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世界樹の葉を求めて

俺達は収穫作業を行っている。

最近はほとんど午前中は、収穫作業に追われている。


実は更に畑を拡張したのだ。

本当はそうしたくはなかったのだが・・・

そうせざるを得ない出来事があったのだ。


温泉街『ゴロウ』に訪れた帰り、温泉旅館でのチェックアウトを終え、五郎さんに挨拶をしにいった。


「五郎さんお世話になりました」


「ああ島野、また来いよ」

俺達は堅い握手を交わした。


「そういえば五郎さん、話し込んじゃってて忘れてましたが、これ貰ってください」

俺は『収納』から野菜セットと、ワインを三本取り出した。


「お土産です、どうぞ」

すると五郎さんの表情が豹変した。


「島野、お前え・・・」

五郎さんが固まっている。

ん?何か俺間違ったか?


「島野ちょっと待っててくれ!な!頼むよ、な!」

必死になって、五郎さんが頼み込んでくる。


「えっ!いいですが・・・」


「すまねえ、待っててくれや!」

そう言うと五郎さんはお土産を抱えてどっかに行ってしまった。

俺は皆と目を見合わせて何事かと確認したが、全員分かりませんという表情。

そのやり取りを見ていた受付の女性が、よかったらこちらにどうぞと、応接室に誘導された。


結局三十分程待たされた。

既に入れて貰ったお茶は空になっている。

すると扉を興奮気味に開けて、部屋に雪崩れ込んで来た五郎さん。


「島野、お前え野菜を売り歩いているって言ってたよな」

明らかに興奮している五郎さん。


「はい、そうですが・・・」

余りの勢いに俺はちょっと引いている。


「在庫は今どれぐらいあるでえ?」

五郎さんの勢いは止まらない。


「そうですね、先ほど渡した野菜なら、十倍以上はあるかと思います」

五郎さんの目が輝く。


「島野!野菜を全部売ってくれや!」


「「「ええー!」」」

なんですと?全部?


「お前え、なんだよこの野菜はよ!無茶苦茶旨えじゃねえかよ!」

五郎さんの興奮は止まらない。


「あ、ありがとうございます」

褒められて嬉しいが、にしても全部って。


「でよ、これは相談なんだがな、定期的にこの街におめえの野菜を卸しちゃくれねえか?なんならお前えの言い値でも構わねえ」

はあ?言い値でも構わないってどういうこと?


「ちょ、ちょっと待ってください、五郎さん言い値でって、流石にそれは・・・」


「お前え何言ってやがる、この野菜の価値はとんでもねえんだぞ!」


「いやー、とは言っても」


「じゃあ金額の設定は儂の方でさせて貰う、それでどうでえ?」

まあ五郎さんなら買い叩くようなことはしないとは思うが、定期的にってのはちょっと困るな。


「じゃあ価格の設定は五郎さんに任せますが、定期的にってどれぐらいのことなんでしょうか?」

無茶言わないでくれよ、週三以上は無理だからね。


「そうだな、今回貰った野菜の十倍を週に二回ってのでどうでえ、細けえ調整は追々やっていこうじゃねえか」

俺は腕を組んで考えていた。

その量を収穫するとなると、今の畑を拡張しなければならないな、それに当分の間、畑に掛かりっきりになってしまう可能性が高い。

旅行生活は続けられるか微妙だな。


「うーん、やってやれなくはないですが、うーん」


五郎さんが勢いに任せて言った。

「やれなく無えんだな、よっしゃ、なら任せる!頼んだぞ島野、同郷のよしみだ、よろしく頼むぜ!」

強引に決められてしまった。

五郎さんそりゃないよ、はあ、言葉のチョイスを間違えた俺が悪いんだけどさ、ここで揚げ足取りはないでしょ?


