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負傷者達

俺は考えている。

五郎さんとの会話を思い出していた。

五郎さんはあまりにも壮絶な人生を送っている。

だが同時に羨ましいとも思うのだった。

自分の好きなものに熱中し、そしてそれをやり遂げている。

これはなかなか出来ることではない。


一説には自分のやりたいことをやっている人は、人類全体の一割にも満たないとのこと、更にそれをやり遂げた人は更に一割しかいない。

夢に生き、夢を叶えた人はわずか1%ということらしい。

自分のやりたいことを見つけられず、人生を終える人が殆どであるということだ。

俺はどうなんだろうか?


自分が何をしたいのかについて色々と悩んだ時期も確かにあった。

だがしかし、今はそれすらも超えた何かを見据えようとしている自分がいる。

上手くは表現できないが、自分を突き動かす何かを感じているのだ。


それにしても五郎さんは凄いな、ほんと感心するよ。

俺もスーパー銭湯でも造ってみようかな?

なんてことはさておき、上下水道に関しては俺もどうしたものかと考えていた。

やっぱりインフラを整えるべきなんだろうか?

正直今はそこまでは困ってはいないし必要性も感じない。

だがあったら便利だろうなとは思う。

それに清潔になるしね。


畑の水撒きや風呂の水、特にトイレが水洗式になるのは嬉しい。

だがあまりに人手が足りない為、今から上下水道工事を行うには、掛ける時間とのバランスが合わないように感じる。

即決することでも無い為、今は取り敢えず置いておこうか・・・


手元に目をやり今やるべきことに切り替えることにした。

今から行うのはなんちゃって家電の作成だ。

造るのはなんちゃって冷蔵庫。


日本から電力を持ち込むことは容易ではあるが今は控えている。

太陽光パネルを購入し家電を持ち込み利用することは可能で、電力を持ち込めなくはないのだ。

若干不便だけど楽しい生活を満喫したいという想いがある。

詰まる所、俺は何かを一から作り上げることが好きなのだ。

現代日本の科学力を極力使わないことを俺は決めている。

まあとはいっても今はだけどね。

いつかは手を出すかもしれない。


さて、俺の持論はいいとして、作業を開始しよう。

『万能鉱石』を購入しアルミに変換する。

百センチ×八十センチの板状のアルミを八枚。

八十センチ×八十センチの板状のアルミを四枚。

後は五センチ×三百六十センチの同じく板状のアルミを四枚と、五センチ×三百二十センチの物を二枚用意した。

残る材料はゴム、畑で育てたゴムの木からゴムを抽出してある。


先ずは八枚造ったアルミ板を互いとして、その周りに五センチ幅のアルミ板を撒いていく。

これを四枚分行う。

そして同じ要領で八十センチのアルミ板も五センチ幅のアルミ板を撒いていく。

撒く作業には『合成』を使い、隙間なく完成した。

これにてアルミの立方体が出来上る。


そして全てのアルミ板に手を翳し『分離』にて、中の空気を抜きアルミ板の内部を真空にする。

冷蔵庫の扉となる部分の内側の縁にゴム付ける。


ここから細部の作業が始まる。

蝶番を作製し接地面に『合成』で扉に付ける。

冷蔵庫内部に区切りのとなるアルミ板をはめ込み『合成』で中板を設置する。

あとは勝手に扉が開かないようにヒンジを取りつけて。

なんちゃって冷蔵庫の完成となった。


魔法瓶の構造を利用したなんちゃって冷蔵庫である。

真空は熱を通さない性質があるらしく。

これを利用したという訳だ。

『収納』がある俺はいつでも冷えた物が飲めるし、食事を保存することが出来るが、他の家族達はそうともいかない為、便利になるのではないかと造ってみた。


早速なんちゃって冷蔵庫を開け、区切りのアルミ板の上に『自然操作』にて氷を作成し、お茶やらジュースやらの飲み物を『収納』から移し変えておいた。

最近では俺がこの島にいないことが多い為、皆には役立てて欲しい。

このなんちゃって冷蔵庫だが、勢いに任せて四台作成した。


いつも島にいるアイリスさんがとても喜んでくれた。

畑の横に置きたいと言われたが、まあ良しとしておいた。

土が混入したり、不衛生になるのではないかと思ったのだが、メインで使うのはアイリスさんなので許可することにした。


アイリスさんは畑仕事の後に飲む麦茶が大好物らしい、これからはキンキンに冷えた麦茶が飲めると嬉しそうにしていた。

