眺めることにした。

こいつがどんな人生を歩んで来たのか気になってしまったからだ。

そしていきなり驚いてしまった。

俺と生年月日が一緒じゃないか・・・それも生まれ落ちた時間まで・・・一分一秒違わず・・・

生を受けたその時から俺とラファエルは因果律に捕らわれていたみたいだ。

創造神の爺さんよ、いい加減にしてくれよ。

結局はこうして対峙する運命だったんじゃないか・・・

だったら教えておけよな・・・やれやれだ。


そして地球でラファエルが行ってきたことや様々な出来事を知ることが出来た。

国は違えど同じ時間軸であったこともあり、ありありと地球でのラファエルを知ることができた。

俺の感想は簡単だった。

はっきり言ってこいつは大馬鹿者だ。

全てを舐めている。

どうしてこうも高飛車に成れるのか?

俺には分からないな。

余りに感謝がなさ過ぎる。


確かにその能力値は高い、そこは認める。

実際何でも熟す事が出来ていたし、頭も良いと感じてしまった。

だが余りに自尊心が高すぎる。

それにあり得ないぐらいに上から目線だ。

そして残念なぐらい貧弱だった。

困難に立ち向かうという姿勢が弱過ぎる。

自分に都合が悪くなると逃げてしまう。

それに他者を舐め過ぎている。

後は驚くほどに無慈悲だ。

こいつは本気で叱られたことが無いんだろうなと思う。

実に哀れだ。

俺は決して同情などしないのだが・・・

だが・・・


そしてこの異世界に転移してからのファラエルは見ごたえがあった。

というのもこの世界に転移してからのラファエルは心を入れ変えたかの如く頑張っていたからだ。

ここは認めても良いと率直に思えた。

勿論その陰にはザックおじさんの功績があったのも理解している。

この二人の関係性を俺は好きだなと感じてしまっていた。

そして少々残念に思えたのは、もしザックおじさんがラファエルに慈悲深くあれと説いていたら、ラファエルは神に成れたのかもしれないと思ってしまった事にあった。

そんなことは結果論でしか無いし、俺が口を挟むことではない。

そしてもうあと数年ザックおじさんが生きていたなら、話は変わっていたのかもしれない。

此処には同情を挟む余地はあった。

でもそれも含めての人生とも言える。

全てのタイミングが上手くいく人生なんて無いのだから。

何とも歯痒いと感じてしまった。

俺はラファエルよりもザックおじさんに同情してしまっているのかもしれない。

この一見冴えないおじさんは人としての寛容さ、そして器の大きさがあった。

そして慈悲深くその人柄も好感が持てた。

この人こそ神の素質があると感じてしまった。

許されるならばこの人と話してみたいと思った。

勿論そんなことはしないが。

時間軸は弄りたくない。

さて、どうしたものか・・・




俺は基本時間軸に帰ってきた。

恐らくラファエルとクモマルからは俺が一瞬消えて、また戻ってきた様に見えているのだろう。

一秒も経過してはいない。


「ラファエル、お前は大馬鹿物だよ」

俺は吐き捨てる様に言った。

そしてラファエルを『念動』で立たせた。


「・・・」

ラファエルは力なく俺を見ていた。


「お前の人生を見てきたぞ」


「何?そんな事が可能なのか?」

ラファエルは慄いていた。


「ああ、可能だ。俺には時間旅行という能力があるからな。過去にも未来にも行くことができる」


「そうなのか・・・敵わないな・・・」

今度はラファエルは項垂れている。


「そんな事はいいとして、お前この先どうしたいんだ?」


「それは・・・もう俺には何もない・・・帰る場所も・・・やることも・・・もう死のうと思う・・・シマノ・・・俺を殺してくれ・・・お前なら簡単にできることだろう?」


「本当にお前は大馬鹿者だな、そんなことやれてもやる訳ないだろう?神に成ろうって者がなんで殺しを行わなければいけないんだ?あり得ないだろう?ちょっと考えれば分る事だろうが!」