まあ、五郎さんの必死な顔をみる限り、多分俺は最終的には受けただろうし、一先ずはやってみましょうかね。

やれやれだ。


ということがあり、五郎さんの押しに負けた俺は、畑の拡張をせざるを得ないこととなってしまったのだ。

だが、譲れない点もある。


平日の午前中に皆で畑作業を終える量を限界として、請け負うことにした。

どうしても仕事に追われる生活だけはしたくない俺としては、これ以上は受け付けない。

スローライフとサウナ満喫生活は外せない。

既にやり過ぎているとすら感じているのも事実だ。

これが五郎さんの頼みでなければ絶対に受けない。

サウナ満喫生活を基本とする俺としては、仕事に追われるなんてことはあり得ないのだ。


まあ、その分ありがたくも大口取引先となった『ゴロウ』の街からの収入は大きく、気が付けば俺の預金高は三千二百万円を超えていた。

何とも微妙な気分だ。

お金はあったにこしたことはないが、今はそこまで必要としていない。

今のサウナも十分満足のいく状態だし、強いて言えば水風呂を新たに作り直すかどうかぐらいだけど、今やる必要もない。


午前中の畑作業を終え、皆で昼飯にすることにした。

今日の昼飯は、アイリスさんのリクエストで、野菜炒めとなった。

アイリスさんは本当にこの島の野菜が大好きだ。


キャベツ・玉ねぎ・人参・にら・ごぼう・アスパラ・ナス・ほうれん草と何でもありのぶっこみ野菜炒め、アクセントに生姜とニンニクを効かせ、物足りなさを与えない為に、ジャイアントピッグの肉は多めに入れておく。

これを醤油と塩コショウで味を調え、最後に水溶き片栗粉であんかけを加えて調理完了。

後はご飯と味噌汁を添える。


「では」


「「「いただきます!!」」」

大合唱。


一斉に食事を開始する。


「旨いですわ」

満足そうなアイリスさん。

他の家族も満足そうだった。

よかった、よかった。


食後にくつろいでいると、ギルに声を掛けられた。


「パパ、昼からどうするの?」


「ああ、釣りでもしようかと思ってるよ」

今では釣りは俺の趣味になりつつある。

今日は何が釣れることやら。


「僕も行っていい?」

珍しい申し入れだった。

嬉しいじゃないか。

親子二人肩を並べてのんびり釣りをする、最高だね。


「ああいいよ、ギルは釣り竿は持ってたか?」


「無いよ」


「じゃあ、造る処からだな」

親子での良き語らいの場になるかもな、などと俺は考えていたのだが・・・




ギルの釣竿を造り終え、海岸に来た俺達。

最近はそれなりに釣果を得られるようになった。

その要因は『探索』を行うようになったからだった。


流石に魚のいない海に竿を垂らし続けるほど暇ではない。

とはいっても、魚もいろいろでエサに食いつかない魚もいるので、釣果はボウズの日もある。

俺が訪れる磯ではよく鯛が釣れる。

今日鯛が釣れたら晩飯は、カルパッチョにする予定だ。

オリーブオイルを掛けて・・・美味そうだな。

鯛以外の魚も多くいるので、それ以外の魚が釣れたら、その時考えようと思う。


他にはどんな魚が釣れるのかって?


今まで釣れたのは、サバ、アジ、イワシ、カサゴ、メバル、といったところが多く、後はカレイやキスもたまに釣れる。そういえば一度イカが釣れたことがあったが、あれはなかなかの引きだった。