とまあこんな感じで文化レベルが更に上がったのだが、これにはピンピロリーンは鳴らない。

鳴って欲しい気分だったので俺は心の中でピンピロリーンと呟いた。




俺の名前はマーク、人間だ。

俺はハンターをやっている。

俺達のハンターチームの名前は『ロックアップ』俺はリーダーを任されている。


『ロックアップ』は五名編成で俺は盾役をやっている。

その他のメンバーは斥候役のロンメル、アタッカー役のランド、魔法士のメタン、回復役のメルル。

基本的なハンターグループの構成だ。

ロンメルは犬の獣人で、ランドはミノタウロス、他の二人は俺と同じ人間だ。


俺はハンター歴十年を迎える、他のメンバーも大体同じ様なものだ。

このメンバーになってからは約五年になる。

いわゆるベテランの部類に入りハンターランクはBランク。

まあ、自分で言うのも何だが、それなりに顔も売れている。

獣であればだいたい狩れる自信がある。


だが魔獣化した獣は別だ、魔獣化した獣は手に負えない。

異常にその強さが増すからだ。

例えばDランクのジャイアントボアが魔獣化するとBランクの獣となる。これが複数体となるとAランクでは利かない時もあるぐらいだ。


魔獣化した獣に会うこと自体が稀なのだが、狩りに出た際には俺は一切気は抜かないようにしている。

ハンターは常に危険と隣合わせの職業だ、これまでにも何人ものハンターが、目の前で死んでいったり、四肢を欠損するところを垣間見てきた。


その場で死ねれば良いと俺は考えている。

何故ならば片腕のハンターは使い物にならないとレッテルを貼られるのがほとんどだからだ。

それに片腕の仲間に背中を任せるのは正直言って、心もとない。


実際片手を欠損したハンターは引退することが多く、又、再就職先はほとんどないのが現状だ。

そうならない為にも狩りの最中は決して気を抜けない。

詰まるところハンターとは狩るか狩られるかという職業だ。


最近の『ロックアップ』は、ハンター活動は控えめとなっている。

というのはメルルが病気がちで調子を崩しているからだ、メルル抜きでも狩りには行けるが、獲物次第では回復役抜きでは厳しいからだ。


ランクの低い獣を狙うという手もあるにはあるが、そこはあまり具合が良くない。

低ランクの獣を狩ってばかりいると、ハンター協会から目を付けられかねないからだ。


紳士協定といったところで、低ランクの獣は新人や低ランクの冒険者に任せるというのがマナーとなっている。

従って俺達のランクとなるとEランクの獣のジャイアントラビットに遭遇しても、狩らずにスルーするのがハンターとしての礼儀となっている。


今日はメルルが体調が良いということなので狩りに出ることにした。

最初にハンター協会に顔を出した所、グレートウルフが出たということだった。

グレートウルフならばこれまでにも何度か狩ったことがある為、狩りを行うことを決意した。


最悪二体までなら何とか出来ると思う。グレートウルフは気性が荒く、つがいであったとしても連携など取らないことで有名な獣の為、二体同時までなら何とか出来ると考えた。

俺達は狩りの準備を整えて、森へと入っていった。


「メルル、体調はどうだ」

こちらを睨むようにしてメルルが応える。


「だから大丈夫だっていってるでしょ?何回聞けば気が済むのよ?」


「何度も言ってるじゃないか、こいつの心配性は残念ながら病気な訳よ、なあメタン」

同意を求めるロンメル。


「まあそう言わず、リーダーは我々のことを気遣っているのですからな」

メタンがメルルを宥めている。

ほんとにメルルは回復役のくせして気が強いって、何の冗談だと呆れてしまうが、風魔法も使えるのでそういった面では心強くもある。

まあこれだけ元気ならば今日は大丈夫だろう。

いつも通りの狩りになるだろう。


「ハハハ、元気でいいじゃないか」

ランドも同意見のようだ。


まあ毎回こんな調子でもう慣れっこといった処だった。

まだ遭遇予定先には距離がある為、一旦休憩をすることになった。

各々用意した干し肉を食べ水を飲んでいる。


「そういやあ、こないだ酒場で聞いたんだがよ、捨てられた島って知ってるか?」

ロンメルが皆を見回して言った。


「捨てられた島?」


「ああ、そうだ」


「なんか聞いたことがあるわ、あっ、百年前に無人になったっていう島があるって聞いたことがあるような気がするわ」