ラファエルの目線が揺れる。


「そう・・・だよな・・・」


「慈悲の無い奴だ・・・でもせっかく死ぬってんならお前に選ばせてやる。選択肢は二つだ。先ず俺とクモマルは何もせずにここから帰る。もうこちらからお前に用事は無い。この神石は全て回収させて貰うがな、死にたきゃあ勝手に死ね、生きたきゃあ勝手に生きてろ。だがもう誰かに迷惑はかけるなよ」


「ああ」

ラファエルは力なく返事していた。


「もう一つは・・・お前をザックおじさんに会わせてやる」


「な!本当か?」


「本当だ、お前を過去に連れて行ってやる。だが勘違いするな。これはお前の為では無い。ザックおじさんの為にだからな」


「嘘だろ?」

ラファエルは眼を見開いていた。


「だが過去に行ったらお前は確実に死ぬ」

ラファエルは肩眉を上げている。


「どういうことなんだ?」


「お前は進化して仙人になっているが、まず間違いなく時間旅行に耐えられない。もって一日だろう」


「そうなのか?」


「ああ、時間の膨大な情報を処理できなくて脳が焼き切れるだろう」


「そうか・・・」


結局の所、俺は甘いみたいだ。

ザックおじさんの為と言いつつも、俺はラファエルを見過ごせなかったもの事実だ。

こんな大罪人に手を差し伸べようとしているのだから。

アイルさんや創造神の爺さんには呆れられるかもしれないな。

お前は甘すぎると叱られるのかもしれない。

それにラファエルを過去に連れて行くことはこいつの介錯になるのだし。

もしかしたら自殺の幇助になるのかもしれない。

こんな事に手を貸すべきでは無いのかもしれない。

でも俺の中の何かが、そうしてやれよと囁くのだ。

こんな大馬鹿者にでも最後に夢は見させてやれよと。

どうせ外っといても勝手に死ぬんだろうし。

ならばそれぐらいはしてやってもいいんじゃないかと・・・

俺にはそれが出来るのだから・・・


「好きに選べばいいさ、どうする?ラファエル?」

ラファエルは逡巡した後に真っすぐに俺を見据えてこう言った。


「ザックおじさんに会わせてくれ!お願いだ!」


「・・・そうか分かった」

ラファエルは涙を流していた。

それは潔い涙だった。

そして俺は『収納』に手を突っ込むと最後の世界樹の実を取り出した。

それをギョッとした表情でクモマルが見ていた。

今にもお止めくださいと止めに入ってきそうだ。


「ラファエル、お前まだ心が穏やかになってないだろう?」


「分かるのか?」


「ああ、まじまじと分かるよ、これを食ってみろ」

一瞬クモマルは止めに入ろうとしたが思い留まったみたいだ。

クモマルは心配しつつも俺への信頼が上回ったみたいだ。

信頼した表情でこちらを見ていた。

俺はラファエルに世界樹の実を渡す。


「ラファエル、頭がすっきりするぞ、食べて見ろ」

一瞬たじろいだラファエルだが、もうどうとでも成れと考えたのだろう。

一気に世界樹の実を齧った。

ラファエルが金色の光に包まれる。


「おお!おおおーーーー!!!」

ラファエルは叫んでいた。

そしてラファエルは憑き物がとれたかのかの如く、すっきりとした顔をしていた。

もう精神は穏やかになったであろう。

その表情が語っていた。


「ああ、久しぶりに頭がすっきりした」


「そうか、良かったな」


「すまない、シマノ」

ラファエルは頭を下げていた。


「クモマル、浄化魔法を掛けてやってくれ」


「御意!」

クモマルはラファエルに手を翳すと、


「浄化」

と唱えた。

ラファエルが一瞬にして綺麗になる。


「恩に着る」


「いいって事よ、さあ、これを持っていけ」

俺は『収納』からワインを四本取り出してラファエルに渡してやった。

手ぶらとはいかないだろう。

最後の酒だ、死ぬ気で飲め!


「何から何までありがとう、シマノ」


「いいから行くぞ、準備はいいか?」


「頼む」

俺はラファエルの肩に手を置いて時間旅行を発動した。

フュン!


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