また出会ってみたいと思える大物だ。


地面に胡坐をかいて、さっそく『探索』を行った。


ん?これは?・・・行かなきゃいけないか・・・


「ギル、人命救助だ」

俺がそう言うと、察したギルが獣型に変身した。

ギルに跨り海上へと向かった。


『探索』には五名の反応と、大きな海獣の反応があった。


「ギル、こっちの方角だ。なるはやで頼む」


「分かった」

ギルは一気に速度を上げた。




目的地に到着した。

どうやら船に乗ったハンターらしき一団が、海獣に襲われている様子。


「やあ、大変そうだね」

俺は声を掛けた。


ハンターらしき者達は、目を見開いてこちらを見ている。

全員が状況を理解していない表情だった。


ジャイアントシャークが先頭にいる戦士風のハンターに襲い掛かろうとしていた。


『鑑定』

ジャイアントシャーク 海の荒くれ者 食用可 ただし、ヒレ以外は美味しくない


美味しくないんかよ、じゃあ殺すのは止めておこうかな。


俺は左手の一指し指をピストルにして構えて、神気を放った。

海上に躍り出たジャイアントシャークは神気銃で撃たれて気絶し、海下に沈んでいった。

水飛沫が広範囲に飛び散っている。


「パパ、一発だったね」

ギルが笑いながら言った。


「ああ、美味しくないんだって、だからこれでいいだろう。無駄な殺生は趣味じゃないからな」


「そうだね」


船のハンターらしき一団を見ると、全員放心状態で俺達を見つめていた。

よく観察すると、俺は一人の法衣らしき服を来た女性に目が留まった。

顔は蒼白で、唇が紫色をしていた。

その目からも生命力を感じない。


他の者達を見てみると、肘から先が無い者や、顔を包帯で覆っている者、指の欠けた者がいた。

明らかに負傷者の集団だ。


ということは、世界樹の葉が目的なのは一目瞭然だ。

いつかはこういう日が訪れるとは予想していたが、案外早く来たな。

そろそろ俺も腹を括らないといけないということだろう。


それにしてもこいつら・・・命がけできやがったな・・・追い返すこともできるが・・・そうもいかないよな・・・特にあの女性は不味そうだ・・・命の灯が消えかかってそうだ・・・受け入れるしかないな・・・

俺はもう一度女性に目を向けた。

急いだほうがよさそうだ。


俺は船に飛び降りた。


「俺は島野守という。どうやら急いだほうがよさそうだ、船を牽引させてもらうぞ」

と告げ、ギルに指示を出した。


リーダー風の男が、何か言いたげだったのを手で制し、

「話は上陸してからだ」

拒否の意を示した。


その後、操船をしていたであろう犬の獣人に声を掛ける。

「帆が邪魔になるからたたんでくれ」


犬の獣人は頷くと、無言で作業に取り掛かった。


ギルは船頭を後ろ脚で掴み、

「全速でいくよ、揺れるから何かにつかまっててね、おじちゃん達」

前傾姿勢を取り飛ぶ勢いで船を引っ張りだした。


彼らを見ると必死に船につかまり、投げ飛ばされないようにしていた。


俺は『念話』でアイリスさんに告げる。

「アイリスさん、どうやら世界樹の葉目的のお客さんのようです」


一つ間をおいて返事があった。

「そうですか、遂にきましたか。守さんに全て任せますわ」


「分かりました、直ぐ着きますので、他の者にお茶の用意をさせておいてください」


遂にか・・・アイリスさんもどこかでこういう日が来ると考えていたんだろうな。

だが今の彼女には俺達が付いている。

悲しい想いは二度とさせない。


「分かりましたわ」


船は猛スピードで、島へと向かった。




海岸に辿りついた。

船は海に流されないように、浜辺までギルに上げさせた。

浜辺で俺達と合流した、ノンとゴンとエルが、ハンターらしき一団の介抱を行っている。


アイリスさんは俺の隣にきた。

目が合うと軽く会釈された。


アイリスさんも気になるのだろう、法衣らしき服を着た女性の方を見ている。

その女性は手渡されたお茶をゆっくりと飲んでいた。

ハンターらしき一団は全員浜辺に座り込んでいる。


するとリーダーらしき戦士風の男性が、その女性に話し掛けた。

「メルル、大丈夫か?」

メルルと呼ばれた女性は、かすかに苦笑いをした。


さて、そろそろ始めたほうがよさそうだ。


「先ほども名乗ったがもう一度名のろう、俺は島野守、島野と呼んで欲しい。それで君達は世界樹の葉が目的なんだろ?」

島野一家に緊張が走った。


俺は『念話』でギルに伝える。

(大丈夫だ、俺に任せろ、皆にも伝えてくれ)

ギルから皆に『念話』が伝わり緊張が解ける。


先程メルルと呼ばれた女性に話し掛けていた戦士風の男性が立ち上がり、前に出て来た。


「ああそうだ、話が早くて助かる。それで世界樹の葉はあるのでしょうか?」

不安そうな表情だった。

目の奥に懇願する姿勢が伺える。


「世界樹の葉は・・・在る」

安心して力が抜けたのか男性が膝をついた。


そして涙ながらに言った。

「本当か?よかった!ああ、助かる、一枚でいいんだ!お願いだ。俺達に分けてくれないか?何でもする。お願いだ!」


懇願していた。

その表情は必至で、周りの目などお構いなしだ。

両手を顔の前で組んで、必死に願っている。


「俺からも頼む、何でもさせて貰う、お願いだ!」

今度は犬の獣人が土下座してきた。

他の二人も必死に頭を下げている。


「お願いします!」


「頼みます!」

口々に懇願している。


仲間想いの一団ってことだな。

必死さは充分に伝わってくる。

だがこちらも、はいそうですか、とはいかない。

この決断によって俺達の人生が変わるといっても過言ではないからだ。

特にアイリスさんにとっては大きな決断となる。


答えは分かってはいるが、アイリスさんに『念話』で尋ねた。

(世界樹の葉を分けてもよろしいですか?)