「そう、その捨てられた島なんだけどな、なんで無人になったか知ってるか?」


「俺は知らないな、そもそもそんな島があることすら知らん」

干し肉を齧っているランド、不味そうに食べている。


「で、それがどうかしたのか?」

話を先に勧めるように促した。


「実はな、その島には世界樹があるらしい、だが百年前に世界樹の葉を付けなくなった様だ」


「ほう、世界樹の葉とな」

メタンは興味があるようだ。


「ちょっと待ってよ、世界樹の葉って伝説の回復薬じゃない」

メルルも食いついたようだ。


ロンメルはいつもこの調子で、どこで何をやっているのか、都市伝説や噂話を仕入れてきては狩りの前にメンバーに披露する。

これはこいつの趣味なんだろうか?と思うのだが、これはこれで助かっている面はある。

副リーダーでもあるこいつなりの、気遣いなのだろうと俺は思っている。


緊張感のある狩りの前のリラックスタイムとしてはとても有効だ。

副リーダとしての役割をきっちり果たしてくれている。

俺としてもそんなロンメルを頼りにしている。


「世界樹の葉って言ったら、切り傷はもとより、病気や欠損した四肢まで元通りっていう伝説のアイテムなのよ、あんた本気で言ってんの?」

メルルは相当気になるようだ。

まぁ病気がちだからな。

気になって当然だろう。


「ああ本気だ、それでな、葉を付けなくなってから百年経っている今、葉を付けるようになっていても、おかしくはないんじゃないかって話だ」


「それはちょっと安易じゃないですかな?」

メタンは冷静に答えている。


「そうよあんた、適当なこと言ってんじゃないわよ」

メルルが食って掛かっている。


「いやー、そうは言うがよ、百年だぞ?そんなことがあってもおかしくないと思うんだがな」

鼻白むロンメル。


「そうは言っても、そもそも何で葉を付けなくなったのよ?」


「そりゃあ・・・分からねえよ」


「ロンメルよ、それが分からなくては何ともならんぞ。その理由が勝手に年月で解消することなのかなんて、俺達のような者には分からんだろうが」

ウンウンと頷く仲間達。


「いやー。俺にもそんなことは分からねよ、だがよ、もし本当に世界樹の葉があったとしたら、一攫千金も夢じゃねえだろ?」


「まあそうですが、現実味は薄いですな」

メタンがバッサリと言い放った。


「で、その話の出どころは何処なのよ?」

メルルが追及する。


「そりゃあ、酒場の世間話さ」

ニタリ顔でロンメルが応えた。


「やっぱりね、そんなことよりそろそろじゃないのリーダー?」

呆れ顔でメルルが促してきた。


「そうだな、そろそろいくか?」

食事を終え狩りを再開した。


そろそろ遭遇予定地点まで、後一キロという所から緊張度が増す。


「そろそろ気を引き締めるぞ」

これが俺達の合図である。


その言葉と共に斥候のロンメルが先行して駆け出す。

匂いを頼りに獣の気配を探る。

ロンメルは地面に鼻が付きそうなぐらいの態勢だ。

ロンメルの探索には癖があり、尻尾をピンと上に向けている。

その尻尾の揺れ具合でロンメルの緊張感が分かる。

長年組んできて分かった癖だ。

その尻尾がいつになく上に向いているのが俺には気になった。


ここまで緊張したロンメルを見るのはいつ以来だろうか等と考えていた。

するとそんなことは脇に置いとけとばかりにロンメルから合図が入る。

その右手には三本の指が立てられていた。


この合図は獲物が三体いるという合図だ、ということはグレートウルフが三体いるということを指している。

グレートウルフが三体、これまでの中で最大の強敵となる。

二体までなら遭遇した経験があるし、実際狩ったことがある。

三体となれば撤退も視野に入れて考えなければならない事態だ。


皆の顔を見る、皆が皆どうしたものかと考えているのが分かる。

そんな中メルルが言った、

「いいんじゃない、いっちゃう?」

強気な発言だ。


「そうですな、行きましょう」

珍しくメタンも強気になっている。


「準備は出来ているぞ、マーク」

このランドの言葉が最後の一押しとなった。


「野郎ども行くぞ!」


この決断がこの後の俺達の人生を大きく変えることになるとは、この時俺は気づいて無かった。


俺達は戦闘態勢に入った。

態勢を低くして各々武器を構える。


俺は左手に大楯を構え右手に剣を握る。