(はいそうしてください、あの女性に使って下さい。煎じて飲ませれば大丈夫です、完治しますわ)

そう言うと思ってましたよ。


もう一度メルルを見た。

そろそろ潮時だな、いいでしょう。

俺も腹を括るよ。


「分かった、だが本当に一枚でいいのか?」


「ああ、分けて貰えるなら、俺はそれで構わない」

リーダー風の男性が言った。


「ほんとに馬鹿なんだから・・・」

メルルと呼ばれた女性が消え入りそうな声で呟いた。


「分かった、但し条件がある」


「条件とは?」

犬の獣人が眉を寄せて呟いた。


「取り敢えずそれは後でもいいだろう、何でもするって話なんだろ?だったら先ずはその女性の治療が先だろう?」


「そりゃそうだ、すまねえ」

犬の獣人が軽く会釈をした。


「ちょっと待っててくれ」

俺はそう言うと家の中に急須と湯呑を取りに言った。

台所で世界樹の葉を急須で煎じて、急須と湯呑を持って女性の所に向かった。

軽く急須を回す。

そろそろ蒸されていい頃だろう。

湯呑にお茶を入れる、そのお茶は緑色と金色を纏っており、神々しさすら感じさせるお茶だった。

女性に渡すと大事そうに両手で受け取り、軽くお辞儀をしてから飲みだした。


「熱いから、ゆっくり飲むんだぞ」

女性は軽くコクリと頷いた。

すると身体が光輝いた。

メルルと呼ばれていた女性が、金色の光に包まれている。


その効果は一目瞭然だった。

紫がかった唇は薄いピンク色へと変色し、蒼白だった肌色は赤みが増して、自然な肌色になっていった。


アイリスさんを見ると微笑しており、病が完治したと、その表情が教えてくれた。

一先ずはこれで一段落。


さて、これからが大変だと考えている俺をよそに。

ハンターらしき一団と俺以外の家族は、歓喜の渦に巻き込まれていた。

一団は全員涙を浮かべ、俺の家族達も泣いていた。


ノンとギルは鼻水を流しながら、

「本当に良かった!」

「治った!治った!」

叫んでいた。


他の者も次々に、

「メルル、よかったな」


「凄い!奇跡だ!」


「良かった!」


「助かりましたの」

等と口にしていた。


一人冷静な俺は薄情なのか?

なんて思いながらも、若干の疎外感を感じたのだった。

ふん、貰い泣きなんかするもんか!




一つ咳払いをしてから俺は話しだした。

「さて、興奮冷めやらぬところ申し訳ないが、そろそろ会話を始めたいのだが、いいかな?」

俺はリーダー風の男性に淡々と述べた。


「ああ、すまない、いやー助かった。本当にありがとう。なんとお礼を言ったらいいのか」

涙を拭いて立ち上がった。

その顔は万遍の笑顔だった。


「もう少し、余韻に浸ろうか?」

余りの笑顔につい気遣ってしまった。


「いや、もう充分だ。お前ら、話を再開するぞ」


「「「ああ」」」

座っている者は立ち上がり、俺を中心に集まってきた。

全員が俺に向き直り姿勢を正した。


「先ずは自己紹介をしてくれないか?」

俺は促す事にした。


「そうさせてもらおう、俺達はハンターチームで『ロックアップ』というチーム名でやっている。俺がリーダーのマークだ」

やっぱりハンターチームだったんだな。


犬の獣人が続けた、

「俺が副リーダーのロンメル、斥候を担当している」


頭に角を生やしたごつい獣人が続く、

「おれはランド、見た通り獣人だ。アタッカーをやってる」


ローブのようなマントを着た髭の男性が続く、その顔に撒かれた包帯が痛々しい。

「私はメタン、魔法士をやっております。以後お見知りおきを」

メタンは仰々しくお辞儀をした。


「私はメルル、この恰好の道り、僧侶をやってるわ」

メルルはまだ少しふら付いている様子。


「ノン、椅子を貸してやってくれ」


ノンは椅子を取りに行きがてら、

「僕はノンだよー!」

大声を出しながら、ノンは家の中へと消えていった。


「僕はギル、さっきは大変だったね。ジャイアントシャークに喰われなくてよかったね」


ギルがそう言うと、

「嘘だろ、さっきのドラゴン様かい?」

ロンメルが呟いた。


「そうだよ、僕だよ」


「「「ええっ!」」」

ロックアップ一同は驚いていた。


ウン!と咳払いしてからゴンが続けた、

「私はゴンです、今は人化してますが、九尾の狐です。よろしくお願いいたします」

声を失っている一同。

何故だかドヤ顔のゴン。


「私しはエルですの、私しも人化してますの」

そう言うと共にエルは獣型へと変化した。


「「「おおっ!」」」

思わず声を挙げる一同。


てか、こいつらなにやってんの?

そんなに驚かれるのが楽しいのか?

それを察してか、ノンが獣型で椅子を咥えて帰ってきた。


アホや、こいつらアホや。


「嘘だろ!」


「まじかよ!」


「どういうことだ?」

等と言って、言葉を失うロックアップの皆さん。


おいおい、こんな初手で躓いてたら、話が進まんでしょうが。

勘弁してくださいよ。


ロンメルが後ずさりしながら言った。

「もしかして、タイロンの英雄か?」


あーあ、始まった。

こりゃあ収集付くまで時間がかかるぞ。

駄目だこりゃ。


「そうだ、聞いたことあるぞ、神獣と聖獣を連れた一団で、タイロンを救ったって・・・」

マークが続ける。


「ああそうだ、俺も聞いたことがあるぞ。何でも魔獣化したジャイアントイーグルを十体も狩ったとかって嘘だろ?英雄に会えたよ・・・」

ランドも続いた。


俺達は羨望の眼差しで見つめられている。

そして俺以外の家族は全員ドヤ顔をしている。

なんでアイリスさんまで・・・てか、あなた自己紹介まだでしょうが!


「あー、もうもうもう、そういうのいいから、次行くよ、次」

俺はバッサリと断ち切った。


アイリスさんを肘で突いた。

あらま、とお道化るアイリスさん。

あんた、そんなキャラだったっけ?


「私はアイリス、世界樹の分身体です。よろしくお願いいたしますわ」


しまった!

アイリスさん、ワザと最後まで待ってたな。

やられたー。

案の定、場の空気が凍り付いた。


「い、今なんと?」

言葉にならないマーク。


「ええ、ですから世界樹の分身体ですわ」

『ロックアップ』の皆さんは、完全に現状を見失っている様子。


「そうだよ、アイリスさんは凄いんだよ」

何故か威張るギル。

ウンウンと他の皆も頷いている。

なんだかな・・・


「あのー、島野さん。俺達まったく付いていけないんですけど・・・」

マークが呟いた。

そうですよねー。

でしょうねー。


「すまないが、なんとか飲み込んで欲しい」

俺は無茶振りをした。

それしかないな、うん、うん。

皆さん正気に戻って下さいな。


俺は手を叩いた。


「はい!随分驚きの事とは思いますが、今は話すべきことがありますよね、皆さん!脱線はこのぐらいにしておきましょうね!」

敢えて大声で言った。

場を仕切り直したい。


すると『ロックアップ』の皆さんは、徐々に正気を取り戻し出した。


「取り敢えず場所を変えましょう」

そう、こういう時は場所を変えて、気分新たにってね。

俺はいつも食事をしているテーブルへとロックアップ一同を誘導した。

俺の隣にはアイリスさんが座り、俺の正面にはマーク、その隣にメルルが座った。

それ以外の者達は適当に、テーブルの周りに立っている。


「さて、世界樹の葉だが、実はまだ数枚持っている」


「「「えっ!」」」

ロックアップの皆さんの表情が一変した、気を引き締め直した様子。


「な、何枚持ってるんですか?」

マークが恐る恐る質問をしてきた。


実はコロンの街に旅立つ時に、念の為にといって、アイリスさんが世界樹の葉を五枚持たせてくれたんだよね。

だからあと四枚あるが、正直に言うべきか、言わざるべきか、どうしようか?