この剣は鍛冶の街にわざわざ出向いて買った代物で、詳しくは知らないがそれなりの業物であるとお店の主人のドワーフが言っていた。

現に俺の手によく馴染み、この剣を得てからというもの、狩りの効率も良くなった。

これまで数回は打撃を与えないと倒せなかった獲物が一撃で倒せるようにもなった。


ロンメルが斥候の役割を果たして戻ってきた。

ここからの前衛は盾役の俺が務める、大盾を前に構えゆっくりと歩を進めていく。


距離百メートル、グレートウルフを三匹を視界に捉えた。


この時俺は違和感を覚えた、それはグレートウルフが等間隔で並んでいたからだ。

本来グレートウルフは連携を取らない筈、何故?と思ったが一瞬にして考えを変える。

たまたまだろうと。


俺の右後ろにはアタッカー役のランドがアックスを構えて息を殺している。

そして左後ろには戻ってきたロンメルが両手に短剣を持って構えていた。

その更に後方には杖を構え演唱を始めるメタン、その横でこちらも演唱を始めるメルル。


距離三十メートル、ここで一旦グレートウルフが動きを止める。


ん?何故?と思ったと同時にグレートウルフが動きだした。

真っすぐに動きだしたかと思いきや、三匹が縦一列になりこちらに向かって来た。


不味い!直感的に思った。

しかし時既に遅し。


先頭に居たグレートウルフが真っ先に俺の大楯に突進してきた。

その突進が決まったと同時に俺を飛び越え二匹目のグレートウルフがランドに飛び掛かる。更に三匹目のグレートウルフが俺の脇を潜り抜け、演唱中のメタンに向かった。


まさかの連携に動きを止めてしまった俺達。

ランドとメタンに無慈悲な一撃が入った。


その攻撃でランドは左腕を噛まれていた。

いつものランドなら噛まれたことなど気にせずに、アックスをグレイトウルフに向けて打ち下ろしていただろう。


だが虚を突かれたランドは一番やってはいけない行動をとってしまう。

左腕を振ってしまったのだった。

グレートウルフは腕を振られてもその腕に突き刺った牙を離さない。

更に牙がランドの左腕にめり込む。


ここでランドはもっととってはいけない行動に出てしまった。

アックスをグレートウルフの頭めがけて振り落としたのだ。

まさにそれを待ってましたと言わんかの如くグレートウルフが腕から離れた。


グチャ!


嫌な音がした、ランドは自分で自分の腕を切り落としてしまっていた。

グレートウルフはランドの体から離れた左腕を口に咥え、後ろに飛び去った。

ランドの腕を咥え、これは俺の物だとこちらを睨んでいる。


間をおいて後ろから悲鳴が聞こえた。

しかし後ろを振り返る余裕は無い。


俺は目の前のグレートウルフから距離をとってから後ろを振り返った。

その時三匹目のグレートウルフが今まさにメルルに飛び掛からんとしていた。


ロンメルの投げた短剣がそのグレートウルフの腹に突き刺さる。

勢いを無くしその場に倒れるグレートウルフ。

メルルの表情が目に入った。

その顔は蒼白で恐怖に引き攣っていた。


「撤退だ!」


ここでやっと事態を把握した俺は大声で叫んでいた。

ここからの撤退戦は苛烈を極めた。

壁役の俺とロンメルが殿を務める。

ランドの腕とメタンの顔に回復魔法をかけながら必死に後退するメルル。


一匹を仕留められ逆上した二匹のグレートウルフが猛攻を加えてくる。

盾を避け横に回りこんでくる、その上で牙と爪での攻撃が何度も加えられる。


本来両手に短剣を持っているロンメルは完全な防戦一方で、なんとかグレートウルフの攻撃を捌いているがその体はぼろぼろだ。

まさに死線の上を歩いている俺達。


その時たまたま居合わせたハンター達がこちらに向かって来た。

それに気づいたグレートウルフがやっと撤退を始めた。

グレートウルフの姿が見えなくなってから、気が付くと俺は尻から地面に座り込んでしまっていた。


結果は散々だった。

俺達は駆けつけたハンター達に介抱された。

やっと緊張が解けた時に俺は自分の右手の指が三本無くなっていることに気づいたのだった。




何処で間違った。

ロンメルの指が三本立った時に撤退すべきだったのだ、ここが始めの間違いだった。

次にグレートウルフが等間隔で並んでいた時に違和感を覚えた、ここが最後の撤退の意思を伝えるチャンスだったと思う。

後悔の想いが俺を何度も何度も打ちのめす。


どうしてそんなことをした?