「四枚ある」

正直に言ってみた、だってアイリスさんに言ったら、世界樹の葉をもっとくれるに決まっている。

変な駆け引きは無しということで。


「四枚も・・・」

メルルが呟いた。


「そこで、君たちにもう一度問う、あと何枚必要なんだ?」

ここでロンメルが口を挟んだ。


「いや、島野の旦那待ってくれ、その前にさっき言ってた、条件について教えてくれないか?」

旦那って・・・本当に言う奴いるんだな、それに呼ばれてみても嫌じゃないものだな。

でもこいつ結構鋭いかも、いいねえ。

ちゃんと副リーダーやってるね。

嫌いじゃないよ、こういう奴。


「この島に全員で働いて貰う」


「働くって何をするのでしょうかな?」

メタンが言った。

目が見えなきゃあたり前の質問だな。

自分がちゃんと戦力になる仕事なのか知っておきたいだろうしな。


「主に農作業、後は家畜の世話や場合によっては狩りや、海に漁に出るのもいいかもな。あとはそうだな、明日にでも個人面談をして役割は決めようと思う」


「私に務まるのでしょうか?」

不安を隠さずにメタンが言った。


「それは君次第じゃないかな?」

決して根性論とかで言ってるんじゃないぞ。


「それはいつまででしょうか?」

マークが聞いてきた。


「うーん、もしあと三枚要るってんなら、四ヵ月ぐらいでどうだ?それに片手が無くて、目も見えない、指が無いでは畑作業が出来ないだろう?」

『ロックアップ』の皆さんは目を見開いていた。


「島野の旦那、あんた本気かい?」

ロンメルは信じられないといった感じだった。


「本気も本気、住む家と食事はちゃんと提供するし、この際だから福利厚生もちゃんと整えようと思う」

そう福利厚生は大事だ、ケガや病気の保証は当たり前として、他にも風呂やサウナも使っていいし、ビールは二杯ぐらいまででどうかな?


「福利厚生って何でしょう?」

メルルが困惑した表情で聞いてきた。


「ああ、後々教えるよ。あとはそうだなー。働き過ぎは良くないから、交代で週二で休暇を取るようにしよう」


あれ?またロックアップの皆さん固まってるぞ。

もしかして俺もやっちまった?


「島野さん、ちょっと整理させてください」

マークが上を見ながら言った。


「どうぞ」


「世界樹の葉を三枚くれる」


「はい」


「四ヵ月この島で働く」


「そうです」


「主に農作業を行う」


「そうなるね」


「家と食事を提供してくれる」


「うん、うん」


「週二で休暇を取る」


「その通りだな」


何かおかしいか?


「って、あんた神様ですか?」


まあ似たようなもんだな。


「うーん、実は神様みたいな者なんだよな、ハッハッハッ!」

て、違う意味でだけど・・・あれ?・・・なんだかまたおかしなことに・・・

あ、完全に終わった。

『ロックアップ』の皆さんは漏れなく気絶していた。

漫画であればチィーン!てやつだな。




気絶した一同を適当にその辺に寝かせておき。

一先ず晩御飯の準備を始めた。

特に準備もしてなかったので、バーベキューにしようと思う。


ジャイアントボアの肉を、醤油とニンニクと生姜に漬けておく。

後は野菜を切り分けて、ウインナーに串を刺しておく。

あと揚げ出し豆腐と果物をいくつか準備しておこう。


取り敢えず食材はこんな処かな?

まだ少し早いが、バーベキューコンロの墨に火を焚べて、いつでも始めれるようにしておく。


それにしても『ロックアップ』の皆さんは仲が良いようでなによりだ、このタイミングで人が増えるのは正直言ってありがたい。

こちらとしても助かる。

これで五郎さんの無茶ぶり注文にも応えられるかもしれない。

ありがたや、ありがたや。


ゴンを呼んで、治療が必要な三人を起こすように指示した。

マークにライドにメタン、皆な治るといいな。

アイリスさんが言うには、欠損やケガは、煎じて飲むよりも、世界樹の葉を直接傷口に擦り込んだほうがいいらしい。


ゴンが三人を連れて来た。

先ずはメタン、顔に撒いている包帯を取って貰う。

横一線に痛々しい傷があった。

これは恐らく爪で抉られたんだろう。

俺はそこに世界樹の葉を取り出し、擦り込むように塗ってやった。

すると傷口が光り出し、傷口が塞がっていった。

そしてメタンは目が開くようになった。


「ああ、見える、見えます!島野様ありがとうございます!」

メタンは涙をこぼしていた。

よし!目が見えるようになってなによりだ。


次にランド、こいつがある意味一番の重症といっていいのかもしれない。

アイリスさんの言葉通り、左腕の傷口に世界樹の葉を擦り込むと、傷口が光り出し、驚くことに肘から先がどんどん生えて来た。

ランドは手を何度もグッパグッパを繰り返して、その感触を確かめていた。

こいつはもう泣き疲れた様子で、目を輝かせただけだった。


「島野さん、なんとお礼を言ったらいいか・・・」

感謝された。

うん、泣き疲れたよね、分かる分かる。


最後にリーダーのマーク、申し訳なさそうに俺の前に来た。

ランドの時と同様に、欠損した部分に世界樹の葉を塗り込むと指が光り出し、見る間に指が生えて来た。

マークもランドと一緒で手の感触を確かめていた。


「島野さん、本当に今日は驚くことばかりで、ついて行くのに必死です、でもこれだけは言わせて欲しい。あなたは俺達の命の恩人だ。本当に感謝する」

マークは深々と頭を下げていた。

まあ悪い気はしないよね、人助けは案外嬉しいもんだよな。


「さて、後の二人も起こして飯にしようか」

俺はマークに声を掛けて、バーベキューコンロに向かった。


皆ジョッキを片手に俺の号令を待っている。

大事を取ってメルルはお茶、ギルも問答無用でお茶にさせている。

ギル君、君は生後一年経ってないんですよ、まだアルコールはいけません。

他の皆はビールを手にしている。


咳払いをしてから俺は言った。

「では、新たな出会いと、今後の島の発展を祝って、乾杯!」


「「「「乾杯ー!!!」」」」

大合唱が木霊した。


「さあ、皆さん好きに焼いて食べてくださいね」


「ビールは飲み過ぎるなよ」


「野菜は生でもいけますよ」


皆が適当に、焼いては食って、飲んでを始めた。


「いやー、上手い、何だってんだこのビールってのは、最高だろ!」

ロンメルが有頂天になっていた。


「上手い、上手い、全て上手い」

メルルが野菜やら、肉やらをモリモリと食べていた。

凄い勢いで食べてるけど大丈夫なのか?

この人フードファイター的なやつじゃないでしょうね?


他の皆も同様に、

「美味い、最高!」

を連発していた。


こういう姿を見るのってなんだか楽しいなと感じた。

新たな仲間いいじゃないか。

大いに結構!


「さて、縁もたけなわですが、皆さんにはどうしても聞いて欲しい話があるので、食事をしながらでいいので聞いて欲しい」


皆がこちらを向いた。


「実は・・・」


俺は世界樹に纏わる話をした。

俺の家族はもちろんのこと『ロックアップ』の一同も真剣に話を聞いている。

そして最後にアイリスさんが締めくくった。


「私は二度とあの悲劇を繰り返したくは無いのです、どうか皆さん、協力しては貰えませんでしょうか?」

全員から拍手が起こった。

涙を浮かべている者もいた。


「俺達はアイリスさんを絶対に守ろうぜ、なあ皆よ!」

ロンメルが声高に言った。


「その通りですな」


「必ずだ」


「違いないわね」

口々に同意の返事であった。


マークがジョッキを上に翳した。

「アイリスさんに乾杯!」


「「「乾杯!!!」」」


一呼吸おいてから、

「ちぇっ!リーダーは直ぐに良いところ持っていきやがる、たまには俺で締めてもいいだろが!」


大爆笑が起こった。

皆一様に笑い、笑いの絶えない食事となった。

幸先良好である。

仲間っていいなと、俺はしみじみと思った。


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