どうして気づけなかった?

いや気づいてはいた、なのに何故?

くそう!

俺の責任だ。

俺の決断の所為であいつらの人生を終わらせてしまった。

畜生!


右手を眺めて見た、小指と薬指そして中指の第一関節から先が無くなっていた。


「俺は終わったな」

思わず呟いていた。


幸い治癒魔法で欠損した箇所に痛みは無い。

だが損失感は痛い程にある。

あれから一週間が経っていた。


ランドは左腕の肘から先を失い、メタンは顔に傷を負っただけで無く視力を失っていた。

更にこの狩りから生還はできたがメルルの体調は急激に悪化していった。

恐らく今回の狩りで終わりを告げた『ロックアップ』の現状が、メルルの身体を更に追い詰めたのだろうと思う。


幸いロンメルは深い傷は無く今では何も問題なく過ごせている様子。

だがその表情は暗い。

本来の明るい性格は影を潜め、今ではいつも通っていた酒場にまで顔を出さないようだ。


俺達は終わった・・・それなりに名前も売れ・・・それなりに稼ぐことも出来た・・・ハンターとしてはこれまで順風満帆に過ごしてこれた。

幸い蓄えもそれなりにあるが・・・ただし再就職となると・・・


気が付くと右手を眺めていた。

多分この先出来ることは限られている・・・貯金を切り崩し、なんとかギリギリの生活をしながら日銭を稼いでいければ・・・畜生!・・・本当にそれでいいのか?・・・本当に俺達は終わってしまったのか?・・・『ロックアップ』は俺の人生その物だった・・・終われない・・・終わらせたくない・・・俺にはあいつらを・・・くそう!くそう!・・・何か手段は無いのか?・・・そういえば・・・いや・・・それは・・・都市伝説だろ・・・でも・・・いいのか?・・・そんなことに望みを抱いて・・・馬鹿げている・・・こんなことは・・・畜生!・・・何だってんだ・・・俺は何で諦めきれないんだ・・・ああ・・・俺はあいつらが・・・『ロックアップ』が好きなんだ・・・そうだ俺の全てだ!


俺はメンバーを集めた。メルルの見舞いに皆で集まろうと。




翌日、

俺はメルルの所に出向いた。

すると珍しく俺よりも先に全員が既に集まっていた。

こんな珍しいことがあるもんだなと思うと共に皆の表情を伺う。

皆が皆な、何かしらの想いを秘めているのが分かった。


「お前ら、何だよ」


「何だよって、何だよ」


「何だよって、そんなことより、メルル体調はどうなんだ?」


「またそれ?何回聞きゃあ気が済むの?」


「またそれか・・・」

ロンメルは思わずぼやいていた。

場が一気に重くなった。


「あっ、いやすまない・・・」

なんだか居心地が悪い空気になってしまった。


「まあよう、それにしても実際どうなんだいメルル?」

ロンメルがフォローする様に言った。


「んー、どうだろうね?」

誤魔化そうとしているメルル。


「良くはないわよ」

メルルの体調は明らかに悪くなっているのが分かる。顔色は青白く痩せてしまっているのが分かる。頬がこけてしまっており唇の色も悪い。

本当は活発で元気いっぱいのメルルだが、今ではその欠片も無い。


「それで?お見舞いに来ただけってことは無いわよね?」

メルルが俺に向かって言った。


「まあ解散ってことなんだろ?」

ランドが隣から口を挟む。


「そうなのか?」

ロンメルが嘘だろと言った具合にツッコんだ。


「いや、俺は解散は考えていない」


「何故かな?」

いつもは話し合いの場ではまず口を挟まないメタンが珍しく口を挟んできた。

その顔には目を覆うように包帯が撒かれている。

あまりに痛々しい。


「俺達このまま終っていいのか?」

最初に皆に今の気持ちを聞いてみようと思った。


「このまま終わるって、終わらなくていいなら終わりたく無いに決まってるだろ」

吐き捨てるようにロンメルが言う。


「そりゃあそうだ」

ランドが同意する、その無くした左腕は痛々しい限りだ。


「この中でそう思わない者は一人もいないでしょうな」

今日のメタンは積極的だ。

目が見えない所為で話をして無いと不安なのかもしれない、等と慮ってみる。

メルルを見るとその目が同意を示していた。


「だよな、お前達ならそう言うだろうと思っていたよ」

皆が苦笑いしていた。


「そこで、賭けに出ないか?」


何のことかと訝し気な表情をしたメルルが聞いてきた。

「賭けってなんの?」


途中で言葉を制してロンメルが口を開く、

「おい!リーダー、お前もしかして世界樹の葉を取りに行くってんじゃあねえだろうな?」


「ああ、そのつもりだ」

全員口を閉ざしている。


静寂を終わらせるようにメタンが口を開く、

「でもリーダー、あれは都市伝説ではないのですかな?」


「ロンメル、お前どう思う?」


「どう思うって、どういうことだよ?」


「話の信憑性はどうなんだってことだよ」


「ああそういうことか、前の狩り以降、実は世界樹の葉のことについては聞き周ってたんだよ」

やはりか、ロンメルの性格上そんなことだろうと思っていた。


「それで分かったのは、世界樹が捨てられた島にあるってことは紛れもない事実だ。それに百年前に枯れてしまったことも本当のことだ」

話の一部は事実だと俺は少し希望を感じた。


「それで百年経った今どうなっているのか・・・ということですな」


静まり返る一同、全員が賭けの意味を理解した様子。


「俺は掛けに出ようと思う、いろいろ考えてみたんだ。俺も利き手の指を三本持ってかれた、正直前ほどの威力で剣を振うことは出来ない。恐らく良くてⅭランク程度だ。ハンター以外の職にもと考えてはみたが肉体労働には向かないだろう、ハンター協会に事情を話してハンターランクを下げてもらうのも一つの手だが、そうはいかないんだよな」


話を受けてランドが言葉を繋ぐ、

「分かるよ、俺もまったく一緒だ」


「私はこんな感じだし、このまま死んでいくぐらいなら、最後に掛けに出るってのもいいんじゃないかな?」

メルルが寂しげに言った。


「今や私は誰かの手を借りなければ生活できない有様です。乗らないという選択肢はありませんな」


「ロンメルお前はどうする?」


「はあ?どういう意味だよ?」

ロンメルが食って掛かる勢いで迫ってきた。


「はっきり言うが、お前は負傷者じゃないんだ、こんな賭けに乗らなくてもいいんだぞ」


「ふざけるな!何だよ!ここにきて何で俺だけ外様なんだよ!」

ロンメルがいきり立つ。


「そりゃあそうだろう、お前にはメリットが無いんだぞ」


「はあ?メリットって何だよ!損得で俺は生きてねえんだよ!」

睨みつけてくるロンメルが悲し気に見えた。


「ねえロンメル、言いたいことは分かってるんでしょ?」

優しくメルルが話し掛けた。


天を仰ぎ見たロンメルが一息つくように胸を撫で降ろした。


「ああ、言いたいことは分かってるさ、だがな、俺は賭けに乗るぜ。大体よく考えてみろよ。唯一の五体満足の俺が居なくて、そもそも捨てられた島に辿り着けるのか?それに船で行くんだろ?この中で誰が操船出来るってんだよ」


俺はロンメルならこう言うだろうことは分かっていた、俺はただ確認しておきたかっただけなんだ、優しいこいつは絶対に俺達を見放したりはしない。

俺達のムードメーカーで頼もしい副リーダー。

こいつは決して仲間を見捨てない。


「そうだな、そう言ってくれると思ってたよ、ありがとなロンメル」

俺はロンメルに面と向かって感謝を伝えた。


「へ!分かってんなら余計なこと言うんじゃねえよ!」

頭を掻きながらロンメルは照れている。


「それで、どうやって捨てられた島まで向かう予定ですかな?」

今日は本当に積極的で珍しい、メタンが仕切り出している。

こいつ何か変わったのか?とすら思えてしまう。


「ロンメルが言う通り海路以外は無いな、そこで俺はそれなりに蓄えがあるが、お前達はどうだ?ロンメル、お前には期待していないがな」

二ヤリと笑ってロンメルを見た。


「お!分かってんなリーダー!俺は蓄えなんてあるわけねえよ」

一同が笑いに包まれた。

一気に場の雰囲気が和んだ。

流石ロンメル、ムードメーカーだ。


「で、どんな工程になりそうなのよ?」


「俺が聞き及んだ限りでは、コロンの街から西に向かって進み、中型船で四日って処かな」


「四日ですな・・・私は船に乗った経験がありませんので検討もつきませんな」


「でだ、一つの策として大型船に途中まで便乗させて貰えれば、三日に短縮できるかもしれない。ただその分旅費は掛かるぞ」


「それが良いだろう、どうせ賭けに出るんだ、出し惜しみは意味が無いだろう」

俺は思ったままを口にした。


どうせ片道切符になるぐらいで挑まないと上手くはいかないだろう。

それぐらい危険な賭けであるということは承知している。

問題は天候だ、嵐に巻き込まれたら恐らく命はないだろう。

加えて俺達には海戦の経験は一切ない。

聞くところによると海には海獣がおり、海域によってはSランクの海獣がうようよしているという話だった。


俺は海獣のことは良く知らないが、遭遇したら即死亡と考えていいだろう。

戦った経験が無いのだからそう考えて間違い無いだろう、まさに命を懸けた賭けになる。


その後俺達は全員の蓄えを持ち寄り、綿密な旅の打ち合わせをすることになった。

そして導き出された答えは、最初はコロンの街に行き中古の中型船を購入し、大型船に便乗できるタイミングを計るというものだった。

後は行き当りばったりであることは否めない。


そうこうして俺達は何とか準備を整えるのに、一ヶ月近い歳月をかけることになった。

ロンメル曰くこんなに順調にいくとは思わなかったとのことだった。

幸運の女神が俺達に微笑んでくれているのかもしれないと思えた。

幸先が良いのは願ってもないことだ。




遂に出航の日を迎えた。

天候は良好。

風は微風、出航日和だ。

俺達は自分達の船に乗り込み大型船の出航を待つ。


大型船に連結し引っ張って貰う形で俺達は出航した。

始めはのんびりした旅路だった。

だが次第に船速を上げ思いのほか早い速度で航路を進む。

順調にいっていると言っていいだろう。


初日を終え既に予定の航路より早く進めている。

いい兆しであると言える。

この調子で行けば半日は工程を縮めれるかもしれないペースだ。

旅路のスタートとしてはありがたいとしか言いようがない。

しかしここで聞きたくもない一報が届く。


「『ロックアップ』の皆さん、そろそろ約束の海域になりますが、索敵魔法を行ってみた処、海獣の影がいつくか見えるとのことですが、どうしましょうか?」

顔を付き合わせる俺達、互いの目を見て確認する。

今さら引ける訳がないと全員の目が物語っていた。


「このまま行かせていただきます、ありがとうございます」

牽引具を外し大型船から切り離された俺達の船は自走を開始した。


この船には動力は無い、帆を使って進むのが基本となっている。

ただ念の為にオールも準備されているが、聞くところによると風が止むような海域では無い為、おそらく風だけで凌げるだろうということだった。


船の舵はロンメルの役割、帆の向きを変えるのに余念がない。

俺は船頭に立ち海獣がいないかを確認する。

メルルは体調を崩し今は眠っている。

そんなメルルをメタンが看病している。

ランドは大きな銛を片手に俺の後ろで控えている。

俺達は海獣を知らない、前情報として漁師の街で育ったロンメルから話は聞いているが、遭遇しないことを祈るばかりだ。


「大型船がだいぶ距離を稼いでくれたようだから、順調にいけば後一日半といったところだな」


「一日半か、長いのやら短いのやら」

俺がそうつぶやくと。


後ろからランドが、

「既に半日以上稼いでるんだから、御の字ってことだろうな」

と返事をした。


「ああ、だいぶ助かっている、あとは海獣に遭遇しないことを祈るばかりだ」


「違いない」


「それから俺はこの通り舵に掛かりっきりになるから索敵は頼んだぜ」


「ああ、任せとけ」

俺は海岸線を見つめた。

水面はキラキラと輝いていた。

このまま無事に捨てられた島に辿り着くことを俺は祈っていた。




やがて夜を迎えた。

夜は穏やかなものだった。

ロンメルからは夜行性の海獣もいると聞かされてていたので緊張感はあったが、特に海獣の襲撃は無かった。


ランドと二時間交代で見張りを行った。

途中でロンメルから操船を教わり、ロンメルにも少し休憩を取ってもらった。


そして夜が明けた。

上手く行けば後一日で捨てられた島に辿り着く。

順調に進んでいる。

ロンメルが言うには風が強く良い速度が出ているということらしい。


俺は昼飯にと干し肉を口にした。

ここで吉報と凶報が同時にやってきた。


望遠鏡を覗いていたロンメルが、

「島が見えたぞ」

と言うと同時に、船尾で見張りを行っていたランドが、

「海獣が出たぞ、シャークが二体だ」


くそっと呟いたロンメルが、

「メルル、悪いが付き合ってくれ」

メルルが何とか起き上がろうとしている、メタンがそのメルルを支える。


俺は急いで船尾に移動した。

そこには二体のシャークがいた、体長はおよそ二メートルぐらいといった処だろうか。

するとそのシャークが船の周りを時計周りで回りだした。


「リーダー、シャークの弱点は鼻だ!近づいてきたら銛で突いてくれ!」

俺は銛を手に今度は船頭に移った。


「メルル!きついところ悪いが、風魔法で風を帆に当ててくれ。スピードを上げるぞ!」

メルルは何とか膝立ちになり風魔法で風を帆に当てだした。

すると船の推進力が増した。


「いいか!もう島は見えてんだ!浅瀬までいけばシャークは襲ってこねえ。二体ぐらいなら何とかなる。絶対島までたどり着くぞ!」


「「おお!!!」」


船の上ではロンメルがリーダーだ。

的確な指示と皆をまとめる力を発揮している。

流石だな。

まったく頼りになる。


するとランドが声を挙げる、

「そりゃ!」


ランドがシャークの鼻先に銛を突き立てた。

血を流して海中へと沈むシャーク。


「よし、やった!」

俺は思わず声を挙げていた。


喜ぶ俺達を尻目にそいつは突如現れた。

海中から銛の当たったシャークを口に咥えた。ジャイアントシャークが海上に現れ空中に躍り出た。

あまりの出来事に俺達は動きを止めていた。


六メートルはあろうかというジャイアントシャークが海中に戻っていく。

水飛沫が全身を濡らす。

そして船が大きく傾いている。


「気を抜くな!」

ロンメルの一声に俺は我に返る。


「くそう!メルル!」


「分かってるわよ」

メルルが弱弱しく答える。


俺はグレートウルフの時に感じた死線以上の脅威を感じていた。

いつの間にかもう一体いたシャークはその姿を消している。

海中からとてつもなく恐ろしい気配を感じる。

俺達の行く手を塞ぐ圧倒的なプレッシャー。


すると目の前の海面が浮き上がり、ジャイアントシャークが海上に跳ねた。

ジャイアントシャークの無機質な目が俺達を睨みつけているように見える。

海中に戻るとまた水飛沫が全身を覆い、船が大きく揺れた。


駄目だ、流石に無理だ、だがここまで来たんだ、もう少しじゃないか。

弱気になるな!まだやれる!

俺は銛を左手に持ち替えて次の攻撃に備えた。


するとジャイアントシャークが今度は船底に攻撃を加えて来た。


ドン!!!

という強い衝撃と共に体が宙に浮かんだ。

既に船は推進力を失い海上に泊まったままとなっていた。


船の動きを止められた、こいつ慣れてやがる。

そう感じたのは俺だけでは無かった。


ロンメルが呟いた、

「こいつ、分かってやがる」

その一言を聞いた俺は完全なる敗北を感じた。

それは俺だけではなく『ロックアップ』の全員が感じていただろう。


ああ、ここまでか・・・

絶望を感じていた。


「やあ、大変そうだね」


それは何とも言えないこの現状とは違う、まったくもって緊張感の欠片もない気の抜けた一言だった。


俺達はその声のする方に目をやった。


そこにはドラゴンがおり、その背には一人の男性が跨っていた。

そしてその男は眩しいぐらいの万遍の笑顔をしていた。

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